※注)この話は日記にて連載中の『てーるず・おぶ・ゆあんさん』の番外編となっております。

ロイドの防御技


 ロイド達の戦い方を見て、ユアンは溜め息を突いた。
 何と言うか、戦い方が全くのド素人なのだ。まあ、そもそもちょっと前までは魔物と戦った事などない一般人の集まりなのだから仕方がないのだが…。
「このままでは足手まといになりかねんな…。」
「え?何が?」
 きょとんとした様子のロイドにユアンは再び溜め息を突くと、
「いや…。とりあえずお前達は自分の身を守る為の技術を学んだ方がいい。私が今から見本を見せる。理屈さえ分かれば修得は容易な筈だ。」
 そう言って皆の前で実際にやって見せるユアン。
 一同は感嘆の声を上げた。
「で、それって何て言う技なんですか?」
「へ?」
 ユアンは素っ頓狂な声を出し質問者であるコレットを振り返った。
「だから、その技の名前ですよ。名前が分からないと使った時に叫べないじゃないですか。」
「…別に叫ばなくても静かに使えばいいのでは?」
「でもやっぱ名前は必要だと思うぜ。『魔神剣!』とか『瞬迅剣!』とか叫びながら使った方がカッコいいし、何より『ああ、今俺って戦ってる?』って気分になれるじゃんか。」
「……」
「あれ〜?もしかしてユアンさん、名前を知らないの?」
 揶揄するようにそう言ったジーニアスを睨み付けるユアン。
「し、失敬なっ!教えた私が知らぬわけがないだろう!」
「じゃあ、教えてくれよ。」
「ああ…ええと…」
 口籠るユアンの背に汗が伝う。
 実はこの技はユアンが編み出したわけではなく、クラトスに教わったものだったのだ。もちろんその時に名前も聞いている。しかしすぐに忘れてしまった為、ユアンは技名を口にする事なく使っていたのだった。
 ユアン自身はそれで別段支障はなかったので、改めて尋ねる事などしなかったのだが、この連中はそれでは納得しないらしい。普段は何も考えてないアッパラパーなくせに変な所で几帳面だから困る。

 困ったぞ。今更この技は私の技ではないとは言えんし…。
 思い出せ!何としても思い出すんだ!!
 確か漢字を三文字使った変な名前だったのは覚えている。でも読み方が分からなくて…。
 ええと…ええと……!!思い出したぞ!

 ユアンは笑みを浮かべると、期待に満ちた目で自分を見つめているロイド達を見回し言った。
「フ…この技の名はな…」
「この技の名は!?」
「聞いて驚けっ!この技は『粋な御仁(いきなごじん)』と言う技だ!!」
 ぽかんと口を開け顔を見合わせるジーニアスとコレットとリフィル。
 そして次の瞬間、三人は声を揃えて叫んでいた。

