※注意
1.元の話とは全く違う内容です。
2.クラトスがツバメになってます。
3.少しだけ下ネタが入ってます。
4.ロイド達が少々チンピラ化しています。

それでも大丈夫という方のみご覧ください。








幸福の王子


 ある日の事、クラトスと言うツバメが公園を通りかかると突然雨が降って来た。
「参ったな。どこか雨宿りする場所はないものか…。」
 見回すと隅にある小さな東屋の中に趣味の悪い服を着た像が立っている。あそこなら十分雨を凌ぐ事が出来そうだ。
 そこでクラトスは、像の台座に身を寄せると、しばらくの間雨宿りする事にしたのだった。
 ところが屋根が付いているにも拘わらず、何故かしずくがぽたぽたと頭の上に落ちて来る。怪訝に思い見上げてみると、なんと像が涙を流していたのだった。
「もし、何故泣いているのだ?」
「聞いてくれるか、ツバメよ。私は幸福の王子ユアンと呼ばれている。確かに私は生きている時、不幸とは無縁の存在であった。国民から絞り上げた税金で贅沢三昧。毎日のようにパーティーを開き、愉快に暮らしていたのだ。」
「…お前、見かけどおりの悪党だったのだな。」
「だが生を終え、こうして像となって四方を眺めていると、国民が如何に日々の暮らしに困っていたのかが分かり、私の張りぼての心がチクチクと痛むのだ。」
「…お前の良心は張りぼてなのか?」
「私は償いがしたい。生前、私が味わった幸福を皆に分け与えたい。ツバメよ、協力してくれないか?」
「何故私が…。まあ、手伝ってやりたいのは山々だが、生憎と私はこれから南国パラダイスに旅立つところでな。そうしなければ凍えて死んでしまうのだ。そういう訳だから、すまんが諦めてくれ。」
「協力してくれたらマグロをやろう。」
「何!マグロだとっ!?」
 目の色を変えるクラトス。
 何を隠そう、マグロはクラトスの好物であった。
 こうしてクラトスは、マグロに釣られて、ユアン王子の慈善行為を手伝う事にしたのだった。



「向こうの森にプレセアと言う、きこりの少女が住んでいる。これがまた親孝行で働き者の感心な子でな。そこでまず手始めに、その子の日頃の善行を賞して、斧を贈ろうと思うのだ。すまんが、生前私が使っていたこのダブルセイバーを少女の元へ届けてくれんか。」
「…しかしこれは形は似ていても斧ではないぞ。」
「刃が付いているのだ。同じような物だろう。」
「……」
「ほれ、早く持って行かんか。そうそう、私からのプレゼントだとちゃんと言うのだぞ。」
「名乗るのか!?普通こういう場合、匿名で贈るものだろう?」
「だって私からだと知ってもらわなければ寂しいではないか。」
「…そういうのを親切の押し売りと言うのだぞ。」
「煩いな!マグロが欲しかったら四の五の言わずにとっとと持って行け!!」
「…分かったよ。行けばいいのだろう。」
 短気な王子に急かされ、渋々とダブルセイバーを運んで行くクラトス。
 森の中では王子が言ったようにピンク色の髪をした少女がきこり仕事に励んでいた。
「もし、お前がプレセアか?」
「はい、そうですが、何か?」
「ユアン王子に頼まれ、お前へのプレゼントを持って来たのだ。」
「ユアンって誰ですか?」
 プレセアは本当に知らない様子である。
 クラトスは溜め息を突くと、
「…公園に像が立っているだろう。あれだ。」
「ああ、あの変な……しかしたかが石像のお使いをするとは、あなたも随分と奇特なツバメですね。」
「私だってマグロの事がなければこんな事はしたくはない。」
「はい?マグロ?」
「いいからお前は黙って受け取ればいいのだ。」
 そう言ってダブルセイバーを差し出すクラトス。
 それを見たプレセアは露骨に嫌な顔をした。
「こんな錆び切って刃が欠けている珍妙な刀はいりません。」
「そんな事言わずに受け取ってくれ。…なあ、頼む。」
 ここで断られてはマグロが貰えない為、クラトスはもう必死である。
 しかしプレセアは受け取る様子はなく、
「しつこいですね。もう私に構わないで下さい。」
と、作業に戻って行ってしまう。
「と、とにかく、渡したぞ。確かに渡したからな。」
 仕方なくクラトスはその場にダブルセイバーを置くと、逃げるように飛び去ったのだった。


