お前はもう…


 ここはパルマコスタの学問所。その教室にて、ロイドはテスト用紙を前に頭を抱えていた。
 ちょっとしたいざこざからジーニアスがここの学生と対決することになり、ロイド達もそれに付き合うことになったのだ。
「…チェッ、なんで旅に出てまでテストを受けなきゃなんねえんだ?」
 文句を言いながらもここは親友の為と必死に解答しようとするロイドであったが、せっかく書き込んだ答えもなんだか違っているような気がして、すぐに消しゴムで消してしまう……その繰り返しだった。
「やっぱこれは違うよな。ああでもないし、こうでもないし……あ ―― もうっ!分からねえ!!」
 頭をかきむしるロイド。
 するとそこへ背後から声が聞こえてきた。
「ロイド…お前はもう、間違わないのではなかったのか?」
 見れば後ろの席のクラトスが覗き込んでおり…。
「だ ―― っ!!あんた、何覗いているんだよ。カンニングするんじゃねえよ!!」
 慌てて答案用紙を隠すロイド。
「ケチ。少しぐらいよいではないか、減るもんじゃなし。」
「だからっ!見るなって言っているだろ!!」
 更に覗き込もうとするクラトスを押し返すロイド。
「お前はそんな薄情な男だったのか!」
「うるさいな!」
「うるさいだとっ!?」

「そこ!静かにしなさい!!」

 今にも取っ組み合いの喧嘩に発展しそうだったところへ試験官の叱責が飛び、ようやく静かになった二人。再び試験に取り組む。
 そんな二人の様子を横目に見ていたコレットはそっと呟いたのだった。
「クラトスさん…。ロイドの答案用紙なんてカンニングしても時間の無駄だよ。」



 それから少々時が流れ、今ロイド達はメルトキオの街へ入る為に地下水道を進んでいた。
 小人になってクモの巣を渡り、ゴミのブロックを落としながらの移動。
「あ〜、面倒くせえな!いつになったらここから出られるんだよ。」
「でもロイド。小さくなったりして結構楽しいよ〜。七人の小人さんになったような感じで。」
「まったく、コレットは呑気だな。」
 小さく舌打ちして先を進んで行くロイド。
 そんな彼にジーニアスの声が飛ぶ。
「ロイド!まだ大きくなっちゃ駄目だよ。向こうのクモの巣を渡らないと!」
「あっと…間違えちまったぜ。」
 慌てて戻ろうとするロイド。
 するとそこへ突然クラトスのテーマが流れてきて、物凄い地響きと共にクラトス(大)が現れた。
「ロイド…お前はもう、間違わないのではなかったのか?」
「!!現れたな、裏切り者め!」
 すかさず剣を抜くロイド。
 しかしクラトスは涼しい顔で、
「無駄だ。今のお前では私には勝てぬ。」
「なんだとっ!!」
 いきり立つロイドをゼロスが止める。
「よしなって、ロイド君。腕の差は置いといても、サイズが違いすぎるっしょ。いくら剣を振るっても、あっちには爪楊枝で突かれたぐらいにしか感じないよ。」
「くっ!」
 クラトスはフッと笑うと、(その鼻息でロイド達が危うく吹き飛びそうになったことは言うまでもない)
「外へ出たいのなら、あそことあそこにゴミを落として通路を繋げればいい。あと、そこの穴の奥には有難い宝箱がある。だが中にはドブマウスもいるから気を付けるのだな。」
 早口でそれだけ言って、再びズシーン、ズシーンと地響きを立てながら去って行った。
「……何をしに来たんだ?」
 首を傾げるロイド。
「まあいいじゃない。とにかく早くこんな所からおさらばしようぜ。」
「あ…ああ、そうだな。」
 ロイドはゼロスの言葉に頷くと先を急いだのだった。