「「「変な名前!!」」」

 ユアンは目を剥いた。
「どこが変だと言うのだ!?粋な男の私が編み出した技だから『粋な御仁』、まさにぴったりの名前ではないか!」
「そうかなあ…。でも僕は何かあんまり……ねえ?」
「うん、そだね〜。私も『粋な御仁!』だなんて叫びながら戦いたくないよ。」
「…私もちょっとご免だわ。」
「だ〜〜〜っ、どこまでも失敬な奴らだな!だったら自分達で考えた名前を使えばいいだろう!!」
「悪いけどそうさせてもらうわ。」
 肩を竦め、早速考え始めるリフィル。
「…これは防御技よね。それでは私は『フォースフィールド』と名付けさせてもらう事にしましょう。」
「じゃあ僕も姉さんと同じで。」
「私は、『レデュース・ダメージ』にします〜。」
 次々に技名を挙げて来る三人。
 ユアンにとってはどうにも面白くない。
「勝手にしろっ!!」
 と吐き捨てるように言うと、なかばやけくそで残る一人であるロイドを見やる。
「で、お前はどうするのだ?お前もレデュース・ダメージにするのか?それともフォースフィールドか?」
 だがロイドは皆と違っていた。小さく首を傾げると、こう言ったのだ
「俺か?俺は『粋な御仁』にするよ。」
「!!おお、ロイド〜!!」
 感激のあまりロイドに抱きつくユアン。
 今度はコレット達が目を丸くする番であった。
「ロイド、早まらないで。まだ若いんだから人生捨てちゃ駄目だよ。『粋な御仁』なんて技、モンスターに爆笑されちゃうよ。ロイドもレデュース・ダメージにしておきなよ。」
「そうだよ。ただでさえ馬鹿そうに見えちゃうんだからさ(まあ実際馬鹿だけど)、技の名前ぐらいちゃんとした方がいいと思うよ。悪い事は言わない、フォースフィールドにしといた方がいいよ。」
「…う〜ん、でも俺は女性じゃないからな。メンズ・ダメージじゃちょっとおかしいだろ?馬もあんまり好きじゃねえし。」
「…ロイド、レディースじゃなくてレデュースだよ。」
「…ホースじゃなくてフォースなんだけど。」
 二人は何とか思い止まらせようとさりげなく訂正するのだが、しかし肝心のロイドは聞いていないようで…
「それに俺は『粋な御仁』って、みんなが言うように変だとは思わない。むしろカッコいいと思うぜ。」
「おお!この名の良さが分かるとはやはりお前は他の者とは違うな。さすがだ、ロイド。」
「いや〜、それ程でもねえけどさ〜。」
「「ハハハハハ…」」
 なんて、すっかりユアンと意気投合してしまっている。
「先生、なんとかして下さい。このままじゃ可愛い教え子が道を踏み外しちゃいますよ〜。」
「そうだよ、姉さん。ロイドが道を外れているのは元からだからいいとしても、『粋な御仁!』なんて言いながら戦っている人と一緒にいるのは恥ずかしいよ。」
「……放っておきなさい。」
「え…けど…あれって絶対に違うよね?」
「たぶんね…でも今は何を言っても聞きはしないわ。しばらくは様子を見るしかないでしょう。恥ずかしかったら他人の振りをしていればいいわ。」
「それしかないのかな…。きっといつかロイドもおかしいって事に気付いてくれるよね?」
「そうね…。」
 リフィルは溜め息を突きながら、そうある事を切に願うのだった。


 それからもロイド達の旅は続き、今彼らはテセアラにいた。
 もちろんここまで来るのに決して順風満帆だったわけではない。様々な困難にぶつかって来ており、中でも彼らに一際大きなショックを与えたのがユアンの裏切りであった。
 だが、その代わりと言ってはなんだが、プレセアやリーガル、ゼロスと言った新たな仲間を得る事も出来、彼らは数多くの戦闘を通して大きく成長しながら、力を合わせて困難を乗り切って来たのだった。

 とは言え、全く変わっていないものもあるわけで…。

「粋な御仁!!」
 モンスターの放った術を防御したロイドの声が響き渡る。
 待機組として戦闘後に食す料理の野菜を刻んでいたゼロスは、その声を聞き思わず自分の指を切りそうになった。呆気に取られたようにポカンと口を開けるとロイドの方へ目をやる。
 そしてその驚きはロイドと一緒に戦闘に加わっているリーガルやプレセアも同様だったようで、ゼロスと同じ表情を浮かべ固まっていた。
 そんな二人を余所に一人でモンスターを片付けてしまうロイド。それから同じく戦闘組であるジーニアスを振り返ると、
「見ろよ、リーガルもプレセアも俺の技名のカッコ良さに感動しているぞ。」
「…それちょっと違うと思うよ…」
「何だよ。何を根拠にそう言いきるんだよ!……あ、そうか。そう言えば二人の技も良く考えれば結構カッコいいよな。だから俺のに感動する必要もないわけか。うん、確かにそうだ。『父兄!』とか『地底人!』とか、俺もそれに変えてもいいかなって思っちゃうぐらいしびれる名前だよ。」

「……ロイドさん、そう言っていただけるのは嬉しいのですが、『地底人』ではありません。『地精陣』です。」
「私のも字が違うのだが…」

「でも俺は『粋な御仁』で行くぜ。『地底人』や『父兄』にも惹かれるものはあるけど、やっぱ俺にはこっちの方がしっくりするって言うか…」

「いや、だから『地底人』じゃないって…(この釈然としない苛立ち…これが怒り?)」
「人の話を聞かんか!!(これ程(の馬鹿だった)とは…)」

「それにさ、なんたって俺のはこの技を編み出した人が命名したもの、いわゆるオリジナルってやつだからさ。二人には悪いけど俺は正道を歩んでいくぜ。」
 二人の怒りも物ともせず、ロイドはあくまでマイペースであった。
 そんなロイドに呆れ果て、リーガルもプレセアもそしてジーニアスも、ついにさじを投げたのだった。
「「「はいはい、分かりましたよ。もう勝手に正道でも邪道でも歩んで行って下さい。」」」


