共にいる理由(わけ)
残り少ないマナを守る為にも、この大戦を終結させる…。
そして差別のない平等な世界を作るんだ。
そんなとてつもなく大きな志を抱いたハーフエルフ達と出会った私は、共にその道を歩んで行きたいと願った。そんな私を彼等は快く受け入れてくれ、今、私は彼等と共に旅をしている。
だが、私は時々思うのだ。私は彼等と共にいてもいいのだろうかと…。
彼等はハーフエルフで、私は人間…この根本的な差は埋めようがない。それどころか、今の私は人間ですらないのだ。
天使……それが今の私。
正確に言えば、完全に天使となるのはまだ数年先の事だ。だが昔この体に埋め込まれた石によって、私の体は、ゆっくりではあるが確実に作り替えられていっている。
“化け物”
天使の姿をした私を見た者は、必ずと言っていい程そう口にする。
そう…今の私はハーフエルフでも人間でもない、まさしく“化け物”なのだ。こんな私が彼等と共にいる事が許されるはずがない事は分かっていた。だからこそ私は彼等を守る為の壁になろうと思ったのだった。彼等の為にこの命を投げ出す事でしか、自分が彼等の傍らに居続ける理由を見出す事が出来なかったのだ。
孤独には慣れていたはずの私であったが、彼等と出会う事でいつの間にか再び独りになる事を恐れるようになっていたのかもしれない。
ミトス達は今、とある公国に来ていた。この国に精霊がいるとの情報を掴んだからであった。
戦争を止めさせる為に各地を回っているミトス達であったが、素直に言う事を聞く所ばかりでなく、そのような国には実力行使でいくしかなかった。そんな強大な軍事力を持つ大国相手にたった四人で対抗して行くには、どうしても精霊達の助力が必要だったのである。
この頃になると、ミトス達の噂は各地に広がり始めており、そうなると当然、彼等を敵視する者達も現れてくる。ミトス達の旅はいつの間にか、そんな連中からの迫害を逃れながらの過酷な旅となっていた。
この公国は、最近急速に兵器開発に力を入れ始めた国であった事から、ミトス達は迫害を避け秘密裏に入国をしたはずであった。だが、どこで情報が漏れてしまったのか、精霊のいるとされている地へとむかう彼等の前に突然に兵士達が現れたのだった。
追っ手に襲われる事は初めてではなかったが、今回のそれは半端な数ではなく、倒しても倒しても一向に数が減る様子が見られない。次第にミトス達にも疲れが見え始めた。それでもようやく粗方片付けられたと思ったら、その後ろからまたもや大群がこちらへと向かってくるのが見えた。
このままでは危ないと直感したクラトスはミトス達に向かって叫んだ。
「お前達は先に行け。あとは私が食い止める。」
「!!…何言ってるの。クラトス一人じゃ無理だよ。僕も残る!」
「精霊と契約するのはお前なのだ。そのお前が捕まってしまっては話にならん。私なら大丈夫だ。必ず後から行くから。」
「でも…」
「早く行け!!」
クラトスは、なおも渋っているミトスの背を乱暴に押しやった。
「ユアン、マーテル。ミトスを頼んだぞ!」
「分かった…」
ユアンはマーテルを促しミトスの手を掴むと走り出した。
「約束だよ。必ず来てよ。待ってるからね。」
「…ああ。」
ユアンに引っ張られながらも叫び返してくるミトスに向かって、クラトスは笑ってみせた。そして彼等の姿が森の中へ消えて行くのを確認すると、迫り来る敵へと向き直った。
「来るなら来い。この先へは一人として通しはせぬ!」
一方、森の中を進んでいたミトスは、ふと立ち止まり後ろを振り返った。
「ミトス?」
それに気付いたユアンとマーテルは、そのまま動こうとしない彼に歩み寄った。
「クラトス…大丈夫かな。」
「彼が心配なのは私達も同じよ。でもね、今は彼を信じて、私達は私達に出来る事をやるしかないんじゃないかしら。」
「分かってる…分かっているんだ。でも姉さま。僕は時々怖くなるんだ。」
「え?」
「クラトスはどうして無茶な事ばかりするんだろう。いつだって危険な事を買って出るのはクラトスだし、僕らを庇って自分が犠牲になるのを厭わない。あんな事をしていたら今にきっと大変な事になるよ。折角初めて出来た人間の仲間なのに……僕はいつか彼を失ってしまうような気がして怖いんだ。」
