謎のプレゼント


 今日は連休の最終日。最近仕事が忙しくて休日出勤が続いていたゼロスも今回の連休は休みがとれ、クラトスと二人自宅にてのんびりと過ごしていた。
 するとそこへロイドとコレットが訪ねてきたのだった。
 このように二人が連絡もなしに突然訪ねてくるのは珍しいことではない。ゼロスは仕事で留守の日が多いが、主夫であるクラトスは大概家にいる。ロイドの目的は父親のクラトスに会うことなので、クラトスさえいれば事足りるのだ。ゼロスがいようがいまいがロイドには関係ないことなのである。
 もちろんそれは、クラトスの夫と自称しているゼロスからすれば何か袖にされているようで面白くないことではあったが、ロイドが遊びに来た日はクラトスが決まってご機嫌になるので黙認していたのだった。
 そんなわけで今日も今日とてひょっこりとやって来たこの二人。
 だが、いつもと違っている点が二つほどあった。
 一つ目は紙袋を持っていること。手土産でも持って来たのだろうか。いつも手ぶらでやって来る二人にしては珍しいことだった。
 そしてもう一つは二人の笑顔…。今日は何故か妙に強張っていたのである。

「やあ、よく来てくれたな。」
 そんな二人の変わった様子に気付いているのか、いないのか、いつものように上機嫌で招き入れるクラトス。
 居間のソファーに落ち着くと、ロイドは早速例の紙袋から何かを取り出してきた。
 見ればそれにはきれいにリボンまでかけられており、手土産と言うよりプレゼントと言った方がいいような代物だった。
 しかし今日はクラトスの誕生日というわけでもなく…。
 益々おかしいと、首を傾げるゼロス。
 そしてそう思ったのはクラトスも同じだったようで、不思議そうな顔でこう尋ねたのだった。
「何だこれは?」
「な、何って…て、て、手土産だよ。」
「手土産?この家にくる時にはそんな気遣いは無用だと言っているだろう?」
「いや、でもやっぱ、こういうことは親子の間でもきちっとするべきだって言われたからさ。」
「言われた?誰に?」
「誰って…そ、そりゃあ…」
「あ、別に誰ってわけじゃないんですよ〜。これはまあ、世間一般の常識って言いますか…。」
 口籠ってしまったロイドをコレットが必死にフォローするが、およそ常識とは程遠い存在の彼女が言っても少々説得力に欠けていた。
 それでもクラトスは受け取ることにしたようだった。
「……なんだか分からんが、まあ折角持って来てくれたのだし、今日のところは有難く頂くとしよう。」
「そうそう。受け取っちゃって、受け取っちゃって。それに今日は、けいろ…ゲボッ!」
 ロイドに肘鉄が飛び、その代わりに笑顔を浮かべたコレットが品物を差し出してきた。
「はい、どうぞ。」
「?……あ、ああ。」
 包みを受け取ると早速開けてみるクラトス。
「ほう。これは…下着か?」
「そうそう。ボクちゃんパンツってやつ。」
「ちょっとロイド。ボクちゃんじゃなくてボクサーパンツでしょっ!」
「ボクサー?…私はボクサーではなく剣士なのだが?」
「ボクサーかどうかなんて関係ないんですよ〜。体にピタッとフィットするものをそう呼ぶんです〜。」
「ふ〜ん。そうか…。」
「そうそう。ほら、父さんってピチピチな服が好みだろ。」
「しかもお得な二枚組なんですよ〜。」
 広げてまじまじと眺めているクラトスにロイドとコレットが言う。
 しかしよく見ればコレットもロイドも目が泳いでおり、冷や汗までかいている。
 それに手土産と言えば普通菓子などの食べ物ではないだろうか。それがよりによってパンツとは…。
 これは何かあるなと、二人を睨むゼロス。
 一方クラトスといえば、やはり何も気が付かない様子で、
「うむ。まあ下着はちょうど買いかえねばならないと思っていたところだったのだが、しかしこんな立派な物は…。やはりこういう物は共に暮らしているダイク殿に持って行った方がいいのでは?」
「冗談じゃない。親父なんかにこんなの持っていったら殺されちまう。」
「何故?ダイク殿はパンツを穿かぬのか?」
「え?い、いや、そうじゃなくて…」
「そうか!ダイク殿はフンドシ専門なのだな。いかにもダイク殿らしい。」
「フンドシ?……ええと…ま、まあ、そんなトコかな。ハハハ…。」
「なんたってダイクさんはイセリア男児ですから〜。ヘヘヘ〜。」
 相変わらず落ちつかなげな様子のロイド達を見詰めながら、先程クラトスが箱から取り出した拍子に床に落ちた紙を拾い上げるゼロス。
 そこには、
『これさえあれば“あっ、やばっ!”という時も安心!防臭加工も万全、さわやかパンツ。これであなたも楽しい老春を!』
 と書かれていた。