 その様子を見ていたゼロスは思わず噴き出してしまう。
 すると同じく待機組だったしいなも苦笑を浮かべながら言った。
「あれだろ?私も初めて聞いた時は驚いたよ。ようやく慣れて来たってところかな…。なんでもあの技をユアンから教わった時に技名はああだと言われたみたいなんだよね。でもあれって、あんたの『粋護陣』の事だろ?」
「なるほど、ユアンにね…。ああ多分そうだろう。『粋護陣』の事だろうよ。しかしまあ『粋な御仁』とは…クックックッ…」
「ちょっと、笑い事じゃないんだよ。そりゃあ確かに笑っちゃうような勘違いだけどさ、でもリフィル達にとっては深刻な悩みの種なんだ。全くユアンの奴、とんだおみやげを残して行ったものだよ…。だからさ、あんたがそれとなく正してやってくれないかね。私達の言う事は聞かなかったけど、同じ技名を使っているあんたが言えばきっと聞き入れてくれると思うんだ。」
「何で俺様がそんな事しなきゃなんないの。てか、あのままでも別にいいじゃんよ。殺伐とした旅を続けている俺達にとって、ちょっとした潤いになるんじゃねえ?やっぱ人生には笑いが必要っしょ。」
「そう言う問題じゃないだろ!!」
 いきり立つしいな。
 するとゼロスは少しだけ真面目な表情に改めると、
「大丈夫だよ。」
「え?」
「大丈夫。この先きっとあの間違いを正してくれる人が現れるから。俺と違って、ああ言う迷える子羊を見過ごせない、おせっかい野郎がさ。」
「……でも例えそんな人が現れたとしても、あの頑固者が、仲間でもない赤の他人の言う事を素直に聞き入れるとは思えないんだけどね。」
「さっきのおっさん達との会話から察するに、結局ロイド君にとってはオリジナルであればいいわけでしょ?だったらその人物の言葉を信じさせる方法がないわけじゃない。」
「え?それって…?」
「確かシルヴァラント組の連中は剣術指南書って言うのを持っていたっしょ?」
「ああ…ロイドが売り払おうとしたのを、すんでの所でリフィルが取り上げたって言ういわく付きの本かい?」
「そうそう、それそれ。悪いけどそれをちょっと借りて来てくれる?」
「え?…あ、ああ、分かったよ。」
 しいなは訳が分からず、首を傾げながらリフィルの元へ走って行った。
 それを見送りながら独り言つゼロス。

 これであとは“あの人”が何とかしてくれるっしょ。
 しかしまあ、ユアンの出鱈目を言われたままに受け入れちまうなんてロイド君もロイド君だ。
 素直って言うか何て言うか…今時珍しい御仁だね。

 そして先程のすっかり信じ込んでいる様子のロイドを思い出し、再びくつくつと笑い出したのだった。



 そのゼロスの言う『おせっかい野郎』の登場は意外と早くにやって来た。
 まあ正確に言えば再登場となるわけだが…。
 それは前述の事があったしばらく後、ロイド達がロディルに攫われたコレットを救うべく、レアバードを求めてテセアラベースへと潜入した時の事であった。
 レネゲード隊員を倒しながらなんとかパスワードも手に入れ、ようやく格納庫へ辿り着く事が出来たロイド達は、レアバードを前にホッと息を突いた。
「よし、これでコレットを助ける事が出来るぞ。行こうぜ。」
 頷き乗り込もうとする一行。
 ところが…
「飛んで火に入る夏の虫とはこの事だな。」
「!!」
 現れたのはレネゲードのリーダーであるクラトスとその側近ボータ…。二人はロイド達とレアバードの間に割り込んで来ると、行く手を阻んだのだった。

