限りある資源は大切に!
クラトスはダイク家のベランダから空を眺めていた。
本来なら青く広がり心地よい日差しを与えてくれるであろうそれは、デリス・カーラーンの出現によって暗く淀んでしまっていた。
4000年もの間、マナが枯渇しつつあるこの大地を守護してきたその星も今では世界の脅威となってしまっている。
あの星がマナの種子と共にこの地から去ってしまえば世界は終わりを告げるだろう。
彼の息子はそれを阻止するべく、仲間たちと共に今も戦い続けている。
もっと早く道を正していれば、この様な状況を招く事はなかっただろうか。
世界を救おうと戦い続けてきた自分達は、過酷な現実に打ち勝つ事が出来ずに荒れ狂う濁流に飲み込まれてしまい道を逸してしまった。後は狂気へと走り続ける弟子と共に流され続けるしかなかった。
そんな、生き続ける意味さえ失い、もはや抜け殻と化していた自分の目を覚まさせてくれたのは、死んだと思っていた息子だった。
彼は今度こそ息子を守り抜く事を誓い、命を賭けて陰となり日向となり息子を導いてきた。己の勝手な期待にも息子は見事に応えてくれ、大きく成長を遂げてくれた。あとは最後の希望を息子へと託し、それで全ては終わるはずだった。
オリジンの封印をとけば自分は生きてはいないだろう。それでもよかった。エターナルソードがなければ今までの息子たちの努力が全て水泡と化してしまう。息子の未来の為なら、無意味に長く生き続けてきたこんな命など喜んで差し出そう…そう思っていた。
本当なら自分は今ここにはもういないはずだった。死に瀕した自分を救ってくれたのはユアンだった。ほとんどのマナを失った体はユアンのマナを受ける事で命を繋いだのであった。
「私は助けられてばかりだな…」
クラトスは呟き、己の未熟さに苦笑した。
動く事も儘ならなかった体は息子の養父の家で養生させてもらったおかげで、今ではかなり回復している。
クラトスはユアンを思い浮かべた。
古代大戦を共に戦ってきた戦友…最近は敵対していたがそれも彼が、クラトスが現状に手をこまねき続けている事に対して業を煮やしたからで、友情そのものを失った訳ではなかった。現に彼はクラトスの窮地に駆けつけ、命を救ってくれたのだ。
「そういえば奴にはまだ礼を言ってなかったな。命を助けてもらったのだ。礼は言わねばなるまい。」
そう言いながらもクラトスは躊躇した。できればあの男には関わりたくはなかったのだ。
決して悪い男ではない。クラトス自身嫌っている訳でもなかった。ただ疲れるのだ。あのよく言えば常識にとらわれない器の大きい男、悪く言えば変人の彼に合わせていくことが…
昔、奴に面と向かって言った事があったな。お前の思考は少々おかしいのではないかと。
その時奴は私の忠告を一笑にふしたのだった。
あれは確か古代大戦の頃、作戦を練っている時だった。例によってユアンの企てた突拍子もない作戦に私は異を唱えた。失敗が目に見えているのに賛同する事など出来なかったのだ。奴は私の頭が固すぎると言ったものだ。
いや、お前の頭が柔らかすぎるのだろう、とよっぽど言ってやりたかったのだがそれは控える事にしたのだった。
だが、それが悪かった。他に反対する者もなく実行に移されたその作戦は見事失敗に終わった。
その時もあいつは悪びれる様子がなかったな…。運が悪かった、また次があるさと笑っていた。
そう言えばちょうどその頃からだな、ミトスのユアン苛めが始まったのは…。
だがあいつはそれにも全く堪えている様子がなかった。そもそも奴には苛められているという感覚がないらしい。
あの妙にあっけらかんとした性格はどこからきているのだろう?
ハーフエルフとは皆奴のような少々はずれた輩が多いのか?