「……クラトスは、いざという時には私達の捨て石となるつもりで共にいるのかもしれない。」
「そんなっ!そんなの僕は望んでいないよ。クラトスは僕にとって大切な仲間で…」
マーテルは静かに頭を振った。
「彼はまだ私達の本当の仲間になれていない気がするの。彼自身が、人間である自分はハーフエルである私達の仲間にはなれないと考えているのかもしれないわ。仲間になれないのならせめて盾になる事で存在理由を作ろうとしている。」
「!!」
「種族の違いが私達の間に大きな壁を作ってしまっている…それを壊すにはまだ時間がかかるのかもしれないわ。」
マーテルは呟くようにそう言うと、森の入口の方を悲しげに見詰めたのだった。
新たにやってきた敵はさっき以上の人数であったが、並の兵士相手に遅れをとるクラトスではなかった。しかも天使化した彼は疲れというものを知らない。流れるような剣捌きで次々に斬り倒して行くクラトスを見た兵士達に動揺が走り始める。逃げ出す者さえ現れ次第に乱れて行った。その様子を見てとったクラトスは、これなら勝てると思った。
ところがその時、クラトスは突然、異常なまでの強大なマナの動きを察知したのだった。
「!?」
全身が震える程のその力に思わず空を見上げた彼の目が、彼方で一瞬キラリとした一点の光を捉えた。それは見る見るうちに大きくなり真っ直ぐにこちらへと向かってくる。
「まさかあれは……魔導砲?」
ハッとして背後の森へと目をやるクラトス。
このままではミトス達をも直撃してしまう!!
クラトスは迷うことなくその背に翼を広げると空へと舞い上がり、魔道砲の軌道上に立つと、向かってくるその光を受け止めた。そしてありったけの力を込めてそれを四方に拡散させた。飛び散った光は下にいる兵士達の上に降り注ぎ、此処彼処で悲鳴が上がる。
「くっ!!」
天使化しているとはいえ、あれだけのエネルギーを受け止めたのだ。その体に受けたダメージは相当なものだった。クラトスの体は大きく傾き、そして落下していった。それでもなんとか体勢を整え着地する事はできたのだが、そのまま膝を折ってしまう。
「ハア、ハア、ハア……」
すると肩で大きく息をするクラトスの耳に、隊長の声が聞こえてきた。
「放て っ!」
顔を上げたクラトスの目に、四方から自分に向かって飛んでくる光が映った。
咄嗟に再び舞い上がりそれを避けようとしたクラトスであったが、その光の筋は彼の頭上で網状へと形を変えると、その体をしっかりと絡みとってしまう。それと同時に網を伝って凄まじい衝撃波が彼を襲ってきた。
「ぐわああああああああ!!!」
網に絡まれた状態で再び地面に落ちたクラトスは、意識はあるものの全く体を動かす事が出来なくなっていた。
「くっ…」
「どうだ?動く事が出来んだろう。その網は捕らえたものの運動神経を麻痺させる機能を備えているのだ。対天使用に我が国が開発したものだ。一応持ってきてはいたのだが、まさか役に立つとは思わなかったよ。あのハーフエルフどもを逃したのは残念だが、行先はお前が知っているだろう。城に戻ったらゆっくりと聞き出すとしよう。よし、こいつを連れて行け。くれぐれも丁重に扱うのだぞ。なにしろこの世にたった一人の天使様だからな。」
クラトスを担ぎあげ運んで行く部下達。
「フフフ…天使か。思わぬものが手に入ったものだ。おかげで公爵様にいい土産ができた。」
城へと連れて来られたクラトスはすぐにある小部屋へと運びこまれた。その部屋には壁に平行に蜘蛛の巣のようなネットが張られており、クラトスはそこに羽を出した状態のまま磔にされていた。額には万一の為に魔封じのリングがはめられている。
「これが天使か…成程、美しいものだな。」
クラトスが運び込まれるとすぐに姿を現した、この国の王である公爵は、ワイングラスを片手に満足そうな笑みを浮かべた。
「このネットはあの取り網と同じ素材で作られている。お前の体には始終神経をマヒさせる電撃が走っているだろう。」
公爵は俯いた状態のクラトスの顎を掴んで顔を上げさせた。
「体は動かんが口は利けるはずだな。どうかな?この趣向はお気に召して貰えたかな?」
「……蜘蛛の巣とは趣味が悪いな。」
