「何だこれは…?」
 ユアンはクラトスが差し出してきた台本を前に首を傾げた。
「見れば分かるだろう。脚本だ。今度、昔話をテーマに映画を撮る事になってな。その監督にと私に白羽の矢が立ったのだ。」
「お前に?…しかし、お前は歌舞音曲は苦手だと言っていただろう?」
「そうなのだが、お前が主演だと聞いたもので、これは面白そうだと…いやもとい、遣り甲斐があると思ってな。」
 ユアンは今一度台本に目を落とした。

 『ごちゃまぜ昔話』
 主演:ユアン
 出演:その他大勢
 脚本・演出・監督:クラトス(陰の脚本・演出・監督:ユグドラシル

「おい、このお前の名前の後ろにある( )は何だ?掠れていてよく見えないのだが…」
「細かい事は気にするな。それよりやるのか?やらないのか?」
「……嫌な予感がする。」
「主役だぞ!?マイソロにも出演させてもらえない程影が薄いお前が主役を張れるんだ。こんなチャンスはもうないかもしれんぞ。」
「…影が薄くて悪かったな。」
「やるだろう?やるよな?よお〜し、決まった!!」

 こうしてユアンは半ば無理矢理に出演させられる事になったのだった。

 てなわけで、はじまり、はじまり〜!





ごちゃまぜ昔話


 むかしむかしあるところに、コレット・ロイド・ユアンという三匹の子ブタがおりました。
 三匹はマイホームを建てる事を夢見て日々仕事に励んでおりました。
「だいぶお金が貯まったね〜。これだけあれば家が建てられるよ〜。そろそろマイホームを建てちゃおうか?」
 コレットの提案により、三匹はお金を分け合いそれぞれ描いていた夢のマイホームを建てる事にしたのでした。そしてコレットはお花が一杯の草で作った家を、そしてロイドは器用な手先を活かした木造の家を建てる事にしましたが、ユアンはなかなか決まりません。
「草に木の家だと?二匹とも『三匹の子ブタ』の話を知らないとみえる。あれでは狼に食われてしまうぞ。」
 あの話では煉瓦の家だけが無事だったと聞いていたユアン。しかし、そんな家を建てようにも、ユアンはそんな技術は持ち合わせていませんでした。そこで知り合いの自称一級建築士であるクヴァルに頼む事にしたのでした。
「私に任せておけば大丈夫。少ない予算で立派な家を建ててみせましょう。」
 自称一級建築士クヴァルの太鼓判に、ユアンはホッと胸をなで下ろしたのでした。

 さて、そんなこんなで何とか三匹とも無事に家を建てる事が出来、新居での新たな生活をスタートさせました。
 そんなある日の事、腹を空かせた狼のマグニスがブタの匂いに釣られて森からやって来たのでした。
「ハッハッハッ、うまそうなブタ野郎が三匹もいやがるぜ。よし、このマグニス様が食ってやろう。」
 目の前にあるのは花が一杯の草の家と、立派なレンガ造りの家。そして無骨な感じの木の家でした。
 そこでマグニスはまず手頃な草の家から襲う事にしました。
 コレットの草の家は、マグニスの強烈な鼻息で一発で吹き飛んでしまいます。
「ハッハッハッ、今食ってやるぜ。豚が!!」
「あれ〜〜!!」
 コレットは慌てて隣の煉瓦の家に逃げ込みます。
「ユアン、こわいよ〜〜。」
「大丈夫だ、コレット。この家は(自称)一級建築士が建てた家だ。あんな鼻息では吹き飛ばん。」
 さすが煉瓦造りの家だけあります。マグニスがいくら鼻息を吹きかけてもユアンが言うように壊れたりはしませんでした。
 ところが、マグニスが鼻ではなく口から息を吹きかけ出すや否や、形勢は一気に逆転してしまったのでした。ユアンの家はその凄まじい暴風に耐え切れず、ついには吹き飛ばされてしまったのです。
 クヴァルは工事代を浮かして自分の懐に入れる為に、煉瓦を積み上げただけでセメントを使っていなかったのでした。そう、この家は見事なまでの欠陥住宅だったのです。
「ば、馬鹿な〜〜〜!クヴァルめ覚えてろ。きっと豚の痛みを思い知らせてやるからな〜〜!!」
 恨みの言葉を残して空の彼方へと消えて行くユアン。
 何とか飛ばされる事は免れたコレットは、最後の砦であるロイドの木の家に逃げ込みました。
「ハッハッハッ、馬鹿め。煉瓦でさえ持たなかったというのに、そんな木の家で耐えられる筈なかろうが!!」
 再び暴風を吹かすマグニス。
 しかし、いくらやってもその家はびくともしません。それもその筈。この家は名工ダイクとその弟子であったロイドの合作だったのです。
 業を煮やしたマグニスは煙突から入り込もうとしたのですが、体が太すぎてどうしても中へ入れません。ついにマグニスは諦めて帰って行ってしまいました。
 こうしてロイドとコレットは狼を撃退する事が出来、その木の家で末長く幸せに暮らしたという事です。
 めでたし、めでたし…


