こわ〜い(?)話 その2


 その日、自宅にて、ゼロスは一人ブツブツと呟いていた。
「正直、今のままだと年中見下ろされているような気がして嫌なんだよね。やっぱ可憐な(?)天使様を守る立場の俺様としては自分の方が背が高いってのが理想なんだよね。せめてあと7センチ背が欲しい。そうすれば同じになれるのに…。」
 すると…
「話は聞いた!!」
 いきなり窓が開かれユアンが飛び込んできたのだった。
「ユアン!?あんた他人んちの前で何やってんの?」
「フ…。実は今、我がレネゲードでは世の為人の為に商品開発をしていてな。まあこれは言わばマーケティングリサーチってやつだ。」
「何がリサーチだ!こんなのはただの覗きでしょうが!!」
「そんな事を言っていいのか?お前の望みが叶う商品が今ここにあるのだがな。」
「え?」
 ユアンはニヤリと笑うと、マントの中から一足の靴を取り出してきた。
「ジャ〜ン!UPシュ〜ズ〜!!」(←お前はドラえもんか!)
「UPシューズ?」
「そう。これを履けば8センチ背が高くなると言う優れ物だ。」
「8センチ?…って事は…」
「そう。奴より1センチ高くなる。しかもシークレット加工を施しているから脱いでもUPシューズを履いていたとは絶対にバレない。希望価格は一応28,000円なのだがな。まあ、腐れ縁…もとい昔馴染みのお前だから、特別に1,980円で売ってやろう。どうだ?買うか?」
「買う!!」
 眉唾男との異名を持つユアン(←実はゼロスが勝手にそう呼んでいるだけ)からの話にも拘わらず、背が高くなりたいと言う欲望に勝てず、ゼロスは一も二もなく飛び付いたのだった。

 それからしばらくして、クラトスが外出先から電話をかけてきた。
「ゼロスか?たった今用事が済んだところなのだが、どうだろう、これから出てこないか?この近くに以前知り合いから教えてもらった料理の旨い店があるのだ。時間も丁度良い事だし、久し振りにこれから二人で飲みに行きたいと思ってな。」
「飲みに!?」
 目を見開くゼロス。
 クラトスから誘ってきてくれるなんて珍しい事だ。こちらとしては断る理由などない。それにこれは今さっき手に入れたUPシューズを試す、いい機会ではないか。これを逃す手はない。
 もちろんゼロスは即座に承知との返事をしたのだった。


『おお、ゼロス!その凛々しい姿は一体…』
『気に入ってくれたかい、クラトス。君の為に己を磨いたのさ。』
『なんて素敵なの!惚れ直してしまったわ!!』(←?)

 なんともだらしのない笑みを浮かべ、一人芝居しながら町中を行くゼロス。時折周りからの冷たい視線を感じるが、そんな事は気にしない。
「あ、天使様〜、お待たせ♪」
 クラトスはやって来たゼロスを見て首を傾げた。
「ゼロス?お前…しばらく見ないうちに随分と背が伸びたな。」
「……しばらくって、今朝『おはよう』の挨拶をしたばかりでしょ?」
「そうか。お前も育ち盛りだからな。」
「育ちざかりって…俺様、ロイド君じゃないんだけど。」
 どうもこの人はいつも少しばかりピントがずれている。まあ、背が高くなった事には気付いてくれたようだし、それで良しとするか。
 気を取り直してクラトスの手を取るゼロス。
「で、どこへ連れて行ってくれるの?リーガルのオッサンの紹介なんでしょ。美味しい料理が食べられる店を教えてくれるなんてオッサンぐらいしかいないもんね。てことは、フランス料理かな?」
「いや。教えてくれたのはユアンだ。」
「はい?………ユアン?」
 露骨に嫌そうな表情を浮かべるゼロス。ユアンでは高級料理など期待出来そうもない。
 そして案の定、クラトスが案内したのは『大衆居酒屋 つぼ三』だった。安くて旨いがモットーだけあって店内は多くの客で込み合っている。
「へい、らっしゃい!お座敷しか空いてませんがよろしいっすか?」
「うむ。込んでいるから仕方があるまい。それにそっちの方が落ち着けるかもしれんしな。お前もいいだろう?ゼロス。」
「え?…あ、ああ。」
 高級料理を前にワインで乾杯…を夢見ていたゼロスは、もう呆然自失の状態であった。
 なんで俺様、こんなところにいるんだろう?
「こちら奥の席にどうぞ。靴はここに脱いでくださいね。」
「うむ。」
 頷き先に上がって行くクラトス。ゼロスも後に続く。
 と、その時だった。
「ゼ、ゼ、ゼロス!!」
 突然悲鳴に近い声を上げたクラトスに驚くゼロス。
「な、な、何?」
「お、お前、一体どうしたのだ!こんな瞬時に背が縮んでしまうとは!!」
「あ…」

 “シークレット加工を施しているから脱いでもUPシューズを履いていたとは絶対にバレない。”

 バレバレじゃん…。
 てか、普通脱げばバレるわな。

「いや、天使様、実はこれはね…」
「もしかして天使化の影響か!」
「いや、違うって。もしそうなら、天使様なんてとっくの昔に消えているでしょ?だからね、これは…。」
 しかしそんなゼロスの説明も、クラトスには聞こえている様子はなく、恐怖に目を見開きながら叫び続けている。
「ああ!恐ろしい!このままでは私のゼロスがノミのようになってしまう。なんとかしなくては!!」
 『私のゼロス』と言う言葉にこの上ない幸せを覚えたものの、今はそれに酔っている場合ではなく…ゼロスは恐怖に戦くクラトスを必死に宥めるのだった。

 心の中で、『ユアン、てめえ、覚えていろよ』と恨みの声を放ちながら。(←人はこれを逆恨みと言う)


−おわり−