1
「ユアン、どこへ行くの?」
今まさに出かけようとしていたその時、背後からユグドラシルに声をかけられ、ユアンはギクリとして振り返った。
「え?……いや、ちょっと町まで…。」
「そう。じゃあ、ついでにコロッケを買ってきてくれないか?」
「コロッケ?」
「そう、コロッケ。なんだか急に食べたくなってしまってね。あとそれと、もしクラトスを見かけたら戻るように伝えてくれる?」
眉をひそめるユアン。
こいつはいつもそうだ。私はお前のパシリではないのだぞ!
実を言うと、これからロイド達の様子を見に行こうとしていたところだったのだ。それなのに突然部屋に押し掛けてきたと思ったら、人の都合も考えずに勝手な事を言うユグドラシルに、正直腹が立った。
しかし落ち着いて考えてみれば、これはユグドラシルに怪しまれる事なく、堂々と出かけられるチャンスなのではないか。これを利用しない手はない。
そこでユアンはすぐに仏頂面を引っ込めると笑顔に切り替え、
「分かりました。それではただちに。」
と、デリス・カーラーンを後にしたのだった。
そんなわけでフウジ山岳へとやって来たユアン。ここにロイド達が来る事はテセアラの神子より情報を得ていた。
ところが驚いた事にそこには何故かクラトスも来ており、ロイド達と対峙していたのだった。
その内に、ロイドがクラトスに向かっていくのが見え、ユアンは目を見開いた。
なんという無茶をするのか。今のロイドの腕ではクラトスに敵うわけがない。
すぐさまダブルセイバーを手に二人の間に割って入るユアン。
この時、彼の頭の中では、キーンという音と共にカッコよくダブルセイバーで剣を弾く自分の姿がイメージされていたのだが、世の中そう思いどおりにはいかないもので…聞こえてきたのはそれとは程遠い音であった。
『ザシュッ!』
「え?…ザシュッ?」
この奇妙な音に、首を傾げながら下を見てみると、ロイドとクラトスの剣が自分の体に突き刺さってた。
一瞬の沈黙の後、悲鳴を上げのたうち回るユアン。
「ぎゃあああ〜〜〜!!」
「何やっているんだよ、ユアン。そんなトコに突っ立っていたら刺しちまうの当たり前だろ。」
「突っ立っているとは失礼な!わ、わ、私はお前達を止めようと…。」
「止めてねえじゃん。いや、止めてるか。自分の体で…。」
「……」
「まったく…ドジを踏んだな。」
クラトスが溜め息を突きながらユアンに回復魔法をかけてやる。
「で、何故お前がここにいるのだ?」
「ユグドラシルがお前を呼んでいるんだよ!」
途端に顔色を変えるクラトス。
「何!?それを早く言わんか!…仕方がない。ロイド、勝負は預けたぞ。」
そして羽を広げると飛び立って行く。
その姿をぼんやりと見送っていたユアンにロイドが声をかけてきた。
「あんたも早く帰って手当した方がいいんじゃない?」
「言われなくてもそうするわっ!!」
ロイド達からの憐みの視線の集中砲火を受け、ユアンは赤面しながらそう叫ぶと、自分も羽を出し、デリス・カーラーンへ逃げ帰ったのだった。
フラフラと飛び続けること数分、ようやく自室に辿り着いたユアンはすぐに治療を始めた。
幸い急所ははずれており、また、クラトスがすぐに回復魔法をかけてくれたお陰だろう、殆ど傷口はふさがっていたので、これなら数日もすれば完治できそうである。
「くそっ、酷い目にあったものだ…。」
ぶつくさと文句を言いながら絆創膏を貼りつけるユアン。
するとそこへ、再びユグドラシルが訪ねてきた。
「ユアン、コロッケは?」
「……そんな状況ではない事が見て分からんか。」
「あれ?どうしたの、その怪我。」
「……コロッケ屋の前で刃傷沙汰に巻き込まれてな。」
「ヘェ〜!それは大変だったね。それでコロッケは?」
ジロリとユグドラシルを見るユアン。
「やだなあ。冗談だよ、冗談!コロッケはまた今度でいいからさ。でもやっぱ食べたいから、出来るだけ早くにね。」
しゃあしゃあとした顔でそう言うユグドラシルを見て、ユアンはもう文句を言う気力も失せてしまったのだった。
それから数日後、無事に完治したユアンはサイバックへ来ていた。しかし何故か時々キョロキョロと辺りを見回しており、なんだか落ち着かない様子だ。
実は、どうも最近ユグドラシルの視線の中に不信感を感じており、今もどこからか誰かに見張られているよな気がしてならなかったのだ。
単なる思いすごしだとは思う。今朝出てくる時も『コロッケ忘れないでね〜』と明るい声で話しかけられたし…。
だが念を入れるに越したことはないだろう。今はまだ、自分がやろうとしている事をユグドラシルに覚られるわけにはいかないのだ。
そこでユアンは猛スピードで作業を完了させると、さっさと引き揚げる事にしたのだが、運悪く、門まで来たところで、ちょうど町へと入って来たロイド達と鉢合わせてしまったのだった。
ユアンの姿を見て、一人エキサイトするロイド。
「!!ユアン!コレットを連れて行くつもりか!」
ユアンは溜め息を突いた。
何故こいつはいつも、こうも好戦的なんだ…。肉の食い過ぎじゃないか?
とにかくこんな血の気の多い肉食獣に構っている時間はない。早く帰らなければますますユグドラシルに疑われてしまう。
ユアンはこの場は適当にあしらい、とっととこの場を去ろうとした。
「…町中でお前とやりあうつもりは…」
グサッ!
「え?…グサッ?」
恐る恐る下に目をやるユアン。案の定、腹にロイドの剣が刺さっていた。
「ぐぎゃああああ!!」
「あんた、ホント弱いのな。」
「何を言う、卑怯者〜!!まだ台詞の途中だっただろうが!」
傷口をフーフーしながら、涙目でロイドを睨み付けるユアン。
「先手必勝って言うだろ?コレット連れて行かれちまったら困るし。」
「だからそんな気はないと言っているだろう!…もういい!とにかく私は忙しいんだ。お前と遊んでいる暇はない。帰る!!」
プンプンと帰って行くユアンを唖然として見送るロイド達。
「なんだ、あいつ?急に怒りだして、変な奴。(←そりゃぁ、いきなり刺されりゃ誰でも怒るだろう)……まあいいか。何もしないで行っちまったわけだし。」
ロイド達は肩をすくめると、気を取り直して町の中へと入って行ったのだった。
一方、自室に戻ってきたユアンは早速手当てを始めた。
「なんだか数日前も同じ事をやっていた気がするのだが…気の所為か?」(←気の所為ではない)
そしてやはりと言おうか、ユグドラシルがやって来る。
「ユアン、コロッケは?」
「……そんな状況ではない事が見て分からんか。」
「あれ?また怪我したの?」
「……町中で刃物を振り回す気違いがいてな。」
「ヘェ〜!それは大変だったね。と言うか、どうもユアンってコロッケ屋は鬼門みたいだね。それじゃぁ、今度はおでんにしようか。」
「…そういう問題じゃないだろう?」
「そう?じゃぁ、団子とか?」
脱力するユアン。
「もう、なんでもいいよ…」
「それじゃぁ、決まりだね♪次に町へ行く時は団子を買ってきてね。今度こそ絶対だよ。」
強引に指切りをして去って行くユグドラシル。
「私って一体、あいつの何なんだ?」
ユアンはなんだかとても情けなくなり、一人さめざめと涙を流したのだった。
−つづく−