 一方、吹き飛ばされたユアンはとある屋敷に落ちていました。
「大丈夫ですか?」
「う〜ん…」
 呻き声と共に目を開けたユアン。
 そこには心配そうに覗きこんでいる緑色の髪をした美しい女性がおりました。
「あなたは?」
「私はマーテル。この屋敷のものです。大丈夫ですか?いきなり空から降ってきたものですから驚きましたわ。」
「それは失礼いたしました。よんどころない事情で吹き飛ばされてしまったもので…」
「それは大変でしたね。」
 そしてどこにも行く所がないユアンは、しばらくこの屋敷に滞在する事にし、その間にだんだんとユアンとマーテルは仲良しになっていきました。
 そんなある日の事。いつものように二人が仲良く語り合っていると、そこへ性悪のリーガル鬼が現れたのでした。
「これは美しい女人だ。私の嫁になるがいい。」
「止めろ!すぐにマーテルから離れろ!」
「なんだお前は。邪魔をする気か?ならばお前から食ってやろう。」
 そう言うとリーガル鬼は、なんとユアンを掴むと一気に丸飲みしてしまったのです。
「きゃ〜〜、ユアン!!」
 悲鳴を上げるマーテル。
 しかし、しばらくしてリーガル鬼は苦しみ出したのでした。胃の中でユアンが大暴れをしていたのです。
「こりゃ、堪らん!!」
 リーガル鬼はユアンを吐き出すと、這う這うの体で逃げ出して行きました。
「有難う、ユアン。…でも大丈夫?」
「ハッハッハッ、何のこれしき!」
 胸を張るユアン。
 なんともいいムードです。このまま行けばマーテルの婿養子におさまる事が出来るかもしれません。
 すると…
「あら、これは何かしら?」
 マーテルが拾い上げたそれは、鬼が落として行った小槌でした。何の気なしにそれを振るマーテル。するとその前に立っていたユアンはどんどん縮んで行き、三センチぐらいの身の丈になってしまったのです。
 鬼が残して行ったそれは、物を小さくしか出来ない出来損ないの打ち出の小槌だったのでした。
「あらユアン?……おかしいわ。どこへ行ってしまったのかしら。」
 ユアンは『ここにいる!』と声も限りに叫びますが、体が縮んでしまった彼は蚊の鳴くような声しか出せず、マーテルには全く聞こえないようでした。
「その気にさせといて急に消えてしまうなんて酷いわ!」
 とうとうマーテルは怒り出し、ノッシノッシと屋敷に帰ってしまいました。
 こうしてユアンは逆玉に乗りそこね、一人その場に残されてしまったのでした。


