エースをねらえ!


 人は時に、譲れないものを懸けて戦いを繰り広げる。
 他人から見れば些細なことであったとしても、
 彼らにとっては掛け替えのない誇り――己のプライドを護るために。


 今日もまた、そんな戦いが始まろうとしていた。




「赤コーナー、前回は凄まじい戦いで皆を魅せてくれた若作りの子持ち傭兵、クラトス・アウリオン!」
「青コーナー、自称某組織のリーダー、青い髪の色男、ユアン・カーフェイ!」


 前回同様、レフリーの力強い呼び出しに応え、戦いの場に姿を現す二人の男たち。
 片や、鳶色の蓬髪に隠れ気味な素顔は殊の外に眉目秀麗。
 片や、これまで何処にいたのか全く知られぬ、謎多き水色の髪の容姿端麗。
 本来はモンスターとの戦いが行われる場所にて、敢えて行われた人対人の戦いが再び行われることになった闘技場は、五月晴れも過ぎ梅雨の季節に入ろうかという時節にも関わらず、空に浮かんだ巨大な紫の月が放つ光に照らされている。幻想的――言い方を変えれば些か不気味な空の下、それでも大勢の観客が詰め掛けていた。
 そして今回もまた通常とは異なる戦いの舞台は間にネットの貼られたコートが作られ、二人の青年もまた普段の衣装からは程遠い、上下白のウェアに身を包んだ姿はまるで雲一つない蒼穹の如く、皆の目には爽やかに映っている。
 彼らが手にしているのはさもあらん、使い慣れた武器にあらず。
 木のグリップの先に硬い糸が十字状に貼られた道具。
 ラケットと呼ばれる持ち物は、テセアラにて行われている球技のために使われるものであった。




「うわあ、何か物凄く爽やかな格好だね」
「うむ、二人には近日公開予定の最新のテニスウェアを着て貰ったのだが、思ったよりも評判は悪くはないようだな」
 観客席にて二人の姿を見るジーニアスの感想に、大きく頷いてみせるリーガル。彼はコートの二人だけに留まらずこの場に集まった観客たちの反応を見渡し、主に女性たちの反応をチェックしているようだ。普段の彼らを知らない女性たちは、予想通りに黄色い声を上げている。
「成程ねえ・・・ダンナ、そのために段取りをつけたな?」
 今回は戦わずに済む立場となったゼロスが本心を見抜こうとすれば、
「神子が何を仰せか私には分からぬが、正々堂々と勝負をしたいという二人を止めるのも野暮かと思われてな。せめてここは命のやり取りでなく穏便にやって貰おうと思っただけだ」
「例によってレザレノカンパニーが仕切ってるってのに、何をしらばっくれるかねえ。このオッサンは」
 さすがは大企業の会長、飄々と返してみせる余裕には露ほどの綻びもない。勿論、二人が手にしているラケットは元よりコートを二分するネットなどの備品に至るまで、会長の一言でレザレノカンパニーが用意したものなのである。
 これにはゼロスも両手を“お手上げ”にするしかなかった。
「どうやら“テニス”という競技はテセアラにおいて数百年の歴史があるようだな。あるいはミズホの羽根突きが進化したものかもしれん・・・興味深い、興味深いぞ!」
「リフィルさん、遺跡モードに入ってます」
「あの“ラケット”っていう道具で、ボールを打ち合うんだよね?面白そうだね!」
 各々の意見が飛び交う中、
「しっかしさあ・・・一体全体、どうしてこんなことになったんだ?」
 ぽつりと。
 ロイド小首を傾げて放った一言に、メンバーの全員の視線が少年に向けられた。
 リフィルまでが遺跡モードを解いて凝視する。
『お前がそれを言うか!?』
 この一言が敢えて多くを語らずとも、
 前回がそうであったように、今回もまた、争いの元はこの少年であったことは言うまでもない。




