ユアンの遍歴
ここはシルヴァラントベース。
二人の隊員が命令を完遂した旨をユアンへ報告していた。
「ユアン様。仰せの通り全員退避致しました。」
「うむ、そうか。」
報告に来た隊員達に重々しく頷いて見せるユアン。
ほんの数時間前、ユアンはロイドを盾にとりクラトスにオリジンの封印開放を迫ったのだった。
うまく行く筈であった。如何にクラトスとはいえ、息子を犠牲にしてまで断る事など出来まい。
だが、ロイド一行の中にユグドラシルが紛れ込んでいた事で計画が全て水泡と化してしまったのだった。
自分がレネゲードのリーダーである事もばれてしまい、そこでこのままでは隊員達が危ないと、退避を命令するべく急ぎ戻って来たのであった。
「しかしユアン様。ユグドラシルは本当に我々を叩き潰しに来るのでしょうか?」
「来る。奴は必ずやって来る。何故ならこの件には4000年にも及ぶ複雑な愛憎劇が絡んでいるのだ。」
「はい?…愛憎劇?」
訳が分からずキョトンとした表情を浮かべている隊員達に、ユアンは大袈裟に溜息を突くと、遠くを見つめるような目で己の過去を語り始めたのだった。
時は4000年前に遡る……。
その頃ミトス達は古代大戦を終結するべく旅をしていた。
それは過酷な旅であった。ハーフエルフに対する差別は治まるどころかますます加熱するばかりで、行く先々で不当な迫害を受け続けていたのである。
しかしそれでもミトス達は、クラトスという人間の仲間を得た事により一筋の希望を見出し、しっかりと未来を見据え歩み続けていたのであった。
そんなある日の事。ミトスがある提案をして来たのだった。
「戦闘隊形を見直す?…しかしわざわざそんな事をせずとも今のままでも十分やって来れたではないか。」
ミトスの突然の提案に首を傾げるユアン。
「うん、確かにやって来れた。でもモンスターもどんどん強いものになってきているし、今までみたいに全員が好き勝手に動いていたらきっと行き詰ってしまう。クラトスという新しい仲間が出来た事でもあるし、ここで基本的な隊形だけでも決めておいた方がいいと思うんだ。そうする事で戦闘の幅も広がって行くと思うし、それぞれの長所を生かす事も出来るでしょう。」
「まあ、言われてみればそうだな。私は別に構わんよ。だが、どうするつもりなのだ?」
「うん…まず回復役の姉様は後衛で決定としても、あとの三人は誰が前衛になっても十分にやって行ける能力がある。そこでクラトスとも相談したんだけれど、やっぱり前衛は剣士のクラトスとその弟子である僕が務め、ユアンは中衛でその時々の状況を見ながら武器攻撃と術攻撃にてサポート…って言うのがベストだと思うんだ。どう?」
ユアンに向かって胸を張ってみせるミトス。
もちろんミトスは当然同意が得られるものと思っていた。文句なしの隊形だと自負していたのである。
しかしユアンからの答えはそんなミトスの思惑とは反するものであった。
「…それはちょっと問題ではないか?」
「何が問題だと言うのさ。」
けちをつけられ面白くなさそうに口を尖らすミトス。
「クラトスが前衛って事がだよ。」
今度はクラトスが眉を顰める番だった。
「なんだユアン。私では不満か?」
「別に不満と言うわけではないが、お前は結構脆いところがあるからな。」
「脆い……」
僅かに目を伏せるクラトス。
ユアンの言葉は、己の剣術には相当の自信を持っていた彼を傷付けたようである。
「確かにお前は強い。その天性のスピードをもってコンポを叩き込めば恐らく敵なしだろう。しかしながらその一方でお前には、一度攻撃を食らったが最後、そのままボコられてしまうという脆さもある。今までもそんなケースが度々あっただろう?」
「……」
思い当たる節があるが故にクラトスには反論が出来なかった。
「だからお前は中衛に下がった方がいい。お前には何より回復魔法があるし、前衛のサポートならお前の些か頼りない魔力でも十分通用するだろう。」
「…頼りない…魔力…」
更なるユアンの追い討ちについに俯いてしまうクラトス。
そんな彼に代わってミトスが反論する。
