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昔、誰かが旧友と劇的な再会をしたと話していた事があったが、その時クラトスは何を大袈裟なと苦笑したものだった。そのようなものは物語の中だけの話であり、現実にはあり得ないと思っていたからだ。もちろんそれが自分の身に起きようなどとは露ほども考えていなかった。
だから町で旧友と再会した時クラトスが戸惑ったとしても仕方がないことであろう。なにしろあり得ないと思っていた事が実際に目の前で起こったのだから当然抱く感情である。だが次に湧いてきた感情はどう考えても説明のつかないものであった。
それは、嫌なところを見られてしまったというような何かばつの悪い思い…。
本来なら喜ぶべきところなのに何故そんな気持ちになってしまったのか分からず、クラトスは動揺した。そしてその動揺は収まらぬままに誘われたこの食事の席へと来てしまったのであった。もしかしたら彼と話をすればその原因が分かるのではと考えた事もあったのかもしれない。
そんなクラトスの心の葛藤など知る由もなく、友人は再会の乾杯を済ますと笑顔で言った。
「いや〜、ホントびっくりしたぜ。まさかこんなところで再会するとは…。しかし立派になったなあ。昼間町で見かけた時、すぐにはお前だと分からなかったぐらいだ。なにしろ俺とペアを組んでいた時はまだほんのガキんちょだったからな。」
そう言っていたずらっぽく笑いながらグラスを傾ける友人を前に、クラトスは曖昧な笑みを浮かべた。
(いや違う。立派になったのは彼の方だ。)
友人の名はラッシュ・グレーと言う。会うのは7年ぶりぐらいであろうか。それでもはっきりと記憶に残っていたのは、彼がクラトスに多大な影響を与えた人物だったからだった。
彼とは軍隊時代に知り合った。
軍隊では二人一組で行動するのが基本である。クラトスも何人かとペアを組んだし、誰と組んでもそれなりに成果をあげてきた。もちろん時には満足のいかないものもあったが、ペアと言っても所詮は他人。はなから連帯感など期待しておらず、作戦自体完遂できればそれでいいと思っていた。その頃のクラトスにとってペアなどただの付属品にすぎなかったのである。
そんなクラトスの考えを見事に覆してみせたのがグレーだった。
グレーはいつだってクラトスがいてほしいと思う場所にいた。攻撃を繰り出すタイミングも絶妙で、その動きはまさに一心同体。まるで分身と一緒に戦っているかのようであった。
しかしそれまでクラトスはグレーと話した事もなく、そのような相手の動きを何故推し量り合わせる事ができるのか不思議でならなかった。
するとグレーはこう言ったものである。
「そんなのお前の事をよく理解しているからに決まっているだろう。話した事がなくたって、同じ隊にいていつも一緒に行動しているのだから知ろうと思えば機会なんていくらでもあるさ。お前だけじゃないぞ。俺の頭の中には誰と組んでも大丈夫なように隊員全員の長所、短所、癖とかがばっちりインプットされている。なにしろペアを組むって事は相手の命を預かるって事だからな。その相手の事を何も知らずに組めるわけがない。」
この言葉にクラトスは衝撃を受けた。
戦場においてペアとは守り、守られるもの。言わば命の綱も同じなのだ。相手を守る事は自分を守る事に繋がる。だから相手と息を合わせる為にも普段から相手の事をよく知っておかなければならない。
そしてこれはペアの相手だけに限らず同じ隊の全員に対しても言える事で、敵を知る事ももちろん重要だがそれ以上に大切なのは味方を知る事なのだと、この時初めて気付かされたのだった。
その日からクラトスは剣術訓練時、演習時、自由時間に至るまでグレーを始め隊員全員を観察するようになり、それと同時に自分本位だった戦闘スタイルも周りの状況に合わせていくスタイルへと変わっていったのである。