「クラトスとユアンってさあ、どっちが強いんだ?」
 世界統合という大事を成し遂げて新たな大樹と新たな精霊が生まれたことで一段落を迎え、この後に訪れることになる混乱を前に、せめて今の安寧を喜ぶため、ダイクの家に皆で集まってささやかなパーティーを開いていた時、ロイドによってその発言が為された。
「だって二人とも、4000年前の古代英雄なんだろ?」
「まあ、そうだが」
「4人で戦ってたってことは、一番強かったのはミトスだとして、マーテルは回復専門だったとしても、残りの二人のどちらが上だったのかが気になるんだよな〜」
 満腹で腹の辺りを満足そうに擦りながら、クラトスとユアンを交互に見比べる。
 するとその返事が、


『私に決まっているだろう』


 見事に、寸分の狂いもないタイミングでそれぞれの声を伴いながら戻って来た。
 僅かな沈黙の後、隣り合わせに座っていた二人が相手を見据える。
 じっとりと絡み付く目線。
 当時の戦闘スタイルは、前衛にダブルセイバーで攻撃をするユアン、中衛に剣と魔法を場面によって使い分けるクラトス、そして後衛に術攻撃をメインとするミトスとマーテルとで配置についていたようだ。彼らの特徴を如実に表した陣形と言えようが、それだけに前衛と中衛、どちらが戦闘において上位にあったのかが気になる――という、ロイドにとっては素朴な疑問に過ぎなかったのだが、残念なことに此処から全てが始まってしまった。
「フッ・・・息子の前で気取りたいのも分かるが、現実は甘くはないぞ、クラトス」
「別に気取ってなどいない。事実を言ったまでだ」
 互いに平静を装っているようでも、互いの発言に微妙な感情が混じっているのは火を見るよりも明らかだ。
 クラトスが唇の端に意味深長な笑みを浮かべつつ、
「ユアン、お前はテセアラベースでボータと一緒に戦いながら、ロイドたちに敗北したそうだな」
「・・・あれはこやつらの力を見極めていただけだ。貴様こそ何度も戦いながら、結局はロイドとの一騎打ちで敗北したではないか」
「そうとも。ロイドの実力は本物だった。但しそれまでの私は、ロイドたちが世界統合を成し遂げるに足る器となるべく戦いを通じて見守って来たのだ――四人に対して私一人で、な」
 二人掛かりで挑みながら敗北したユアンとは格が違う、とでも言いたげなクラトス。しかもシルヴァラントでの世界再生の到達地、救いの塔では、天使化したコレットを護るために戦いを挑んだ一行を事も無げに一蹴したこともある。
 実際そうであったから、ユアンに反論するだけの主張が見当たらない。そもそも彼はクラトスよりも感情が表に出易い。ゆえに相手を怒気を露に睨み付けながら、
「・・・今、この場で決着を付けても良いのだぞ?」
「お前が言うのなら、私に異存はないが?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
『ちょっと待った〜〜〜〜!!』
 無言で各々の武器を手にかけようとした二人を、こうして、皆で押さえ込んだデジャヴが展開したのである。




「気持ちは分からなくもないんだけどねえ・・・救いのない親馬鹿がクラトスの弱点だよ」
「そう言われてもな〜。未だにクラトスが父さんだって言われても実感が」
「息子にそんなことを言われるから、クラトスさんもむきになっちゃうんじゃないの?」
「あは・・・あはは・・・」
 しいなとジーニアスに挟まれ、ロイドはもはや気まずそうに頭を掻くしかない。
「お、どうやら始まるみたいだぜ〜」
 ゼロスの一言が助け舟となったかどうかはともかく、皆が目を向けるとネット前で二人が対峙したところであった。今回は3セットマッチ。つまり先に2セットを取れば勝ちとなる。果たして試合開始に盛り上がる観客たちはどれだけの真実を知っているのか――もとい、ロイドたち以外にこの勝負のきっかけを知る由もない。




