トマト太郎 旅立ち編
むか〜し、むかしのそのむかし。とある山にジーニアスとプレセアという正直者の老夫婦が住んでおりました。
老夫婦は、プレセアが山で伐採した木で熊の置物を作ってそれを町で売り、その間に、手に何も職がないジーニアスが家事一切をやるという毎日を送っておりましたが、その暮らしは決して楽なものではありませんでした。
「ジーニアス、最近は私の作る熊の置物も皆に飽きられてしまい全く売れなくなってしまいました。私達には老後の面倒を見てくれる子供もいませんし、このままでは夫婦揃って首を吊るしかありません。翌日の新聞には『哀れ…老後を悲観した夫婦が心中!!』という記事が一面を飾ってしまうでしょう。」
「プ、プ、プレセア、大丈夫だよ。僕達には深い深い愛がある。愛があれば貧乏なんて…」
「ジーニアス、愛ではお腹が一杯にはなりません。今私達に必要なのは生活費です。」
「プ、プ、プレセア。それじゃあさ、明日からは僕も剣玉の大道芸に立つよ。大丈夫、それで夫婦二人、何とかやっていけるよ。」
「お気楽ですね、ジーニアス。あなたの剣玉なんて、見て喜ぶ人がいると思いますか?石礫を投げられるのがオチです。」
「……」
「ああ、せめて私達に可愛い子供がいれば!そうすれば老後は安心でしょうに…」
「プ、プ、プレセア。そ、そ、それじゃあさ、今夜二人で励もうよ。」
真っ赤になってそう言うジーニアスを、プレセアがジロリと見た。
「ジーニアス…私達は老夫婦なんですよ。土壌はともかく、それに蒔く種が切れていたのでは子供はできません。」
「……」
「とにかく、今後の事をよく考える必要がありそうです。養子をもらうか、それとも町へおりて新たな職を求めるか…」
プレセアはそう言って大きな溜息をついたのでした。
そんなある日の事でした。
いつものようにジーニアスが川で洗濯をしていると、川上からドンブラコッコと巨大な赤い物体が流れて来たのでした。あまりに事に腰を抜かさんばかりに驚いたジーニアスでしたが、とりあえずそれを拾い上げると、急いで家に戻ったのでした。
「…トマトですね。」
「プ、プ、プレセアもそう思う?そ、そ、そうだよね、これはどう見てもトマトだ。」
「大きいですね…」
「新種なのかな?僕もこんな大きいトマトは初めて見るよ。」
「美味しそうです…」
「プ、プ、プレセア、こんなのを食べる気なの?止めた方がいいよ。お腹をこわしちゃうよ。」
だがプレセアはすでに斧を振り上げておりました。
「行きます!!」
ドスッ!!
“ぐぎゃあああああああああああ!!!”
「「?????」」
突如響き渡った悲鳴に、首を傾げるプレセアとジーニアス。
見ると、真っ二つになったトマトの中に、驚愕の表情を浮かべた鳶色の髪の男が立っていたのでした。
「こ、こ、殺す気か!?危うくトマトもろとも真っ二つになる所だったぞ!」
ドキドキしている胸を抑えながら老夫婦を睨み付ける男。
「…人間です。」
「…そうだね、人間だね。どうしてトマトの中に人間が?」
「昔、聞いた事があります。川で拾った桃の中から可愛い男の子が誕生し桃太郎と名付けられたそうです。そして成長したその子はやがて鬼ヶ島へ鬼退治に行き、そこで強奪したお金を元手におじいさんとおばあさんと末長く幸せに暮したという…」
「強奪しちゃったの?すごいね!」
「でもこの人は『可愛い』という形容詞からはかけ離れています。」
「どう見ても大人だしね…。でもさ、トマトは僕が拾ったんだし、そこからこの人が生まれた訳だから、その桃太郎って話と同じだよね。」
「そうです。ですから私達もお金持ちになれるかもしれません。この人は『可愛い男の子』ではありませんが。」
「何を二人でこそこそと話しているのだ!?」
「あなたは桃太郎さんですか?」
ジーニアスの問いに首を傾げる男。
