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ユアン達が救出へと向かったちょうどその頃、当の本人であるロイドは自力での脱出を試みていた。
頻繁に現れる追手に辟易しながら建物内を駆け回り、ある部屋の中へと逃げ込む。
部屋の中には美味しそうな匂いが漂っており、一人の男がこちらに背を向けてテーブルに着いていた。
(食事中なのか?…そう言えば俺、今朝から何も食ってなかったな。)
思わず腹の虫を鳴らしながら男に近付いていくロイド。
するとそんな彼に向って男がいきなりフォークを突き出して来たのだった。
「うおっ!?あ、危ないじゃねえか!!」
「何者だ!?」
男は、間一髪で避け文句を言ったロイドを鋭い目で睨み付けたが、ロイドの左手にあるエクスフィアに気付くとフォークを引っ込め目を細めた。
「……お前がロイドなのか?」
「だったらどうだって言うんだ。大体、人に名前を尋ねる時はまず自分から名乗れよな!」
「フ…威勢のいい事だな。一つ忠告しておこう。剣士の背後には立たぬ事だ。斬られても文句は言えんぞ。」
「だってあんたが剣士なんて分からなかったから。だって食事をしていただけだろう。剣だって持っていないし。」
男は黙ってテーブルの横に立てかけてある剣を指さす。
「ああ、成程…。だったらフォークなんかじゃなく剣を使えよ。まあ、剣だったら今頃俺、生きていないだろうけどさ。てか、そもそも背後に立たれるのが嫌なら入口に背を向けて座るなよ。そんなんでいきなり斬り付けられたら迷惑だぜ。」
「言われてみればそうだな。以後気を付ける事にしよう。」
男はロイドの苦情に別段起こる様子もなく大人しく頷いてみせると、ロイドをまじまじと見た。
「な、なんだよ!」
「ん?ちょっと意外だったものでな。面影が全くない。」
「はい?面影?」
「いや、こっちの話だ。」
「なんだよ、それ。訳分かんねえの。じゃぁさ、俺にも分かる『向こうの話』をしようぜ。」
「フ…面白いやつだな。そんな所は似ているかもしれん。で、『向こうの話』とはこの料理の事か?食ってもいいぞ。」
「分かるのか!?」
「さっき腹の虫を鳴かせていただろう?」
顔を赤らめるロイド。
「遠慮なく食べるがいい。一人で食事と言うのもつまらんと思っていた所だからな。」
「へへ♪それじゃぁ、遠慮なく…」
いそいそと食卓に着いたロイドは舌舐めずりをしながら料理を見回した。
「マグロ料理が多いんだな。」
「マグロはいいぞ。DHAを多く含んでいるから頭が良くなる。」
「へえ、そうなんだ。それじゃぁ、一杯食べようっと。」
「…お前は頭が悪いのか?」
「ん?いや自分ではそう思っていないんだけどさ、皆が馬鹿だ、馬鹿だって言うんだ。」
「……血のなせる業か…。気の毒な事だな。」
「え?何か言った?」
「いや、別に。」
「そうか?まあいいや…でもホント、この料理旨いよな〜。栄養満点って感じ。あれ?でもこの野菜サラダ、トマトがないぞ。」
途端に嫌そうな表情を浮かべる男。
「あんなものは人間が食うものではない!」
それを聞いたロイドは意外そうに男を見た。
「へえ〜、あんたもトマトが嫌いなのか。実は俺もなんだ。だよな〜、あんなのは人間の食い物じゃねえよな〜。」
「ほう…お前とは何やら気が合いそうだな。ほれ、飲め。」
上機嫌でロイドのグラスにワインを注いでやる男。
「俺、未成年なんだけど?」
「大丈夫だ。お子様にも安心、スウィートな青玉ワインだからな。」
「へえ、そっか〜。(そうなのか?)それじゃぁ一杯だけ…。ぷは〜!うめ〜〜!(お前はオヤジか!)」
「お、いける口だな。よし、もっと飲め。」
それから和やかな雰囲気で食事は続き、数分後には二人は完全に出来上がってしまっていたのであった。
そこへ部下が急を知らせに部屋に駆け込んで来た。
「た、大変です……え?」
肩を組みながら大声で歌を歌っている二人を見て目を丸くする部下。
二人の足元には数本の空のワインボトルが転がっている。
「おお、ポンタ。お前もこっちへ来て一緒に歌わんか?」
「……私はポンタではありません。ボータです。ポンタではまるで阿呆のようではありませんか。と言うか、今はそんな事はどうでもいいのです。大変なんですよ、敵がベース内に侵入したようなのです。」
「敵?」
「その少年の仲間です!」
「!!な、なんと!?…今彼らに会うのはまずいな。すまんがあとは頼む。」
ようやく我に返った男はボータを見てそう言い置くと、急いで転送装置へと向かう。
それを見たロイドは慌てて声をかけた。
「おい、行っちまうのかよ。折角盛り上がって来た所なのに。」
「すまん、急用が出来てしまったものでな。だがお陰様で楽しい一時を過ごす事が出来た。また機会があったら共に食事をしよう。」
「でもまだ料理だって残っているんだぜ。もったいないじゃんよ。」
「……なんだったらお前はそのまま食事を続けてもらって構わない。」
「そう?それじゃぁ、遠慮なく。」
嬉しそうににっこりと笑って再び食事を始めたロイドを見て、男は小さく溜息を突くと今度こそ転送装置へと消えて行ったのだった。
−つづく−