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人は誰でも心に闇を持っている。普段それは良心と言う固い殻に覆われている為、表に出る事はまずない。しかし何かの拍子でその殻が破られた時、奥底で眠っていたそれは目覚め、人は魔と化してしまうのだ。
だとしたら、人はそこから逃れる事は出来ないのだろうか?
いつ崩れるか分からない危うい均衡の上で、いつか自分が、そして周りの誰かが、闇に魅入られてしまうのではと怯えながら、疑心暗鬼に生きていくしか術はないのだろうか?
私はそうは思いたくない。
何故なら人は…。
満点の星の下、ミトスとユアンはテントの中で枕を並べていた。野宿にはすっかり慣れっこの二人であったが、今夜に限っては殊更寒く感じてしまい、なかなか眠れずにいた。
思わず溜息を漏らすユアン。ミトスは黙って上を見詰めている。
このように二人だけの野宿になったのには訳があった。それはつい数時間前の出来事である…。
ミトス達は近くの町の宿屋の前で、そこの主人と言い争っていた。
「ですから、お泊めしたくても部屋が空いていないんですよ。」
宿泊を申し出たミトス達に素っ気無く返答する主人。
「そうは見えんがな。客なんて殆どいないではないか。むしろ空いている部屋の方が多いのではないか?」
ユアンの抗議に主人は軽く肩を竦めて見せると、
「生憎と団体さんの予約が入っておりましてね。二、三日の内にすぐに満室になってしまうんですよ。」
だがこの主人の言い訳には少々無理があった。大戦が激化しているこの時期、暢気に観光旅行をする団体などあろう筈もない。詰まる所、主人はハーフエルフの客を泊めたくないだけなのだ。
普段のミトス達なら、そんな宿はこちらからお断りだと、迷いもなく野宿を選んでいただろう。しかし今回ばかりはそうするわけにはいかなかったのだ。
ミトスは必死に食い下がった。
「姉様が熱を出してしまったんだ。病人に野宿させるわけにもいかないだろう?だからその団体客が来るまで…ううん、今夜一晩だけでもいいんだ。なんとか泊めてもらうわけにはいかないだろうか?」
それは嘘ではなかった。元々身体があまり丈夫でなかったマーテルは、過酷な旅による疲れからか数日前から熱を出してしまっていたのだ。それでも休める所がなかった為に、一番近いこの町に来るまで相当無理をさせて来てしまった。マーテルはもう限界だったのだ。
ぐったりとした様子のマーテルに目をやり、眉を顰める主人。
「…お気の毒とは思いますよ。しかし、ハーフエルフが泊まった部屋になど誰も入りたがらないんです。しかも病気持ちとなったら尚更だ。後で消毒でもせにゃ、部屋が使えなくなってしまう。」
「!!なんだとっ!…貴様、もう一度言って見ろ!!」
いきり立つユアンをクラトスが押さえた。
「そ、そ、そんな怒ったって事実なのだから仕方がないでしょう。こっちだって商売でやっているんですからね。変な噂が立って、客が来なくなってしまったら困るんだ。」
「変な噂とはなんだっ!?」
「ひぃぃぃ〜〜!」
クラトスの手を振り解いたユアンに胸倉を掴まれびびる主人。
すると…
「止めて、ユアン!…もういいの。私なら大丈夫だから、今日は野宿にしましょう。」
「マーテル?…いや、しかし…」
「本当に大丈夫だから。あと二日ぐらいで隣国に入れるわ。そうすれば泊めてもらえる宿屋もあるかもしれないし、ね?」
「だが、ないかもしれない。」
ユアンに変わり進み出るクラトス。
「クラトス?…でも…」
「マーテル、君はもう限界のはずだ。この上無理を重ねたら倒れてしまうのは目に見えている。君には休息が必要なんだ。」
「でも、これ以上宿屋の人達に迷惑をかけては悪いわ。」
「そうだな。だからどうだろう、主人。我々全員を泊めろとは言わない。彼女だけでいいのだ。どうにかしてはもらえないだろうか?」