「どうだ?受け取ってくれたか?喜んでいただろう。」
 戻って来たクラトスに、ユアン王子はニッコリとして尋ねてきた。
「いや、迷惑そうだったな。」
「そうかそうか、快く受け取ってくれたか。」
「いや…だから… (こいつの耳は都合よく聞こえるようにできているのか!)」
 呆れた目でユアンを見るクラトス。
 だがユアンはそんな視線は何のその、張り切った様子で言った。
「よし。では次にいくとしようか。」
「ちょっと待て。次とはどういう意味だ?あのダブルセイバーを運べばマグロをくれる約束ではなかったのか?」
「馬鹿だな。あんな一回だけのお使いで貰えると思っていたのか?よく考えてみろ。マグロだぞ?マグロは大きくて高価なんだ。それ相応の働きをしてもらわねばな。」
「……」
 言われてみればそれは尤もな事だったのでそれ以上反論できず、クラトスは嫌々ながらもユアンに言われるままに品物を運び続けたのだった。

 西に読む本がなく困っているハーフエルフの少年があれば、ユアンの愛読書を持って行き、『なんだよ。これ、エロ本じゃん!』とインディグネイト・ジャッジメントを食らわされ…。
 東に宝石を求めているレザレノの会長があれば、ユアンの目を持って行き、『こんな濁りきったガラス玉はいらん!』と牙連絶襲撃を食らわされる…。

 お陰でクラトスは次第にボロボロになっていった。
「すまない…もうそろそろ約束のマグロをくれないか?これでは私の体が持たない。」
「まだだ。もう少しだけ手伝ってくれ。」
「……」
「そんな不信感丸出しの目で見るな。あと二回手伝ってくれたらちゃんとやるから。」
「あと二回…本当だな?」
「ああ、本当だとも。それが終わったらマグロを持って、南国パラダイスにでも東京砂漠にでも、好きな所へ行くがいい。」
「…分かった。」
「よしよし。では次の獲物…いや、救いの手を差し伸べる相手だが、あっちの学校にあと一つ赤点を取ったら留年と言う、まさに崖っぷちの少年がいるのだ。その最後のテストを今日受けているのだが、どうも九九の問題で手こずっているようでな。そこでこのカンニングペーパーを持って行ってやって欲しいのだ。」
「…不正に手を貸せと?」
「そんな杓子定規に考えなくてもいいだろう?留年したら可哀相ではないか。人助けだよ、人助け。」
「……」
 クラトスは仕方なく紙切れを受け取ったのだが、その内容を見た途端、驚きに見開いた。
 そこにはこう書かれていたのである。

*( )内はクラトスが推測した訳
≪ユアン王子作成カンニングペーパー≫
 1×5=309(イチゴミルク)
 2×9=9(肉和牛)
 4×9=89(四苦八苦)
 7×8=88(菜っ葉は葉っぱ)
 9×4=34(串刺し)

「…これを持って行けと?」
「何か問題でも?」
「…これ、九九じゃないだろう。大体、4×9と9×4の答えが違う事自体おかしいではないか。」
「ツバメのくせに私の苦心の作にケチをつけるとは生意気な。私のする事に間違いなどあり得ない。お前は言われた通りに運んでいればいいんだよ。ほれ、とっとと行かんか。少年の名前はロイド。アホ面で赤い服を着ているからすぐに分かる筈だ。」
「どうなっても知らんからな。」
 またもや渋々と紙切れを運んで行くクラトス。
 ロイド少年は嬉々としてカンニングペーパーを受け取った。

