リーガルママ!短編集
1.リーガル家の朝
リーガル家の朝は不気味な光景で始まる。
「はい、ア〜ンして、坊や。」
スープを一匙すくって愛息に差し出すリーガルママ。
「ア〜ン♪」
それに対してニッコリと笑うと大きく口をあけるリーガル。その首には真っ白なナフキンが涎掛けのように巻かれており、まるで大きな赤ん坊のようである。
「美味しいかい?」
「うん!…でも、ちょっと僕には塩辛いかな?」
途端にキッと眉を吊り上げると、背後に控えるメイド達を睨み付けるリーガルママ。
「このスープを作ったのは誰だい!?」
皆が戸惑った表情を浮かべる中、一人のメイドが前に進み出た。
「は、はい。私でございます。」
「料理もまともに出来ないようなメイドはうちにはいらないよ!」
「で、ですが、加えたのはほんのひとつまみ程度でございます。昨日、坊ちゃまが『薄すぎる』と仰っておりましたので…。」
「お前、私の可愛い坊やに責任を転嫁する気かい!!」
「い、いえ、そんなつもりは…」
「お黙り!お前はクビだよ!」
突然の解雇通告に、メイド、項垂れて退場…。
リーガルママは再びとろけるような笑顔で愛息へと向き直る。
「今度はお肉を食べようね。はい、ア〜ンして。」
「ア〜ン♪」
「美味しいかい?」
「うん!すごく美味しいよ、ママ!」
こうして努めて見ないようにしているメイド達に囲まれながら、母子の甘い一時は過ぎて行くのであった。
実のところ、メイドは塩を加えたりはしていなかった。スープは毎日同じ味付けで作られていたのである。それをリーガルが、ママの気を惹きたいが為に、甘いだ辛いだと、嘘を並び立てているだけなのであった。
そんな事をせずとも、ママの目にはリーガルしか映っていないというのに…。
しかしながら、メイドはそれを分かっていながらも文句を言う事は出来なかった。そんな事をしようものならクビになるだけでは済まない事が分かっていたからである。その報いは親類縁者にまで及び、下手をすれば闇から闇へと存在自体を消されかねない。実際そうやって姿を消してしまったメイドは過去に何人もいた。
使用人からしてみればこんなに理不尽な話はないのだが、リーガルママの権力は絶大であり、口答えをするなど絶対に許されない事なのであった。
そして今日も今日とて、母子の不気味な朝のスキンシップは繰り広げられる。
「坊や、ア〜〜ン。」
「ア〜ン♪…うん、おいちい!」
メイド達はその光景を前に、クビにされる恐怖に震えながら俯いているのであった。
2.会長リーガルの秘密
大企業レザレノでは毎朝、朝礼が行われる。何千人もの社員が大きな講堂に会し、会長リーガルの演説を延々と聞かされ…いや、拝聴するのである。
「……というわけで、我々は不景気に負けない強い心を持たねばならない!今こそ我等の力が試される時!一致団結し、この苦境を共に乗り越えていこうではないか!!」
感動的な演説に(どこが?)、全社員達は一様に涙ぐみ、盛大な拍手を送るのであった。
演説後、リーガルは多くの胡麻すり社員達に囲まれる。
「会長、素晴らしい演説でした!」
「涙が溢れて止まりません!」
一様に心にもない事を叫ぶ二枚舌社員達に、リーガルは貫録十分に笑顔で頷き返しながら講堂を後にする。
そんなリーガルに、女性社員達は憧れの目を向けるのであった。
「あの貫禄!…素敵…」
「リーガル様がいる限り、このレザレノは安泰ね!」
だが彼女達は、リーガルの真の姿を知らない。
「お疲れ様。疲れただろう。温かいミルクティーを淹れておいたよ。」
会長室に戻ったリーガルを迎えたのはリーガルママであった。
「わあ、嬉しいな。有難う、ママ!」
ニッコリと笑ってソファーに腰を下ろしたリーガルは、ミルクティーをゆっくりと味わったあと、ママを膝枕にして横になる。
これは毎日会長室で繰り広げられる光景であった。
「何だか疲れているみたいだね。」
愛息の髪を優しく撫でながら話しかけるリーガルママ。
「少し髪が薄くなったみたいだし…」
「えっ、ホントに!?…嫌だなあ。」
「これじゃあ、折角のダンディーが台無しだ。発毛のラップ81に電話した方がいいかね……ていうか、何か悩み事でもあるのかい?ママに話してごらん。」
「実は株で穴をあけちゃって…大きな損失を出しちゃったんだ。」
「お前が勝手に運用したのかい!?」
「うん…最初はTVゲームで遊んでいただけだったんだけど、その内に本当にやってみたくなっちゃって、つい……ごめんなさい、ママ。」
「…困った子だねえ。」
もちろんこれが他の者であったなら、こんな一言では済まされない事である。しかし、リーガルママは相も変わらず息子にはとことん甘かった。
「他にも営業不振の部門があって、どうにも資金繰りがきつい状況なんだ。このままだと会社が潰れちゃうよ。どうしよう、ママ。」
「まあ、株の件は秘書に責任を押しつければいいとして、資金の方は…そうだね、○○社の株を売ればいい。かなりの額になるはずだ。それで急場はしのげるだろう。」
「え、でも、○○社は新製品を出して、現在急成長している会社だよ。」
「『今は』ね。しかしあの商品は駄目だ。今でこそみんな物珍しさから飛びついているが、すぐに飽きられる。それに私の得た情報によると、何回か使っている内に誤作動が起きるようなんだ。今はその事実をひた隠しにしているようだが、公になるのは時間の問題だ。そうなったら、株価は急落するだろう。跳ね上がっている今が売り時なんだよ。」
目を見開くリーガル。
「それと××社の株も処分した方がいいかもしれないね。あと△△社は、絶対に買った方がいいだろう。今開発中の商品、あれはきっと大ヒットするだろうから。」
「すごいや、ママ!どうやらママがいないと僕はダメみたいだ。」
「情けない事をお言いでないよ。坊やにはこれからのレザレノを背負っていってもらわなければならないんだからね。」
「うん、そうだね。今以上に会社が大きくなるように頑張るよ!見ていてね、ママ!」
愛息の頼もしい言葉にリーガルママは微笑みを浮かべると、よしよしとその頭を撫でてやった。
気持ち良さそうに目を細めるリーガル。(お前は猫か!)