そう言いながら、そっと主人の手にガルドを掴ませる。クラトスは今までの短い会話から、主人の性格を掴んでしまっていた。この手の者は金さえ掴ませれば、どうとでも動く。こんな手は使いたくはなかったが、背に腹はかえられない。
案の定、主人の態度は一変した。
「へっへっへっ、そうですね。やはり病人を放り出すと言うのも、人としてやってはならない事だと思いますし、分かりやした。お泊め致しましょう。……おい、物置部屋をすぐに片付けるんだ。」
「も、物置部屋だと!?」
再び掴みかかろうとするユアンを、今度はミトスが押さえた。
そんなユアンを見て、意地悪く笑う主人。
「さっきも申しました通り、空いている部屋がないのだから仕方がないでしょう?それでもそちらが病人を抱えて気の毒だからお貸ししようと言うのです。感謝されこそすれ、文句を言われる筋合いはありませんね。嫌なら別の宿屋を探す事ですな。」
探すと言っても、この町には宿屋はここ一軒しかない。もちろん主人はそれを承知で言っているのだった。
「どうするんですか?泊まるんで?泊まらないんで?」
「…いや、泊めてもらうよ。」
まるで傷ついた獲物を甚振るかのように更に問うて来る主人にミトスが答える。
悔しいが仕方がなかった。姉の身体を思えば、例え物置でも、屋根の下でゆっくり休ませてやる事がどうしても必要だったのだ。
「そうですかい?やはり病人に野宿させるわけにはいきませんものねえ。ああそうそう、あと、確かそちらの方は人間なんですよね?」
クラトスを指差す主人。
「それでしたら、あなた様も一緒に泊まっていただけませんかね。このお嬢さんはあなた様の従者と言う事にして頂ければ他のお客様の手前申し訳が立ちますし、病人には看病する人が必要でしょう。悪く思わないで下さいね。こちらも他のお客様で手一杯でして、看病まで手が回らないんですよ。」
「……分かった。私も一緒に泊まる事にしよう。」
こうしてマーテルとクラトスが宿屋に、ミトスとユアンが野宿と言う事になったのであった。
「埃っぽかったな、あの部屋…」
あれから主人に案内された部屋を思い出し、眉を顰めるユアン。
「仕方がないよ。何せ物置だったんだから。でもあんな部屋でもベッドの上で休めるようになってよかったよ。」
「お前は腹が立たないのか!?あんな目に遭わされたと言うのに…」
「仕方がないよ。未だハーフエルフは厄をもたらすものとして忌み嫌われているんだから。それを変えたくて、僕達は旅をしているんでしょう?」
「何をされても、仕方がない、仕方がない、か…。全く、お前ら姉弟を見ていると苛々してくるな。どうしてお前達はそうやってどんな無礼も許す事が出来るんだ?お人好しにも程があるぞ。」
「許すとかそう言うのじゃなくて、姉様も僕もただ、他人を憎みたくないだけなんだよ…。」
「罪を憎んで人を憎まずってやつか?まるで神様仏様だな。」
「……」
「おっと、勘違いするなよ。別に馬鹿にしているわけじゃないからな。その逆だよ。尊敬しているんだ。私には到底真似出来る事ではないからな。立派だよ、お前達は。」
しかしミトスからの返事はなかった。隣を見てみると、ミトスは目を閉じている。
「なんだ、寝ちまったのか。そうだな…今日は色々あったし、疲れちまったんだろう。さて、それじゃあ私も寝るとするか。おやすみ、ミトス…。」
程なくしてユアンの鼾が聞こえてくる。
だがミトスは寝てはいなかった。ゆっくりと目を開くとそっと呟く。
「違うよ…姉様はともかく、僕は全然立派なんかじゃない。」
その頬を一筋の涙が伝った。
「忌み嫌われる者か……何故僕はハーフエルフなのだろう。」
その問いかけに答える者はなく…悲しげな呟きは夜の闇の中へ吸い込まれていったのだった。
結局マーテルが回復したのはそれから二日後の事だった。四人はこんなところに長居は無用とばかりに、早々に隣国へと向かう。そしてマーテルが回復した事もあってか、当初予定していたよりも短い日数で隣国に入る事が出来たのだった。
