さすらいのサンタクロース
私はリーガル。さすらいの旅人…もとい、今日に限ってはさすらいのサンタクロースである。
己の罪を清算するべく、過酷な旅を続けている。
何故サンタクロースなのかと?
フ…。よろしい、説明して進ぜよう。
今日はクリスマス。クリスマスと言えば、サンタクロースが付き物であろう。そしてサンタクロースとは子供達に夢を与える職業だ。それこそ私が求めていたもの。贖罪には持って来いではないか!
それで闇市で手に入れたサンタクロースマニュアルを持ってやって来たというわけだ。
とは言え、マニュアル通りというのは私の主義ではない。それで現代風にアレンジしてみた。
まずあのけったいな赤いユニフォームであるが、あれは目立ち過ぎていかん。善行とは密やかに行うもの。もっと地味にいかねばならん。第一あれではセンスの欠片もないではないか。
そこで私はタキシードを着用することにした。貴公子たる私にふさわしい姿であろう?
次にプレゼントを入れる袋だが、あんなのを担いでいては動きにくいし、時代遅れだ。現代にマッチしているものと言えば、やはりスーツケースであろう。
フ…。これで完璧だ。
何?ソリとトナカイはどうしたのだと?
あんなものはいらん。人間、足で稼がねばな。
こうしてタキシードで身を固めスーツケースを持った、現代風のスマートなサンタクロースとなった私は、ある家の前へとやって来たのだった。
この家を選んだ理由は唯一つ。
煙突があるから!
如何にマニュアル嫌いの私とは言え、いにしえからの伝統は守らねばならん。(←服装はどうでもいいのか?)やはりサンタクロースと言えば、煙突から入る…これは基本であろう。
てなわけで、梯子をかけ屋根へと上り、煙突にロープを垂らす。
ム…煙がすごいな。
ここに入れというのか?
少々躊躇したものの仕方なくロープを伝い下りて行く私。
しかしとにかく煙い…。ガスマスクを持ってくればよかった。
サンタクロースとは、実に3Kな職業であったのだな。
それでも、ようやく最深部へと辿り着いた私。
ところが…
「ギョエ〜〜!あっちっち〜〜っ!!だ、誰だ!こんなところで火を焚く奴は〜!!」
「こんなところって…ここ、暖炉なんだから当たり前だろ。今日は寒いし。」
聞こえてきた声に振り向いて見ると、そこには赤い服を着た少年が目を丸くして立っていた。
(お前はサンタクロースかっ!)
続いて、騒ぎを聞きつけたのか、鳶色の髪の男までやって来てしまう。
「どうしたのだ、ロイド?」
「ああ、父さん。なんかさ、煙突から変な奴が入って来てさ。」
「なんと!煙突から入って来たと!?」
男の目が、尻を押さえて飛び回っている私の方へと向く。
「ほう…」
(何が『ほう…』なのだ!こっちはケツが熱くてかなわんというのに…何とかせんかい!)
ところが、そんな私の心の叫びも何処吹く風と、男は呑気に少年と全く関係のない話を始めたのだった。
「ロイドよ。この間返ってきたテストだがな。」
「あん?」
「ほれ、『尻に火がつく』の意味を間違えていただろう?」
「ああ、あれな。それが?」
「今目の前で繰り広げられている光景…これこそが『尻に火がつく』ということなのだ。よく覚えておくがいい。(*注:正確には、物事が身近に差し迫ってきているという意)」
「ああ、成程〜。まんまじゃん。」
「まあ、そういうことだ。」
「「ハハハハハ」」
(なんなのだ〜、この親子は!!)
どうやらこの親子を当てにしても助けてはもらえないようだ。そこで仕方なく私は自力で火を消す事にしたのだった。
床を転げ回り、どうにかこうにか消火に成功する。
ホッと息をつく私。
すると、親子の内、父親の方が近付いてくると、
「で、お前は何なのだ?見たところセールスマンのようだが、玄関の『セールス、勧誘、お断り!』と書いた貼り紙を見なかったのか?」
「いや、なにしろ私は煙突から入って来たもので…。それに私はセールスマンではない。」
「だったら何だというのだ?…!!もしかして泥棒か!?」
腰の剣を抜く父親。
「ち、違う!私は…」
慌てふためく私に、父親の後ろから少年が声をかけてくる。
「正直に言っちまった方が身のためだぜ。クラトスは強いんだからな。」
(成程、この父親はクラトスという名なのか……なんて感心している場合ではない。早く誤解を解かねば!)
「だから泥棒なんかではないと言っているではないか。私は、さすらいのサンタクロース、リーガルという者だ。」
「随分と長い名前だな。一度じゃ覚えきれないよ……ん、待てよ。サンタクロース?サンタクロースっていうと、もしかしてクリスマスにソリに乗って出没するあれの事か?」
「フ…ようやく気付いたか。(出没という言い方は少々気になるが)そう、私はそのサンタクロースなのだ。」
「じゃあ、俺にプレゼントを持って来てくれたのか?」
「もちろんだ。」
「本当か?やったぜ、ラッキー!」
飛び跳ねて喜ぶロイド。
「よかったではないか、ロイド。」
クラトスも嬉しそうだ。
(こんなに喜んでくれるとは、私の苦労も報われるというものだ。)
「で、何を持って来てくれたんだ?飴かな?ガムかな?それともチョコレートかな?」(←生活の程が窺える品々)
「フ…。そんなちゃちな物ではない。」
「え〜、それじゃあ何だろう?」
「フ…。それは、これだ!!」
私は微笑みを浮かべると、首を傾げているロイドの前でスーツケースを開けてみせたのだった。
ところが…
「何だ、これ。」
「見て分からんか。現ナマ(現金)だ!」
「それは分かるけど…。でもこれがプレゼント?これじゃあ、夢の欠片もないじゃんか。」
「何を言っている。これなら自由に希望の品に換える事が出来て合理的だろう?夢が欲しければこれで買えば…!?」
私は説明も半ばに、クラトスに蹴り飛ばされた。
「な、何をするのだ!」
「何をする、だと?いたいけな子供の夢をぶち壊しておいて何を言っている!貴様はそれでもサンタクロースか!」
「いたいけって…ロイド殿はどう見ても17歳か18歳。いたいけというのは当てはまらぬのでは?」(←黙って謝っておけばいいのに余計な事を言って火に油をそそぐ男)
「えーい、黙れ!許さん、許さんぞ!我が秘奥義、緋炎の揺曳を受けるがよい!!」
「シャイニング・バインド!!」
「ギャアアア〜〜!!」
数分後、私は駆け付けて来た警官に逮捕された。
「0時40分、住居侵入罪で現行犯逮捕する……って、何だ?こいつ、もう手枷をしているぞ。」
「フ…。まだこの罪は償えていない。」
「そうか。ではこれからじっくりと償ってもらおうか。…連れて行け!」
私の腕を掴み、連行しようとする警官。
私はその手を振り切り逃げ出した。
こんなところで捕まるわけにはいかん。私は贖罪の旅を続けねばならんのだ。(←牢屋に入って償えば?)
「今回はちょっとした行き違いで失敗してしまったが、次こそはきっと…。」
追いかけてくる警官の怒号を背後に聞きながら、私は改めて贖罪を心に誓ったのだった。
私はさすらいのリーガル。
この罪が償えるその日まで、私の過酷な旅は続く。
−さすらいのサンタクロース 終−