 そして更に旅は続き、ロイド達はガオラキアの森にいた。
「チッ、まったく複雑な道だな。」
「ロイド〜、早く出ようよ。あり得ないカボチャの木とか、一つ目のボクサーとか、もううんざりだよ〜。」
「分かってるよ、コレット。俺だって早く出たいんだ……って、くそっ、また道を間違えちまった!」
 だんだん苛々してくるロイド。
 するとそこへ例のテーマ曲が聞こえてきて、クラトスが現れた。
「ロイド…お前はもう、間違わないのではなかったのか?」
「またあんたかよっ!!なんなんだよ、一体!」
「フ…。散歩の途中だ。それよりもここを出たいのだろう?ならばこの先の突きあたりを右に曲がるといい。あと出口付近で、世の中の不幸を一身に背負ったつもりでいるアホが待ち伏せしているから気を付けろ。まあ大した相手ではないが、一応手前のセーブポイントでセーブしておくとよいだろう。ではな。」
 テーマ曲と共に去って行くクラトス。
 ロイド達はその姿を唖然として見送っていたが、
「…………行こうか、みんな。」
「あ、ああ、そうだね。」
 気を取り直し、再び出口目指して歩き出したのだった。



 そして更に更に時は流れ、ロイド達の活躍により世界には平和が戻っていた。
 今日はコレットとのデートの日。ロイドはある決意を胸に臨んでいた。
 公園のベンチに腰をおろし、見詰め会う二人。
「コレット…。」
「うん?」
 微かに頬を赤らめるコレット。どうやら彼女の方でも期待しているようだ。
 これはもう男として言うっきゃない!
 ロイドはコレットの手を握ると思い切って口を開いた。
「コレット!お、お、お、俺と…けっ、けっ、結婚して…」
 するとそこへ例のテーマ曲が流れてきて、クラトスが現れた。
「ロイド…お前はもう、間違わないのではなかったのか?」

「……」
「……」
「……」

 辺りに沈黙がおりる。
 それを破ったのは、コレットの怒号であった。
「クラトスさん!それ、どういう意味!?」
 コレットに蹴り飛ばされ、空の彼方へと消えて行くクラトス。
 ポカンと口を開けてその姿を見送るロイドの頭上には、
「ロイド〜、お前は私より先に死ぬな〜〜!!」
 という遺言が物悲しくこだましていた。

「ちっ、邪魔しやがって。せっかくのカモをもう少しで逃すところだったじゃねえか。」
 パタパタと手をはたきながら呟くコレット。
「はい?カモ?」
「ううん、こっちの話。」
「そ…そう?」
 にっこりと笑うコレットを見て首を傾げるロイド。
 実はもうこの頃にはコレットの凶暴性は知れ渡っており、結婚を申し込んでくる物好きはロイドぐらいだったのである。
「……と、ところで、なんであいつがここにいるんだろうな?確かデリス・カーラーンと共に旅立ったはずだろ?」
「そんなこと、どうでもいいじゃない。また帰って行ったんだし。」
「えっ?……そ、そうなのか?」
「そうだよ。今頃デリス・カーラーンに着いているんじゃない。だから私達は私達の今を楽しもう。」
「…………」
 ここへきてようやくコレットの二面性に気付いたロイドであったが、もう後の祭り。
 逃げようとしてもギュッとつかまれてしまっている為叶わず…。
 甘えてしなだれかかってくるコレットを抱きとめながら、この先、生き延びたければ何があってもコレットにだけは逆らわない方がいいかもしれないと考えていた。(かかあ天下宣言)

(俺もいつか、ああやって蹴り飛ばされる日がくるのだろうか?)

 でもその時には恐らくデリス・カーラーンはもう遥か遠くに行ってしまっているだろう。そうなると飛ばされた自分は行き場を失い宇宙の藻屑になってしまうわけで…。
 ロイドはコレットの底知れぬ馬鹿力に戦慄を覚えながら、どうかその時までデリス・カーラーンが近くにいてくれますようにと心から願うのだった。


−お前はもう… 終−




※え?わけが分からない話だ?……はい。実は書いた私にも分かりません。