ここは人口僅か数千人の小国で、その面積は先日までいた国の半分にも満たない。しかし今の国王の代になってから金の鉱脈を見付けた事により、見事なまでの急成長を遂げていた。
「小さいけど、とても活気のある国ね。」
行き交う人々を眺めながらマーテルが言う。
「うん、そうだね。なんかこの人達を見ているとこっちまで元気になれちゃう気がしてくるから不思議だね。」
「国民が皆豊かさを実感しているからだろうな。昔はこれと言った特産物もなく、えらく貧乏で陰気な国だったと聞いている。それが金鉱を見付け裕福になった事で、国民気質までもが陽気へと早変わりだ。ホント、変われば変わるものだな。」
「そうなの?…ユアンって意外と物知りなのね。」
『意外と』は余計だと思ったが、マーテルに褒められて悪い気はしない。エヘンとばかりに胸を張るユアン。
すると…
「しかし、何故ここはこうも発展する事が出来たのだろうな?」
「え?」
背後でポツリと呟かれたクラトスの言葉に、同時に振り返る三人。
「お前、私の話を聞いていなかったのか?だからこの国は金鉱を見付けて…」
「その金鉱が問題なのだ。」
「何が問題だと言うのだ。」
だんだんと不機嫌になるユアン。
「考えてみろ。この国は四方を大国に囲まれているのだぞ。周りの国にとっても、ここにある鉱脈は喉から手が出るほど欲しいお宝の筈だ。見たところこの国には特別な軍備もないようだし、このような小さな国を占領するぐらい大国には訳ない事の筈。それなのに何故金鉱と言うお宝を前に手を出そうとしないのだろう。」
「戦争が起きないに越した事はないではないか。」
「それはそうだが、なんとなく引っ掛かるものを感じてな…。」
「まあ、お前が言いたい事も分からないでもないけどな。だがその周りの大国同士も隣接しているわけだから、お互い牽制し合うのが精一杯でこちらまで手が回らないだけなのではないのか?」
「うん、それはあるかも。確かに金の鉱脈は魅力的だけど、こっちを攻略しようとしている間に自分の国が攻め込まれてしまう可能性があるものね。」
しかしそんなユアンとミトスの説明にも、クラトスはまだ納得がいかない様子であった。
「どうしたの?いやに拘るね。」
「別に拘っているわけではないのだが、何かあってからでは遅いからな。」
「…あまり気にしない方がいいと思うよ?もし何かあったとしても四人一緒なら怖くない。そうでしょう?」
「そうそう。そんなに気を揉んでばかりいると、今に禿げてしまうぞ。その年で鬘にお世話になりたくはないだろう。全くお前はとことんネガティブだから困る。」
「用心深いと言ってほしいな。」
むっとした表情を浮かべるクラトス。
「……まあ、いい。所詮この国は通りすがりに過ぎないのだ。今戦争の真っ最中と言う訳でもないし、マナの大量消費がある訳でもないのだから、あまり気にしない事にしよう。」
「それがいいと思うよ。…それじゃあ取り敢えず今日泊まる場所を確保しておこうか。この間みたいにまた断られるかもしれないし、野宿するならするで、いい場所を見付けなくちゃならないものね。」
四人は頷くと宿屋へ向かって歩き出した。
だがその途中、ふと足を止めるクラトス。振り返って行き交う人々に鋭い視線を走らせている。
「どうしたの、クラトス?」
「いや、今、どこからか呼ぶ声が聞こえたような気がしたものでな。」
「声?僕には何も聞こえなかったけど…」
クラトスの隣に立って同じように見回すミトス。だがそれらしき人物はやはり見当たらない。
「ここには知り合いなんていないし、空耳じゃないのかな?」
「……そうだな。そうかもしれん。」
「じゃあ、行こう。ほら、ユアンがこっちを見ているよ。早く行かないとまた嫌味を言われちゃうかも。」
