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天高くそびえ立つマナの守護塔……そこに着けば世界は救われ、この旅も終わる。
そうしたら皆で胸を張って村へと帰るんだ。
もちろんその時は、天使になったコレットも一緒に…。
ロイドはずっとそう思っていた。
だがそうではなかった。この再生の旅にはロイドの知らない裏があったのだ。
神子はこの塔で、人として残されている最後のもの…心と記憶を捧げる。そしてマーテルの器となるのだ。
つまり女神マーテルが復活すると同時に、コレットと言う一人の少女はこの世から姿を消す事になるのだった。
その残酷な事実を知り衝撃を受けるロイド達。
嘲笑うレミエルを見て、ついにロイドの怒りが爆発した。
「くそっ!許さねえ!何がクルシスだ!何が天使だ!何が女神マーテルだ!コレットを返せ!!」
そう叫ぶと、レミエルへ飛び掛かって行く。
そんな様子を物陰から窺っている一人の男…ユアンであった。
「よしよし、シナリオ通り進んでいるな。」
そう言ってほくそ笑んでいる彼が見ているのは薄っぺらい冊子。表紙には『台本 マナの守護塔』とある。この重要なシーンをカッコよく決める為、テセアラの神子に(無理矢理)書かせたのだ。
「あいつ、ぶつくさと文句を言いながらやっていたが、なかなか大したものだ。この調子なら私の専属ライターにしてやってもいいな。」
そんな事を呟いている間にも話は進んでおり、気が付くともう、レミエルを撃破したロイドがコレットに駆け寄っていた。
「コレット…本当に俺の事、忘れちまったのか?」
(よし、私の出番だ!)
台詞を今一度確認し、颯爽と飛び出して行くユアン。
ここにゼロス脚色の笑劇場が開幕となる。
「無駄だ。もうハニーのハートは私のもの。お前は振られたのだよ。(ん?なんか変だな)」
「!?…ユアン?あんた、何わけの分からない事言ってんだ?大体、あんた今までどこに雲隠れしていたんだよ。相変わらず使えない奴だな。」
すっとぼけた様子のユアンに息巻くロイド。
ユアンは、そんなロイドの暴言はさらりと聞き流す事にすると、アンチョコをチラリと見やり次の台詞を言った。
「私は世界を導く最高機関クルシスの四大天使…その末の末のまた末の、『あんたまだそんなトコにしがみ付いてたの?』と思わず同情されてしまう程の末席に名を連ねる者。(ん?まだ聞かれもしないのに名乗るのか?てか、随分な言われようだな、オイ。もしかして神子の奴、私を馬鹿にしているのか?…まあいいか。)」
首を傾げながらも台本通りにその背に羽を広げる。
「!!天使?あんた…俺達を騙していたのか!?」
「へっ!こんなドジに騙されるお前らがアホなんだよ〜ん。(???)」
「なんだとっ!」
と、そこへ、レミエルが縋り付いてくる。
「…ユアン様…お助けを…」
「忘れたか、レミエル。私も元は劣悪種…人間だ。最強の戦士とは、自身が最も蔑んでいた者に救いを求める事なのか。」
「いや、あんたは人間じゃなくてハーフエルフだったでしょう……と言うか、必死に縋り付いてくる者を前に、原稿を読みながら言うの止めてくれませんかね?それではまるでどこぞの国の政治家の答弁みたいじゃないですか。」
「え〜い、煩い!これを見ながらではないと、こんな長い台詞言えるわけないだろうが!!」
レミエルを蹴飛ばすユアン。そしてそのままコレットへと近付いて行く。
「…くそっ!やらせるか!コレットは俺達の仲間だ!!」
戦闘突入。だが、呆気なく片が付いてしまう。
膝を折ったのはユアンの方であった。
(馬鹿な、何故私がやられてしまうのだ!?)
そんな筈は…と台本を見たユアンの目が見開かれる。なんとそこには『アホ天使、徹底的にボコられる。』と書いてあったのだ。
(くっそ〜、覚えていろよ、神子!!)
「お?EXジェムLV3とライフボトルめ〜けっ!こいつ、こんなもん隠し持っていやがった。これは一応没収しておくとして……よ〜し覚悟はいいか、止めだ!!」
剣を振り上げるロイド。
ユアンがもう駄目かと目をつぶったその時だった。
「やはりお前ではこいつらの相手は務まらなかったか。」
突然声が聞こえて来たかと思ったら、眩い光と共に一人の男が現れたのだ。
この男の放った台詞も、実はユアンの想像とだいぶ違っていたのだが、この際そんな事はどうでもよかった。泣きながら男に縋り付く。
「ユ、ユグドラシルさま〜〜!」
しかし男はそんなユアンを蹴飛ばすと、ロイドに目をやった。
思わず目を丸くして顔を見合わせるロイド達。
「何だ?この妙にエロい、ピチピチタイツ姿の野郎は…」
「お前がロイドか…?」
「人に名前を尋ねる時はまず自分から名乗れ!」
「フ…哀れな人間の為に教えよう。我が名はユグドラシル。クルシスを、そしてディザイアンを統べる者だ!」
「!!…ちっ、また天使かよ。だがコレットは絶対に渡さねえぞ!」
ロイド達はユグドラシルに飛び掛かっていくが、力の差は歴然で、瞬く間にやられてしまう。
倒れているロイドに向かって止めの一発を放とうと手を上げるユグドラシル。
「ユアン、異存はないな?」
「へいへい、ございませんとも。」
揉み手しながら即答したユアンを見て、ユグドラシルは僅かに眉をひそめた。
「…お前…自分さえ助かれば他はどうでもいいのか?」
(しまった!つい本音が…)
せっかくカッコよく決めようと思ったのに、これでは台無しである。すぐに台本を見て確認しようとするも、さすがにユグドラシルを前にそれは出来なかった。
まあ実際見たとしても、ゼロスが書いたお笑いの台本である。その内容に大差はなかったのだが、そうとは知らないユアンは焦るばかり。仕方なく愛想笑いを浮かべる事にする。
「ヘッヘッヘ…」
ユグドラシルはそんなユアンを見て溜め息を突くと、
「……まあいい、では遠慮なくやらせてもらうぞ。さらばだ、ロイド。」
ところがそこへ、ユグドラシルめがけて魔術攻撃がされてきたのだった。
「!!」
咄嗟に防御するユグドラシル。
駈け込んで来たのはボータ達であった。
「くっ、神子はすでに天使化してしまったか!止むを得ん、殺さずに連れ帰るのだ!」
そして彼らはユグドラシルが術を回避している隙をつき、ロイド達を連れ出して行ったのだった。
「……小賢しいレネゲードが。」
「おお、レネゲードに救われたか!死ぬなよ、ロイド。」
まだ隣にユグドラシルがいるにも拘わらず、大声で叫ぶユアン。
「何、寝言言ってんだよ、このボケが!」
当然の事、ユグドラシルは苛々したように再びユアンを蹴り飛ばす。
そしてプンプンとしながら一人先に戻って行ってしまった。
「あ、待って下さいよ〜、ユグドラシルさま〜!」
ユアンは慌てて起き上がるとその後を追ったのだった。
−シルヴァラント編 完−