「何ていうことを言うのさ、ユアン!僕達はクラトスの剣には今まで散々助けられて来たじゃないか。それなのに…」
「いやいいのだ、ミトス。ユアンの言う事にも一理ある。頼りない魔法しか使えず脆くて役立たずの私は大人しく下がっている事にしよう。」
(完全にいじけちゃってるよ…)
ミトスはユアンを睨み付けた。
「だったら、僕とユアンが前衛になるわけ?」
「いや、前衛は私一人がやる。」
「えっ!?ユアンが一人で?」
目を見開くミトス。マーテルも心配そうに、
「大丈夫なの?ユアン。」
「フ…心配するな。前衛と言えば戦闘の花形。まさに私にこそ相応しいポジションではないか。私の鮮やかなダブルセイバー捌きをお前達に見せてやろう。ワッハッハッハッ!」
こうしてミトス達は、前衛がユアンとミトス。中衛にクラトス。そして最後尾にマーテルという隊形で戦って行く事にしたのであった。
その新しい隊形を試す機会は意外と早くにやって来た。隣国へと渡る為に山越えをしていたミトス達の前に獣系モンスターの群れが立ち塞がったのである。
「フン、現れたな、雑魚どもが。」
威勢良くダブルセイバーを手に取るユアン。
「大した敵ではないが数が多い。油断するな。」
「大丈夫だ。クラトス。」
「頑張って〜、ユアン!」
「任せなさい♪…さあ、どこからでもかかって来い。刀の錆にしてくれようぞっ!!うおおおおおお〜〜!!」
ユアンはマーテルからの愛の声援を受け、勇気百倍と、雄叫びを上げながら突進して行った。ダブルセイバーを振り回しながら群がる敵をバッサバッサとなぎ倒して行く。
そして瞬く間に一人でモンスターを一掃してしまったのである。それはまさに鬼神さながらの勇姿であった。
愛の力とは実に恐ろしい…。
「フ…。我が剣、誰にも見切れはしない。」
クラトスの真似をして格好良く決めようとしたユアン。
ところが手に持っていた筈のダブルセイバーがいつの間にか無くなっているではないか。
(はて?私の武器は一体どこへ?)
するとそんなユアンの耳に背後から悲鳴が聞こえて来たのだった。
「キャ ッ、ミトス〜〜!!」
「しっかりしろ。傷は浅いぞ!」
(???)
不思議そうに振り返ったユアンの目に映ったのは、ダブルセイバーが頭に突き刺さったミトスの姿。
どうやら勢いよく振り回しすぎた所為で手からすっぽ抜けてしまい、後にいたミトスを直撃したようだ。
「な〜あんだ。そんなところにあったのか。フ…私とした事が。」
ユアンは苦笑を浮かべると、スタスタと近付いて行き、ミトスの頭からダブルセイバーを引っこ抜いた。
「ギャ〜〜〜〜!!」
その遠慮も何も無い行為に思わず悲鳴を上げるミトス。
「ああ…すまん。痛かったか?」
「……ユアン。僕に何か恨みでもあるわけ?」
「いや別に。しかしなんだな。ダブルセイバーに脳天をかち割られても生きているなんて、お前もつくづく頑丈な奴だ。いやあ〜、良かった、良かった。」
「!!何が良かったっていうのさっ!!」
「お、落ち着け、ミトス!」
ユアンに切りかかろうとするミトスをすんでのところでクラトスが押さえる。
しかし当のユアンはそんなミトスの怒りなど全く介する様子は無く、のんびりと先の戦闘を振り返っていた。
「フム…やはりこの陣形では無理があったのかな。ここはミトスの提案通りに、クラトスに前衛を務めてもらうか。モンスターからのダメージもなんのその。勇猛に戦う頑丈なお前にこそ相応しいポジションなのかもしれん。」
「…お前、さっきと言っている事が全く逆ではないか。」
「そうか?いや、私は常日頃からそう思っていたぞ。お前の天才的な剣術の腕は認めているからな。それに私としても中衛に下がった方が思う存分魔術が振るえて都合がいい。」
(だからミトスと私は最初からそう言っていたではないか。それをお前が…)
クラトスは文句を言いたいのを必死に堪えた。
今ここで言い争っても仕方がない。
「分かった。しかし、私は前衛を務めるとしても、ミトスは中衛に下げた方がいいだろう。」
「ええっ!?どうしてさ。」
