さすらいのリーガル


−その2−

 私はリーガル。さすらいの旅人だ。
 己の罪を清算するべく、過酷な旅を続けている。

 おや、あんな所にボーっと突っ立っている少年少女がいるではないか。何か困った事でもあるのだろうか。
 よし、私の出番だ。
 人助けは私の使命。その為に私は旅をしているのだから。

「もし、そこの少年少女よ。」

 声をかけられた少年と少女は、振り返るとニッコリと笑い元気よく挨拶をしてきた。
「こんちはっ!」
「こんにちは〜!」

 (おお!見ず知らずの私に笑顔で挨拶をしてくるとは、今時には珍しい何と清々しい少年少女なのだ!!)

 感涙にむせぶリーガル。

「そんな所に突っ立ってどうしたのだ?困り事があるのなら私に話してみるがよい。力になろうではないか。」
「て言うか、おじさん誰?」
「おお、これは申し遅れた。私はリーガル。贖罪の為、旅を続けている者だ。」
「へえ、そりゃ大変だな。」
「フ…まあな。だがこれは私に与えられた試練。どんなに辛くても逃げるわけにはいかんのだ。という訳だから、ここで会ったのも何かの縁…どうだ、話してみないか?」
「話すったって、別に俺達困ってなんかいないしな。ただ父さんが帰ってくるのを待っているだけだから。」
「なんとっ!父御が失踪したのか!?」
「『しっそう』って何だ?」
 首を傾げる少年。

(失踪も知らんとは…。さてはこの少年、清々しいのではなく単なる馬鹿だったのか。)

 すると隣に立っている少女が言った。
「ロイド、『しっそう』っていうのはね、早く走る事だよ〜。」
「そっか〜。さすがコレット。頭いいな!」
 ロイドと呼ばれた少年は感心したように頷くと、
「うん。確かに父さんは今走っている。家に帰ってくる為に全速力で走っている筈さ。」

(いや、その『しっそう』ではなくて…)

 しかし少年の話からすると、どうやら父御は失踪したというわけではなさそうで、その点は安心した。
 ホッと胸を撫で下ろすリーガル。
 するとそんなリーガルを覗き込みながらコレットが言った。
「あれ〜?おじさん、何で手枷なんてしているの〜?」
「ん?これか?…これは自らへの戒めなのだ。我が罪、償えるその日まで、これが外される事はない。」
「ふ〜ん。でも動きづらそうだよ〜。見た目もよくないし、外した方がよくない?」
「そうだよな。でもさ、コレット。やっぱ手枷と言うからには自分じゃ外せないようになっているんじゃねえか?」
「そっか〜。じゃあ私達で取ってあげようよ。」
「『手枷を外すから、手、貸せー!』ってか?」

(!!…む、出来る!)

 ロイド少年の駄洒落に目を見開くリーガル。実はこのリーガル、こう見えて大の駄洒落好きだったのである。
 しかし今はそんな事に感心している場合ではない。リーガルは手枷を取る気はない事を必死に説明し、外す気満々の二人をなんとか思い止まらせたのであった。
 こうして会話が途切れたちょうどその時、一人の男が大きな犬のような動物にまたがりこちらへとやって来るのが見えた。それは話題の主である父親だったようで、ロイドとコレットは嬉しそうに駆け寄って行ったのだった。
「お帰りなさ〜い、クラトスさん。」
「遅かったじゃねえか。心配したんだぞ。」
「それは済まなかったな。」
 男は駆け寄って来た二人を見て一瞬笑みを浮かべると、犬から降りながら弁解した。
「渋滞に巻き込まれてしまってな。抜け出すのに時間がかかってしまったのだ。」

「……犬が渋滞に引っ掛かるのか?」

 その会話を聞いて思わず疑問の声を上げたリーガルの方に目をやる男。
「ノイシュは犬ではないのだが…と言うか、この御仁は?」
「ああ、あのね、この人はリーガルさんって言うんだって。」
 訝しげなクラトスにコレットが紹介すれば、ロイドも、
「なんだか腹が減って困っているようなんだ。」
「行き倒れか?」
「違う!私は腹など減ってはおらん!!ましてや行き倒れだなどともってのほか!」
「だってさっき、食材を求めて全国を旅しているって言っていたじゃんか。」
「いや、だから、私は食材ではなく贖罪を…」
「ほう、食材を探して全国行脚とは奇特な…。してみるとさすらいの料理人と言ったところか?」
 リーガルは必死に勘違いを正そうと試みたのだが、三人はそんなリーガルの言葉など全く聞いている様子はなく、ついには彼を行き倒れの料理人に仕立て上げてしまったのであった。
「腹が減っているのなら丁度いい。私達はこれから昼食にしようと思っているのだが、一緒にどうだ?」
「……だから、私は腹など減ってはおらぬ!」
「そうか?ならば仕方がないな。それでは失礼して私達だけで食べるとしようか。」
 そう言うと、リーガルは放っておいて、買ってきた品物を下ろし始めるクラトス。
「父さん、何を買ってきてくれたんだ?」
「うむ。お前達の好物ばかりを見繕って来たぞ。これは私の分のマグロだな。丁度解体ショーをやっており安く手に入れる事が出来たのだ。それとロイドには肉を、コレットには果物をたんと買って来た。」
「わ〜、私の好物まで買ってきてくれたんですか〜!しかもこんなにたくさん!大変だったんじゃないですか〜。」
「フ…可愛い嫁の為ならこれしきの事、なんでもない。舅として当たり前の事をしたまでだ。」
「まあ、可愛い嫁だなんてそんな本当の事を…恥ずかしいです〜、お・と・う・さ・ま♪」