「アウリオン、サービス!」
「よかろう」
 コートの端にまで歩いて行ったクラトスが、ボールを持ち、ネットの向こうにいるユアンを見る。
 左手でボールを高く空中に投げ上げ、
「はっ!」
 豪快にそれを打つ。
 ボールはネットを越え、相手コートの中に打ち込んだが――、
「フォールト!」
 審判から声が上がる。
 もう一度、同様にボールを打ち込みはしたものの、同様にフォールトを取られ、まずはユアンの方に点が入ってしまった。




「え〜、何でユアンに点が入るんだ?」
「このルールブックによると・・・サーブがネットを越えても、サービスコートっていう範囲に入らないといけないんだって」
 ロイドの不平にジーニアスが解説する。
 サーブはコートの四分の一、ネット側の、尚且つ相手がいるマスの中に打ち込まなければフォルトとなり、二回連続で失敗すれば相手のポイントになってしまう。
「面倒くせ〜」
「あ〜あ、これだからい――」
「田舎者ってゆーな!」
 予め言われるであろう台詞を先回りするロイド。
「ところでその本、どうしてジーニアスが持ってるんだ?」
「クラトスさんが試合前に読んでいたのを渡してくれたんだよ。クラトスさん、テニスをやったことがないからって」
『えええええ!?』
 そこで一行が頓狂な声を出してしまったのを、果たして誰が責められるであろうか。




(やはり、クラトスはテニスにおいては初心者だな)
 自分に回って来たサーブを打つ前に、ボールをいかにも慣れた様子で地面にバウンドさせながらユアンがほくそ笑む。
(私は『エースをねらえ!(※1)』の初版本を全巻揃え、アニメもOVAも全て見続け、あの主人公に感動して自ら鬼コーチの下で岡ひろみの如くテニスの練習を欠かさずに行った結果、レネゲードでのテニス大会で優勝した。今回の決着をテニスで行うと決まった時、既に勝利の女神は私に微笑んでいたのだ!)
 そういった経緯もあり、テニスには格別の執着がある。
 力を込めてサーブを打つとボールはサービスコートを捉え、辛うじてレシーブを返して来たクラトスの逆サイドにボールを叩き込む。やはりルールブックを読んだだけの初心者の動きは何処かぎこちない。ルールに身体が付いて行っていないのだ。
「フッ・・・」
 前に垂れて来ていた髪の毛をさらりと左手で流す。
 コートの一画で黄色い声援が上がった。
 憮然とするクラトスに余裕の笑みを見せ付ける自分は、さぞ麗しく観客たちの目に映るだろう。
(・・・だが、安心は出来ぬ)
(相手はあのクラトス、短期決戦でやらねば面倒なことになってしまう)
 間もなく真剣な表情に戻ったユアンは、果たしてクラトスの何を恐れていたのか。
 その答えは、1セットを落とした青年がロイドたちに「大分慣れて来た」と言ったのが始まりであった。




 “それ”はユアンの予想よりも早々とやって来た。
 1セット目は圧倒的なユアンのリードで落としたクラトスであったが、2セットに入ってからはこれまでの躊躇が嘘の如き動きをするようになっていた。しかも試合が進むに連れてそのボール捌きには殆ど無駄がないばかりか、むしろボールを打つたびにテニスプレイヤーとして理想的なものになって行く。
 初めこそ3−0とリードはしたものの、この辺りからクラトスの反撃が始まり、あっと言う間に追いつかれてしまった。観客は当初こそユアンが手を抜いているのかと野次を飛ばしもしたが、クラトスのプレイを目の前に、決して手加減などではないと皆が悟り始める。
(予想よりも早かったか!)
 1セット目にはボールを打ち返すのがやっとだったクラトスが、見事にボールをコントロールしてエースを狙って来る。
 まるで別人に転じてしまったかの如く。
 そしてこれこそが、ユアンが恐れていたクラトスの能力だったのである。
 何をやらせても直ぐに身に付けてしまう、天才肌。
 4000年前から、騎士としての生活しか知らなかったクラトスは、ミトスたちに同行するようになってからというもの、実は初めてのことばかりだったという。食事は待っていれば出て来るものではなく、自分たちで調達するもの――ハーフエルフとして迫害される仲間と一緒にいるというだけで、同様に見られてしまう以上、食用に使える動植物など様々なことを覚えなければならなかった。
 しかし、クラトスは大抵一度見ただけで知識を得てしまう。
 戦い方にしてもそうだった。一目で相手の弱点を見出し、無駄なくそれを突き倒す。機械の操作からレシピまで、何でも一度で吸収して行くのがクラトスという男であった。
 つまり、習得が恐ろしく早いのだ。
 今回の試合にしても、クラトスがテニスに慣れてしまえば全力でやり合わなければならない。そして既にその時は訪れていた。今度はユアンがそれにたじろいだのが災いして、なんと2セット目はクラトスが取ってしまったのである。
「あんたのそういうところ、むかつくんだよな」
「そうか。すまんな」
 それを知っているロイドに言われ、余裕の微笑でクラトスは言葉を返していた。




