終わった絆


イセリアのダイク邸
ロイドは上機嫌におたまを握っていた。

「今日の夕飯は自信作なんだぜ!」

「そうか、それは楽しみだな」

クラトスは微かに笑みを浮かべた。
つい先日死にかけた彼だったが、今ではいくぶん顔色も良くなってきている。

ロイドの作っているのは恐らく肉鍋。
中身はビーフ100%で、もはや鍋というか"肉!"と呼ぶに相応しい代物だったが、そんな事はクラトスにとって問題ではない。

息子が料理を作ってくれている。それが重要だった。



世界の統合が無事に終わり、慌ただしかった戦いの日々も過去に変わっていこうとしていた。
デリスカーラーン行きを決めたクラトスも、体調が万全になるまでは、と療養しているのが現状だ。

しかもダイクは別れまでの時を親子水入らずで過ごさせてくれようと、気を利かせ遠方の仕事に出かけている。
ロイドを真っ直ぐに育ててくれただけではなく、こうして二人の時間を作ってくれた彼にはいくら感謝しても足りない、クラトスは心からそう思う。

「出来たっ!」

ロイドが鍋を持ち、にこにことこちらに運んでくる。
クラトスもお茶をいれ、さてこれから食事にしようという時。


コンコン

「あれ、誰だろ?」

ロイドが立ち上がり、ドアに近付いた瞬間それは勝手に開いた。
あまりのタイミングに、ロイドが一歩引くとそこには馴染みの顔が立っていた。

「お邪魔する」

ごく自然に入って来た男は、そのまま何の違和感もなくテーブルに付いた。
クラトスの隣の席に座り、「ほう・・・鍋か」などと呟いている。

「えーと、ユアン?」
「帰れ」

親子は同時に口を開いた。
息子は疑問系。父親は至極嫌そうに。

「クラトス・・・それがマナを分け与えた親友に言う言葉か?」

「私には、食事時にいきなり尋ねてくる非常識な友は居ない」

「大丈夫だ。ちゃんと茶碗と箸は持参した。気を使わないでくれ」

「そういう問題では・・・」

さらにたたみ掛けようとしたクラトスに、ロイドがまぁいいじゃないかと口を挟んだ。

「沢山作ったからさ、二人じゃ食べ切れなかったと思うし、丁度いいよ」

「―――お前が構わないなら

「では、頂きます」

クラトスが折れる前に、ユアンは眼前で手を合わせた。
そうして、もぐもぐと食べ始めている。

「ユアン・・・。お前、どうした」

あんまりな友(渋々認めた)の行動に、クラトスが声をかける。
すると造りは決して悪くない顔を、残念な感じになるまで食べ物を頬張ったユアンが咀嚼しながら器用に答える。

「いや、ここ数日忙しくてな。ろくに食事を摂っていないのだ。近くを通ったらいい香りがしたので、つい引き寄せられてしまった」

「そっかー、レネゲードの後処理とか大変だもんな」

「大方、あの副官に雑務全て任せていただろうしな・・・」

ピタっと、ユアンの箸が止まる。
図星だった様だ。

「・・・ボータは実に優秀な副官だった。兵の配置から、資金面の調達、果てはこの先有効であろう作戦まで考えてくれていた。ああ、魔道砲を考えたのも奴だ」

「それって・・・」

「お前は何をしていたのだ?」

親子はそろって首を傾げたが、ユアンは聞いているのかいないのか"惜しい奴を亡くした・・・"と呟いている。

「・・・まぁいい。ロイド、すまないがそこのポン酢を取ってくれ」

「ん。あ、どうだクラトス、美味い?」

「ああ」

「へへっ、そっか!」

嬉しそうに微笑むロイドと、そんな息子を見てひっそりと幸せに浸るクラトス。



「―――そういえば、この鍋には肉しか入っていないな。栄養が偏るだろっっ・・・

ユアンが言葉を言い切る前に、クラトスがテーブルの下で彼の足を思い切り踏みつけた。

「ん?ユアン何か言ったか??」

事態を把握していないロイドが不思議そうに聞き返す。

「いや、だから栄っ〜〜〜!」

今度は、踏みつけたままの足を全体重をかけ踏みにじられる。

「く、クラトス!痛いぞ!!」

「ユアン」

クラトスは微笑んだ。
ロイドには父さんカッコ良いな〜と思う表情だったが、ユアンには天地がひっくり返ってもそんな暢気な事は思えない。

「タダ飯を喰らうだけではなく、人の息子の料理にケチを付けるとは何事だ」

天使聴覚を持つユアンにしか聞こえない声。
それは、地を這うような・・・むしろ今のクラトスを悪魔と比べたら後者の方が幾倍も優しく思えるそんな声だった。

「少し、外で話をしないか」 (意訳:ちょっと表出ろ)

クラトスがユアンを誘う。

その誘いに拒否権が無いと悟ったのは、誘われた本人のみ。
のんびりと食後のお茶をすするロイドに、視線で助けを求めてみるが、ロイドは「俺の事は気にしなくていいから行って来いよ」と笑顔。
いや、そうじゃなくて!と言う前にクラトスに首根っこを掴まれる。

「積もる話もある事だしな」 (意訳:ぐだぐだしてないで、さっさと来い)

ずるずると引きずられていくユアン。
ロイドは二人の様子を見ながら、親友っていいな〜と、とてつもなく的外れな事を考えていた。





数分後、一人で戻ってきたクラトス


「あれ?ユアンは??」

「帰った」

「そっか。やっぱ忙しいんだなー」

「そのようだな」

いつもと変わらない冷静な表情のクラトス。
しかし、服に付いた埃を払い席に付いた彼はどこか満足そうだった。






end




通い続ける事幾星霜?凪猫のあね様にこじつけのキリリクにて無理矢理に書いて頂きました(汗)
個人的にちょっぴりおとぼけのユアンが好きなんです…
あね様、有難うございました!!