他にもグレーから吸収したものは多い。グレーはクラトスにとってライバルであり、良き先輩であり、そして目標とする人物だった。もし彼に出会っていなければ今のクラトスはなかったと言えよう。
しかし組んでから1年半ぐらい経った頃、グレーは上層部と衝突し軍を辞め出奔。それ切り音信も途絶えてしまった。クラトスもずっと気になって暇を見付けては探していたのだが、ようとして行方は知れず、もう会えないものと諦めていたのであった。
そんな相手が今目の前にいる。しかも別れた時の彼からは想像できないぐらい立派な姿となって…。
ここはグレーの屋敷であった。この町の中でも大きい部類に属するであろう。このような屋敷に住めるのは貴族に限られてくる。そして昼間会った時の彼の服装…。
これらから推測するに恐らく彼は今軍人としてこの国に仕えているに違いない。それも隊長クラス。
だが彼の才を考えてみれば、これは寧ろ当然の待遇なのかもしれない。故国での評価があまりに低すぎた。彼は流れ着いたこの国で然るべき地位をようやく手に入れる事ができた……ただそれだけの事なのだろう。
そしてこの旧友の出世はクラトスにとっても喜ばしい事の筈であった。
それなのに…
(もしかして私は…)
「で、どうなんだ?」
「え?」
自分の考えに沈んでいたクラトスはグレーの声にハッと我に返った。
「すまない。何だって?」
「いや、だからさ、今お前は何をやっているのかって話だよ。お前の事だからさぞかし出世しただろうな。今や大隊長か?いや、連隊長ぐらいになったのか。」
「……いえ。軍は辞めました。」
「えっ、辞めた?どうして?もったいないじゃないか。お前ならもっともっと上にいけたはずだぜ。」
目を伏せるクラトス。
グレーはそれで察したようだった。
「ああいいんだ、言いたくないのなら…。まあそうだな。そりゃあ7年も経てば色々あるわ。俺だってここにくるまでに色々あった。話したくない事だって出てくるだろうし、理由は聞かねえよ。だが俺としてはちょっと安心したかな。」
「え?」
「いやぁ実は昼間会った時俺さ、もしかしたらお前はこの国に攻め込む為の偵察に来たんじゃないかって心配しちまったんだよ。こうして食事に誘ったのもそれに探りを入れる意味もあった。……だがよく考えてみりゃあ、ここは特別魅力的な資源があるわけでもない小国だ。近隣ならば兎も角、こんな遠方までわざわざ攻めてくる理由はないもんな。それにさっき軍隊を退いたと言った時のお前の表情に嘘は感じられなかったし、どうやら俺の杞憂だったようだ。……悪く思うなよ。昼間俺は軍服を着ていたからもう分かっていると思うが、俺は今この国に仕えている。言うなれば、ここは俺にとって第2の祖国なんだ。」
ゆっくりと頭を振るクラトス。
悪く思うわけがない。もしクラトスが彼の立場だったなら、やはり同じ事をやっただろう。
グレーはホッとしたように息をつくと、
「ありがとよ。ああ、でもこれですっきりしたぜ。ホント言うと、お前を騙しているようで物凄く嫌な気分だったんだ。俺みたいなのは到底策士にはなれないな。」
そう言ってペロリと舌を出して見せたグレーを見て、クラトスはここへ来て初めての笑みを浮かべた。
再会した時には随分変わったという印象を受けたものである。だがこうして話してみると、大らかであけっぴろげで、なんら変わらない昔のままの彼だった。
「まあそれは兎も角……という事はだ、お前は今浪人中ってわけだよな?」
「え?…ええ、まあそういう事になりますね。」
「だったら話が早いわ。」
「話が早い?」
「ここにはいつまでの滞在予定なんだ?」
「?……それなら後1週間は滞在する事になるでしょう。剣を砥ぎに出したのですが、今は混んでいるそうで、それぐらいかかると言われたものですから。」
「じゃあ、今佩いているのはいつものより攻撃力が低くなる予備の剣か…。まあそれでもお前の腕なら十分通用するかな。」
「通用?…あの、さっきから全然話が見えないのですが、一体何を…?」