 そして決着の付く3セット目は、文字通り熾烈を極めた打ち合いになった。
 両者、真剣そのものでボールを打つ。クラトスに至っては、今日初めてラケットを握った初心者とは到底思えない俊敏な動きを見せる。彼の試合の中でのみるみるうちに上達して行く光景は、初めこそ野次を飛ばしていた無粋な者たちすら唖然とさせた。
 1ゲームを取るだけでも激しいラリーが繰り広げ、挙げ句ゲームカウント6−6、タイブレークとなった頃にはもはや応援すら許されぬ沈黙が観客のルールとなり、プロのテニスプレイヤーでさえもここまで熟達したプレイは出来ないであろうと思われた。現に半ばラリーの続く試合に飽きかけていたロイドですら、モンスター相手ではない、それでも白熱した戦いに見入っている。
 本来は午前中で終わるであろうと見られていた予想を大きく外し、午後に食い込んだ頃には観客に弁当が配られる。無論、レザレノカンパニーの計らいであり、こういうところにもさすがに抜かりがない。
(よもや初めてのプレイでここまで成長するとは・・・こいつは化け物か!?)
 余裕どころか重みのあるストロークに苦戦しながら、ネットの向こうを見てみると、蓋しクラトスも全力でこちらにボールを返している。ここまで本気になっている顔は滅多に見られないものの、何処か楽しげに見えるのが腹立たしく思われ、この試合に負けることは単にテニスの勝敗どころか、遥か昔、国の代表として敵対していた頃に自分の名前さえも覚えていなかった、と言ってのけた男の記憶まで甦って来る。
 絶対に負けたくない、とユアンは思った。
 だが、アドバンテージを交互に取りながら心の裏に焦りを感じてしまったのがいけなかった。元々が気性の荒い青年が有り得ない疲労を見せつつ、一方、冷静にボールを返して来る相手は集中力を欠いたところを容赦なく突いて来た。
 更に残念なことには、ユアンというこの男、いつも肝心なところで運が悪い。
 ボールを取ろうとしたが“何故か”ここで躓いてしまった。


(しまった!)


 何とか拾ったロブは、クラトスにとっては絶好のチャンスであったことは言うまでもなく。
 羽を出してもいないのに相手はコートの宙に飛び上がり、


「はっ!」


 態勢を崩されていたユアンに、強烈な打ち込みを受けることは出来なかった。


 スマッシュエース!
 その時点で、既にクラトスがアドバンテージを取っていた。
 ホイッスルが鳴り、審判がクラトスの勝利を告げ、声を出すことを初めて許されたとばかりに闘技場全体に大歓声が上がったのである。
(・・・負けた・・・)
 茫然と立ち尽くすユアンの方に向かい、ネットを挟んでクラトスが歩いて来る。既に疲労の影すら見えない。
 あまつさえ右手を出しながら、
「試合が終わったら、選手同士握手をするのがマナーだとルールブックに書いてあったが?」