「もちろんママも助力は惜しまないよ。ほれ、今開発中の新商品。あれは今秋に出せるように急がせた方がいいかもしれないね。それと…」
次々に方針を打ち出していくリーガルママ。
リーガルはそんな母親を尊敬の眼差しで見ているのだが、はっきり言って、これでは一体どちらが現会長なのか分からない。
しかしながら、女子社員達が言ったように、確かにレザレノは安泰であった。
このリーガルママがいる限り……。
その事実をもちろん社員達は知らない…。
3.嫁姑の戦い?
メイドのアリシアは憂いていた。
このままではリーガル様が駄目になる…。
何しろこのリーガル。会社では遣り手の会長で通っているものの、リーガルママの前では丸っきり子供に戻ってしまうのである。毎朝の洗顔に始まり、食事や服装、全てに至ってママ任せなのだ。入浴までママと一緒にする始末。
あの年で、である。
確かにあの甘えきった姿を見ていると、母性本能を擽られないこともない。しかし今のままでいいわけがない。ブライアン家の将来の為にも、リーガルには自立してもらわなければ…。
そこでアリシアはリーガルに自立の為の猛特訓を施す事にしたのであった。
もちろんそれはリーガルママが不在の時に行われる。リーガルはアリシアの指導の元、炊事・洗濯・掃除といった家事全般をこなすのであった。
「ほら、水加減が違うでしょう!それではお粥になってしまいますよ。」
「洗濯物を干すときはちゃんと皺をのばして!!」
「そこ!丸く掃かない!隅に埃がたまってますよ!」
『愛の鞭』と刻印された鞭を手に、細かく指導して行くアリシア。
それに従うリーガルが心なしか嬉しそうなところを見ると、どうやら彼にはMの気があるようだ。
と、そこへリーガルママが突然に帰ってきてしまった。慌ててリーガルを突き飛ばすアリシア。
「まあまあ、リーガル様。いくらお疲れとはいえ、そんなところで寝てしまわれては風邪を引いてしまいますわ。さあ、ちゃんとベッドで寝ましょうね。」
怪訝な表情のリーガルママを尻目に、リーガルを寝室へと連れて行くアリシア。
そしてリーガルママがいなくなると、再び愛の特訓が始まるのだった。
ロイド達と出会った時、リーガルの料理の腕が一流であったのは、偏にこの特訓のお陰だったのである。
4.九人目の仲間
リーガル・ブライアン…彼の足技が炸裂する時、如何に巨大なモンスターであろうとも一撃の元に地に伏してしまう。
この頼もしい仲間を得て、ロイド達は大層喜んだものであった。
しかし…
「くっ、油断した…」
猿も木から落ちると言うが、名手と呼ばれるリーガルとて、たまには蹴りをはずしてしまう事もある。(いや、しょっちゅうか?)
その為に逆にモンスターに弾き飛ばされてしまうリーガル。かなりのダメージを受けてしまったようだ。
「坊や っ!!」
そんな時、必ずと言って聞こえてくるこの叫び声に、ロイド達は「またか…」と溜息を突いた。
現れたのは白髪の老女。もちろん我等の(?)リーガルママである。後ろには私設救急隊を従えている。
「この怪物!うちの坊やに何をしやがるんだいっ!!」
長年ハンコ押しで鍛えた腕っ節でモンスターを殴り飛ばすリーガルママ。
彼女は息子よりも強かった。
「大丈夫かい、坊や。」
「痛いよ〜〜、ママ〜〜。」
「よしよし、今手当してあげるからね。」
こうして手厚い治療を受け、すっかり回復したリーガルはすくっと立ち上がった。見ればいつの間にやらモンスター達は全滅している。
もちろんこれはロイド達の奮闘と、リーガルママの怒りの猛攻撃のお陰であったのだが、リーガルはカッコよくポーズを決めると、こう言ったのだった。
「フ…我が罪はまだ償えてはいない。」
息子の晴れ姿に拍手を送るリーガルママ。
おい、手柄の横取りかよ!
もう我慢も限界であった。ついにロイドはリーガルと別れる決断をしたのである。
「…なあ、リーガル。罪が償えていないのなら、牢屋に戻ったら?」
もちろん、この言葉にリーガルはママと共に涙の懇願をして、何とか仲間に残してもらった事は言うまでもない。
−リーガルママ!短編集 終−