二人の絆


 デリス・カーランへは渡らずにこの地に残る事にしたクラトスは、ゼロスと共に暮らすようになり毎日主夫業に励んでいた。
 今日は年末の大掃除の日。ロイドも手伝いに来てくれて、張り切って家中を磨きに磨いていた。
「さて、今度はこの棚の整理をするか。」
踏み台を持ってきて、よっこらしょっと上にのるクラトス。
「大丈夫か、父さん。落ちないようにしろよ。」
「心配するな。そんなヘマはせん。」
心配げに声をかけてくるロイドに笑ってみせ、上にのっている花瓶を取ろうと手を伸ばした。
だがその瞬間、バランスを崩したクラトスは見事に踏み台から転げ落ちた。その頭に止めとばかりに花瓶が命中する。
「だから言ったのに。大丈夫かよ。」
笑いながらクラトスを助け起こしたロイドは、すぐに彼の異変に気付いた。
クラトスは、焦点の定まらない目でぼんやりと宙を見詰めたまま動かない。
「父さん?」
「ここは何処?私は誰?」
「へ?」
 クラトスはゆらりと立ち上がるとロイドの制止もきかずに何処かへと出て行ってしまったのである。




 帰宅してきたゼロスはロイドの話を聞いて即座に消えたクラトスを探す為の聞き込み捜査を開始した。彼は色々な場所に出没しているようで、此処彼処で目撃証言を得る事が出来た。

目撃者その1
ダイクの証言。
「クラトスさんなら少し前にやって来たぜ。アンナさんの墓の前に立ってぼんやりしていたから声をかけた。そうしたら、『これはどなたの墓ですか』なんて聞いてきた。だから『何言ってるんだ。(あんたの)奥さんの墓じゃないか』って言ってやったんだ。何て答えたと思う?『そうですか。立派な墓ですね。奥様のご冥福をお祈りいたします』ときたもんだ。呆気にとられていたら、またどこかへふらふらと行っちまったよ。」

目撃者その2
ジーニアスの証言
「クラトスさん?来たよ。でも何か様子がおかしかったなあ。だって、姉さんが台所で料理をしているのを見て、涼しい顔で『こんな所で泥遊びですか。楽しそうですね。』なんて言ったんだよ。命が惜しくないのかなって思ったね。案の定、姉さんに叩き出されてたよ。その後?泣きながら何処かへ行っちゃったよ。」

目撃者その3
ユアンの証言
「クラトス?ああ、ここにも来たぞ。一体なんなのだ、あいつは。いきなりベースの中に入って来たと思ったら、『見事な機械ですね。』とか言いながら片っ端からいじくり回して破壊して行きやがった。それからどうしたか?知らんな。私が慌てふためいている内に何処かへ消えちまった。ところで神子、確かお前はあいつの保護者だったな。修理代弁償してくれよ。」

 他にも、ミズホで村人と一緒に畑を耕していたとか、ユミルの森で魚釣りをしていたとか、オリジンと石碑の前で碁をうっていた等々、各地でその姿を目撃されていたが、いずれの場合もすぐに何処へかと去ってしまっていた為、依然行方がつかめずにいた。



 ゼロスが必死にクラトスを探し回っている頃、当の本人はアルタミラのデパートの前にいた。悲しそうな顔でフラフラと歩いている。そんな彼の耳に威勢のいい掛け声が飛び込んできた。
「はい、はい、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!年に一度の大売り出し。歳末バーゲンセールだよ!全品半額っだって言うんだからこりゃあ驚きだ。さあ、さあ、買わなきゃ損だよ〜!!」
「バーゲン?半額?」
どこか懐かしい言葉の響きにクラトスは立ち止った。
「何故だろう。なんだかメラメラと闘志が湧いてくる。以前に、よくこんな掛け声を聞きながら買い物をしていたような…」
クラトスは吸い寄せられるように声の方へ歩いて行くのだった。

「バーゲンが私を呼んでいる。」
と呟きながら…。




 夕方になって家に戻ってきたゼロスは、クラトスの行方が未だつかめない事に苛立ち家の中をぐるぐると歩きまわっていた。
そこへロイドが飛び込んできた。かなり急いでやってきたようで息を切らしている。何故かリーガルを連れて来ていた。
「父さんがアルタミラに現れた!」
「アルタミラ?」
首を傾げるゼロスの前にリーガルが進み出た。
「実は今アルタミラのデパートで歳末バーゲンセールをやっていてな。そこにクラトス殿が現れたらしいのだ。群がる奥様連中をかき分け、ちぎっては投げ、ちぎっては投げしながら猛然と突き進み目当ての品物をいくつか買った後、満足げな笑みを浮かべながら買い物袋を抱え、またどこかへと消えて行ったそうだ。」
「主夫魂に火がついたのかな?もしかして記憶が戻ったとか。」
ロイドが顔を輝かせる。
しかし、リーガルがかぶりを振りながらそれを否定した。
「いや、水をさすようで悪いのだが、それはもう大分前の話だ。もし記憶が戻ったのならもう帰ってなければおかしい。」
「一体どこに行っちゃったのかねえ、天使様は…」
ゼロスは溜息をついた。そんなゼロスにリーガルが言った。
「ロイドから話は聞いている。クラトス殿はなんとか自分で記憶を取り戻そうと歩きまわっているのではないか?記憶のない彼が以前行ったことのある場所ばかりに姿を見せるのは、きっと記憶はなくとも身体が覚えていたからだと思うのだ。彼がバーゲン会場に姿を現したのだって、最近の彼は主夫業にいそしんでいたゆえ安売りの声に引きつけられたからだろう。そこで考えてみたのだが、どこかクラトス殿の心に深く刻まれているであろう場所とかに心当たりはないのか?たとえ記憶がなくとも自然に足が向いてしまうようなそんな場所が…恐らくクラトス殿はそこにいるのだと思うのだ。」
「心に刻まれてる場所?」
少し考えてから、ゼロスはハッとして叫んだ。
「ある!一つだけ思い当たる場所が!!」




