怒ってる?


 世界を救うべく旅を続けているロイド一行。
 とある草原に差し掛かった時、モンスターの群れに襲われた。
「数が多いな。二手に分かれるか。」
 ロイドの決断により、一行は四人ずつに分かれて戦う事にした。
 そんな中、果敢にモンスターへ挑んで行くリーガル。
「これならどうだ!三華猛蹴脚!!」

 見事な空振り〜!

 するとそこへどこからか声が聞こえてくる。

『足が短いのも問題だな…(ボソッ)』

 キッとして振り返るリーガル。
 仲間達は皆他のモンスター相手に戦っているのでそんな事を言う余裕はなく、いるとすればただ一人…。
 リーガルの視線は自然、体調が優れない為に戦闘から外れているクラトスの方へ向く。
 だが彼は今、後方にてカレーの鍋を一心不乱に掻き混ぜている真っ最中であった。

 フ…私は何を考えているのだ。
 皆の為にあんなにも一生懸命にカレーを作っている彼があんな陰口を言うわけないではないか。
 きっと空耳だろう。

 即座に疑念を打ち消し苦笑を浮かべると、戦闘に戻って行くリーガル。

 だが怪奇現象は他でも起こっていた。
「真空裂斬!!」
 地を這うウッズワーム相手に技を繰り出すロイド。
 と、そこへ…

『当たってねえんだよ、ボケが!(ボソッ)』

「!!……だ、誰だ!?今俺の事を馬鹿にした奴は!!」
 しかし返事はなく……そもそも誰も自分の事など見ていないようである。
 そしてロイドの視線もクラトスの方へと向く。
 クラトスはパタパタと団扇を扇ぎながら七輪でサンマを焼いている所であった。
「?…おかしいな。疲れているのかな?」
 首を傾げながら再び戦闘に戻って行くロイド。

 一方こちらはジーニアス。ホーク相手に術を放っていた。
「レイジングミスト!!」
 そこへ、またもや謎の声が聞こえてくる。

『その術は空中の相手には無駄だと何度言ったら分かるんだ、クソガキ!(ボソッ)』

 ムッとして振り返るものの、皆自分の事で精一杯のようだし、クラトスは焼き鳥を焼いている。
「あっれ〜?」
 首を傾げるジーニアス。

 そして…

「風刃縛封!!」
 しいながエッグベアに技を繰り出した。

『…全く浮いてねえから。(ボソッ)』


「俺様の愛だ〜!」
 ゼロスが回復魔法をかける。

『てめえの愛なんかいらねえよ。(ボソッ)』

「いや〜ん、私ばっかり〜。」
 コレットが敵に囲まれボコられていた。

『そこには神子しかいないのだから当たり前だろう。(ボソッ)』

 これが決定打となった。
 コレットの事を神子と呼ぶのはクラトスしかいない。
 全員の目がクラトスへと注がれる。
 クラトスは出来上がったパスタを皿に盛り分けている所であった。

「クラトス殿!」
「父さん!」
「クラトス!」
「天使様!」

「「「「さっきからボソボソぼやいていたのはあんただろう!?」」」」

 何の事だと言いたげにゆっくりと顔を上げるクラトス。
 その表情からするに彼には本当にぼやいていた自覚がないようであったが、なんとなく苛々しているように思えた。
 そんな彼の顔を覗き込むコレットとジーニアス。
「あれ〜、クラトスさん、なんだか怖い顔しているね。もしかして怒ってる?」
「別に…普段と変わった事はないが。」
 即座に否定したクラトスであったが、その目はどことなくきつい。
「…うそだ。絶対怒ってる。」
「怒ってなどいないっ!!」
 クラトスの突然の大声に、全員の体が飛び跳ねる。
 それを見てハッとした表情を浮かべるクラトス。怒鳴ってしまった事に自分自身に驚いているようであった。
「…すまない。しばらく一人にしてくれ。」
 クラトスは目を伏せると向こうへ行ってしまった。
 その姿を見送ったジーニアスがしきりに頷きながら隣に立つコレットに言う。
「やっぱりあれは怒ってるよ…ね?」
「て言うか、クラトスさん自身怒っているのに気が付いていないって感じ〜?」
「でも父さん、何で怒ってるんだ?」
「そんなの決まってるっしょ。戦闘に参加させてもらえないからだよ。」
「え?」
 驚いてゼロスを見るロイド。
「だってそれは父さんの体調がまだ回復していないからだろう?」
「そうなんだけどさ、天使様からすれば何だか自分が役立たずのように思えちゃったんじゃねえ?」
「そうかもしれないねえ。」
 しいなもゼロスの意見に同意を示すと、クラトスが作った料理を指差しながら言葉を継いだ。
「あたしも戦闘メンバーから外れている時は暇を持て余してるからねえ、気持ちは分かるよ。ほら見てごらんよ、この料理の山。まさにフルコースって感じじゃないかい?これを見ればクラトスがどれだけ暇を持て余していたか分かるだろう?それに自分でも気付かぬ内にぼやきが出るようじゃ重症だよ。戦闘に加わりたくてもあのクラトスの事、ロイドの好意が分かっているだけに何も言えずに苛々を募らせていたんじゃないのかねえ。」
「う〜ん、そっか…。」
 ロイドは考え込んでしまう。
「だからさロイド君、これからはローテーションを組んで順番に戦闘に参加するようにしたらいいと思うんだけどね。戦闘の度に後でボソボソぼやかれちゃ気が散るし、第一毎回こんなに食わされていたら俺様今にデブになっちゃうっしょ。」
「うん、そうだな、そうするか。……それじゃあ、俺、父さん呼んでくるから。この料理を食べながら皆で順番を決めようぜ。」
 このロイドの決断に、皆は諸手を挙げて賛成したのだった。

 こうしてローテーション制で戦う事にした一行。
 それ以降は二度とクラトスのぼやきが聞こえてくる事はなかったと言う。


−怒ってる? 終−