 「くっそ〜〜、ロクな目に遭わんではないか。」
 ユアンがブツクサと文句を言いながら歩いていると、そんなユアンの横を、大勢の女の子を引き連れた蟻のゼロスが通りかかりました。みんな食べ物やら衣類やらをたくさん抱えています。
「おい、何をしてるんだ?」
「何をしているって、決まっているでしょうが。俺達は働き者だから労働に励んでるのよ。」
「どう見ても働き者には見えないが…」
「あんたも遊んでないで働いた方がいいぜ。」
 ゼロスはユアンの言葉をさらりと受け流すと、似合わない台詞を言い残して女の子を引き連れ行ってしまいました。
「フン、何が働けだ。こうなったら自棄だ。私は今この時を愉快に過ごすのさ!」
 ユアンはゼロスの忠告を一蹴し、夏を面白おかしく過ごす事にしたのでした。
 しかし、やがて秋が過ぎ冬が来ると、途端に食べ物がなくなってしまったのです。
 腹を空かせて彷徨っていたユアンは暖かな光が灯されている一軒の家へと辿り着きました。
「お願いです。どうか食べ物を分けて下さい。」
 必死にドアを叩いて物乞いするユアン。中から出て来たのは夏に出会ったあのゼロス蟻でした。
「なんだあんたか…。だから言っただろう?ちゃんと冬に備えないで遊んでいるからそんな目に遭うんだよ。」
「反省してます。だからどうか食べ物を…」
「でもあんたの分までストックしてないんだよね。」
「そんな事言わすに何とか…」
「仕方ねえな……じゃあ、この料理をやるよ。さっきリフィルって人が料理していったんだけど、ほら、これって気味の悪い色をしているだろう。だから誰も食べようとしないもんだから残っていたんだ。」
「有難い!この際食いもんならなんでもいい!!」
 そう言ってゼロスが持ってきた料理を貪り食うユアン。
 しかし少しして、ユアンは突然苦しみ出したのでした。
「くっ!!?何だこれは……」
 そして泡を吹いて倒れてしまったのでした。
「あちゃ〜、やっぱ毒だったか…。でもこんな所に倒れていられると邪魔で仕方がない。向こうへ捨てて来るか。」
 ゼロスは溜息をつくと、気絶しているユアンを担いで何処かへ捨てに行ったのでした。


 気が付くとユアンは砂浜に倒れていました。
「何故私はこんな所に…。」
 ユアンはリフィル料理の毒の後遺症で体は元の大きさに戻ったものの、記憶喪失になっていたのでした。
 首を傾げながら辺りを見回していると、突然向こうの方から悲鳴が聞こえてきました。そちらへと目をやると、なんと亀が悪ガキどもに苛められているではありませんか。
「おい、お前達。止めないか!!」
 すぐに駆けつけ悪ガキを追い払うユアン。
「有難うございます。お陰で助かりました。私は亀のボータと申します。ぜひともお礼をしたいのですが。」
「礼など必要ない。当然の事をしたまでだからな。」
「いえ、それでは私の気が済みません。明日のこの時間、ここへもう一度来て下さいますか?素敵な所へご案内致します。」
「そうか?……そこまで言うなら有難くお受けするとするか。」
「ぜひそうして下さい。それでは明日。必ず来て下さいね。」
 ユアンの返事に、ボータ亀は嬉しそうに笑うと海へ帰って行きました。
「亀の恩返しか…ん、待てよ。これはひょっとして浦島太郎ではないのか?だとしたら行先は竜宮城か。」
 御馳走を頭に思い浮かべニンマリとするユアン。
「フッフッフ。悪くないな。私にもやっと運が向いてきたという事か。」
 この降って湧いたような幸運に、ユアンは上機嫌でスキップしながら今夜一晩の宿屋を探しに向かったのでした。
 その姿を離れた所から窺い見る影が三つ……それはジーニアス爺さんとプレセア兎、そしてレミエル狸でした。
「ほら、あいつですよ。あいつがお婆さんを殺したんです。」
「でもあの人は亀を助けていました。そんなに悪い人には見えません。」
「そ、そうだよね、プレセア。僕にもそんな人には見えないよ。」
「見かけに騙されちゃあいけません。ほら、よくテレビでやっているじゃないですか。まさかあの人が…ってね。第一私はこの目ではっきりと見たんですから。」
「そういえばそうだよね。ねえ、プ、プレセア。もしかしたらあいつは見かけによらず大悪人かもしれないよ。現に目撃者がいるんだし。ね、お願いだよ。お婆さんの仇を討ってよ。」
「………あまり気は進みませんが、ジーニアスがそう言うなら。」
「よし、話は決まった!私があいつをうまく誘き出しますから任せて下さい。協力は惜しみませんよ。」
 レミエルの言葉に、プレセアとジーニアスは頷いたのでした。
 それからしばらくして、ユアンの元をレミエルが訪ねて来ました。
「何だ、狸が何の用だ?」
「ええ、実はボータって亀さんから言伝を預かってきまして。」
「何、ボータだと?……で、なんだと?」
「ええ。なんでも急なアポが入ってしまって約束の時間には行く事が出来なくなったとかで、そこで時間を午前五時に変えて欲しいとの事でした。」
「午前五時!?……それはまた早い時間だな。だが都合が付かないのなら仕方がない。」
「それじゃあ、確かに伝えましたよ。」
「分かった。その時間に行く事にしよう。わざわざ済まなかったな。」
 ユアンと別れたレミエルはほくそ笑みました。
「ヘッヘッヘ…これでいい。あいつには悪いが、私の代わりに婆あ殺しの罪を被ってもらおう。」
 レミエルはユアンに濡れ衣を被せようとしていたのです。
 そうとは知らず、ユアンは翌朝時間通りに浜辺に現れました。しかし当然の事そこに亀の姿はなく、代わりに昨夜の狸が見知らぬ兎と立っておりました。
「ボータはどうした?」
「舟があれば済む事ですので、ボータさんの代わりに私達がご案内する事にしたのです。」
 そんな兎の説明に、ユアンはさして疑いを抱きませんでした。
「ふーん、そうか。で、この舟がそうなのか?やけにでかいな。」
「何しろ行き先が竜宮城ですから、大きめの舟を用意しました。」
「そうか、そうだな。やはりこれぐらいでないとお土産をたくさん積めないからな。」
 ウキウキと舟に乗りこむユアン。
「うむ。乗り心地もまずまずだな。」
「そうでしょう、そうでしょう。それでは行ってらっしゃいませ。」
 兎と狸に見送られ、ユアンは意気揚々と大海原へ乗り出して行きました。
 ところがユアンが乗った舟は、実は泥の舟だったのです。そうとは知らず沖へ行ってしまったユアン。その為、舟はだんだんと溶けて行き、ついには跡形もなくなってしまったのでした。
 こうしてレミエルの完全犯罪は達成され、あわれユアンは濡れ衣を着せられたまま海の藻屑と果ててしまったのでした。