今度はミトスが抗議の声を上げる。
「お前は怪我をしている。それが完治するまでは下がっていた方がいい。」
「嫌だよ。僕も前衛がいい。」
「いや…しかし…」
渋るクラトス。
するとミトスは今にも泣き出さんばかりにこう頼み込んできたのだった。
「だって、一番前にいれば少なくとも味方の武器にやられる心配はないでしょう。だからお願いだよ。僕も前衛がいい。」
クラトスは、前衛は前衛で背後からバッサリという事もあると言いたかったが、ただでさえ怯えているミトスにこれ以上の脅しをかけるのも気が引けた為、こう言うに止めたのだった。
「……分かった。では、お前も前衛で行くとしよう。」
こうして思わぬハプニングにより隊形を組み直した一行は、無事に隣国に入る事も出来、本日の宿泊地でもある一つ目の町を目指していた。
ここは漁業が盛んな海に面した国であるが故に、自然一行も海岸線に沿って進んで行く事になる。
森で生まれ、今までも内陸ばかりを旅していたミトス達にとって、初めて見る広大な海の景色は新鮮なものとして映っていた。
磯の香りが心地よい…。
暫し時を忘れ、寄せては引く波の音に聞き入る一行。
すると、その時である。
「モンスターよ!!みんな気をつけて!」
マーテルの警告に振り返ると、そこには海の殺し屋と言われるシースピンと毒針攻撃が厄介なフロートドラゴンの姿が…。
「援護は頼んだぞ!」
剣を抜き海へと入って行くクラトスとミトス。
マーテルは万一二人が毒針を受けた時にすぐに対応できるよう備える。
しかし何と言ってもここは海岸である。砂地で足を取られる上に、前衛の二人は膝まで水に浸かってしまっており、当然動きも鈍くなる。対してモンスターの方はホームグラウンドなので動きも軽やかで、クラトスとミトスは苦戦を強いられていた。
「ム…大分てこずっているようだな。こんな時こそ私の出番だ。水棲モンスターの弱点は雷。そしてそれは私の最も得意とする分野。待っていろよ、二人とも。今私の華麗なる魔法で救ってやるからな!」
ユアンはすぐさま詠唱を始めると、『華麗なる魔法』とやらを放った。
『サンダーブレード!!』
それと同時に巨大な電撃の剣が落ちてきて、周囲に幾多もの稲妻が走る。
モンスター達はそれらに打たれ次々に倒れていった。
「ハッハッハッ、思い知ったか魔物ども!我が雷撃に敵うものなし!!」
勝ち誇り高笑いをするユアン。
ところが…
「きゃ〜〜!二人ともしっかりして〜〜!!」
(???)
マーテルの悲鳴に何事かと振り返ったユアンの目に映ったのは、ビリビリ状態で伸びているクラトスとミトスの姿。
どうやらモンスターだけではなく、同じく海に入っていた二人までもが感電してしまったようだ。
「す、すまんな、二人とも。海水とは斯くも電気をよく通すものだったのか…大丈夫か?」
「だい…じょうぶか…どうかは…見れば…分かるでしょっ!!」
全身の痺れに耐えながらユアンを睨み付けるミトス。
「場所を…考えろ…場所を…。せめて火系魔法にしてくれれば…こんな事には…ならなかっただろう…」
クラトスも痺れながら文句を言う。
「私は火系は得意ではないのだ。分かっているだろう?しかしなんだな。このぐらいの事で痺れて動けなくなってしまうとは、二人とも情けないな。だが安心しろ。お前達の代わりに、この稀代の天才ユアンがモンスターを一掃しておいてやったからな。」
「誰のお陰でこんなになったと思っているのっ!!」
痺れもなんのその、起き上がってユアンに術をお見舞いしようとするミトスをマーテルが押さえた。何故今回はクラトスではなくマーテルが押さえたかと言うと、彼はミトスと同じく痺れ状態だった為に動けなかったからである。
しかしそんな周りの苦労にも拘わらず、当のユアンはあっけらかんとしていた。
「そんなに怒る事あるまいに…。そうか!腹が減って苛々しているのだな?ようし、ようし、今私が何か作ってやろう。」
そう言っていそいそと料理を始める。
どうやら彼は自分が悪いとは露ほども思っていないようであった。
さて、何を作ろうか?