「いやさ。実は明日訓練兵10名を連れ、最近この辺りを荒らしまくっているハーフエルフの野盗を討伐に行く事になっているんだ。それにお前も一緒に行かねえかと思ってさ。これが今日お前を誘った本当の理由。」
「私も?……しかし私はこの国の軍の者ではないのですが。」
「それなら心配いらねえよ。ちょうど人を探していたところだったんだ。と言うのも、今回の出動は訓練兵に実戦を経験させる事が目的で、職業軍人は俺の他に指導官が3人だけしかいなくてな。まあこれでも野盗相手なら十分だと思うが、なにせ実戦は初めてって連中だ。念の為にあと一人が二人ぐらい応援が欲しい。でも今はどこの部署も人員を割く余裕がなくて、それで仕方がないから傭兵でもとね…。だからお前はその傭兵って事にすれば何の問題はない。」
「そうは言っても…」
「あ、もしかしてハーフエルフを殺すのは気が引けると思っているのか?だったら心配はいらない。討伐ったって別に殺すわけじゃなく、生け捕りにして更生施設に送るだけだからさ。」
「更生施設?」
「ああ。この国では捕らえた罪人は皆そこに送られる。ハーフエルフに限らず人間もだ。そこで職業訓練をして社会復帰させるんだよ。どうだ?これならハーフエルフ擁護派のお前でも大丈夫だろう?」
「……」
「なあ、頼むよ。お前なら気ごころが知れているから、下手に素性の分からない傭兵を雇うより安心だ。力を貸してくれよ。」
考え込むクラトス。
ミトス達の事が気にかかっていた。帰らなければきっと心配するだろう。
だが…。
しばらくしてクラトスは顔を上げると言った。
「…分かりました。他ならぬあなたの頼みでは断るわけにはいきませんからね。」
確かにこれも受けた理由の一つではあった。だがそれ以上に、なんとなくだが、今はグレーと行動を共にした方がいいような気がしてならなかったのである。
クラトスの返事にホッとしたように笑みを浮かべるグレー。
「有難う。助かるぜ。……それじゃあ明日は出発が早いし、今日はうちに泊まるといい。つもる話もあるしさ。」
頷くクラトス。
こうしてクラトスはこの夜、グレーの家に泊まる事になったのであった。
翌早朝、城を出立した討伐隊は南東の林にある野盗のアジトに着くと、気付かれないように周りを取り囲んだ。
偵察隊の調べでは野盗は全部で20人とされている。こちらは15人なので十分な人数だと言えよう。だがクラトスは訓練兵達に対し少々不安を覚えていた。
初めての実戦と言えば期待や不安など様々な思いが交錯し、それら感情が自然面に滲み出てくるものである。ところがこの連中は全くの無表情。もちろん無表情が悪いとは言わない。感情剥き出しで敵に斬りかかるのもそれはそれでどうかと思うが、この連中の場合目にも輝きがなく、まるで人形のようなのだ。こうも全員に覇気のない顔をされると、一体やる気があるのかと心配になってくる。
緊張しているのかとも考えた。しかしそれにしても過度の緊張は動きを鈍くし危険を招きかねず、そうなった時いくらクラトスでも10人の訓練兵全員を守り切る自信はなかった。
クラトスは隣でアジトの様子を窺っているグレーに言った。
「やはりあと二人ぐらい傭兵を雇ったほうがよかったのではないですか?」
「えっ、なんで?」
驚いたように振り返ったグレーは、クラトスの視線を追って理由を悟ったようだった。向こうで同じようにアジトを見張っている訓練兵達を親指で差しながら、
「あいつらの事か?だったら大丈夫だよ。あいつらは2年間みっちり訓練を受けてきた。各地で戦争が起きているこんな時期に2年だぜ。俺達の頃は兵学校で学べたのは1年だっただろう。酷い時では数か月で卒業って年もあった。後は実戦で学んでいけって感じで放り出されたじゃないか。それに比べりゃあいつらは過保護なぐらいだ。自分の身ぐらいちゃんと守れる筈さ。