 めでたし、めでたし。


−おしまい−



*****
「何が“めでたし、めでたし”だ〜〜!!全然めでたくないではないか!!」
 台本を叩きつけるユアン。
「だいたいなんだこれは!?何故途中からサスペンスに変貌するのだ!?何故私が殺されにゃならんのだ!」

「何故って、私がそう望んだからだよ。」

 突然に聞こえてきた聞き覚えのある声に、ギョッとして振り返るユアン。
「お、お前はユグドラシル!?……何故お前がここにいるんだっ!?」
「だってこの映画の陰の監督は私だからね。」
「へっ?…影の監督?」
 叩きつけた台本を拾い上げ、クラトスの名前の後ろにある( )内を目をこらして読むユアン。
「陰の…脚本・演出・監督……ユグドラシル!?」
「ほらね、ちゃんと書いてあるだろう?最初に確かめないお前が悪いんだよ。」
「だが、こんな掠れた字では…ていうか、何故こんな酷い事をするんだ!?」
「酷い事?…酷いのはお前の方だろう。お前がレネゲードのトップだと知った時、私がどれだけ傷ついたか…。これはお仕置きなんだよ。」
「裏切りならクラトスだって…」
「クラトスはいいんだ。ロイド達を許す事と引き換えに、お前を騙す事に協力してくれたし。」
「そんな……」
 すまなそうに俯いているクラトスを、恨みがましい目で睨み付けるユアン。
 クラトスは俯いているものの、その肩は細かく震えていた。

 もしかしてこいつ、笑ってるとか?
 そういえば、確かこいつはこの話を持ち掛けて来た時、“これは面白そうだと…いやもとい、遣り甲斐があると思ってな”と言っていたな。そう、こいつは確かに『面白そう』と言ったんだ……だとすればこいつにとっては交換条件なんて関係なかったんだ。こいつも喜んで手を貸したに違いない!

「そうそう、続編も作るつもりでいるから、その時も主演を頼むね。じゃあ、行こうか。クラトス。」
 手をつないで仲良く去って行く二人。

「くっそおおおおおお!!ユグドラシル、クラトス、お前ら二人とも絶対に許さんからな〜〜〜!!」
 しかしもうそこにユグドラシルとクラトスの姿はなく、ユアンの怒号は空しく響き渡っただけなのであった。


−ごちゃ混ぜ昔話 終−