さっきの戦闘で大分TPを消費したからここは一つ、フルーツポンチでもつくるとするか。
何故か不機嫌なミトスには特別にフルーツてんこ盛りにしてやろう。
フ…我が儘なお子ちゃまの機嫌をとるのも大変だ。
そう決めたユアンは何種類かのフルーツを取り出すと食べやすい大きさに切って器に盛り分けた。シロップの作り方が分からなかったが、とにかく甘けりゃいいのだと、適当に混ぜ合わせて上からぶっ掛ける。
「よし、完成だ!!」
“『フルーツポンチ』の料理に失敗し、『フルーツパ〜ンチッ!』が出来ました。”
「ん?なんか気になるナレーションだな……ま、いっか。お〜い、みんな。出来たぞ〜!」
出来上がった『フルーツパ〜ンチッ!』を三人の前に並べるユアン。
だがその途端、なんとフルーツがモンスター化したのである。
その場は一転し、阿鼻地獄と化した。
悲鳴を上げながら逃げ惑うミトス、クラトス、マーテルを追い回し、華麗なパンチを叩き込むフルーツモンスター達。
中でも甚大な被害を被ったのは、フルーツてんこ盛りを前にしていたミトスであった。フック、フック、ボディーと食らい、止めのアッパーカットで吹き飛ばされる。
それでもなんとか退治し、ホッと息をつくミトス達。
「ユアン!僕を殺す気!?」
「お前は黒魔術師か!!」
ミトスとクラトスに怒鳴られ、ユアンは首を縮込めた。
さすがのユアンも今回ばかりは責任を感じているようだ。
「…すまん。次の戦闘で頑張るから許してくれ。」
「頑張らなくていいから、ユアンはもう何もしないでくれる?」
辛辣なミトスの言葉に泣きそうになるユアン。
するとマーテルが、
「ミトス。それではあまりにもユアンが可哀想だわ。挽回のチャンスを与えてあげないと。」
ミトスは溜息を突いた。
「全く、姉様は甘いんだから…。分かったよ。それじゃあユアンにはアイテム係をやってもらう事にする。それでいいでしょ。」
にっこりと笑って頷くマーテル。
「よかったわね、ユアン。アイテム係も大切な仕事だわ。頑張って。」
「有難う、マーテル。ああ、頑張るとも。今度は失敗しないから大丈夫だ。」
ぜひそう願いたいものだね…。
喜び合っている二人を眺めながら、ミトスは独り言ちたのであった。
それから数時間後の事。町まであと少しというところまで来て、一行は再びモンスターに出くわしていた。
今度のモンスターは強敵で、ミトス達は全員かなりのダメージを負ってしまっている。HP、TP共に底を突きかけており、このままでは全滅もしかねない状況であった。
今回ばかりはユアンも戦闘に加わり術で援護をしていたのだが、仲間がピンチと見るやすぐさま道具袋へと駆け寄った。
「アイテム係参上〜!待ってろよ。今回復してやるからな!」
名誉挽回とばかりに張り切って道具袋に手を突っ込むユアン。
ここはまずTPから回復するのがいいだろう。
そうすれば体力はマーテルが回復してくれるだろうし、何より技が使えるようになる。
だが一人一人回復している余裕はなかった。
そこでユアンは一度に全員を回復できるスペシフィックを使用する事にしたのだが、どうした事かいくら探しても見当たらない。
「おかしい。今朝確認した時にはちゃんとあったのに、一体どこへいったのだ!?お〜い、スペシフィック〜!」
いくら呼んだとて答えてくれよう筈もなく、焦るユアン。がさごそ、がさごそと袋の中を掻き回し続けようやく一本のボトルを見つける。
「あったぞ〜!!」
しかし少々遅すぎた。
その時にはもうモンスターは、クラトスの残るTP全てを使った捨て身の攻撃「シャイニングバインド」によって倒されていたのである。
それにも気付かず意気揚々とボトルを放るユアン。
「私の愛を受け取ってくれ〜!!」
ボトルは大きな放物線を描いて飛んで行き、『今更おせ〜よ!』と振り返ったミトス達の頭上に中身の液体を降り注いだ。
途端にミトス達の体はどす黒いオーラに包まれる。
!?……し、しまった。あれはダークボトルだったのか!
すぐに気付いたものの、撒いてしまったものはもう元には戻せない。
怯えた目でミトスを見るユアン。
ミトスの体は取り分け凄まじい黒いオーラを放っており、それがダークボトルによるものだけでない事は一目瞭然であった。
前衛をやらせりゃ味方の方へと武器をすっ飛ばし、術を使わせれば味方も巻き添えにする。
料理を作れば失敗するし、アイテム係さえも満足に務める事が出来ない究極のドジ野郎…。
もう耐えられない。僕の我慢も限界だ!
