本日も晴天なり


 私はユアン。元クルシスの四大天使だった男だ。今は新しくこの大地に根をおろしたマナの大樹の世話をする日々を送っている。

 世界に平和が戻り、同じく四大天使で私の親友であったクラトスは、我等が行った罪へのけじめをつける為にデリス・カーラーンと共に旅立って行った。
 それと同様に、クラトスの息子であるロイドが取り戻した平和の象徴であるこの大樹を守りながら世界の行く末を見極める事こそが私にとってのけじめのつけ方だと考えたからだ。


 そして今日も私はぞうさんジョウロを片手にマナの木がある丘へ向かっている。これで水をかけてやりながらマーテルと語り合うのだ。

 今日もいい天気だ。きっとマーテルもこの穏やかな日の光を浴びながら元気に枝葉を伸ばしている事だろう。


 そんな事を考えながらウキウキと丘へやって来た私は、その場の光景に目を剥いた。

 そこには何故かロイドとコレットにジーニアス。それにリーガルまでもがやって来ており、マーテルを取り囲んでいたのだ。

「お前達、何をやっているのだ!」

「ああユアン。今日も大樹の世話をしに来たのか。毎日大変だな。」

「そんな事はどうでもいい!私は何をしているのかと聞いているのだ!!」

「何って見りゃ分かるだろ。」

 そう言いながらいきり立つユアンを尻目に大樹の傍に棒を突き立てているロイド。

「理科の宿題で自然観察っていうのが出てさ。それでこうしてやって来たってわけ。」

「そんなところに棒を突き立てるな〜〜!」

「だってこうしないと観察できないだろ。蔓の巻き方を調べようと思っているんだからさ。」

「蔓なんて巻くかっ!…って、ジーニアス!お前は何をやっている!?葉っぱにテープなど貼り付けるんじゃない!」

「え〜、どうしてさ。光合成について調べようと思っているのに!」

「光合成って…」

 思わず言葉を詰まらせたユアンは、その隣でコレットがやっている事に気付いて慌てて怒鳴りつけた。

「ダ〜〜〜ッ、神子!カッターナイフで葉っぱを切るんじゃない!!」

「お婆様が顕微鏡を買ってくれたの〜。だから葉っぱの細胞を観察しようと思って。」

 そう言いながらニッコリと笑って葉っぱにカッターナイフを入れようとするコレット。


 ああ!マーテルが〜〜〜っ!!


 ユアンは声にならない悲鳴を上げるとコレットからナイフを奪い取ったのだが、相当慌てていたのか間違えて刃の方を掴んでしまう。

「ギャ〜〜〜!血、血が〜〜〜!」

「あ〜あ、ユアンったら慌てん坊さんだね〜。」

 溜息をつきながらポケットから絆創膏を取り出すコレット。

「いらんわ、そんなもん!それよりもお前達、とっととそこから離れろ!理科の実験なら他の物でやればいいだろう!」

「「「ええ〜っ!?折角、絶好の対象物を見付けたのに〜!」」」

「煩い!!」

 ロイド達を怒鳴りつけてから、ユアンは近くでその光景を眺めているリーガルへと視線を移した。

「ところでお前は何故ここにいる?お前も宿題をやりに来たとでも?」

「まさか。私は宿題というものからは数年前に卒業している。」


 数年前?……それはちょっと鯖の読み過ぎだろう?


「だったら何故ここに?」

「ユアン殿に相談があったのだ。ユアン殿は毎日大樹の世話をしているから、ここに来れば会えるとロイド達に聞いたものでな。」

「…相談とは何だ?」

「実は我社の旅行部門で新しい商品を出そうと考えていてな。その目玉としてぜひコースに加えたいと思い、許可を得たいと…。」


 この丘を観光コースに加えよというのか!?


「冗談じゃない!!」

 ユアンはついに堪りかねて怒鳴った。

「大体お前ら、この丘をなんだと思っている。マナの木を傷つけるなどもっての外だ!マーテルが可哀そうだと思わんのか!?…ここは神聖な場所。一般人の立ち入りは禁止だ!お前達もさっさと立ち去れ〜〜!!」

 ゼーゼーとしながらロイド達を睨み付けるユアン。
 だがロイド達はキョトンとした表情を浮かべている。

「何を怒っているんだよ。第一俺達、マナの木を傷つけてなんていないぜ。」

「何を言う!現にお前らは…」

「だってこれ、マナの木じゃなくて朝顔だもん。」

「へ?」

 ロイドの言葉に目を丸くするユアン。
 なるほど、よく見れば今目の前にあるのは朝顔である。

 て事は…?

「マナの木はあっち。」

 ロイドが指さす方へ目をやると、そこには紛う方なきマナの木の姿が。その前には木を守るかのようにノイシュが陣取り昼寝をしている。

「やだなあ。ユアンったら、毎日来ているくせに木のある場所も分からなかったのかよ。」

「う、煩い!ちょっと勘違いしただけだ!!……だがリーガル。お前は…」

「いや、私の件に関しても貴公の勘違いだ。私とてこの丘を観光コースにしようなどとは思っておらぬ。」

「え?…しかし…」

「私がコースに入れたいと考えているのはシルヴァラントベースと救いの塔跡の事だ。」

「………」

「大体俺達がマナの木を傷つけるような事するわけないだろ。」

「そうだよ。あんなに一生懸命にやってやっと大いなる実りを開花させたんだもの。この世界になくてはならない大樹を傷つけるなんてしないよ。」

「そだよ〜。そんな事をしたら罰が当たっちゃうよ〜。」

「うむ。マナの木は皆で大切に守って行かなければな。」


「あ……」

 四人の言葉を聞いて力が抜けたようにその場に座り込んでしまうユアン。


「おい、大丈夫かよ!?」

「あ、ああ、大丈夫だ。すまない。私はてっきりお前達が…」

「ううん。私達も紛らわしい真似をしたのが悪かったんだよ〜。ごめんね。」

「いや、勘違いしてしまった私も悪かったのだ。お前達がそんな事をする筈がないのに…。」

「さあユアン殿、大樹に水を。その為に貴公は来たのだろう。」

「ああ、そうだったな…」

 ユアンは頷くとゆっくりと大樹に近付き水をやった。

「マーテルさん、今日もユアンに会えて嬉しそうだね〜。」

 コレットの言葉通り、マーテルはジョウロから降り注ぐ水を浴びながら嬉しそうに微笑んでいるかのように見えた。


 クラトスよ。元気でやっているか?
 私はお前の息子とその仲間達に驚かされる毎日を送っている。
 全くお前の息子ときたら、今日など絞め殺してやろうかと思ったぐらいだ。

 だがあいつらならきっと、差別のない理想の世界を創っていってくれるものと信じている。

 四千年前、私達が思い描いていた夢…それが現実のものとなる日もそう遠くないのかもしれない。
 

 本日も晴天なり。

 クラトスよ…私は今、本当に幸せだ。


−おわり−