 可哀相に。これでこいつも留年確定だな。

 クラトスは、笑顔で答えを書き写しているロイドを憐みの目で見やるとユアンの元へ戻ったのだった。



「どうだ?喜んでいただろう。」
「ああ。この後に待ち受けている悲惨な運命も知らずにな…。」
「何をわけの分からん事を言っているのだ。まあいいか。で、次の仕事だが、そっちの家にパーティーに着て行く服がなくて困っている、コレットと言う少女がいるのだ。そこでこの私の服をあげようと思う。」
「その服を?しかしそれはどう見ても男物ではないか。相手は少女だろう?」
「男物だろうが女物だろうが、着てしまえば同じだろう。金糸をふんだんに使った高級な服だし、きっと喜んでくれる筈だ。」
「そういう問題では…。第一その服を脱いだら、お前、素っ裸になってしまうではないか。」
「人助けの為だ。」
「……」
 クラトスには、たとえ持って行ったとしても少女が喜ぶとは到底思えなかったが、今までの事からこの頑固者の王子には何を言っても無駄だということが分かりきっていたので、言われたとおりに服を脱がすとそれを少女の元へ運んで行ったのだった。
 そして案の定、コレットは服を見た途端、こう言い放ったのである。
「こんな趣味の悪い服、いらな〜い!」
「気持ちは分かるが、王子の好意なのだ。ここは黙って受け取ってはくれんか。」
「だってこんなの着て行ったらみんなに笑われちゃうもん。仮装パーティーじゃないんだよ。これを着るぐらいなら、まだこっちのおばあさまのお古の方がマシ〜。」
「そんな事言わずにマグロの為に我慢してくれ。」
「え?マグロって?」
「とにかく受け取ってくれ。ではな。」
 無理矢理に服を押し付け飛び立って行くクラトス。コレットの呼びとめる声が聞こえたが、無視する。
 なにしろ、これさえ完了させればマグロが手に入るのだ。もうクラトスの頭の中には『マグロ』という三文字しかなかったのだった。



「行って来たぞ。」
「うむ、御苦労。どうだ、人に幸せを与えると言うのは気分がいいものだろう?なんかこう、心が洗われる気がするな。」
「いや、誰も幸せになっていないから。」
「ん?何か言ったか?」
「いいや、別に…。そんな事よりこれで私の仕事は終わりの筈だな。約束のマグロを貰おうか。まさか反故にする気ではあるまいな?」
「私を誰だと思っている。そんな事するわけないだろう。マグロなら台座の中に入っている。持って行くがいい。」
「そうか。それでは遠慮なく。」

 これでこのクソ王子ともようやく縁を切る事が出来る…。

 クラトスはいそいそと台座からマグロを取り出した。
 ところが…
「何だ、これは?」
「何だって、マグロだろうが。見て分からんか。」
「マグロはマグロでも、これはぬいぐるみのマグロではないかっ!!」
 怒りのあまり、ぬいぐるみを投げつけるクラトス。
 しかしユアンは涼しい顔で、
「そう、ぬいぐるみだ。等身大のな。特注ものだから高級感が漂っているだろう。」
「何が高級感だ!こんなのサギだ!」
「サギ?…お前はツバメだろうが。」
「その鷺じゃない!詐欺だ!!…って、この際そんな事はどうでもいい。よくも人を…いや、ツバメをコケにしてくれたな!」
「何を怒っているのだ。私はお前を騙してなんかいないぞ。それだってマグロには違いないだろうが。私は生のマグロをやるだなんて一言も言っていないのだからな。」
「くっ…屁理屈を…」
 クラトスは悔しそうにユアンを睨み付けるが、当のユアンは一向に悪びれる様子はなく、大きなクシャミを一つすると、
「しかし何だな。素っ裸というのはやはり寒いな。」
「だから忠告したではないか。一張羅を他人にあげてしまうからそういう目に遭うのだ。」
「人助けの為だから仕方がなかったのだ。とは言え、これでは寒くてかなわんな…。そうだ!すまんが、そこの屋敷から服をくすねてきてくれんか。」
 クラトスは目を見開いた。
「…この上、泥棒までしろと言うのか?」
「あの家は神子と言う高位の家柄で金持ちなんだ。服の一着ぐらいなくなったところで屁とも思わないだろう。」
「そういう問題ではないだろう、この極悪人がっ!!私は盗みなど絶対に嫌だからな。大体私の役目はもう済んだ筈だ。私は早く南国パラダイスに行きたいのだ!!」
 叫ぶクラトス。
 こう言ったところでこの王子の事、きっと何だかんだ言って引き止めてくるに違いない。だがクラトスはこれ以上いいように使われるのはご免だった。何を言われてもはっきり断るつもりでいたのだ。
 するとユアンは意外にも悲しそうに目を伏せるとこう言ってきたのだった。
「そうか…そうだったな。お前は旅の途中だったのだっけ。悪かった。もういいから、早く行くがいい。」
「え?」
「手助けしてくれて有難うな。どうか気を付けて。旅の無事を祈っているよ。」
「あ、ああ…ではな。」
 予想外の反応に戸惑いながらも、空へと舞い上がって行くクラトス。
 その姿をユアンは微笑みを浮かべながら、見えなくなるまで見送っていた。


