※注意
作者が見たドラマがネタになっている為、その番組を見た事がない方には少々分かりにくいギャグとなっているかもしれません。ご了承ください。



風邪と共に去りぬ


「ヘェーックションッ!!」
 シルヴァラントベース内にユアンのクシャミが響き渡った。
「大丈夫ですか、ユアン様。しかし不思議な事もあるものですね。馬鹿は風邪をひかないと言うのに、一体どうしたことやら…」
「……何か言ったか?」
「いえ、別に…。それより熱もあるようですし、医者に診てもらった方がいいんじゃないですか?」
「そうしたいのは山々だが、今は夜だしな…」
「それが今日の朝刊にチラシが入っていましてね。なんでもこの近くに24時間診療の診療所が開院したようなんですよ。」
「ほう?それは奇特な診療所だな。」
 ボータからチラシを受け取るユアン。
 そこには『シンフォニア診療所 これであなたも長らえられる! 』とあった。
「なにやら、ものすご〜〜く嫌な予感がするのだが…」
「ですが、そのままではお辛いでしょう。薬だけでも貰ってきた方がいいですよ。」
「まあ、そうだな…。」
 正直ユアンはあまり気が進まなかったのだが、心配顔のボータを安心させる為にも取り敢えず行ってみることにしたのだった。


 それからしばらくしてシンフォニア診療所の前に立つユアンの姿があった。普段着の上にどてらを羽織り、毛糸の帽子にマフラーを着用。額には冷却ジェルシートを貼り付け、顔半分を大きなマスクが覆っている。まさに完全防備である。
 しばし躊躇した後に、恐る恐る扉を開け覗き込むユアン。
 すると…
「ヘイ、らっしゃい!!」
 出迎えたのはロイドであった。
 そのやけに明るい声を耳にした途端、ユアンは急に寒気に襲われ反射的に踵を返した。
「なんだよユアン、帰っちまうのか?」
「何故お前がここにいる?…てか、『らっしゃい』とはなんだ。ここは寿司屋か!!」
「寿司屋じゃねえよ。診療所って、ちゃんと看板が出ていただろう。」
「……」
「ま、とにかく診察室へ。風邪か?辛そうだな。馬鹿は風邪をひかないって言うけど、やっぱひくんだな。」

(お前にだけは言われたくない)

 眉をしかめたユアンを有無を言わさず診察室に押し込めるロイド。
 中にいたのは、ナース姿のコレットであった。
「いらっしゃいませ〜。」
「……まさかお前が診察するのではあるまいな?」
「いいえ〜。診察はテセアラから招いたえら〜い先生が行いま〜す。」
 その言葉と同時に『パンパカパ〜ン』というファンファーレが鳴り響き、リーガルが登場。なぜかワンダーシェフから貰ったコックの服装をしている。
 ユアンは目を剥いた。
「ふざけるな!こいつのどこが偉い先生だと言うのだ!大体その恰好はなんなのだ。」
「フ…。包丁さばきに関して、私の右に出る者はいない。」
「私は魚肉類ではない!」
 怒り心頭に再び踵を返すユアン。
「帰る!」
 しかし出口は天使の微笑みを浮かべたコレットが塞いでいた。
「せっかく来たんだから診てもらった方がいいですよ〜。」
 コレットの放つ不気味なオーラに気圧され、後退るユアン。しかしその所為で後ろにいたリーガルにぶつかってしまう。
「あ…」
 リーガルはニヤリと笑った。
「そうだぞ、ユアン。コレットの言うとおりだ。遠慮などするものではない。」
「いや…だから私は…」
「どれどれ。診てあげよう。」
 怯えるユアンの肩をガシッと掴み覗き込むリーガル。なんだかとても嬉しそうだ。
「…ふむ、これはいかん。すぐに手術をせねば!」
「!!手術だと!?冗談ではない。私はただの風邪なのだ。薬だけ貰えれば…」
「いや、素人判断は死を招くぞ。貴公には手術が必要だ。ロイド、コレット、用意を。」
「アイアイサー!」
「は〜い!」
 敬礼をして隣室に走り去っていく二人。
「やめろ〜!私は手術なんて絶対に受けんぞ。」
 ユアンは必死に抵抗するが、リーガルは構わず彼の体を抱え上げると手術室へと運んで行き、逃げないよう太い革紐で台の上に縛り付けてしまう。
「人殺し〜〜!!」
 泣き叫ぶユアンの前に今度はコレットが現れ書類を見せてきた。
「なんだこれは?」
「手術の同意書です〜。こちらにサインをお願いしま〜す。」
「誰がサインなどするものか!…てか、これは生命保険の契約書ではないか!!」
「エヘ♪実は私、セールスレディのバイトもしているんです〜。今度ユアンさん向けの商品が出たものですから、この機会にいかがです〜?」
「手術前の患者を生保に勧誘する看護師がいるか!手術は失敗しますと言っているようなものだろうが!!」
「だって〜、今月ノルマが危ないんだもん。ね、いいでしょ?ほら、本当にユアンさんにぴったりの商品なんですよ〜。」
 そう言ってユアンにパンフレットを見せるコレット。
 そこには『4000・7000、喜んで!』とあった。(※注:某保険会社とは関係ありません。)