それにあいつらの面倒は指導官の3人がみる。その為に付いてきているんだ。だから万一何かあったとしてもお前に責任はない。お前はあいつらの事は気にせず、自分がやりたいようにやればいいんだ。」
「……」
そうは言われても「はいそうですか」と同じ舞台にいる者をそう簡単に無視できるものではない。
クラトスがまだ渋っていると、グレーはいたずらっぽく笑い、
「そんなに心配ならあいつらに害が及ぶ前に俺達で一掃しちまえばいいじゃねえか。」
「え?」
「俺達なら難しい事じゃない。だろ?」
苦笑を浮かべるクラトス。
確かに20人ぐらいの相手ならそれも可能かもしれない。だがそれでは彼らの訓練にならないのではないか。
グレーはそんなクラトスにウインクしてみせると、指の関節を鳴らしながら言った。
「さてと…。話をしている間に奴さん達、動き出したようだぜ。」
この言葉にアジトへと視線を移してみると、成程、野盗達が次々と外へ飛び出して来ているのが見える。マナの動きには敏感なハーフエルフの事、もうそろそろこちらの存在に気付いてもいい頃合いだろう。
「それじゃあ一暴れしましょうかね。」
「…本当にいいのですね?」
「あん?」
「私の好きなようにやらせてもらいますよ。たとえ彼らにとって訓練にも何もならない結果になったとしても。」
「ああ。もちろんそれで構わないぜ。剣を振るうだけが剣術じゃねえもんな。職人技ってやつは見て盗むものだ。だろ?」
そう言ってニヤリと笑うと剣を抜き真っ先に飛び出して行くグレー。
クラトスもそれに続く。
ここがマナが豊富な林の中である事を考えれば、やはりマナを自由に操作できるハーフエルフの方が有利だと思われる。きっとここにアジトを構えたのもそんな理由からなのだろう。
だが実際ふたを開けてみれば、各々が好き勝手に動き回っているだけで攻撃に纏まりがなく、戦闘に関してはこちらの方が数段上であった。所詮強奪だけを目的に寄せ集まった者達に過ぎなかったという事だろう。
訓練兵達も今のところ思った以上の動きを見せている。あの調子なら心配なさそうだ。
そこでクラトスとグレーは術攻撃に気を付けながら、付かず離れず敵の中へ斬り込んで行った。もちろん生きて捕らえる事が必須条件だから全て峰打ちである。
グレーに向け術を唱えようとしている野盗にクラトスが剣の柄を叩き込み詠唱を阻止すれば、その背後を狙ってきた野盗を今度はグレーが始末する……二人の息はブランクなど全く感じさせずピッタリと合っていた。
「グレー、左だ!」
「任せろ!」
素早い反応。この一体感。
残念ながらミトス達とはまだここまでの意思の疎通はできておらず、お互いを知り尽くしているグレーだからこそ感じられるものであった。
クラトスの中で7年前黄金コンビと言われていた頃の感覚が蘇ってくる。
いつの間にかグレーに対してぎこちない物言いでなくなっている自分がいた。
(ああ、血がたぎる。こんな気持ちは久し振りだ。)
クラトスは湧き上がってくる興奮を抑えるかのように一呼吸置くと、剣を握り直し敵の真っ只中へと斬り込んで行った。
決して無茶な行動ではない。
すぐ近くにグレーの気配を感じながら笑みを浮かべる。
そう。彼も来ていると分かっているからできるのだ。
彼がいる限り、クラトスに死角はなかった。
「グレー!一気に切り崩すぞ!!」
「了解!」
それからも二人は見事なコンビネーションをみせながら、数分後には野盗を一網打尽にしてしまったのだった。
「おい、クラトス。行こうぜ。」
先程の騒ぎが嘘のように静まり返った林の中で、次々に引っ立てられていく野盗達を眺めていたクラトスは不思議そうに振り返った。
「しかしまだ奴らを更生施設とやらに護送しなければならないのだろう?」
「そのぐらい訓練兵だけでもできるだろう。俺達はあくまで戦闘の応援要員なんだ。そこまで面倒を見てやる必要はないさ。それより会わせたい人がいるんだよ。」
「会わせたい人?」
グレーに付いて林を出ると、そこに軍服を着た男が立っていた。どうやら会わせたい人物とは彼のようだ。