 もちろんクラトスはそのまま旅立つつもりだった。
 しかし離れれば離れるほど、何故かあの寒さに震えているユアンの姿が目の前に浮かんできてしまい、どうにも気になって仕方がない。別れ際に見せた寂しげな笑みも忘れられなかった。

 あいつ…もしかしたらそんなに悪い奴ではないのかもしれない。

 散々酷い目に遭わされたと言うのに、我ながらとんだお人好しだと思う。
 だが、このまま放っておく事はどうしても出来ず…結局クラトスは小さく舌打ちすると戻って行ったのだった。

 再び戻って来たクラトスを見て、驚くユアン。
「どうした?忘れものか?」
「…いや…その…」
「ああ、このマグロのぬいぐるみか?やっぱり欲しくなったのか。これはもうお前の物だからな。遠慮なく持って行け。」
「違うっ!そんなもん欲しくはないわ!!……そうではなく、その…」
「?」
「いやな…その…やはり私は盗みをするのは嫌だ。だがお使いならやってやらん事もない。だから何か金目の物をくれないか?それと服を交換してくるから。」
「!!…行ってくれるのか?しかし早く旅立たねばお前は凍え死んでしまうのだろう?」
「これが最後だ。服を持ってきたら、すぐに旅立つ。このまま寒さに震えているお前を放って旅立っては、どうも気分が悪くてな。立つ鳥跡を濁さずと言うだろう。」
「有難う!…しかし金目の物と言っても私にはもう何も残っていない。」
 ユアンはしばらく考え込んでいたが、やがてハッと顔をあげると、
「あった!あったぞ!一つだけ金目の物が残っていた。」
「ほう、それはよかった。で、どこに?」
「あるではないか、お前の目の前に。嗚呼、私は男に生まれてきて良かったとつくづく思うよ。」
「…それって、もしかして…」
 恐る恐るユアンの股間に目をやるクラトス。
 ユアンはニッコリとして頷いた。
「…ちょ、ちょっと待て。これは金は金でも金目の物とはちょっと違うような気が…」
「何を言う。立派な金ではないか。ほれ、早く持って行け。」
「いいのか?…と言うか、あまり触れたくないのだがな。」
 クラトスは躊躇したものの、ユアンに急かされ、仕方なくそれをもぎ取ると神子の屋敷へ向かったのだった。