 ぶちっ。


 さらりと言ってのけた――しれっとしたこの一言が、ユアンの中で沸々と煮え返りつつあった感情を爆発させるには十分であった。
「・・・食わん」
「どうした?」
「・・・気に食わん!!」
 下を向いていた青年は、鬼の形相に変わっていた。
 ユアンはラケットを投げ捨て、代わりにダブルセイバーを手の中に呼び込む。
「貴様はいつもそうなのだ!余裕綽々で人を見下し、しかも何でもこなしてしまう貴様の存在が、私には不愉快だった!この優等生が!!」
 完全に逆ギレを起こしている。
 後退したクラトスを追ってユアンが武器を一閃させ、コートのネットを破る。慌てて場内の係員が避難をする中、
「クラトス、受け取れ!」
 ロイドが鞘に入ったフランヴェルジュを投げて寄越した。
 こうなったら既に試合ではない。決闘である。
 とは言え、場内の客は無責任なもので、鞘から抜いた炎の剣で相手の刃を受け止める光景を先程のテニスと変わらない勢い――否、更にそれよりも大いに盛り上がっている。尤も爽やかなテニスウェアを纏いながら壮絶な剣戟を繰り広げる二人の姿は、些か滑稽に見えなくもない。それゆえに本人同士以外にとっては緊張感が伝わって来ないのだ。
「ユアン!一体どうしたというのだ?」
「やかましい!私は貴様のその涼しげな態度が気に食わんのだ!」
「何の話だ?」
「本当は私よりも熱血漢の癖に、表に出さぬポーカーフェイスでいい男ぶっては周りの女子にキャーキャー騒がれ・・・いや、これは言わぬ方が良かったか。とにかく!4000年前も人間の貴様ばかりが目立って不愉快だった!おまけに貴様はアンナとの間に子供まで作ったというのに、私はその前にマーテルに死なれてしまった!私だって彼女とのラブラブな結婚生活を夢見ていた・・・マーテルを失って辛かったのはミトスばかりでない、なのに婚約者の私の立場は完全にスルーされ、おまけに彼女と交わした指輪まで落とし、ロイドが拾ってくれていなければそれまで失うところだったのだ!あれも貴様の所為で落としたのだぞ!」
「???」
「とにかく、貴様ばかりが贔屓され、人気投票でも上位に入り、私は“ドジっこ”などと皆から呼ばれて馬鹿にされるのも、徹底的に運が悪いのも、挙げ句ミトスに無限キックを食らったのも・・・全部全部、全部、貴様の所為だー!!」
 咆哮した。
 ユアンの目は血走り、言動は既に言い掛かりの域にまで達している。
「・・・ユアン!?」
 訳がわからない、とクラトスが首を傾げるのも当然であろうが。
 文句を垂れ流しながらダブルセイバーで幾度も襲って来るのを、仕方ないとばかりに受け止め、攻撃に出られないクラトスだが、状況を理解していないその態度こそが相手を激昂させていたことに気付いていないのが逆効果にしかならなかった。冷徹な切れ者と周知されている一方、人間関係においては些か相手の心情に鈍感な時がある。
「まだしらを切るか・・・今度こそ、貴様を倒してやるぞ、クラトス!」
「訳が分からぬが、降りかかる火の粉は振り払わねばなるまい!」
 本来のインディグネイションの詠唱に、術者の更なる予感を得たクラトスもまた、自身もジャッジメントの詠唱に入るが、ここで繰り出されるのは通常の術技ではない。闘技場という場所は、時に出場者の実力を限界以上にまで引き出す効果があるのかも知れなかった。
 係員の避難は完了。司令室からの指示で観客席と戦いの場との間に結界が張られる。
 間もなく詠唱を終えた二人は、ほぼ同時に各々の秘奥義を発動させた。


「インディグネイト・ジャッジメント!!」
「ディバイン・ジャッジメント!!」


 闘技場が眩い閃光に包まれ――結果。


 “おこげが二つ出来ました”
 お約束である(※2)




