悲鳴の出所は一階の居間であった。クラトスが駆け付けた時ロイドはもうそこに来ており、コレットと二人で床の一点を凝視していた。
「あ、父さん、あそこにゴキブリが…」
「古い家だからな…しかし我が家にゴキブリが出現するとは主夫の沽券に関わる一大事だ。ただちに成敗せねば!」
「俺も手伝うぜ、父さん!」
 剣を抜き構えるロイド。
「私も手伝うよ!」
 遅れじとコレットもチャクラムを手に横に並ぶ。

「急くなよ。隙が出来る!」
「これなら簡単だな!!」
「任せてネ!」

 戦闘突入。ロイドが切りかかっている間に、クラトスがジャッジメントを唱え始める。逃げるゴキブリ。
「くそ!素早くて攻撃が当たらねえ。」
「まかせろ!ジャッジメント!!」
 クラトスが詠唱を終え術を放った。

 スカッ!!

「む?小さすぎて当たらなかったか…えーい、小賢しい!!」
 剣を抜くクラトス。
「頑張ってみんな!」
 コレットが背後でホーリーソングを唱え援護する。
 攻撃力、防御力がアップするゴキブリ
「こら、コレット!敵を援護してどうするのだ!」
「あれ?失敗しちゃった〜。」
「仕方がない。一定時間なんとか持ちこたえ…!?」
 言いかけたクラトスの目が見開かれる。ゴキブリが羽を広げ彼に向って飛んできたのだ。
「うおおおおおおお!!!」
 クラトスは驚愕の悲鳴をあげ、滅茶苦茶に剣を振り回した。
「あ、危ないって父さん!」
「す、す、すまん。まさかゴキブリが空を飛ぶとは…」
 ドキドキする胸を押さえてゴキブリを見ると、両手(一番前に付いている足)を上げ盛んに振っている。
「ムムムムム!ゴキブリめ、よくも笑いおったな!!」
「…ゴキブリって笑うのか?」
「もう許さん、目に物見せてくれよう!!」
 クラトスの背に蒼い羽根が現れる。
 それを見たロイドがゴキブリに向かって啖呵を切った。
「そうだぞ!羽ならこっちにもあるんだ。お前だけのもんだと思うなよ!」
「待てロイド。あんな奴の羽根と一緒にするな。」
「そうだよ。私達の羽根の方が数倍綺麗なんだからね。」
「そ、そういうもんか?」
「「そういうものだ(なの)!!」」
 二人に声を揃えて言われ、ロイドは頭をポリポリとかいた。
「いくぞ!魔人剣!!」
 宙に逃れたゴキブリにロイドが襲いかかる。
「裂空斬!!」
 叩き落とされたゴキブリにすかさずコレットが、
「ローバーアイテム!おわっちゃった〜」
「お、何か取れたのか!?」
 覗き込むロイド。
「1ガルド?ゴキブリのくせに金持ってんのか?」
「あと、このアイテム何かね〜?」
「それ…ゴキブリの卵じゃねえ?」
「いや〜〜〜〜〜!!」
 コレットは悲鳴を上げ放り投げた。
「こんなアイテムはいらん!!!」
 クラトスの怒りのファイアボールが飛び、あわれ卵は黒コゲになりけし粒と散った。
 大事な卵を燃やされゴキブリはいきり立ってクラトスへ飛びかかった。クラトスは横に跳びそれをかわす。
フ…甘いな。そう何度も同じ手をくうか。
「父さん、なんだか声が震えてないか?」
「正直に言おう。私はゴキブリが嫌いなのだ。こいつが空を飛ぶとは思わなんだ。こいつの飛行を見る度に鳥肌が立つ。」
「あんまり好きな人っていないと思いますよ〜」
「本当は戦うのも嫌なのだが、ここで逃げ出す事は私のプライドが許さない。よって徹底的に叩く!敵は切り捨てるのみ!!」
「よし!父さんの敵は俺にとっても敵だ。そいつに引導を渡すのは息子の俺の役目だ。徹底的にやってやるぜ!」
「覚悟しろ!私達に出会った不運を嘆くがいい!!」
 三人の猛反撃が始まった。
 ロイドの魔人連牙斬、クラトスの魔人閃空破が炸裂する。浮き上がったゴキブリにコレットのエンジェル・フェザーがヒット。そこへクラトスが紅蓮剣を放つ。しかし、確かにダメージは与えているもののなかなか倒す事が出来ない。
「むむ。物凄い生命力だ。こいつは手強いぞ。二人とも気を抜くなよ!」
「分ってるって!!」
「負けないんだから〜!」
 益々激しさを増す戦闘。
 だが三人ともゴキブリに集中するあまり、気付かなかったのだ。
 彼らの攻撃はゴキブリだけではなく、家にもダメージを与え続けている事に。




