本当の父親
アルテスタの家で急に眠気を覚え部屋で横になっていたロイドは、誰かの気配を感じ目を開けた。
そこに立っていたのは…
「クラトス!?」
慌てて体を起こそうとするが、どうやら薬を盛られてしまったようで、全身がしびれている。
クラトスはもがいているロイドを無表情な目で見下ろしながら言った。
「…父親に会いたくないか?」
「父親?…まさか親父に何かしたのか!」
動かない体を引き摺るようにしてクラトスの後を追うロイド。そのまま家の外に立っているクラトスに駆け寄ろうとするが、入口で待ち伏せていたレネゲード隊員に剣を突きつけられ立ち止まった。
よく見ればクラトスの傍にはユアンもいる。
「ユアン?…レネゲードはクルシスと敵対している筈。それなのにどうして…。」
「静かにしろ。もっとも他の奴らは薬で眠っているだろうがな。」
「クラトス!親父はどこだ?親父に何かしやがったらただじゃすまさねえぞ。」
「フ…。久々の親子の対面にそんな無粋はないだろう。」
「親子の…対面?」
クラトスは、不思議そうな顔のロイドをそのままにユアンの方へ向き直ると言った。
「ユアン。息子の命が惜しかったら、オリジンの封印を解放しろ。さもなくばロイドはここで死ぬことになる。」
目を見開くロイド。
「嘘だろう?ユアンが俺の…親父なわけないだろ。俺は信じない。信じられるものか!!」
「実の息子にここまで否定される気持ちはどんなものだ?……その様子ではどうやらオリジンの解放に同意する気はないようだな。ならばお前に死んでもらうまでだ!」
しかしユアンの表情は変わらず、要求に応じる気配はない。
するとレネゲード隊員が剣でロイドを傷付けた。
悲鳴を上げるロイド。
「!!」
それを見たユアンは初めて表情を変えダブルセイバーに手をやったのだが、それはレネゲード隊員の『動けばロイドの命はないぞ。』という一言で封じられた。
クラトスは溜め息をつくと、
「お前は家族が出来て変わったな。15年前のあの時も、マーテルを化け物に変えられお前は抵抗の術を失った。マーテルもお前に付いていかなければあのような姿になることもなかった。哀れな女だ。」
「!!母さんを愚弄するな!」
それを聞いたロイドは怒りも露わに動かぬ体でクラトスに斬りかかって行くが、それは難なく避けられてしまい、今度は逆にクラトスの方から術を放ってきたのだった。
自分に向かってくるマナの塊に思わず目をつぶるロイド。
だがその衝撃が襲ってくることはなかった。その代わりに抑えたような小さな悲鳴が聞こえてきて、恐る恐る目を開けてみるとそこには…。
「…ユアン?」
「……無事か?…ならいい。」
そのまま崩れ落ちるユアン。
もうロイドはパニック寸前の状態であった。両手で頭を抱えがくりと膝をつくと叫び声を上げる。
「う…うわぁ ―――― っ!!」
その声に、家の中からコレットが飛び出してきた。
「ロイド?どうしたの?これは一体……」
「俺は…俺は何を信じたらいいんだ!?」
「ロイド、しっかりして!」
「嘘だ!ユアンが…このドジで間抜けでどうしようもない奴が…俺の父さん!?」
「ロイド、自分を見失わないで!たとえ、こんなドケチな守銭奴で、根性がねじ曲がっていて、頭空っぽのクルクルパーのどうしようもない男の血を引いていたとしても、あなたはあなたでしょ。」
この会話にうっすらと目を開けるユアン。
(おい、待てやこら!…ずいぶんな言いようじゃないか。)
「俺は…俺?」
「どんな姿になっても、天使になっても、私は私だって言ってくれたのはロイドだよ。……それにユアンさん、ロイドを助けてくれたんだよ。」
コレットの言葉と笑顔がロイドのパニックを治めてゆく。
ロイドは深く息をついて自分を落ち着かせると倒れているユアンを見て言った。
「…ああ、そうだな。有難う。……でも、やっぱり俺はあんたのことを父さんとは呼べない。だってそうなると俺の中にもあんたのドジ因子が入っているってことだろう?将来あんたみたいになるのかと思うと怖くてさ。だから認めるにはもう少し時間が欲しいんだ。ごめんな。」
(こいつ…助けてやったというのに、なんて恩知らずな奴なんだ!)
ユアンは殴ってやりたい衝動に駆られるが、如何せん体を動かすことが出来なかった。
するとそこへ、家の中からミトスが現れた。
「まったく。見事な漫才だったよ。ご苦労様。」
「ミトス?」
その口調のあまりの冷たさに思わずミトスを見やるロイド。
ミトスは冷酷な笑みを浮かべ、次々にレネゲード隊員を倒しながら近付いてくると、ユアンを魔術で吹き飛ばした。
「ぐぎゃ〜〜!?」
はたと跳ね起きミトスを睨むユアン。
「違うだろう!飛ばすのはクラトスだろうが!!」
「あ、そうだったね。ごめんごめん。つい習慣で。」
「頼むよ。こっちは死にそうなんだから。」
ミトスはぺろりと舌を出し肩をすくめると、今度はクラトスの方に近付いて行った。
そんなミトスを睨みつけながら、さりげなくユアンが背後になるよう立ち位置を変えるクラトス。
「くそっ!ユグドラシル!お前がどうしてここに…。」
「僕が気付いていないとでも思ってた?残念だったね。ユアンにはプロネーマを付けておいたんだ。ロイド達に情報を流していたみたいだったからね。なかなか面白い趣向だったよ。僕の邪魔ばかりする薄汚いレネゲードがお前だなんてさ。」
そう言って再び術を放つミトス。
クラトスはそれをサッと横にかわした。当然のこと、術は背後にいたユアンを直撃する。
「ぐぎゃああああああああ!!」
「あ、ごめん。また当たっちゃった?」
「お前……わざとだろう?クラトスが避けるのを分かっていながらわざと…」
「だってさ。こっちの方が面白いんだもん。」
にっこりとしながら術の乱れ撃ちをするミトス。
それらは全てユアンに命中し、ユアンはその度に悲鳴を上げた。
「ぐえっ!ひゃ〜っ!ひえ〜!ぎょえ〜〜!」
「さて。この辺で止めておくか。オリジンの封印が解けちゃっても困るしね。さ、帰るよ、ユアン。」
ミトスはユグドラシルへと姿を変えると、倒れているユアンを担ぎあげ空へと舞い上がって行く。
「戻ったらお仕置きだからね。」
ニヤリと笑ったユグドラシルと見て、ユアンはブルッと震えると必死になって助けを呼んだ。
だが、誰も助けになど来てくれるわけがなく…。
その声は、去って行く二人をポカンとした顔で見送っているロイド達の頭上に空しく響き渡っただけであった。
−つづく−