「桃太郎?なんだそれは…。私の名前はクラトスだ。何故トマトの中にいたのかは聞かんで欲しい。私とて分からんのだから。」
「でも、鬼退治をして僕達老夫婦を末長く幸せにしてくれるんでしょう?」
「鬼退治?…そんな事は知らんな。それにお前等のどこが老夫婦なんだ、笑わせるな!!どう見ても子供のままごとにしか見えんではないか。トマトから出してくれた事は感謝するが、私にはお前達を扶養する義務はない。という訳だから、気の毒だが末長く幸せにという事にはならんだろうな。それじゃあな、私も忙しいのでこの辺で失礼させてもらう。」
そう言って逃げ出そうとするクラトスの腕を掴んで引き戻すプレセア。
「助けてもらったお礼もせずに逃げるつもりですか?そうはさせません。あなたには是が非でも鬼退治に行って貰わねば、物語りが成り立たないでしょう。ちゃんと衣装も用意してあるのです。」
プレセアはニッコリと笑うと、嫌がるクラトスに無理矢理衣装を着せ始めました。
「や、やめろ!物語りなんて、そんなのは私に関係ない…おい、やめんか、やめろったら!!」
必死に抵抗するクラトスでしたが、プレセアの力は毎日木の伐採で鍛えているだけに物凄く、まんまと着せかえられてしまったのでした。
「凛々しいお姿です。名前は…そうですね、トマトから生まれたのだからトマト太郎でいいでしょう。」
「私の名前はクラトスだ!!!」
「それでは、張り切って鬼退治に行ってらっしゃいませ。よもや断ったりはしませんよね?あなたはそんな『恩知らず』ではないでしょうから。」
「……」
二人の老夫婦に揃って笑顔でそう言われてしまうと、さすがにそれ以上断る事は出来ませんでした。
こうしてクラトス…いや、トマト太郎は、プレセアとジーニアスの盛大な見送りを受けながら、鬼退治へと出かけて行ったのでした。
さて鬼退治に出かけたトマト太郎は、プレセアが持たせてくれた『鬼退治マニュアル』片手に旅を続けておりました。この本によると、どうやら鬼退治には犬と猿と雉のお供が必要のようです。
「いかに獣とはいえ、今時きび団子ごときで家来になってくれるとは思えぬが…。第一私は動物と会話する特技など持ち合わせておらん。はてさて、どうしたものか…」
するとその時、考え込んでいるトマト太郎の前をノイシュが通りかかりました。
「む?…あれは犬に見えん事はないな。よし、とりあえずあれで代用しておこう。」
さっそく勧誘すべく、トマト太郎はノイシュに近付いて行きました。
「おい、そこを行く犬よ。」
その声を耳にしたノイシュは、犬とは誰の事だろうとキョロキョロと周りを見回しましたが、ここには自分の他には誰もおりませんでした。
「…もしかして私の事でしょうか?」
「お前の他に誰がいる。」
「…私は犬ではありません。」
「つべこべ言うではない。私が犬だと言ったら、その時からお前は犬なのだ。」
「そんな乱暴な…」
「文句を言うな!これからお前は私と共に鬼ヶ島に鬼退治に行くのだ。」
「お、お、鬼退治!!」
ノイシュは鬼の姿を想像し、プルプルとその巨体を震わせました。
「とんでもございません。私は魔物が大の苦手で…」
「ただとは言わん。このきび団子をやろう。」
そう言ってトマト太郎が差し出したきび団子を、ノイシュはクンクンとやっておりましたが、すぐに顔をそむけました。
「どうやら私の好物ではないようです。こんな物をもらっても嬉しくも何ともありませんね。こんなのにつられて鬼退治に同行するほど私は馬鹿ではありません。」
(やはりそうだろうな。そう言われるとは思っていたが…)
しかし、トマト太郎は諦めませんでした。
(とにかくマニュアル通りに話を進めなければ…。でなければグッドエンディングを迎えられんのだ。)
是が非でもグッドエンディングを迎えたいトマト太郎は、ノイシュを脅しにかかりました。