案の定グレーはその人物に敬礼をすると、クラトスの方へ向き直り紹介を始めた。
「クラトス、こちらはアロガー大将。今回の作戦の最高責任者だ。お前の話をしたらぜひ会ってみたいと仰られてな。それで今日ここにお呼びしたんだ。」
「……大将?」
驚きに目を見開くクラトス。身につけている軍服からある程度高位である事は予想していたが、まさか大将だとは考えてもいなかったのだ。
アロガー大将はクラトスに近付いてくると、満面に笑みを湛えながらその手を力強く握り言った。
「会えて光栄だよ、クラトス君。本当にグレーが言っていた通りの人物だな。」
「は?」
「彼はこう言ったんだ。君は非常に真面目な信用に値する人物で、剣の腕はピカイチ。故国では天才剣士と呼ばれていたのだと。」
随分と持ち上げられたものだ。
眉をひそめ、隣に素知らぬ顔で立っているグレーを見やるクラトス。何故自分をこのアロガーに引き合わせたのか、その真意を測りかねていた。
そんな様子を眺めていたアロガーは豪快に笑い声を上げると、
「そんなに斜に構える必要はないのではないかな。噂を聞いた私が会ってみたいと言い、グレーはそのお膳立てをしてくれた。ただそれだけの事なのだから。」
「……」
「お陰で君の戦いぶりをとくと見せてもらったよ。さすが天才剣士と言われるだけの事はある。君の剣さばきには感動さえ覚えた。」
「…恐れ入ります。」
アロガーは頭を下げたクラトスに微笑んでみせると懐中時計を取り出し時刻を確認した。
「さてと…そろそろ行かねばなるまいか。いや何、実はあまり時間が取れなくてね。こちらから呼び出しておいて申し訳ないのだが、これで失礼させてもらいたい。今日はご苦労様。手伝ってくれて助かった。有難う。また会えるのを楽しみにしているよ。今度会う時は新しい仲間として…という事になるのかな。話はその時にでもゆっくりとしようではないか。」
「は?仲間、ですか?それはどういう…」
だがアロガーはその疑問には答えずに意味ありげな笑いを浮かべ『それではまた。』とでもいうように軽く手をあげると、事後処理をしている訓練兵達の方へ行ってしまう。
クラトスはなんだか狐につままれたような気分だった。
「グレー、これは一体…」
「どうやら気に入られたみたいだな。良かったじゃないか。」
「私はどういう事なのかと聞いているんだ!」
「そういきり立つなよ。今説明するから。……あの人は放浪していた俺を拾い、ここの軍に引っ張ってくれた恩人なんだ。今でも可愛がってもらってる。だからお前の事を話した。」
「まさかお前…」
「そうだよ。お前をうちの軍にと頼んだんだ。」
「!!私を騙したのか?最初から仲間に引き入れるつもりで近付いてきたのか?」
「引き入れるとは人聞きが悪いな。」
苦笑を浮かべるグレー。
「俺だって最初はそんなつもりはなかった。昨日言ったようにお前が偵察に来たんじゃないかと疑っていたしな。でもそれが誤解だったと分かった時、俺は運命を感じたんだ。運命が俺達を再び引き合わせたのだと…。お前だってこの再会に何か感じたんじゃないのか?だから食事の誘いも断らなかった。違うか?」
「……」
「そう思ったら俺は無性にまた一緒に戦いたくなってしまった。7年前のように二人で大暴れしてやりたくなったんだ。」
「……それでは、今日この任務に私を誘ったのも…」
「おやじさん…いや、これはアロガー大将の事だが…おやじさんにお前の実力を見てもらう為。」
「!!」
そう言えば城を出立する前、数分程グレーの姿が見えなかった事を思い出した。出撃準備で色々あるのだろうと別段気にしていなかったのだが、恐らくあの時にアロガーに話をしにいったに違いない。
グレーは満足気な笑みを浮かべると、
「作戦は大成功だったな。おやじさんもお前の事がすごく気に入ったみたいだし、お前がOKを出せばすぐにでも入隊させてもらえるぞ。」
「ちょっと待ってくれ。私は…」