(!!こ、これってもしかして……)

「ちょ、ちょっと、ロイド君…」
 ゼロスは慌ててロイドを隅に引っ張ってくると、
「これは何?どうしてこんなもんを天使様に持ってくるの!?」
「え?…あ、いや、その…ほら、今日は敬老の日だろう?…それで、4028歳って言えば立派な老人だから、持っていけば喜ぶぞって…」
「…そう、ユアンに言われたわけ?」
「あれ?分かっちゃった?」
「当たり前っしょ!!そんなことを言うのはあいつに決まっている!」
 ロイドを睨みつけるゼロス。
「そ、そんなに睨むなよ。仕方がなかったんだ。なんでもあいつ、敬老の日を見越してあのパンツを大量に仕入れたらしいんだ。でも全然売れなくて…。このままじゃ、首をくくるしかないって泣きつかれちまったんだ。」
「そんな泣き落としに引っ掛かってどうすんの?あいつは口がうまいってこと、ロイド君だって知っているでしょうが!…ったく、どうすんのよ。本当のこと知ったら天使様、傷付くよ。大体、本当のお年寄りだってこんな露骨なプレゼントもらったら微妙でしょ。まあ、かわいい孫からのプレゼントなら、しょうがないなって受け取る気持ちになるかもしれないけど。」
「……。」
 ロイドは項垂れてしまう。
 するとそこへ、コレットが口を挟んできた。
「ねえねえ、それじゃあさ、これから即行で孫をつくっちゃえばいいんじゃない?」
「「えっ!?」」
 ぎょっとしてコレットをまじまじと見詰めるゼロスとロイド。
「…何を言っちゃってるんですか、コレットちゃん?」
「だって〜、可愛い初孫からならクラトスさんだってあのパンツを喜んで受け取ってくれると思うし、私とロイドも晴れてゴールインできる。み〜んな幸せ。万々歳じゃない!エヘッ♪」
「『エヘッ♪』じゃないっ!!」
「え〜、駄目?」
「当たり前っしょ!!」
「ちぇっ!」
「全く、何考えてんだか…。鶏が卵を産むのとはわけが違うんだから、子供がそんなに簡単にポンポン出来るわけないっしょ。」
 ブツブツ言いながら振り返るゼロス。
 すると、いつの間にやってきたのか、目の前にクラトスが立っている。
「げっ!!」
「何を驚いている。」
「…い、いつからそこに?」
「今来たところだが、どうした?」
「い、いや、そ、それならいいんだ。」

(ビビった…マジ、ビビった…)

 どうやら今の話は聞かれなかったようで、ホッと胸をなで下ろすゼロス。
 だがよく見ると、クラトスはズボンの上からさっきのパンツを穿いており…。
「…天使様?そのカッコどうしたの?」
「ん?ああこれか。ちょっと試着してみたのだ。どうだゼロス。似合うか?」
「……あの〜、天使様?それってそうやって穿くもんじゃないんですけど?」
「そんなことは分かっている。だがレディーの前でスッポンポンになるわけにもいかんだろう?」
「まあ〜♪レディーだなんて…。」
 頬を赤らめるコレット。

(こいつのどこがレディーだっつ〜の!)