しかし、ミトスもマーテルもまともだったな。ジーニアスもそうだ。リフィルは…まあ、遺跡がなければまともな部類に入るだろう。
では、常時、妙なオーラを放ち続けているのは奴だけということか…。
クラトスはため息をついた。
とにかく行くだけ行ってみるか。礼を言ったらすぐに逃げてこよう。
あいつに長く関われば関わる程、折角拾った命をまたドブに捨てる事になりかねんからな。
クラトスはそう決心すると出かける用意を始めたのだった。
支度を済ませ一階へ降りていくと、一仕事終えたダイクが一服している所だった。
「おや、クラトスさん。出かけるのかい?」
「ええ。ユアンに一言礼を言ってこようと思いまして。」
「そうかい、そりゃあいい事だ。それならこれを持っていくといい。」
ダイクは何やら細長い箱を差し出してきた。
「これは?」
「酒よ!!」
ダイクは胸を張って答える。
酒?…いや、酒はまずいだろう。
ただでさえハイなあいつに酒など飲ませたら収拾がつかなくなる事は目に見えている。
「ダイク殿、今回はお気持ちだけ受け取る事にして、これはご自身で飲まれた方が…」
「なんでえっ、俺の酒が受け取れねえっていうのかい!!命の恩人相手に手ぶらで行こうっていうのけえ!」
ダイクはとたんに機嫌が悪くなり凄みのある声で怒鳴った。
こ、この人は昼間から酒を飲んでいるのか?
そういえば少々目が据わっているような気がするが…
「い、いや、ユアンには途中で私が何か買っていくつもりでしたので…ですからこれは貴方が…」
「ここにこうして立派なもんがあるんだ。何も無駄な金使うこたあねえだろうが。ほれ、遠慮せずに受け取りな!」
む、無駄な金?
クラトスは首を傾げたが、それ以上断ることもできず引き攣った笑いを浮かべ渋々と酒を受け取った。
するとダイクはコロッと機嫌がよくなり、
「ユアンさんによろしく伝えてくれな。」
と言いながら追い立てるようにクラトスを送り出したのだった。
酒瓶の入った箱を抱え山道を下りながら、クラトスはこれをいかにして処分するか思案していた。
すると…
「あれ、父さんでかけるのか?」
ダイク家に向かうロイドたちに会った。
「ロイドか…いや、ちょっとユアンの所へな。お前達はどうしたのだ?」
「うん、親父にフィギュアを作ってもらおうと思ってさ。」
「そうか。」
クラトスは一行を眺めた。すると、いい考えがひらめいた。クラトスはリーガルの前に行き酒瓶を差し出した。
「リーガル殿、これを。ダイク殿から頂いた酒なのだが、あいにくと私は酒が苦手なのでな。捨てるのも勿体ないし、受け取ってもらえないか?」
嘘八百を並べ立て(実は大の酒好きだったりする)、無理矢理リーガルに押し付けた。
「くれぐれもダイク殿にはみつからないよう…」
「あ、おやじ〜!!」
ロイドの声にクラトスは言葉を飲み込んだ。恐る恐る振り向くとダイクがベランダに立ってこちらを見ておりロイドが彼に向って手を振っている。
「ロイド、こんなとこまで見える訳ないじゃん。」
ジーニアスが言うと
「いや、親父は視力はメチャクチャいいんだ。天使の父さん並かも。」
クラトスはリーガルから酒瓶をひったくった。そして愛想笑いを浮かべダイクに向かって手を振ると
「ではな、ロイド!!」
と言い残し韋駄天のように走り去っていった。
「父さん、元気になったよな〜。」
「ほんとだね。よかったね〜ロイド。」
皆がクラトスの回復を喜ぶ中、リーガルだけが酒瓶を受け取った時のままの恰好で訳も分からず呆然と立ち尽くしていた。
クラトスはようやくシルヴァラントベースの前に辿り着いた。
この辺りのモンスター程度なら、いくら病み上がりの身とはいえ彼にとっては敵ではないはずだった。
しかし、今日はやけに手間取った。数多く出くわすだけでなく、一発で仕留められるはずなのにそれが出来ない。
これ程に体が弱ってしまったのか…それとも、ミトスの陰謀か…
などと考えてしまったが、ふと戦闘ランクが『マニア』に設定したままであった事に気付く。今更ながら慌てて『ノーマル』に設定しなおした。
あのダイクの豹変ぶりが結構こたえているようだ。ロイドが彼怖さに『ドワーフの誓い』を必死に覚えた気持ちが少し分かる気がした。あの凄んだ姿から発せられる圧迫感は、ある意味ミトス以上かもしれない。
酒を飲んでいたのか…それとも息子の実父の突然の出現への嫉妬心なのか。
はたまた二重人格者か…
まあいい。あの家に厄介になっている間は彼の機嫌を損ねぬよう努力するとしよう。
クラトスは手にしている酒に目を落とす。
処分し忘れたな…
仕方がないか…。
溜息をついて酒瓶を抱えなおすとベースの入り口の前に立った。
「???」
開かない…自動ドアではなかったか?