「なあ、クラトス。さっき戦闘中にさ、俺の事『グレー』って呼び捨てにしてくれただろう?言葉遣いも昨日の妙によそよそしかったのとは違い、まるで7年前に戻ったかのようだった。俺、すごく嬉しかったよ。すごく興奮した。」
それはクラトスとて同じだった。
だが…。
「息もピッタリで感覚のずれは全く見られなかった。俺達はまだやれる。何を臆する事がある?そうだろう?……なあ、また一緒にやろうぜ。第一お前程のやつが浪人だなんてもったいないじゃないか。」
「……」
「これだけ言ってもまだその気になれないか?だったら聞くが、お前は現状に満足しているのか?俺にはそうは見えないんだがな。昨日のお前はどこか自分を抑えているようで、ものすごく無理しているように思えた。だからちょっと心配していたんだが、でもさっきの戦闘中のお前はそれとは打って変わって本当に生き生きとしていて…。あれが本当のお前なのだと俺は思ったよ。」
この言葉に、はっと息をのむクラトス。
グレーは目を伏せると、
「言いすぎたのだったらすまない。だが俺はお前が本来のお前に戻る為には、今縛られているもの…それが何かは俺には分からないが、そこから解放される必要があると思うんだ。……もちろんこの話は強制じゃない。だからお前がどうしても嫌だと言うのなら、俺はいさぎよく諦めるさ。だが少しでも気持ちが傾いているのならぜひ決めてほしい。こんなチャンス、そうそうあるものじゃないからな。
俺は本気だぜ。本気でお前とまた一緒にやっていきたいと思っている。…………返事は今すぐじゃなくてもいいんだ。ゆっくり考えて答えを出してくれ。いい返事を期待して待っているよ。」
それだけ言い置き再び林へと戻って行く。さっきは関係のないような事を言っていたが、やはり囚人護送を手伝うのだろう。
だがクラトスは後を追う気にはなれなかった。踵を返すと町へ向かって歩き出す。
“お前は現状に満足しているのか?俺にはそうは見えないんだがな。”
何故すぐに否定しなかったのだろう。まるで金縛りにあったかのように言葉が出てこなかった。
ミトス達と共に行くと決めたのは自分だ。そこに後悔などあろう筈もなく、無論今更違う道をいくなど考えられない事だった。
だがそう思う一方で、さっきまでの興奮が未だ忘れられず、もう一度味わいたいと思う自分がいた。もしこの話を受ければその願いは叶うだろう。一度どころかこの先ずっとグレーとの一体感を感じながら戦っていく事ができる。
「一体私はどうしたいのか…。」
クラトスは自分で自分の気持ちが分からなくなってしまっていた。
するとその時、何か視線を感じ振り返ってみると、そこにこちらの様子を窺っているユアンの姿を認めた。
(よりによってこんな時に…)
恐らく昨夜戻らなかった事でミトスかマーテルに急かされ様子を見に来たのだろうが、今のクラトスにとって一番会いたくない人物であった。
彼はムードメーカーだけあって誰よりもパーティの事を理解している。そして嘘と真実を見分ける嗅覚のようなものを持っていた。
彼に嘘は通じない。かと言って、全身から『こっちへ来て来てオーラ』を発しているものを無視する事も出来なかった。
仕方なくクラトスは溜め息をつくと、何と言おうかと考えながら重い足取りでユアンの元へ向かったのだった。
一方林の中ではアロガーとグレーの間で意味深な会話が繰り広げられていた。
「どんな様子かね?」
「まだ迷っているようでしたが手ごたえはありました。恐らく2,3日中には色好い返事が得られるでしょう。」
「例のほうは?」
「それも彼が落ちれば簡単に手に入るでしょう。」
「そうか…。兎に角失敗は許されないのだ。分かっているな?」
「もちろんですとも。必ず成功させてみせますよ。その代わり成功した暁には…」
「分かっている。お前の望みは叶えてやるから安心しろ。」
ニヤリと笑いパイプに火をつけるアロガー。
グレーは立ちのぼる煙を睨むようにじっと見詰めていた。
−つづく−