ミトスに強引に引っ張られながらも、クラトスは再びちらりと背後に目をやっていた。
空耳などではない。声は確かに聞こえたのだ。
“あいつが目覚めてしまった。気を付けて!”と…。
意味は分からない。だが、それは明らかに警告であった。
先に浮かんだ疑問も含め、クラトスは、込み上げてくる言いようのない不安を抑えきれずにいたのだった。
「いらっしゃいませ。」
宿屋にやって来た四人をえらく愛想のいい主人が迎えた。その前にユアンが進み出る。
「四人なのだが部屋は空いているだろうか?」
「ええ、部屋は空いておりますが…」
そう言いながらユアンや後にいるマーテルとミトスに目をやる主人。
「もしかしてあなた方はハーフエルフで?」
「だったらどうだというのだ?」
またか、という感じで不機嫌になったユアンを見て、主人は慌てたように言葉を継いだ。
「いえ違うんですよ。別に、だから追い出そうとしているわけではなくて、それだったらお城に行った方がいいのではと思ったものですから。」
「城?…冗談ではないぞ。ハーフエルフならば、宿屋より城の牢の方がお似合いだとでも言うつもりか!?」
「だから違うんですってば。実は今、お城で王子様の話し相手を探しているんですよ。その条件にハーフエルフに限るとあるんです。」
そう説明しながら一枚のチラシを取り出す主人。
「ほらね。」
主人に促されチラシを見てみると、確かにそこには『ハーフエルフ』と書かれている。
「話し相手ねえ…。それなら別にハーフエルフでなくてもよかろうに。」
「その王子様もハーフエルフなんですよ。」
「えっ?」
驚いて主人を見るミトス達。
「これはもう公然の秘密なので話しちゃいますけど…」
元々が話し好きなのだろう、主人は嬉しそうに王室の秘密を暴露し始めた。
その話を要約すると…
17年前に国王が狩りに出た折、偶然エルフの女性と知り合った。若かった二人はすぐに恋に落ち、そして男の子が生まれた。王はすぐに母子を城に迎え入れようとしたのだが、側近の者達は当然そのハーフエルフの子供を王子として迎える事に難色を示し、密かに母子を国から追い出してしまったのだった。
王は何年もかけて母子を探した。そしてようやく見付けだした時には母親はすでにこの世になく、一人残された男の子は奴隷のような生活を送っていたと言う…。
「聞くも涙、語るも涙…全くもって酷い話でしょう?」
主人は、わんわんと大泣きしている。
「クサイ話だな…。まるでお涙頂戴のメロドラマだ。」
しらけた表情で呟くユアン。
だが、ミトスは主人同様感動しているようだった。
「で、どうなったの?今王子様はお城にいる訳だから、引き取られたって事だよね?」
「ええ。王様はその子に今までのことをそれこそ土下座せんばかりに謝り、側近の反対を押し切って王子として迎えたそうです。でも相当酷い目に遭ったのでしょう、王子様はすっかり人間不信に陥っていましてね。王様はその心を何とか開かせようと、ハーフエルフの話し相手を探していると言う訳なんですが、なかなかうまくいかないみたいでして…」
「…そうなんだ。その王子様、可哀想だな。」
「そうなんです!可哀想なんですよ!ですから坊ちゃん、如何です?坊ちゃんなら王子様と年が近いしうまくいくかもしれません。行ってあげてくれませんかね?例え不採用になったとしても滞在中、同伴者共々城の客間に泊まる事を許されるそうですし、どちらに転んでも悪い話じゃないと思うんですがね。」
ミトスは後ろに立っている三人の方に振り返ると、
「ねえ、僕、行ってあげたいんだけど駄目かな?」
顔を見合わせる三人。
「おいおい、ミトス。冗談だろう?こんな嘘臭い話に…」
「ユアンは可哀想だと思わないの!?同族が困っているのに見過ごすなんて僕には出来ないよ。ねえ、お願いだよ。僕は王子様を助けてあげたいんだ。いいでしょう?」
結局三人は、懸命に頼み込むミトスを前に、許可せざるを得なかったのである。