「これがな、また結構穿き心地がいいんだ。」
 三人の前で様々なポーズをとってみせるクラトス。
 出会った頃では考えられない行動だが、もしかしたら彼は元々はこういう性格だったのかもしれない。なにしろ、4000年もの間あのユアンと友達付き合いをしてきた人物なのだ。それも十分あり得ることだろう。
「それにピタッとしているからだろう、とても動きやすいし、これはなかなかのものだ。だが一つだけ気になることが…。このパンツ、股の部分が三重構造になっているのだがどうしてかな?」
「あ!そ、それは…」
 慌てるロイド。
「もしかして急所を守る為か?成程、ボクサーパンツと言われるだけのことはあるな。モンスターとの戦闘においても役に立つ機能だ。これはよいものを貰った。有難うな、ロイド。」
「え?…あ、ああ…よ、喜んでもらえて嬉しいよ、うん。」
「ところでこれの洗濯方法なのだが…。ゼロスお前、さっき床に落ちた紙を拾っていただろう。そこに書いてないか?」
「!!……あ…そ、そうだね。なんか、洗濯機で普通に洗っていいみたいよ。」
「そうなのか?ちょっと見せてくれ。やはり主夫としてはきちんと把握していなければならぬからな。」
「ざ、残念。ど、どっかいっちゃった。ハハハ…。」
「何を言っている。右手に握りしめているそれだ。ほら、よこせ。」
「いや、ホント、洗濯機で洗って大丈夫なんだって!改めて見るまでもないから…」
「いいからよこせ!」
 ゼロスは必死に抵抗するが、やはり百戦錬磨のクラトスには敵わず、あっさりと取り上げられてしまう。
「あっ、駄目!読んじゃ…」
「何を言っているんだ、お前は。」
 懇願するゼロスに構わず、紙片に目を通すクラトス。
「!?」
 徐々に変化して行くクラトスの表情を、ゼロス達は死刑台に上る心地で見詰めていた。
 やがてクラトスの全身から真っ黒なオーラが立ちのぼってきて…。
「…………なんだ……これは?」
「「「ヒィ〜〜ッ!」」」
 地を這うようなその声に、思わず悲鳴を上げ逃げ出す三人。
 しかし慌てている所為かなかなかドアを開くことが出来ず、そんな間にもクラトスはのっしのっしと近付いてくる。
「ロイド…お前はこんな風に私を見ていたのか!?」
「え?い、いや違うって…ユアンのやつが無理矢理…」
「コレット…何がボクサーパンツだっ!」
「ボ、ボ、ボクサーパンツには違いないですよ。ただ特殊機能が付いているだけで…エヘヘ…。」
「ゼロス…お前もグルか!?」
「お、お、俺様は知らなかったんだよ。本当だって!」
 クラトスの顔には一応笑顔が浮かべられているのだが、よく見れば目には怒りの炎が燃え上がっており、三人は蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまう。
「フ…。そうか、そうだったな。確か今日は敬老の日だった。だが…」
 三人の目の前まで来ると立ち止まり剣を抜くクラトス。

だが、私はまだ敬老される年齢ではないっ!!

 次の瞬間、三人に向かってシャイニング・バインドが繰り出されたのだった。




 それから少しして、ユアンの元へゼロス、ロイド、コレットが訪ねて来た。三人とも全身包帯だらけである。
「ようお前達。どうだった?あのプレゼント。クラトス、喜んでくれただろう。」
「「「この姿見て分からない?」」」
「ほう、これはまた満身創痍って感じだな。おお、そうかそうか。思わず術を放ってしまう程喜んでいたのか!」
「そんなわけないっしょ!!」
「お前の所為でもう少しで死ぬトコだったんだからな!」
「そだよ〜。本当に天使になっちゃうところだったんだから!」
 口々に文句を言う三人であったが、ユアンはどこ吹く風と、
「そうなのか?…しかしあいつも短気なところは変わってないな。全く困ったもんだ。もう少し心にゆとりを持てないものかね。」
 にこやかに演説をぶるユアンの横で、ロイドがゼロスとコレットの肩をたたきながら空を指さす。
「おい。あれ…」
「「げっ!」」
 逃げ出す三人。
「おいどうした?今、お茶でも出そうかと思っていたところなんだぞ。」

「「「お一人でどうぞ〜!!」」」

「…ったく、なんなんだあいつらは。変なやつらだな。ま、いいか。お茶代が浮いたし。」
 ふと空を見上げるユアン。
 その目に、蒼い羽を広げズボンの上からボクサーパンツを穿いたクラトスの姿が映る。
「!!……や、やあ、クラトス。なかなか似合っているじゃないか。」
「そうか?」
「あ、ああ。ま、まさにお前の為のパンツって感じだぞ。」
「そうか。それは有難う。だが、こんな素敵な物をもらいっぱなしというわけにもいくまい。これはほんのお礼だ!!」
「!!」
 慌てて逃げようとするユアン。
 だが時すでに遅く、彼の頭上に裁きの光が降り注いだのだった。


 さて、その後そのパンツはどうなったか?
 あれだけ怒り狂っていたわりには結構気に入ったらしく、クラトスは上機嫌で使用していると言う。

 皆さんもゼロス邸を訪れればきっと、ズボンの上にボクサーパンツを穿いたクラトスが家事に勤しんでいる姿を見られることであろう。


−謎のプレゼント 終−