「そうか?蜘蛛の巣に捕らわれた化け物の図…見事な組み合わせだと思うがね。」
「……」
「まあ化け物といっても、お前は観賞に足る美しい化け物だ。このまま飾っておくのもいいが、だがこれではちとつまらんな。」
そう言って公爵は懐から小刀を取り出すと、それをクラトスの左の太ももに突き刺した。
「!!!」
そのままグイグイと抉られた傷口から血が溢れ出してくる。クラトスは歯を食いしばり悲鳴を噛み殺した。
「フム。化け物の癖に血の色は赤いのだな。……そうだ、この表情だ。何かが足りんと思ったのだが、この苦痛の表情が加わる事でずっと深みが増した。美しい化け物が苦しむ姿は素晴らしいものがある。」
「…お前は狂っている。」
「いや、私は正常だよ。誰だって恐ろしい化け物が苦しむ姿をみるのは楽しいものだろう?……そうだ、もっといい趣向を思い付いたぞ。」
公爵はニヤニヤ笑いながら部屋を出て行ったが、すぐに猟銃のようなものを手に戻って来た。
「これが何か分かるか?魔導砲を小型化して銃の形にしたものだ。魔導銃とでも言えばいいのかな。実は私はこれをまだ撃った事がない。お前を見ていたら急に試し撃ちをしてみたくなった。お前はこの銃の的にふさわしい生き物だ。そうは思わんか?すぐには殺さんよ。まずは両足を打ち抜き、次は両腕。両肩に腹、右胸。そして最後に左胸をズド〜ンだ。」
「……」
「死にたくないか?ならばあのハーフエルフ達の居所を言うか?そうすれば命だけは助けてやってもいいが?私とて折角手に入れた芸術品を壊したくはないからな。お前にしたって彼等を庇った所で何の益もあるまい。彼等は化け物のお前など平気で切り捨てるだろうからな。命の危険を冒してまで助けには来まい。」
「……」
「フフ…それでもあくまで奴等を庇うか。まあいい。その方が私も楽しめるというものだ。この遊びは明後日までとっておくとしよう。それまでによく考えておくんだな。」
そう言い残すと、公爵は部屋から退出して行った。
部屋に一人残されたクラトスは、そっと目を伏せた。
死ぬ事に全く恐怖はない。捕まったその時から覚悟は出来ていた…。気がかりな事と言えば、ミトス達が助けに現れるのではという事だけだったがそれも恐らくないだろうと思う。
“彼等は化け物のお前など平気で切り捨てるだろうからな。命の危険を冒してまで助けには来まい。”
そう…あの公爵が言った通りだ。
自分はもはや人ですらない。そんな化け物の自分を、彼等が命がけで助けになど来るはずがない。彼等にとって自分は仲間などではなく、ただの厄介者にすぎないのだから…。
彼等が自分の事をどう思っていようがどうでもよかった。彼等の傍にいられて、そして少しでも彼等の役に立つ事ができさえすれば、それだけで私は十分に幸せだったのだ。だから切り捨ててくれても一向に構わない。むしろ私一人が死ぬ事で、彼等に害が及ぶ事なく、今まで通り自分達の道を進んで行ってもらえるのなら、これ程幸せな事はない。
「魔導銃に全身を撃ち抜かれて果てるか…化け物の私には相応しい死に様かもしれんな。」
クラトスは笑みを浮かべると、目を閉じ眠りに入ったのだった。
そしてその二日後、クラトスの処刑の日がやってきた。
城内の広場の真ん中に設けられた十字の柱に、クラトスは手足を縛りつけられていた。ここに運ばれる直前まで例の蜘蛛の巣状のネットに磔の状態だったクラトスの体は、依然麻痺が続いており、額には相変わらず魔封じのリングがつけられていた。その周りには多くの警備兵達が配置されていた。
「どうだ、話す気になったかな?」
ニヤリと笑いながら問いかけてきた公爵を、クラトスは無表情に見下ろしたが、その口からは何も言葉が発せられなかった。
「フ…。奴等の為に死ぬ気か?つくづく馬鹿な男だな、お前は。ならば私も楽しませてもらう事にしよう。」
公爵はそう言って後ろに下がると銃を構えた。
「断わっておくが、この威力は普通の猟銃とは比べ物にならぬ程のものだ。撃ち抜かれた時の痛みも半端ではないだろうよ。まずは足だったな。先日付けたその太ももの傷をもう一度打ち抜いてやろう。」
公爵の放った一発目は、その言葉通りにクラトスの太ももの傷に命中した。
「ぐっ…」
クラトスは必死に声を抑えた。