寝込んでいた為に体重が軽くなってしまったのかとその場でピョンピョンと跳ねてみるが反応がない。手を掛けて押したり引いたりしてみたがびくともしなかった。ノックをしてみるも分厚い金属製のドアでは中に聞こえるはずもなく…ついにクラトスは癇癪を起しドアを蹴りつけた。本日の抑えていたイライラが爆発してしまったのだった。
するとドアがすっと開いて、中からユアンが現れた。右足を抱えて痛みに跳ねまくっているクラトスをみて、
「なんだ、クラトス。新しい振付のダンスか?」
と、とぼけた声で聞いてきた。
「な、何なのだ。このドアは!ちっとも開かないではないか!!」
クラトスは涙目で怒鳴りつけた。
「すまん。今ちょうど電源を落としていたのでな。ここに一応来客用の糸電話を設置しておいたのだが気づかんかったか?」
見るとドアの横に糸のついた紙コップがぶら下がっていた。
「…これ、通じるのか…?」
「テストはしとらんが、電話なのだ。通じるはずだろう?」
「…」
ゴミかと思った…
クラトスは咳払いをし、
「今日は、封印解放時に助けてもらった礼を言いにきたのだ。あの時は世話になったな。有難う、ユアン。これはダイク殿からお前にと預かってきた物だ。酒だそうだ。」
そう言って例の酒を差し出すと、ユアンは嬉しそうに顔を綻ばせ酒を受け取った。
「酒とは久しぶりだな。嬉しいぞ!だが、私は友として当然の事をしたまでだ。こんな事までしてくれずともよかったのだがな。」
「そうか?ではこれは持ち帰るとしよう。」
クラトスは酒を奪い取った。
「いや、折角のお前の養父の心遣いを無駄にするのも悪い。有り難く受け取るとしよう。」
ユアンは微笑みを浮かべクラトスの手から酒を奪い返す。
「…いや…ダイク殿は私の養父ではないのだが…」
「細かい事は気にするな。そうだ!この酒を飲みながら食事でもせんか?お前どうせ暇だろう?」
クラトスは顔を引き攣らせ、
「…今日は礼を言いに来ただけだ。お前もレネゲードの事で忙しいだろうから遠慮しておこう。では、またなユアン。」
そう早口で言うと、くるりとまわれ右をして、ロイド達に披露した韋駄天走りで逃走しょうとした。
しかし、ユアンにマントの裾をつかまれ尻もちをついてしまう。
「まあ、そう言うな。私も丁度食事にしようかと思っていたところだ。一人で食うより二人の方が旨いからな。つもる話もあるだろう?ゆっくりと語り合おうではないか。」
ユアンはそのまま、ずるずると尻もちをついたままの恰好のクラトスをで中へと引き摺っていく。
「つもる話などな〜い!!!」
クラトスの叫び声は、無情にも閉じられた扉によって途切れたのであった。
「なんだか薄暗いな…」
中へと拉致されたクラトスは、ユアンの後を歩きながら呟いた。
「おお、そうだった。マナ不足のために節電しているのだ。今明るくしよう。少々待っていてくれ。」
ユアンはそう言い置くと、廊下の隅にある部屋へと入って行った。
ビシッ! バシッ!!!
ひぃ〜〜〜〜!
「!?」
中から聞こえてくる奇妙な音にクラトスは首を傾げた。
何だ、あの音は???