「そんな事を言っていいのか?お前は『魔を狩るもの』なのではないか。こんな時に世の為人の為に役立たんでどうするのだ。」
「私はまだそこまで進化しておりません。ですから…」
更に断ろうとしたノイシュでしたが、トマト太郎の顔を見て続く言葉を飲み込みました。
トマト太郎がこの世のものとは思えないような恐ろしい表情で睨んでいたのです。
「……分かりましたよ。行きゃあいいんでしょ、行きゃあ。」
ノイシュは渋々と同行を了承しました。まだこんなところで死にたくはありませんでしたから…。
すると、トマト太郎は途端に表情を和らげました。
「うむ、よろしい。やはり犬は素直でなくてはな。」
「ですから私は犬ではないんですったら!!」
しかしトマト太郎はノイシュの抗議をさらりと流し、マニュアル本を取り出すと『お供の犬』と書かれた所にチェックを入れたのでした。
「よし、これで第一の課題はクリアした!よし、先を急ぐぞ!」
「次は猿か…。」
猿、猿、猿…と辺りを見回していたトマト太郎は、そこにロイドの姿を発見しました。
「あれは…猿ではないな。まあ、しかし知能指数から考えれば同じようなものだろう。猿はあれで代用する事にしよう。」
次のターゲットをロイドへと絞ったトマト太郎は、ゆっくりと彼に近付いて行きました。
その気配に気付き振り返ったロイドは、トマト太郎の姿を見ると首を傾げながらこう言いました。
「あれ、父さん?今までどこに行っていたんだよ。急にいなくなっちまうから心配していたんだぞ。」
「今の私は父さんではない。トマト太郎だ!」
「はい?」
「ロイド、暇そうだな。暇なのだろう?暇だと言え!」
「ん?…ま、まあ、暇だけどさ。一体なんなんだよ。」
「これから私は鬼ヶ島に鬼退治に行かねばならんのだ。お前も一緒に来い!」
「はぁ〜?鬼退治?なんだよそれ。なんで俺がそんな事に付き合わなくちゃならないんだ?」
「付き合ってくれたら、きび団子をやるぞ。」
ロイドは、トマト太郎が差し出したきび団子を見て眉をひそめました。
「そんなもん、いらね。肉をくれるっていうなら考えない事もないけど。」
「肉は持っておらぬ。」
「じゃあ、諦めてくれよ。俺、これからリフィル先生に出された宿題をやらなきゃならないから忙しいんだ。」
「今まで宿題などやった事もないくせに、突然に何を言うか!!」
「俺、勉強に目覚めたんだ。やっぱ勉強は大切だろう?父さんもそう言っていたじゃないか。」
(このガキ!人の言葉を逆手に取りやがって。)
トマト太郎は頭に来ましたが、それをぐっとこらえました。
そして次の手である泣き落としにかかったのです。
「お前は困っている父親を見過ごしにするのか?お前はそんな薄情な子だったのか!」
「だって、今のあんたはトマト太郎なんだろう?俺の父さんはトマト太郎なんて奴じゃないもん。」
「……そうか、お前はそういう奴だったのだな。もういい、頼まん!」
トマト太郎はそう言って空を見上げると嘘泣きを始めたのでした。
「アンナよ…だいぶ待たせてしまったが、私はもうすぐお前の元へいくよ。薄情な息子に見捨てられ、鬼に殺されてしまうのだ。」
アンナの名前を出されては、さすがのロイドも無下には出来ませんでした。
「だ〜〜〜〜っ、分かったよ、分かりましたよ!付いて行ってやりゃあいいんだろ!」
途端にコロッと表情を変えるトマト太郎。
「それでこそ、私の自慢の息子だ。」
「だから俺はトマト太郎なんて奴の息子じゃねえって!」
しかしトマト太郎はロイドの抗議をさらりと流し、マニュアル本を取り出すと『お供の猿』と書かれた所にチェックを入れました。
「よし、これで第二の課題もクリアした!あとは雉だな。よし、先を急ぐぞ!」