何があっても悲鳴だけは上げたくはなかった。これは彼の公爵に対する最後の抵抗だったのである。
「ほう…悲鳴を上げないのか?つまらんな。では二発目だ。次は右足だな。」
公爵は銃を構え直して狙いを定めた。
彼の指が引き金を引き絞らんとしたその時である。突如上空から光の雨が降り注いできた。その光は城を、兵士達を、町に連なる家々を次々に貫いて行く。
その光景を見たクラトスは目を見開いた。
(まさか…これはジャッジメント?馬鹿な!そんな筈が…)
「な、なんだこれは!?……ああ、私の城が…町が…壊されて行く…」
公爵は狂ったような目をクラトスへと向けた。
「貴様か…貴様がやったのか!?よくも、よくも私の築き上げたものを壊しおったな!死ね、化け物め!!」
クラトスの心臓に狙いを付け、引き金を絞る公爵。だがクラトスの左胸めがけて真っ直ぐに飛んできたそれは、彼に当たる寸前に何かによって撥ねかえされた。
「なんだ?何が起きた?」
「僕がやったんだよ…」
公爵の問いに答えるかのように、金髪の少年が現れた。
「誰だ、お前は!!…いや、分かったぞ。お前はこの化け物の仲間のハーフエルフだな。」
「化け物?そんなもんどこにいるのさ。」
キョロキョロと辺りを見回すミトス。その視線が公爵の上に止まる。
「ああ、あなたの事か。」
「違う!!化け物といったらお前の後ろにいる奴だ。その羽の生えたこの世でただ一匹だけの生き物の事だ!!」
「違うね。クラトスは化け物なんかじゃない。それに羽を持っているのは彼一人だけじゃないよ。」
その言葉と同時にミトスの背に虹色に輝く羽が出現した。
「ミトス!?」
驚きの声を上げたクラトスを振り返ったミトスは、説明は後でねと優しく笑いかけて、再び公爵の方へと向き直った。
スッと右手をあげてその掌を公爵へと向けるミトス。
「化け物はお前だよ。他人が苦しむのを見て楽しみ、血を流すのを見て喜びの声を上げる…そんなお前のような者を、人は化け物というんだ!」
ミトスの右手から放たれた魔力は、公爵の体を貫き、公爵は仰向けに倒れて絶命した。
ミトスはそんな公爵には全く注意を払わず、クラトスの体を十字の柱から解放した。
「天使って便利だね。普通なら抱え上げられないだろうクラトスの体もこうして持ち上げる事ができる。」
ミトスはクラトスの体をゆっくりと下ろすと、その背を柱にもたれかけさせた。そして左足の傷に回復魔法をかける。
「ミトス、これはどういう事だ!?何故お前が天使に…」
「クラトスが捕まった事を知って、急いでシルヴァラントに戻ってベンさんに輝石を貰ったんだ。姉さまもユアンも天使になった。」
そこへマーテルとユアンがやってきた。二人の背にも輝く羽がある。
「向こうも片付いたぞ。」
「よかったわ。クラトス無事だったのね。」
クラトスは嬉しそうな二人を見上げると、
「何故だ!?何故そんな馬鹿な事をしたんだ!」
「馬鹿な事だって言うの!?」
ミトスの大声に、クラトスは驚いた表情を浮かべた。
「僕は馬鹿な事だなんて思っていない。だってこれでクラトスと同じになれたんだもの。」
「ミトス……」
「クラトスが自分の事を化け物だと思っている事は知っていた。だからクラトスは、僕達と一緒にいる資格なんてないって考えていたんでしょう?でも僕はクラトスを大切な仲間だとずっと思って来た。言葉に出して言った事もある。それでもクラトスにそう思ってもらえないのなら、クラトスが自分は特異な存在で僕達の仲間にはなれないって思っているのなら、だったら僕らがクラトスと同じ立場に立てばいいんだって思ったんだ。僕等が同じ天使になれば、僕達の間にある壁が取り除かれるに違いない。そう思ったんだ。」
「……」
ミトスはクラトスの前に膝をつくと、両手で優しく彼の顔を包み込んだ。
「もうクラトスだけを化け物だなんて言わせない。僕達は仲間なんだよ、クラトス。僕達四人は、ハールエルフでもなく人間でもない…天使という新しい種族の同じ仲間なんだ。」
「仲間…」
見開かれたクラトスの目から一筋の涙が零れ落ちた。
「お、泣いているのか?クラトス。」
「……泣いてなんていない!」
慌てて拭おうとしたクラトスだったが、体が麻痺した状態では腕を上げる事もできなかった。