「ユ〜ア〜ン〜」
「キャ〜〜〜!クラトス、マーテル、た、助けてくれ〜!!」
不気味な低音で呼びかけながらゆっくりと近付いてくるミトスに恐れをなし、悲鳴を上げながら二人の背後へと隠れるユアン。
正直、二人にとっては迷惑な話であったが、こうしがみつかれてしまっては自分達も巻き添えを食ってしまう。
そこで仕方なく庇う事にする。
「ミ、ミトス、落ち着いて。誰でも間違いはあるわ。そうでしょう?」
「そ、そうだぞ、ミトス。人は間違える生き物なのだ。それはお前も分かっているだろう。」
するとそんな二人の必死の説得が通じたのだろうか、ミトスは立ち止まると、怒りを抑えるように大きく息をつきこう言ったのだった。
「そうだね。二人の言う通り、人は間違える生き物だ。だから例えそれが四回目であろうとも、そのどれもが普通では考えられないような間違えであったとしても、はたまた当の本人に全く反省の色が見られなくても仕方がないのかもしれないね。…分かったよ。二人に免じて今回は許してあげることにするよ。」
一言一言がグサグサと突き刺さって来たものの、取り合えず仕置きを思い止まってくれた事にホッと胸を撫で下ろすユアン。
しかしミトスの言葉はそこで終りではなかった。彼は安堵しているユアンをギロリと睨み付けると言葉を継いだのである。
「でも覚えておいてね、ユアン。僕は人一倍執念深い性質なんだ。」
その殺気さえこもった瞳に、ユアンはゾクリと身を震わせたのだった。
それからミトス達は再び町を目指して歩き始めたのだが、ダークボトルの影響でモンスターに懐かれてしまい、通常の倍以上の戦闘を余儀なくされた事は言うまでもない。
さて、場面は再びシルヴァラントベースへと戻る。
「な、成る程。そんな事が…。ユアン様も色々と経験なさったわけですね。」
「フ…まあな。お前達も今のうちに様々な事を経験しておくといいぞ。そうすれば私のような大物に必ずやなれるだろう。」
「そ、そうっすね……。」
「ま、それは兎も角として、これで分かっただろう。奴は必ず復讐に来る。正直私はこんな大昔のことなどすっかり忘れていたのだが、あいつは覚えていた。事あるごとに私をドジ呼ばわりするのも、アルテスタの家の前で執拗に私に蹴りを入れてきたのも、全てはこの4000年前の出来事に起因していたのだ。全く、ユグドラシルの執念深さには恐れ入る。あいつも私のようにさっぱりとした性格ならよかったのにな。」
ユアン様の場合はさっぱりとした性格と言うより、ただ単に自分に都合が悪い事はすぐに忘れているだけなのでは?
しかし今の話からすると、ユグドラシルのターゲットはこのレネゲードではなく、ユアン様一人という事にならないか?
だとしたら自分達も早く逃げなければ巻き添えを食ってしまう。
そう考えた隊員達はさっさと逃げ出す準備に取り掛かる。
「それではユアン様。私共もこれにて失礼いたしたいと思うのですが…。」
「うむ、そうか。」
「…ユアン様は?」
「私はリーダーとして最後まで残る義務がある。なあに、私の事なら心配はいらないから、お前達は先に逃げるがよい。」
「は、はいっ!それではこれにて…。ユアン様もどうかお気をつけて。」
一緒に逃げると言われたらどうしようかと思っていた隊員達は、ホッとした表情を浮かべると敬礼をし、そそくさと退出して行った。
それを見送り、窓辺へと立つユアン。
ユグドラシルが復讐心を燃やしている事は確実であろう。しかしユアンはそれ程の危機感は抱いてはいなかった。何故かと言うと、ロイド達がユグドラシルを倒せば全てが終わるからだ。
「そうなったら今度はクラトスか…。」
クラトスが息子の為に己の命を捨てようとしている事はユアンにも分かっていた。
ここは長年の友として救ってやらねばなるまい。
なにより奴には今までミトスの虐めから庇ってくれた恩がある。
「頑固者の友人を持つと苦労するな。さて、そうと決まったら服を着替えなければ…。ミトスの所為でボロボロになってしまったからな。」
こうしてユアンは友人の危機にカッコよく参上する為の服をいそいそと選び始めたのだった。
だがユアンは知らなかった。
ミトスとの戦闘後、ジーニアスがミトスの輝石を持ち帰り忘れた事を…。
その為デリス・カーラーンに残ったままだったミトスの精神体が新たな体を得てこちらへと向かっている事を…。
そして今まさに、ミトスによる裁きの光がシルヴァラントベースへと降り注がんとしていたのである。
−ユアンの遍歴 終−
『黄昏のひとりごと』のたむら様へ誕生日のお祝いにお贈りしたもの。
大分前から「あげるね〜」と言っておきながら、管理人の入院騒動の為に一ヶ月以上遅れてのプレゼントとなってしまいました。
本当に申し訳ありませんでした。
改めまして、お誕生日おめでとうございます。
この一年がよしふみにとって良き年となるようお祈りしております。
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おまけ
でも見ないほうがいいかも…