 その屋敷の主ゼロスは実に軽い男であった。事情を説明するクラトスの話を半分も聞かない内に二つ返事で承知してしまったのだ。
「細かい事はいいからさ。つまり服が欲しいって事だろう?そこにあるからどれでも好きな物持っていきなよ。」
「いいのか?有難い。ではこれを代金の代わりに受け取ってくれ。」
 そう言って、例の物を差し出すクラトス。
 それを見たゼロスは眉をひそめた。
「…何それ。」
「何って、金(玉)だ。立派なものだろう?」
「そんなおぞましいもんいらね。」
「やはりそうか。しかし生憎と他に金目の物がなくてな。申し訳ないがこれで我慢してくれないか?」
「金目の物って……悪いけどこんな物、一文の価値もないよ。」
「それは…」
「だからさ、金なんていらないって。俺様は金持ちなんだから、服の一着や二着、どうってことないんだからさ。」
「いや、そういうわけにはいかぬ。」
「律義と言うか、頑固だね。でもこんなの貰ってもゴミにしかならないからな。まさか置物にするわけにいかないし。こんなの部屋に飾ったらうなされそうだよ。じゃあ、こうしない?そんなに金を支払いたいのなら、あんたが体で払ってよ。よく見りゃあんたってかなり俺様好みの顔してるからさ。」
「え?」
「な〜んて冗談だよ。いくらなんでもあんな石像の為にそんな事、できっこないもんね。」
「……」
「もういいじゃん。さっきも言ったように俺様の方では全然構わないんだからさ。意地を張らずにタダで持って行けよ。」
 もう話は済んだとばかりに背を向けるゼロス。
 だがクラトスはそんなゼロスにこう呟いたのだった。
「……いや、払う。」
「!?」
 今度はゼロスが驚く番だった。
「今…なんて?」
「私が体で払うと言ったのだ。」
「あ、あんた、馬鹿じゃねえの!あんな石像の為になんでそこまでするんだよ!」
「さあな。理由なんて分からん。確かにあいつは調子がよくて我儘で、自惚れ屋で、本当に頭にくる奴だ。だがどこか放っておけなくてな。なにより一宿一飯の恩がある。こうしてあいつに捉まったのも何かの縁だろう。どうせ今から旅立ったところでもう南国パラダイスまでは辿り着けんだろうし、それなら最後にあいつの為に何かしてやろう…そう思ったのだ。」
「……」
「さあ、煮るなり焼くなり好きにしてくれ!!その代わり王子にはちゃんと服を届けてやってくれよ。」
 そう言って床に大の字になるクラトス。
 ゼロスはしばらくの間そんな彼を眺めながら考え込んでいたが、やがてぽつりと言った。
「もしかしてそれって恋心ってやつ?」
「!!ば、馬鹿を言うな!あんな奴に恋などするわけないだろうが!」
「そっか。それじゃあ、単なる友情って事ね。安心した。」
「え?」
 きょとんとした様子のクラトスを見て、ゼロスはくつくつと笑うと、
「ホント、あんたって面白いツバメだね。まあとにかく起きなって。そんな真似しなくても服はやるよ。元々俺はあんたを焼き鳥になんかするつもりないんだからさ。言っただろう。俺はあんたが気に入ったんだ。だからあんたはただ、これからずっと俺様の傍にいてくれればそれでいいんだよ。」
「しかしそれだけではやはり服の代金にならないのでは…」
「価値なんてものは人によって変わってくるものだ。俺様にとってあんたは服一着じゃ十分お釣りがくるぐらいの存在なわけよ。いや、そもそもそんな事を物と比べる事自体、ナンセンスな話なんだよね。で、あんたはどうなわけ?」
「?…どうとは?」
「あんたは俺の事をどう思っているのかってコトだよ。」
「…よく分からん。まだ会ったばかりだし…」
「そりゃそうだ。」
 ゼロスは笑い出した。
「確かに会ったばかりで、あんたは俺の事、まだな〜んにも知らない。そしてそれは俺も同じってわけだ。あんたに一目惚れしちまったけど、まだあんたの事はよく分かっていないもんね。でもさ、それでいいんじゃないかな。これからはずっと一緒にいるんだから、少しずつ理解して行けばいい。でしょ?それにここにいれば寒さに震える事もないし、あんたも無事に冬を越せるってわけよ。あんたにとって悪い話じゃないっしょ?」
「それはまあ…。だが、マグロは?」
「へ?マグロ?」
「…マグロはあるのだろうか?その…ぬいぐるみなんかではなく食べられる本物のマグロの事だが…」
「ふ〜ん、マグロ、好きなんだ。」
「あ、ああ、まあ…。やはり無理だろうか。高価だしな…」
「いいや。お望みなら好きなだけどうぞ。」
「!!本当か!?」
「もちろん!何度も言うように、俺様は金持ちだからそんなのなんでもない事だよ。」
 クラトスは心底嬉しそうな笑みを浮かべた。
「じゃあ、これで商談成立って事でいいね?」
 クラトスがコクリと頷くのを見て、ゼロスは笑みを浮かべるとクラトスを優しく抱きあげた。
 見詰め会う二人。(一人と一羽)
 そんないいムードになったその時だった。

「ぎゃあ〜〜!」

「?…何だ?」
「どこかの酔っ払いが騒いでいるんでしょ。気にしない、気にしない。」

「助けて〜〜!殺される〜〜!!」

 この二度目の悲鳴でようやく声の主に気付いたクラトスはハッとして顔を上げた。
「!!あれはユアン王子の声だ!いかん、すっかりあいつの事を忘れていた。」

 二人が急いで公園へ駆け付けると、ユアン王子は数人の者達にボコボコにされているところであった。
「お願いだ、助けてやってくれ。」
「……ホント、あんたってお人好しなのな。」
 クラトスに縋り付かれ、溜め息を突きながらも騒動の中心に入って行くゼロス。
「おい、お前ら、もう止めろ。それだけやりゃ、気が済んだだろ。」
「冗談じゃねえ。こんなんじゃ、まだまだ飽き足らねえよ!俺はこいつの所為で留年しちまったんだぞ!」
「私は錆びた変な刀を押し付けられました…。」
「私は宝石と称してガラス玉を。」
「僕にはエロ本なんかを持って来た。」
「私は超趣味の悪い服をおいていかれたよ〜。」