 ちょうどその頃、ゼロスはウキウキと家路を辿っていた。
「俺様頑張っちゃったもんね。仕事を猛スピードで片付けて、こんなに早く帰る事ができちゃったー。天使様喜んでくれるかな〜。」
 口笛を吹き吹き、上機嫌のゼロス。持っている紙袋へと目を落とす。
「天使様の愛情弁当美味しかったあ〜。ちょっと臭かったけどね。」
 ゼロスはレアバードから降りた。
「ここからは歩いていこう。そ〜と家に入って天使様を驚かせちゃうんだもんね〜!」
 ニンマリと笑って歩き出すゼロス。そろそろマイスイートホームが見える頃と前方を見たゼロスの笑顔が凍りついた。
「…道間違えちゃったかね。」
 我が家への道を間違える馬鹿がいるかと目をごしごしとこすって、再び見る。
 しかし、前方に見えるのは、どう見ても廃墟としか言いようのない建物。今朝自分があとにしてきたスイートホームには程遠い。
 キョロキョロと周りを見回すゼロス。

 間違いない。この道でいいはずだ。だとしたら、あれは…

「マイスイートホームが〜〜〜〜〜!!!」
 叫ぶゼロス。すぐにクラトスの事が心配になる。

 テロリストに襲撃されたのか!? 
 もしかして天使様が人質にとられたとか?

 クラトスの事だから心配はないと思うが、万が一という事がある。自然ゼロスの頭に、人質にとられロープでぐるぐる巻きにされたクラトスが泣きながらゼロスに助けを求めている姿が浮かんでくる。
「天使様!今行くからね!!」
 ゼロスは家に向かって走り出したのだった。



 家に着きそのまま猛スピードで門をくぐり抜けたゼロスは、何かを踏ん付けた気がして立ち止った。見ると誰かが潰れたカエルのような恰好で伸びていた。よく見ると背中に何かに轢かれたような跡がある。
「こいつ、テロリストの一人か?」
 クラトスでない事を確認して呟くも、こんなのに構っている暇はないと放置したまま再び家に向かって走り出す。
 息を切らせながら建物までたどり着いたゼロスであったが、目の前の光景に目を丸くした。
 そこにはテロリストのテの字もなく、見事に壁が崩れ去った向こう側(恐らく居間辺りであろう)で見慣れた三人組が屈みこんで何やらやっている。
 近づいて見てみると、クラトスがやかんを持って何かに熱湯をかけており、残りの二人(ロイドとコレット)が覗き込んでいた。
「やっぱりゴキブリには熱湯が一番だね〜。」
「へん!ざまあみろ。少々手こずったけど、とうとう仕留めたぞ!」
「しょせんゴキブリよ。我らの叡智にかなうはずもない。ワッハッハッハッハッ!」(注:これはクラトスです)

「な〜にやっちゃってるのかな〜、君たちは?」

 突然背後から聞こえた声に、ギクリとして振り向く三人。そこには貼り付けたような笑顔のゼロスが立っていた。
「あ、もうこんな時間か。そろそろ帰らないと親父に怒鳴られちまうな。」
「わ、私もお婆様が心配するといけないから…」
 逃げようとする二人の襟首をむんずとつかむゼロス。すると、

「私もそろそろ帰るとするかな…」

 その横をクラトスが門に向って走り出そうとする。
 ゼロスは二人の襟首をつかんだまま足を出してクラトスを転ばせた。すっ転んだクラトスの背中をバシッと踏みつける。
「どこへ帰る気なのかな〜。クラトスさんは〜!?」
「「「ひ〜〜〜ごめんなさい!」」」
「三人とも、これの落し前はきっちりつけてもらうかんね。」
 笑顔ではあるが、凄みのある声でそう告げたゼロスに三人は思わず身震いするのであった。



「ほらほら、ロイド君、そこはもう少し丁寧に打ちつけてもらわなきゃ困るよ。ほら、コレットちゃん、サボらないでキビキビ動いた!天使様、そこは違うっしょ。そこの壁はこのレンガを使うの!三人ともちゃんと住めるように直すまで帰さないからね!!」
 それから三人は、ゼロスの監督下、泣きながら家を修復するのでありました。

 クラトスにとって、名主夫への道はまだまだ遠いようである。


−パワフル主夫クラトスさん 終−