宿屋の主人の紹介状を手に城へ行ったミトスは、国王直々の面接を受ける事となり、その後すぐに採用が決まった。
ミトスはこの旅の間何度となく停戦の交渉をして来ており、高貴な者との面談には慣れている。どんな質問にも淀みなく答える彼を、王はすっかり気に入ってしまったのだった。
ミトスは三人のいる客間へ戻って来ると、嬉しそうにその報告をした。
「僕、採用になったよ!」
「採用!?」
驚く三人。
「うん!それでね、早速クロスとも話して来たんだ。」
「クロスって…」
「ああ、その王子様の事だよ。最初は警戒しているようだったけど、諦めずに話しかけている内になんとか心を開いてくれたみたい。これからは自分の事をクロスって呼んでって言ってくれたんだ。」
ミトスは興奮冷めやらぬ様子で一気に捲し立てていたが、そこで言葉を切ると、三人の顔を伺い見た。
「でさ、お願いがあるんだけど……。しばらくここに留まってもいいかな?陛下もそう勧めてくれたし、僕もクロスともっと仲良しになりたいんだ。」
三人は顔を見合わせ、複雑な表情を浮かべる。
「…どうしたの?」
ミトスは三人なら一も二もなく賛成してくれるものと思っていたようで、この意外な反応に戸惑いを隠せなかった。
「旅はどうするのだ?まさかここで解散って事はないよな?」
ユアンが尋ねる。
「…僕だってそんなつもりはないよ。でも、放っておけないじゃないか。クロスは一人ぼっちなんだよ。誰かが傍にいてあげなくちゃ駄目になっちゃうよ。」
「私達の旅の目的に比べれば些細な事だと思うがな。」
意地悪く言うユアンを、ミトスは恨めしげに睨む。そんな二人の間にマーテルが割って入った。
「もういいじゃない、ユアン。」
「何がいいと言うのだ?これははっきりさせておく必要がある問題だ。そうだろう?」
「そうかもしれない。でも、クロス王子はミトスにとって、初めて出来た同年代のハーフエルフの友達なのよ。だからミトスの気持ちも分かるの。」
「だから許すと言うのか?…クラトスはどうなんだ?」
ユアンはさっきから黙ったままのクラトスに目をやった。
「私か?…私は特に言う事はない。この旅は元々ミトスが始めたものだ。ミトスがやりたいようにするのがいいのではないか?」
「何だ、その投げやりな態度は!これは私達の問題なのだぞ。」
苛々したように叫ぶユアン。
するとそれをとりなすように、ミトスがこう言ったのだった。
「待ってよ、ユアン。僕だって皆の気持ちは分かっているんだ。旅だってここで止めたくはない。でもこのまま旅立つ事は僕にはどうしても出来ないんだよ。だからせめてクロスが他の人達にも心を開けるようになるまででいいんだ。それまで待ってくれないかな。お願いだよ。」
ミトスを見るユアン。
「その言葉、信じてもいいんだな?」
「うん。」
「……分かったよ。マーテルもクラトスも反対ではないようだし、私一人が駄々をこねているようで気分が悪い。好きにするがいいさ。」
「有難う!!」
ミトスはホッとしたように笑顔を浮かべたのだった。
しかしああは言ったものの、ユアンはちっとも納得などしていなかった。
クラトスが言った事が本意でないことは分かっていた。そしてマーテルも自分の気持ちを抑えてしまっている。何故こんなにも遠慮しあわねばならないのか?
その原因は自分達の間で暗黙のうちに築かれたルールにあった。
お互い言わなくてもいいことは敢えて口にはしない…
そうする事がこの四人の、ある意味微妙な関係を続けて行く上で大切な事だとずっと思ってきたのである。
だが、それで本当に仲間だと言えるのだろうか?
お互い言いたい事も言えずに、まるで腫れ物に触るかのように遠慮し合う…そんな上面だけの関係を続けていたら、遠からず自分達はバラバラになってしまうのではないだろうか?
ユアンはそんな危惧を抱きながら、ミトス達の姿をじっと眺めていたのだった。
−つづく−