さて、トマト太郎のお供集めも残るは雉一羽だけとなった訳ですが、これが一番の難問でした。何故なら雉の代わりになる者など、どう考えても思い浮かばなかったのです。
「さて困った…どうしたものか。雉…雉…雉…雉と言えば鳥だよな。鳥といえば羽がなければならん。」
そこまで考えたトマト太郎は、ある事を思い付きハッと顔をあげました。
「そうだ、あいつがいい!あいつを誘うとしよう!」
「で?なんで私がお前の供などしなくてはならんのだ?」
トマト太郎がやって来たのはユアンの所でした。
黙ってトマト太郎の話を聞いていたユアンでしたが、トマト太郎が話を終えた途端、あからさまに嫌そうな表情を浮かべたのでした。
「雉といえば鳥だ。鳥には羽がある。お前にも羽があるだろう?」
「えらく短絡的な発想だな。だが、生憎と私にはお前の供にならねばならん義理などない。用がそれだけならば帰ってくれないか。私はレネゲードの事で忙しいのだ。」
「お前は私の友だと言ってくれたではないか!」
「ああ、そう言った。だが、私が言ったのは『友』であって『供』ではない。字が違うだろうが、字が!!」
「同じようなものだろう。」
「全然違う!!…私はお前の家来になる気などないからな!それに羽のある奴なら他にもいるだろう?例えばユグドラシルとか。」
「あいつは私を苛めるから嫌だ。」
「別に苛めている訳ではないと思うがな…。それならゼロスとか?」
「ナンパされるから嫌だ。」
「レミエル。」
「おっさんは嫌いだ。」
「お前もおっさんだろうが。」
「失礼な!私はまだ28歳だ!!」
「…微妙な位置だな。それならコレットはどうだ?」
「ドジをかましそうだから嫌だ。あれでは命がいくつあっても足らん。」
「……」
「だからお前しかいないのだ。なあ、頼むよ。きび団子をやるから。」
「そんなものいらん。」
「じゃあ、これならどうだ?」
そう言ってトマト太郎が取り出したのは、マーテルのブロマイドでした。
「!!…お前、それをどこで!?」
「ミトスからもらったのだ。ユアンにやるぐらいならクラトスにあげるよと言ってな。」
ブロマイドを凝視するユアン。
「弟のミトスが持っていたものだからな。そんじょそこらでは手に入らぬ程のレアものだぞ。欲しいか?欲しいだろう。」
コクコクと頷くユアン。
その口からは今にも涎を垂らさんばかりでありました。
「私の供をしてくれたら、やらん事もないが?」
「いや…しかし…」
未だ迷っている様子のユアンから、トマト太郎はブロマイドを取り上げると、
「そうか。それは残念だ。では他を当たるとしよう。」
「ま、ま、待て!!」
そのまま出て行こうとするトマト太郎を見て、ユアンはようやく折れたのでした。
「分かった。分かりましたよ。お前の供になってやればよいのだろう。くっ…甚だ遺憾ではあるが、これもマーテルのブロマイドの為だ。仕方がない…」
ガクリと肩を落とすユアンを前に、ニヤリとほくそ笑むトマト太郎。
「それでこそ私の友だ!有難う、ユアン。」
「こんな事なら、お前の友だなどと口にするのではなかった…」
しかしトマト太郎はそんなユアンの嘆きをさらりと流すと、マニュアル本を取り出し最後の項目『お供の雉』と書かれた所にチェックを入れたのでした。
「よし、これで全ての課題をクリアした!あとは鬼退治だな。よし、張り切って行こうではないか!」
こうしてトマト太郎は無事マニュアル通りにお供を従える事が出来ました。
そして鬼退治を完遂すべく、三匹のお供を従え、はるか鬼ヶ島を目指して旅立って行ったのでした。
−トマト太郎 旅立ち編 完−
※トマト太郎の前編に当たるお話。改めて読み直してみると、クラトスがかなり黒くなってますね…。「鬼退治編」ではもっと黒くなってます。なんだかうちの拍手文に登場するクラトスはみな、腹黒くなっている気がするのですが、私の気のせいですかね?