あとから聞こえたのは悲鳴のような気がするが…
少しして辺りが明るくなる。そしてすっきりとした顔でユアンが部屋から出てきた。
「…ユアン、今の音はなんだ?」
「ん?電力を少し上げたのだ。明るくなっただろう。」
「いや、そうではなくて…何か悲鳴のようなものが聞こえたのだが…」
「そうか?気のせいではないのか。」
ニッコリと笑って言うユアンに、クラトスはそれ以上問いただす事ができなかった。
「私の部屋でいいだろう?あそこが一番落ち着く。幸い隣室が厨房になっておるからな。」
ユアンはクラトスを自室へと招き入れた。
「ここで待っていてくれ。今料理を用意してくるからな。」
「!?…まさか、お前が作るのではあるまいな?」
「親友のお前をもてなすのだ。私が作らずとてなんとする。」
「ま、待てユアン。やはり私は失礼する。少々気分がすぐれぬ。」
腰を浮かせたクラトスの肩を、ユアンはがっしりと掴み椅子に押し戻した。
「それはいけない。すぐにせいの付く料理を作ってくるとしよう。」
「い、いや、だから…」
「楽しみに待っていてくれ。」
ユアンは再びニッコリとすると部屋を出て行った。すぐに外から鍵をかける音が聞こえる。
何故鍵をかけるのだ…
まさかあいつの料理を食うはめになろうとは!
味は悪くはない。悪くはないのだが…
クラトスはぐったりと椅子の背によりかかった。
隣でガシャガシャと料理を始めている音を耳にしながら彼は、無事に生きてここを出る事ができるか心配するのであった。
クラトスは諦めの境地に至りぼんやりと座っていた。するとドアが開き5人のレネゲードが、ザッザッと行進しながら入ってきた。彼らは壁を背に横一列に並ぶと全員が「休め」の姿勢を取る。前方を見たまま微動だにしない。
「な…何なのだ、お前達は!?」
クラトスは思わず腰を浮かせて叫んだ。
「「「「「ユアン様からクラトス様の給仕をするよう指示を賜りました」」」」」
クラトスの叫びに5人組は異口同音に答える。
給仕?監視の間違いではないのか…
クラトスはため息をつくと疲れたようにどさりと再び椅子に座った。そのまま待ち続けるも、5人に睨まれている気がしてどうにも落ち着かない。時たまチラチラと盗み見るが、相変わらず5人は前方を見詰めたまま固まったように立っているだけだ。
静まり返った部屋にカチカチと時を刻む時計の音だけが響きわたる。
いい加減我慢も限界に達した時、隣室の厨房からユアンの声が聞こえた。
「おい、料理を運ぶのを手伝ってくれ!」
5人は入ってきたのと同じように行進しながら退出していった。
程無く、湯気をたてた料理が運ばれてきてテーブルへ並べられていく。その時一人のレネゲード隊員がクラトスに耳打ちした。
「これを食べる時はくれぐれもお気を付け下さい。病院行き7名、死亡者2名が出ております。」
そう言って目の前に置かれた料理を見てクラトスは目を剥いた。
「ユ…ユアン…これは何だ?」
「ん?…ああ、その甲殻類は美味いぞ。」
「わ、私にはスコルピオンに見えるのだが…」
「その通りだ。あれを茹でたものだが…それがどうした?」
「…毒は大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。私はフグの調理師免許をもっている。」
そんな物をいつの間に取ったのだお前は…それに…
「これはフグではないのだぞ。」
「そんな事は見れば分かる。何を言っているのだ。毒があるもの同士、さして変わらんだろう?」
いや、大きな違いだ!!
まあいい…これは食べないでおこう…
クラトスは何か食べられそうな物はないか、料理を見渡した。そして再び固まってしまう。
「こ、この煮魚は…」
「おお、それはメルトキオ産のシースピンの煮つけだ。油がのっていて、これまたなんとも言えない味がある。今が旬だから美味しいぞ。」
旬?モンスターに旬などあるのか?