 ありゃま〜、こいつ、彼方此方で悪さ(?)していたんだ…。

 そう、その連中はユアンが幸せを運んだつもりでいたロイド達であった。
 ロイド達の文句は続く。
「俺達だって最初からこんな事するつもりはなかったさ。ただ苦情を言いに来ただけなんだ。でもそうしたら、こいつ、素っ裸で立っているじゃんか。」
「裸体像を否定するつもりはありませんが、この像に限っては卑猥としか感じられません…。」
「うむ。美しさも気品も全くないからな。この美しい公園には似つかわしくない姿だ。」
「あまりにも低レベルだよね。」
「だから正義の鉄槌を下したんだよ〜。」
 再びボカスカとやり始める五人。
 ゼロスは五人の言い分に妙に納得してしまっていたのだが、背中にクラトスの視線を感じ、慌てて割って入った。
「ちょっ、止めなさいって。もうすでに見事なぐらいバラバラじゃんよ。それ以上やったら粉々になっちゃうっしょ。」
「いいじゃんか。むしろその方がさっぱりする。」
「だよね〜。」

「……」
 ここでついにゼロスは奥の手を使う決意をする。
 正直あまり使いたくはなかったのだが、この際止むを得ない。こうでもしなければこの連中、いつまででもユアン王子をいたぶり続けるだろう。

「いいから止めなさいっ!これは神子としての命令だ!!」

 案の定、この一言は絶大な効力を発揮した。
 王の次に偉いと言われている神子の命令とあっては、さすがにそれ以上続ける事は出来ず、ロイド達は舌打ちすると渋々引き揚げて行ったのだった。

 その姿が向こうへ消えると、クラトスはすぐにユアンに駆け寄った。
「嗚呼、哀れな姿になってしまって…。私がもっと早く戻っていたらこんな事にはならなかった。私がお前を殺したようなものだ。許してくれ〜〜!」
 バラバラになったユアンに縋り付き、泣くクラトス。
 すると…
「あれ?…ちょっと待って。なんだこりゃ。」
 ゼロスが散らばった破片の中に、妙な物を見付けたのだった。
 拾い上げてみると、それはハート形をした張り子細工であった。
「!!それはユアン王子の心臓だ。」
「心臓?…言われてみればハート形だし、トクトク動いているね。」
「…まさか本当に張り子細工だったとは。」
「しかも無傷だぜ。驚いたな。石の体がこんなにバラバラにされちまったと言うのに、張り子の心臓が無事だなんて奇跡としか言いようがない。」
「と言うことは、まだ死んでいないって事か?何だ、泣いて損した。しぶとい奴だな。」
「……あんた、本当に王子の無事を喜んでる?」
「何を言っているのだ。もちろん喜んでいるとも。そんなの当たり前だろう。」
「…ま、いいけどね…。で、どうする?心臓が無事なんだから新しい体さえつくれば王子は復活できるよ。尤も、前と全く同じってわけにはいかないけどね。うちの庭に立てればもう襲われる事もないし。」
「本当か!?ぜひお願いしたい。なにしろ心臓だけでは気味が悪いからな。」
「気味が悪いって…」

 どうもこのツバメの考えている事は分からない。
 言葉尻だけとると、ユアン王子の事を心配しているとは思えないんだけど。
 単に口が悪いだけなのか、はたまた天然なのか…。

 色々と浮かんではくるものの、しかしそれは今ここで考えていても仕方がない事で…
「…分かった。仰せの通りに致しましょう。」
 ゼロスは再び溜め息を突くと、ユアンの心臓を持って帰宅したのだった。


 その日からクラトスはゼロスと共に暮らすようになった。
 以来、皮肉屋だった神子の性格がすっかり丸くなった事もあって、クラトスは町の人達にも大切にされながら、幸せな日々を送ったと言う。

 そしてユアンは…。
 こちらは姿を小便小僧に変えられ、ゼロス邸の庭に佇んでいた。
 まあ幸せ一杯とは言えないまでも、安穏に暮らせるようになったのだった。

 めでたし、めでたし。


−幸福の王子 終−




※これはオスカー・ワイルド作『幸福の王子』を元にしております。
原作を読んだ事がなく、知りたい方は、下記URLにてご覧下さい。

http://www.hyuki.com/trans/prince.html
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