(ほら、現れなすったよ。)
 こっそりとしいなに耳打ちするゼロス。
(え?それじゃあ、あんたが言っていたおせっかい野郎って…)
(まあ見てなって。面白いショーが始まるから。)
(……)

「お前達は、クラトスにポンタ!」
 このロイドの言葉にいきり立つポンタ…もといボータ。
「うがあ〜〜!おんどりゃあ〜、ポンタではなくボータだと何度言ったら分かるんだ!!」
「ボータ、落ち着け。こいつの頭の軽さは遺伝だから仕方がないのだと言っただろう。」
「くっ…しかし…」
 クラトスは興奮するボータを押さえるとロイドの方へ向き直り、静かな声で言った。
「悪いがこの先に行かせる訳にはいかん。」
「俺達にはレアバードが必要なんだ。どうしても邪魔をすると言うのなら力尽くでも手に入れる!」
「フ…果たして私達を倒せるかな?」

 戦闘開始。

 この旅の間にロイド達もかなり力を付けていたものの、クラトスの剣には隙がなく、なかなかダメージを与える事が出来ずにいた。
 その内にボータがロイドをめがけて術を放ってきた。
「グレイブ!」
「!!」
 かわし切れないと読み咄嗟に防御の姿勢を取るロイド。
「粋な御仁!!」
 次の瞬間、クラトス達の動きが止まった。驚愕に目を見開きロイドを凝視している。

「おい見たか、ジーニアス。あいつら俺の華麗な技に言葉を失っているぞ。」
「だから〜、違うんだってば!(誰か何とかしてよ、この人…)」

 そのジーニアスの悲痛な願いが届いたのかは分からないが、しばらくしてようやく我に返ったクラトスが咳払いをするとこう言ったのだった。
「……余計なお世話かもしれんが…」
「何だよ。」
「もしかしてそれは『粋護陣』の間違いではないのか?」
「何言っているんだよ。技を編み出したユアンがこう教えてくれたんだぜ。『粋な御仁』で間違いねえよ。大体、『いきなごじん』と『すいごじん』じゃ全然違うじゃんか。」
 クラトスは溜め息を突くと、壁際に置いてあったホワイトボードを引っ張って来て、『粋護陣』『粋な御仁』と振り仮名付きで書き並べた。
「あれ?こうして見るとなんか似てるな…。」
「この一文字目の『粋』は、『すい』とも『いき』とも読める。恐らくユアンはそれで間違えてしまったのだろう。」
「え…だってこの技はユアンが考え出したんじゃ…」
 するとそこで、ゼロスがロイドの肩を叩き自分の方へ振り向かせると、その目の前に『剣術指南書』を突き出してきた。
「何だよ、これはユアンの剣術指南書じゃんか。」
「そう。ユアンがあんたにくれた剣術指南書だよ。でもねロイド君、この著者の欄をよ〜く見てみな。」
「え?…著者?」
 ゼロスに言われロイドはまじまじと本を覗きこんだ。
「!!…クラトス・アウリオン!?こ、これって…」
 ハッとしてクラトスを振り返るロイド。
 クラトスは肩を竦めると、素っ気なく言った。
「…そうだ。それは私が編集したものだ。」
「そう言えばこれをくれる時、ユアンが『知る人ぞ知る有名な剣士の著書』だって言っていたっけ。それってあんたの事だったのか!…それじゃあ、もしかしてあの技も?」
 黙って頷くクラトス。
 ロイドは目を剥いた。
「ユアンの奴、俺を騙しやがったな〜〜!!くっそ〜、絶対に許さねえ。今度会ったら、ギチョンギチョンにしてやる〜!!」

(いや…普通、『粋な御仁』って聞いた時点でおかしいって思うっしょ?)

 こうしてようやくロイドは自分の間違いに気付き、以降は『粋護陣』と言うようになったのであった。
 そして恐らく騙され続けていたロイドに同情したのであろう、クラトスはレアバードを特別に貸し出してくれ、ロイド達はコレットを無事救出する事が出来たのだった。

 めでたし、めでたし…。


− おしまい −




※よく見たら『剣術指南書』ではなくて『戦術指南書』でした…。でも第二話にてそう書いてしまった手前、今更変えるわけにもいかず、そのまま押し切りました。嗚呼、つくづくいい加減だなあ…。