「この刺身に手のような物がついているのは何故だ…?」
「ああ、マーマメイドの刺身なのだが、手を除き忘れたようだ。だが味は保証するぞ。」
「…」
クラトスはげっそりとして、フォークを手に取ると、スパゲティーを食べる事にした。これが一番害がなさそうだ。それを口にしながらユアンを見ると、彼はシースピンの煮つけを旨そうに食べている。
こいつの胃は一体どういうつくりをしているのだ…
というより、こんな物を食べる神経を疑ってしまう…
そんな事を考えながらスパゲティーを食べていると、何か固いものが歯にあたった。取り出して見ると…
「すまない…ユアン。これは…その…目玉に見えるのだが…」
「ああ、目玉だな。」
クラトスの手を覗き込んだユアンは事もなげに言う。
「ミニコイドの目玉だ。あれはきのことしては極上品だからな。」
クラトスは怒りにプルプルと震え始めた。
「念の為に尋ねるが、このピーマンはピーマンヘッドではないだろうな?」
「当然だ。これ程肉付きの良いピーマンは他にあるまい。」
「お前はモンスターしか食さんのか〜〜〜〜!!!!!」
「モンスターを食べて何が悪い!?そこらの物より運動量が豊富で美味いではないか!!」
二人が言い争いを始めると、突如電源が落ち辺りが暗くなった。
「な、なんだ!?今度はどうしたのだ?」
「パワー切れのようだな。15番、20番、33番、41番、交代してやれ。」
ユアンに言われて、4人は青い顔をして部屋を出て行った。
「パワー切れ?何だそれは?」
「気にするな。すぐに明るくなる。そうだ、クラトス、肉が食いたくはないか?お前は肉が好きだっただろう。」
「い…いや、私はもう…」
「46番、手伝ってくれ。焼いてくるから少し待っていてくれ。」
クラトスの拒絶を無視して、ユアンは残りの一人である隊員を連れて厨房へと行ってしまった。
ユアンが行ってすぐに電気がつき明るくなる。
次は一体何が出てくるのやら…
クラトスは覚悟を決めるしかなかった。すると厨房の方から…
「あ、ユアン様!!や、やめ……あ、あ…ぐぎゃあああああああ ―――― !!!!!!」
物凄い悲鳴にクラトスは飛び上りドアに走り寄る。だが、鍵がかかっているようで開ける事ができない。
焦ってガシャガシャとやっていると、ドアが開きステーキを持ったユアンが現れた。
「何だクラトス、待ち切れなかったのか?」
「今の悲鳴は何だ!!」
「ん?ああ、ちょっとしたハプニングがあってな。何、大した事はない。」
ユアンは笑みを浮かべ、ステーキをテーブルへと運ぶ。
クラトスは肉を凝視した。
「…まさか…これは人肉ではあるまいな…?」
「はっはっは…お前は面白い事を言う。そんな事あるはずなかろう?ほれ、熱いうちに食え。」
ユアンに急かされるようにテーブルにつくも、クラトスは肉を見詰めたまま食べようとしない。
「お前も疑り深いやつだな。これはベアの肉だ。調理しようとしたら暴れだした。二人で押さえつけて、その時隊員が悲鳴を上げただけだ。少々負傷したが大した事はない。」
すると、ドアが開き先程の46番が入ってきた。頭に包帯を巻き、腕を吊っている。頬にはでっかい絆創膏が貼られていた。
…いや、大した事だろう…?
クラトスは同情を込めた目で46番を見た。
その時、再び電気が消える。
「チッ! またか!!」
舌打ちしたユアンの声が聞こえると同時に、何やら天井がギシギシと不気味な音をたてた。
「???」
仰ぎ見たクラトスの眼前に、崩れ落ちた天井と共に何か大きな物が数体、物凄い音をたてて落ちてきた。
舞い立つほこりの中、クラトスが確認したそれらは、何とロイド一行だったのである。
落ちてきたロイド達をあんぐりと口を開けて眺めていたユアンだったが、青空が見えるようになった天井を仰ぎ見るや頭から湯気を出して怒り出した。
「お前達の倒す相手はミトスだろうが!何故我がレネゲードを襲撃するのだ!!」
「…別に襲った訳じゃないよ…」
腰をさすりながら立ち上がったロイドが弁明する。
「テセアラに渡ろうとしたら何だか知らねえけど落っこっちまったんだ。」
「ムムッ…電力不足で転送装置まで作動しなくなったか!?」
ユアンはロイド達を放っぽって部屋から走り出て行ってしまった。
「待て!!ユアン!」
クラトスが後を追い、その後を慌ててロイド達も追う。
着いた先は先程の廊下の端にある部屋であった。一行が中へと飛び込むとそこには異様な光景が広がっていた。