 こうして、本来は爽やかに行われる筈であった試合は、両者相打ちという形で幕を閉じた。




「・・・つまり、こういうことだ」
「訳分かんねーよ!」
 夕闇迫る赤い陽を浴びながら、いつかのように。
 リフィルの治癒術で意識を取り戻したクラトスの渋い一言に、ロイドは物言いこそ渋いが前回と同様、見事に焦げた父親の顔を拭きながら溜め息を突く他はなかった。その横では、「クラトスはいつもこうなのだ」と言いながらしくしく泣いている、やはりおこげと化したユアンの姿がある。
「あーもう、いい歳した男がめそめそしてんじゃないよ!」
 しいなが一喝しても、
「うるさい!泣きたい時はコートで泣けと鬼コーチに教わったのだ!」
「・・・いや、コート自体があんたらの大暴れで吹っ飛んでるし」
 見れば、ネットどころかそこにあった筈のコートは跡形もなく、ただの地面と同化している。闘技場の結界が機能していなければ、あわや観客席まで荒野となっていたであろう――そもそも彼らは、一体何の勝負を行い、あるいは観に来たのか。
「ま、確かに初心者にここまでやられちゃ、まるっきり立場がないのも分かるけどな〜♪」
「そうですね。クラトスさんは、初心者でしたね」
「また余計なことを・・・」
「ううう!だからクラトスは嫌なのだ!4000年前からちっとも変わらん!」
 ゼロスとプレセアの突っ込みをまともに受け、壁を背に体育座りで泣き続けるユアン。
「クラトスさんって、凄いんだね〜」
「何度も戦っては来たけど、敵に回したいタイプではなくてね・・・せめてあの半分でもいいから、勉強の習得力を息子にも分けてあげて欲しかったわ」
「姉さん・・・」
 この場においてまで天然なコレットと、遺跡モードが治まり、まるで他人事のように言ってのけるリフィルを前に、ジーニアスが額に手を当てる。


 そして更に横では――、


「今日のこれを機会に、テニスブームが起こるやも知れぬ。ここメルトキオとアルタミラでのテニスグッズを多めに製作しよう。勿論、彼ら二人の画像を宣伝に使うのも忘れずにな――なに、彼らならば巨額の契約金を支払うことも必要あるまい」
「承知いたしました」
「コートの方も何面か増やした方がよかろう。アルタミラのツアーにテニスレクチャーを入れるのも面白い。そうだな、あとは――」
 誰よりも冷静にジョルジュに指示しているリーガル。
 この試合の仕掛け人。
 他人のプライドすらも商売に転化してしまう商才の持ち主。
 どうやら今回の一件で最も利を得たのは、うきうきと上機嫌な彼ことリーガルが経営するレザレノカンパニーであったに違いない。




(※1:山本鈴美香の代表作とも言える作品。冴えない高校生であった岡ひろみが、鬼コーチ宗方仁に見出され、やがて世界に通じるテニスプレイヤーに育って行くスポ魂漫画)
(※2:ゲームではどちらも使えません)






 たむら様のサイト「黄昏のひとりごと」にて行われていた『10万打リクエスト企画』に、ここぞとばかりに応募して書いて頂いたお話です。
 ユアン&クラトスでギャグ…。
 よしふみのサイトでは殆ど書かれていないテーマだと知りながらも、自らのユアン好きが高じてついついリクエストしてしまいました。でも一応「やはりこんなのは駄目でしょうね」とお伺いはたてたんですよ。(←だったらいいのか?)
 にも拘らず書いて頂いた事に感謝しております。しかも私が好きなマンガ『エースをねらえ!』をネタにして。(笑)
 クラトスの器用さに比べて、ユアンのなんと不器用なこと。最後には泣いちゃうし。(笑)
 ああ、これぞ私が愛するユアンだって、なんだか嬉しくなってしまいましたですよ。
 クラトスのやった事は愛の鞭ですね。「友なら、友人の成長を妨げるような愛し方はするな」ですね。(違うだろ!)


 非常に我儘なリクに見事に応えてくださり有難うございました。
 そして改めまして10万打おめでとうございます。
 これからも応援しております。

 今はお忙しそうなのでなかなか声をかけられずにおりますが、落ち着かれましたらまた遊んで下さいね〜。