「あ、ごめんなさい。今麻痺を解くわね。」
マーテルが急いでレストアを唱える。
「クラトスは化け物なんかじゃない。だって、化け物が涙を流すはずないもの。そうでしょう?僕達、四人は決して化け物なんかじゃないんだ。誰も分かってくれなくてもいい。僕達四人がその事を分かっていればそれでいいじゃない。」
「そうね、ミトスの言う通りだわ。」
「ここでもう一度誓おう。僕らは新たに得たこの力を使って、必ず世界に平和を取り戻す!」
ミトスの差し出した手の上に、マーテル、ユアンの手が重ねられる。そしてその上に、クラトスの震える手がおずおずと重ねられた。嬉しそうに笑顔を浮かべるミトス。
「僕達四人はずっと一緒だよ。」
そんなミトスの言葉に、残る三人は力強く頷き返したのだった。
その翌朝、クラトスは一人、廃墟と化した公国の前にいた。そこへミトスがやって来てその横に並ぶ。
「…結局、この国を滅ぼしちゃったね。」
「すまない、ミトス。」
「なんでクラトスが謝るの?」
「私の為にお前は…。本当はこんな事、したくはなかったのだろう。やはり私は皆が言うように…」
「ストップ!!」
ミトスはクラトスの口に手をやった。
「言ったでしょう。皆に分かってもらえなくたっていい。僕等四人が分かっていればいいんだって。」
「ミトス…」
「僕達のやっている事は、もしかしたら世界中を敵に回す事になるかもしれない。でもそれでもいいんだ。僕達四人の絆さえしっかりと結ばれていれば何も怖い事はない。なんだって乗り越えていける…僕はそう信じている。だって、僕達は正しい事をやっているんだもの。そうでしょう?」
「……そうだな。お前の言う通りかもしれない。」
ミトスは微笑みを浮かべクラトスの手を取るとその顔を見上げた。
「ねえ、クラトス。お願いがあるんだ。」
「お願い?」
「僕にまた剣を教えてくれないかな。」
「剣を?…しかし以前も言ったように、お前には強力な魔術があるではないか。」
「僕は前衛で戦いたいんだ。そうすればクラトス一人に負担をかける事もなくなるでしょう?僕はもう、クラトスが僕達の為に自分を犠牲になんてして欲しくないんだ。だから僕はクラトスが安心して背中を任せられるような剣士になりたい。」
「……」
この少年はそんな事を考えていたのか…
クラトスはふっと肩の力を抜くと、キラキラと瞳を輝かせている少年を見た。
「分かった。だが、私が背を預けられるまでになるには、まだまだ先は長いぞ。」
「分かっているよ。そんな事。」
プーっとふくれるミトスを見て、クラトスは笑みを浮かべた。
「よかった!やっと笑ってくれた。」
「えっ?」
「だってクラトスってば、僕達と旅に出てから一度も笑った事がなかったんだもん。」
「そう…だったか?」
「うん、そうだよ。」
ミトスはそう言うと、表情を改め、気を付けの姿勢をとった。
「これからもよろしくお願いします。……お師匠様!」
最後の一言を照れ臭そうに付け加えると深々と頭を下げるミトス。
クラトスはそんなミトスの頭に手を置くとその髪をクシャリとした。
「私の方こそよろしく頼む。」
顔を見合せて微笑み合う二人。
「お〜い、二人とも何やってるんだ〜!もう出発するぞ!」
「早く来ないと置いてっちゃうわよ。」
「今行くよ〜!!」
呼びに来たユアンとマーテルに叫び返すと、ミトスはクラトスを見上げた。
「行こう、お師匠様!」
「ああ!」
走り出したミトスの後を追いながらクラトスは思った。
『残り少ないマナを守る為にも、この大戦を終結させる…。そして差別のない平等な世界を作るんだ。』
こんな事を聞いたら、そんな事出来っこないと皆が笑うだろう。
だが私は彼等の言葉を信じたのだ。そしてその夢を実現する手助けがしたいと思った。
“何故あなたは彼等と共にいるの?”
そう問われた時、今の私なら迷いもなくこう答えるだろう。
彼等の抱く夢を共に追いたいからだと…。
それが私が彼等と共にいる理由(わけ)。
そう、私は彼等と一緒に、同じ夢を追い求めて進み続けて行こうと決めたのだ。
これからもずっと…
あの心強い仲間達と共に。
私達の旅は、まだ始まったばかりなのだ。
−共にいる理由(わけ) 終−