4人のレネゲード隊員が青息吐息で自転車を必死にこいでいる。自転車からは線がのびており、それは四角い大きな黒いBOXにつながれていた。その箱の上にはシグナルが付いており頼りなさげに点灯していた。そばにはユアンが鞭を持って立っていたが、さすがに瀕死状態でこぎ続けている隊員達を叩くのは忍びなかったのか、それを振るう事はなく腕を組んで眺めている。
ここに着いた時に聞いた、あの音と悲鳴の正体はこれだったのか…
クラトスは周りを見渡した。恐らく犠牲者であろう、多くの隊員達が彼方此方で様々な格好で床の上にのびていた。
入ってきたクラトス達に気付きユアンが振り向いた。
「深刻なマナ不足で基地が維持できなくなってきてな。仕方がないから人力発電で凌いでいたのだが、それもそろそろ限界のようだ。」
「…お前は奴隷商人か?何故鞭など持っている。」
クラトスの非難にユアンは眉をひそめ、
「私をまるで鬼のように言うな。仕方がなかろう?私だって遊んでいる訳ではない。一緒にこぐ時もある。それにこの基地が機能しなくなったら、ロイド達もテセアラに渡れなくなるのだぞ。」
「それは困る!」
ロイドが叫んだ。しかし直ぐに周りでのびている隊員達を見回して、呟いた。
「…困るけど…こいつらも気の毒だよな…」
なんとかならぬものかと考え込む一同の後で、コレットの脳天気な声が聞こえた。
「ねえ、これはな〜に?」
見ると、コレットが並んでいる機械の一つを指差していた。ユアンは慌てて駆け寄り、
「頼むから、お前は機械類に触れてくれるな!!」
と言って、コレットを機械から遠ざける。
それはパイプ状の土台の真ん中に直径30cm位の革製の丸い堅めのクッションがついている、何て事のない物であった。
よく見るとその装置もBOXへとつながれていた。
「これは、こうしてここを叩くと…」
ユアンがクッションにパンチを繰り出と、シグナルが激しく点灯した。
「こうして発電する事ができる。」
「おお!!!」
一同が感嘆の声を上げた。
「だが、何発も打ち続けなくてはならなくて、自転車こぎに比べると発電しにくい上にやっている者の体力の消耗が激しいのが難点でな。人手不足なのもあって、今は使っていないのだ。」
再び一同は、う〜む、と考えこんでしまう。すると、またもやコレットが、
「そう言えばさあ。デリス・カーラーンにボクシング好きのモンスターさんがいたよね〜?」
「ボクシング好きのモンスター???」
「ほら、青くてフワフワと宙に浮いていて、変な顔をしたやたら手の長〜いのがいたじゃない。」
「レイスの事かしら?」
リフィルが呟くと、それを耳にしたユアンが叫んだ。
「おお、あのシャドウボクサーか!!」
「シャドウボクサー?」
クラトスが首を傾げる。
「奴はアンデッド系だったろう。まさしくシャドウボクサーではないか!!」
「…」
「そうだな…あいつらを連れてきてここで働かせれば大いに助かるな。ああ、あとガオラキアの森にグラップラワーとかいう奴もいたではないか。あれも2、3匹とっ捕まえてきてもらって…」
「でも、あいつらを捕まえるには、テセアラに渡らなきゃだめだぞ。」
ロイドが、熱く語っているユアンの話の腰を折った。だがユアンはさして気にする様子もなく話を続ける。
「一回飛ぶ分だけのエネルギーが確保できればいいのだろう?テセアラベースはなんとか稼働しているはずだからな。ならばその間はオリジンを呼び出して…」
「お前は精霊をこんな事に使う気なのか!!」
「手が私達の倍あるのだぞ。もったいないではないか。私は使えるものは親でも使う主義だ。そうだ、クラトス。お前から頼んでみてはくれぬか?オリジンとは4000年もの間寝食を共にした仲だろう?」
「断る!!」
「うむ…そうだな…まがりなりにも精霊王だものな。こき使うのは酷か…」
まがりなりにもって…お前…言葉の使い方が間違ってはいないか?
「仕方がない。そこらをうろついている役に立ちそうなモンスターを捕まえてきてなんとか凌ぐか…」
すでにユアンの頭には、モンスターを使う事しかないようだ。
なにはともあれ、こうしてロイド達は何とかテセアラへと渡ることができた。
そして、世界が一つにもどりマナが回復するまでの間、シルヴァラントベースでは、ユアンにこき使われるレイスやグラップラワーといったモンスター達の姿が見られたという。
−限りある資源は大切に! 終−