今ここにある幸せ


デリス・カーラーンに渡る事をやめ、ゼロスと共にこの地で生きていく事を選択した自分。その事を後悔している訳ではない。
ゼロスもそしてロイドも周りの人達も本当に自分に良くしてくれている。

彼はとても幸せだった。四千年もの長い間罪を犯し続けてきた自分がこんなにも幸せになっていいのかと考えてしまう程に…。

「幸せになって悪い事なんてある訳ないでしょ。天使様は今までずっと苦しんできたんだから。」
「そうそう。父さんにはもっと幸せになってもらわなくちゃ。父さん考え方が後ろ向きすぎ。過去ばかり振り返っていないで、もっと前を見て行かなきゃだめだぜ。」

ゼロスとロイドに言われた言葉を思い出し、フッと笑いをもらすクラトス。

分っている。分かっているのだ。この幸せを否定するつもりはない。この地に残ると決めたあの時から、過去は過去としてきちんと受け止め、その上で新しい一歩を踏み出していこうと決めたのだ。
そう、生まれ変わった気持で人生をやり直していこうと。

しかし、時々、あの心優しい人達に囲まれ、日々の生活を送って行く事に酷く疲れを覚える自分がいる。
何故だか無性に一人になりたいと思ってしまうのだ。

思えばこの四千年間、常に自分は独りであった。確かに仲間と呼ぶ者はいた。ミトス達、そしてロイド達。
しかし、その中にいても自分は常に一線を引いてきた。どんなに親しくなろうとも決して本当の自分をさらけ出す事をしなかった。
傷つく事が怖かったのだ。ある程度距離を置き続けていれば、何かあった時に受ける傷を最小限に抑える事ができる。
それはある意味、長い間生き続けてきた彼が得た自己防衛の手段といってもいいのかもしれない。

だが、今、それが出来なくなってきている。彼らといると、ついその一線を越えてしまいそうになる自分があった。
このままだと今に全く別の自分になってしまいそうで恐ろしくて仕方がない。

彼らとは離れた方がいいのかもしれないな…独りの方がいい。その方が気楽だ。

このまま何処かへ行ってしまおうかという考えがふと頭に浮かんだ。しかし、そんな事は出来ないとすぐに否定する。
彼らから離れたいと思う一方で、ずっと傍にいたいという思いもある。堂々巡りだ。

「そろそろ戻らねばなるまい。」

クラトスは溜息をつくと、重い気持ちのまま家路につくのであった。





家に着いたクラトスは玄関の戸を開けながら再び溜息をついた。
「フ…今ので何度目だろうな。今日溜息をついたのは…」
苦笑しながら奥へと向かうクラトスの足が止まった。

家の中に誰かいる。
ゼロスは仕事で出かけているはずだ。今、家には誰もいないはず。

クラトスは用心深く奥へと進んで行った。電気が消えて暗い居間。だが確かに人の気配がする。
と、その時、

パァ〜〜〜ン!!

突然何か小さく破裂するような音がして、クラトスは咄嗟に防御の姿勢をとった。同時に電気が付き部屋が明るくなる。
クラトスは自分に降りかかってきた何かを手につかんでみて目を丸くした。

「クラッカー???」

部屋の中を見回すとそこには、ロイド、ゼロス、コレット、ジーニアスにリフィル。リーガル、プレセア、しいな。ユアンやダイクまでが笑顔で立っていた。

「天使様、誕生日おめでとう!」 ゼロスが進み出てにこやかに言う。
「誕生日?」
「前に父さんに誕生日を聞いた時、そんなもの忘れたっていっていたよな。なら、新しく作っちゃおうって事になったんだ。いつがいいかなって考えていて、今日がいいって事にみんなの意見が一致してさ。」
「なぜ…今日なのだ?」
「だって今日は父さんがゼロスからのプロポーズを受けてデリス行きを中止した日じゃんか。つまり、父さんが新しい人生を一歩踏み出した最初の日だろう?誕生日にはもってこいの日じゃんか。」

誕生日…。 
新しい人生…。

クラトスは目を見開いた。

「やだ〜クラトスさん。もしかして忘れちゃってたんですか〜?」

コレットの問いにかぶりを振るクラトス。

「忘れてはいない。忘れるわけがない。」

そうだ。忘れるわけがない。あの日、私は生まれ変わろうと決意したのだ。
ああ、私は何を恐れていたのだろう。全く違う自分になったとていいではないか。
そんな自分からこの人たちが離れて行ってしまうのではないかなどと、どうして考えてしまったのだろう。
結局私は、生まれ変わるなどと言っていて過去に縛られ続けていたのだ。

「そうだ…そうだな。」クラトスは震える声で言った。
「今日こそが私の誕生日にふさわしい。それこそもってこいの日だな。」

その目から涙が零れおちる。

そんなクラトスを囲んで皆が『ハッピー・バースデー』を歌い始めた。
その歌を聴きながらクラトスは思った。

今日から私は本当に生まれ変わろう。
今ここにある幸せから逃げ出そうとするのではなく、しっかりと守っていこう。
この心優しい人達と共に、大きく育てて行くんだ。

その日ゼロスの家では、クラトスの本当の再出発を祝うかのように、いつまでも明るい歌声が響きわたっていた。


−今ここにある幸せ 終−




なぜか誕生日ネタになってしまいました。相変わらず稚拙な文章で恐縮ですが、一万ヒットのお祝いにあね様に捧げます。
へたくそですが愛はこもってます。(一応…)
受け取っていただけたら嬉しいです。