 (こんなの、私の他に入る奴がいるのか?)

 あまりの事に呆気に取られてしまうユアン。
 だがそれが悪かった。コレットはその隙を見逃さず、彼の手を掴むと勝手に拇印を押してしまったのだ。
「有難うございま〜す♪」
「こら〜!私は契約するなんて一言も言っていないぞ!」
 しかしそこにもうコレットの姿はなく…代わりに手術着に着替えたリーガルとロイドが現れた。
「これより開頭手術を行う。」
「なっ!?…何故私が開頭されにゃぁならんっ!私の頭はどこも悪くない!!」
「いや、常日頃のドジぶりからして、貴公の頭は相当痛んでいるものと思われる。どこかに血腫でもあるのかもしれん。」
 そう言ってリーガルが取り出した物…それはノミとトンカチであった。
「そ、そ、それでやるつもりか!?」
「あいにくと手術道具がないものでな。これで代用する。」
「お前は南方仁(『JIN ‐仁‐ 』の主人公)かっ!…てか、普通麻酔ぐらいかけるだろ!!」
「ああ、もちろんだ。その為に天才麻酔医を呼んであるから安心しろ。」
 と、そこへ突然音楽が流れて来て、一人の男が現れた。大きなマスクで覆われていて顔はよく分からないが、流れて来た曲が『クラトスのテーマ』である事、そして手術帽からはみ出した鳶色の癖のある髪で、それが誰であるかは容易に判断できた。
「お前…クラトスだろう?」
「フ…。」
「『フ…』じゃねえっ!なんでお前が麻酔医なんだ!お前は麻酔の『ま』の字も知らんだろうが!!」
「何を言う。私は多くのモンスターを安息の眠りに誘ってきたプロだ。」
「私はモンスターでもなければ、地を這う穢れた魂でも罪深き者でもない!!」
「そうか?同じようなものだろう?」
「お、お、お前は今まで私をそんな目で見て……」
「フ…冗談だ。」

 (こいつが言うと冗談に聞こえないから怖い。)

「まあ私とてお前を永遠の眠りにつかせるつもりなどないから安心しろ。その証拠にこれから私が使うのは術ではなく、これだからな。」
 クラトスはニッコリと笑うと、懐から紐のついた5円玉を取り出した。(※注:何故この世界に5円玉があるのかとの突っ込みはしないで下さい)
「?…そんなもので何をする気だ?」
「無論、こうするのだよ。」
 目を丸くしているユアンの前で、それを振り子のように振り始めるクラトス。
「ひと〜つ、ふた〜つ…」
「おいちょっと待て。ふざけるな。催眠術ではないのだぞ。麻酔薬を使わんか、麻酔薬を!」
 しかしクラトスはそんなユアンの抗議は全く聞いてないようで、しれっとした顔で数を数え続けている。
「み〜っつ、よっつ、いつつ〜」
「おい、人の話を聞け〜〜!!」
「む〜っつ、ななちゅ……はい、落ちた〜!」
「落ちてないっ!!」
 ユアンはもうほとんど涙目になっていた。
 そこへリーガルが進み出てきて、無表情にトンカチを振り上げる。
「よし、では始めるぞ。」
「いやだから、まだ麻酔が…ちょ、待ち…ああ、嫌…止めて…」