 クラトスはある小屋の前で、両膝をかかえぼんやりと目の前の小屋を眺めていた。
 自分が誰なのか分らない。なんとか思い出そうとふらふらと彷徨っていたが、会う人は皆知らない人ばかり。まるで別世界にただ一人取り残されたような気分だった。寂しい。寂しくてたまらない。
 ふと傍らに置いてある紙袋へと目をやる。バーゲンで買った物だが、どれも自分には合わないサイズの服ばかりだった。どうしてこんな物を買い込んでしまったのか。それでも買い物をしている間はこの孤独感を忘れる事ができた。なんだかすごく楽しかったのを覚えている。
 だが、その後はどうだ?やはりどこへ行っても知らない人ばかり。だんだんと人ごみの中にいる事が怖くなってきた。人を避けるように町から離れ気が付いたらここに来ていた。この小屋も何となく覚えがある気がするが、思い出せない。一体自分はどうなってしまうのだろう。
 クラトスの目から涙が零れおちた。
「…死にたい。」
ふと呟いたクラトスの背後に誰かが近付いてきた。クラトスは涙に濡れた顔のままゆっくりと振り返った。
「やっと見付けた!」
そこには赤い長い髪の男が微笑みを浮かべて立っていた。
クラトスはばね仕掛けのように立ち上がると後ずさった。
「お前は誰だ。お前なんか知らぬ。」
ゼロスは優しく微笑んだままゆっくりと近付いて行く。クラトスは更に後ろへと下がった。だが、背後の木にぶつかってしまう。
「それ以上近付くな!」
クラトスは恐怖に顔を引きつらせ叫んだ。ゼロスは構わずに近付いて行く。
「俺様はあんたの事をよ〜く知ってるよ。あんたは俺様にとって何よりも大切な人だ。」
そう言いながらクラトスを優しく抱きしめた。クラトスは最初は激しく抵抗していたもののだんだんとそれは弱まり、やがて不思議そうに呟いた。
「何だろう。不思議な気分だ。今までの恐怖感が嘘のように消えて行く…なんだかとっても安心できる。」
クラトスはゼロスの背に手を回してしっかりと抱きしめた。
「…でも思い出せない。お前が誰なのか、どうして私はここに来たのか。」
「ここは俺様があんたにプロポーズした場所。これからはずっと一緒にいようって誓った場所。」
「プロポーズ?」
「あの時もこうしてあんたを抱きしめた。そしてこうしたんだ…」
ゼロスはクラトスに口付けをした。その瞬間クラトスの脳裏に、この男との事が走馬灯のように駆け巡った。

『俺様はクラトス・アウリオンの全てを愛してる。』
『絶対にあんたの事は放さないから』
『これからはずっと一緒にいようね。』

「…ゼロス?」
「そうだよ。俺様はゼロス。あんたとは切っても切れない絆で結ばれた生涯のパートナーだよ。」
微笑むゼロスを見て今度こそクラトスははっきりと思い出した。
「ゼロス…ゼロス…やっと思い出した。お前は私の大切なゼロスだ。」
そして涙を流しながらゼロスにしがみつくとその胸の中でいつまでも泣きじゃくるのだった。





「さっさと起きろ、ゼロス!」
クラトスは怒鳴りながらゼロスから布団を引っ剥がした。
「な〜にすんのよ、天使様。休みの日ぐらいゆっくり寝かせてくれたっていいでしょうが。」
「早く起きないか。朝食が片付けられないではないか。私は忙しいのだ。あまり手間をかけさせるな!」
「へ〜いへい。わかりましたよ。」
相変わらず賑やかに始まる一日。
クラトスはすっかり記憶を取り戻し毎日を張り切って主夫業にいそしんでいた。
そんなクラトスを眺めながら幸せそうに微笑むゼロス。そして心の中で呟くのだった。

クラトス、俺様はあんたと出会ったのは偶然じゃないって思ってる。
俺達は出会う前から見えない絆で結ばれてたと思うんだ。
これからも俺達はずっと一緒に二人で幸せになっていこうね。クラトス!


−二人の絆 終−




三万ヒットのお祝いに「黄昏のひとりごと」のたむらよしふみ様に捧げます。
すみません。一所懸命に書いたのですが結局こんな話しか書けませんでした。(汗)
しかしよくまあ都合よく記憶が回復したものだ…と自分でも思います。しかもうちの「パワフル主夫」の番外編みたいになってるし。
こんな駄文で申し訳ありませんが宜しかったら受け取って下さい。(礼)