 ガチ〜ンッ!
「ギャアアアアアアアアア〜」

 しばらくしてロイドの声が聞こえてくる。
「あれ〜、血腫なんてないぞ。」
 続いてクラトスの声。
「別の箇所なのではないか。」
「うむ、そうかもしれぬな。」
 再びトンカチを振り上げるリーガルの姿が見えたものの、ユアンはまるで金縛りにあったかのように、動く事も叫ぶ事も出来なかった。

(まさか本当にクラトスの催眠術にかかってしまったのか!?)
↑意外と暗示にかかりやすい奴。

 虚脱状態のユアンの頭を弄り回しながら、三人の不気味な会話は続く。
「う〜む、こっちにもないな。」
「じゃあ、あっちは?」
「やはりないようだ。」
「ではそっちはどうだ?」
「そこは?」
「向こうか?」
「もっと簡単に見付かると思っていたのだがな。よもやこれ程とは……と言うか、叩きすぎて頭蓋骨がなくなってしまったぞ。」

 (!!ぬわんだと〜〜!?)

「あ〜、ホントだ。」
「このリーガル、一生の不覚。どうしたものか…」
「別にいいのではないか?頭蓋骨の押さえがなくなった分、脳が活性化するかもしれんぞ。」
「おお、成程!さすがクラトス殿。鋭いな。」
「よかったじゃんか。これでめでたし、めでたしだな。」
「「「ハハハハハ…」」」

 (何が『めでたし、めでたし』だ〜〜!!)

 恐怖を覚えたユアンは全身に力をこめた。すると、こういうのを火事場の馬鹿力と言うのであろう、彼は見事に縛り付けている太い革紐を引きちぎる事に成功したのであった。
 それからユアンはガバッと起き上がると三人をギロリと睨み付け、ジュルジュルと垂れてくる鼻水をすすりながら飛び出して行ってしまったのだった。
「くっそ〜、てめえら覚えていろよ!!」
と、チンピラのような捨て台詞を残して…。

 それから少しして、コレットが入って来た。
「ねえねえ、ユアンさんったらもしかして本気にしちゃったのかな〜。」
 その言葉に肩をすくめるロイド。
「本当に開頭手術なんてやるわけないのにな。大体、頭蓋骨がなくなって生きている奴なんかいないっつーの。普通分かるだろう。あいつが馬鹿なだけだよ。」
 そう。三人はただユアンの頭をポカポカとやっていただけで、実際に開頭したわけではなかったのだった。(当たり前だが)
「でも面白かったよな。ホント、ユアンって騙しがいがあるっていうか…。リーガルなんてノリノリだったじゃんか。」
「フ…。たまにはこんな馬鹿騒ぎもストレス解消になって、よいものだな。貴公らが誘ってくれたおかげで明日からまたエネルギッシュに仕事に打ち込めそうだ。」
「じゃあさ〜、またやろうよ〜。」
「またやるのか?…なんだかユアンが気の毒な気がするな。」
「何言っているんだよ。あいつがいつも父さんを騙しているからいけないんじゃないか。そんなに気にする事ないよ。」
「そうだとも。これでユアンも騙される者の気持ちが分かっただろうよ。それにそんな事を言いながら、クラトス殿も結構楽しそうにやっていたではないか。」
「それはまあ…な。楽しかった事は否めぬが…。」
「じゃあ決まりだね〜♪…で、次は何をする〜?」
 それから四人は額を合わせて、良からぬ相談を始めたのだった。

 さて、一方、ユアンの風邪はどうなったのかと言うと、ボータが買ってきた市販の風邪薬により無事快癒したとのことである。


−風邪と共に去りぬ 終−