「「「ハハハハハ」」」

(こ、この連中…私には付いていけん人種だ。いや、それよりも…)

「野菜はないのか?」

 リーガルの問いかけに振り返る三人。
「野菜?」
「そう、野菜だ。トマトとかピーマンとか…」
「トマトとは何ぞや?」
「ピーマンなんてコレット知らないよ〜。」
 知っているくせにあくまで惚けるクラトスとコレットに、眉をひそめるリーガル。
「……野菜も食べなければ栄養が偏るぞ。」
「そんなの関係ねえよ。旨いもんさえ食えればそれで幸せだしな。」
「うむ。ロイドの言う通りだ。別に無理してまで食べる必要はないだろう。」
「そうそう、栄養なんてどうでもえ〜よ〜!」

(くっ…またもや見事な駄洒落を!)

 そう思ったものの、駄洒落に誤魔化されていてはいけない。この悪の道にどっぷり浸かってしまっている親子を救えるのは私しかいないのだ。
「では貴公らにも美味しく食べれるよう私が料理して進ぜよう。」
「それは有難い!…と言いたい所だが、残念な事にそうしてもらいたくとも材料がない。だからそれは次の機会にでも…」
 なんとかこの場を切り抜けようとするクラトスに、リーガルはニッコリと笑うと言った。
「心配せずとも大丈夫だ。トマトもピーマンも先程新鮮なものを手に入れたばかりでな。これを特別に貴公達の為に使おうと思う。」
「……包丁も貸す事は出来んぞ。うちにあるのはマグロや肉を切る為だけにあるものだからな。」
「私はMY包丁を持っている。」
「……」
 黙り込んでしまったクラトスを見て再びニッコリと笑うと、料理を始めるリーガル。野菜嫌いの原因はあの独特の野菜臭さによるものが多い。そこでまずはニンニクなどで匂いを誤魔化したものを出してみる事にした。
 だが敵も然る者。「これはなかなか…」とか言いながらも肝心のトマトとピーマンはしっかりと除けて食べている。
 そこで次はみじん切りにしたものをマッシュポテトに混ぜ込んでみた。これならば除けようがないだろう、と思ったのだが、今度も三人はトマトとピーマンだけをほじくり出しながら食べていた。その分別ぶりは見事としか言いようがない。
「ならば、これならどうだ!」
 と、今度は野菜をすりおろしてスープを作る事にした。もちろん味付けに工夫を凝らし食べやすくしてある。しかし出来あがった自信作を持ってリーガルがテーブルへとやってくると、三人の姿は消えていたのだった。
「むっ、逃げたか?」
 キョロキョロと辺りを見回したリーガルは、外で肉を焼いている三人を発見した。

「う〜ん、いい匂い。やっぱ食いもんって言ったら肉だよな。」
「ロイド、マグロの刺身も出来たぞ。」
「デザートのフルーツポンチも出来てるよ〜。」
「サンキュー!」
 なんて楽しく語り合っていた三人は、突然背後に重苦しい気配を感じ振り返った。そこにはどす黒いオーラを纏ったリーガルが…。
「リ、リーガル殿?…い、いや、一生懸命作ってくれているのに悪いとは思ったのだがな、早く調理しないとマグロも肉も鮮度が落ちてしまうだろう?」
「あ、なんだったら、リーガルも食べるか?ほら、この肉はもう焼けているみたいだし。」
「……腹は減っていないと言った筈だ。」
「そ、そうか?だ、だが、滅多に食べられない高級肉だし、少しぐらいなら食べれるのではないか?」
「…私の作ったポタージュはどうなる?」
「あ…と…それか?…い、いや、食べたいのは山々なのだがな、トマト入りと言うのはどうも…それにやはり人間、食いたいものを美味しく食べるのが一番だと…。」
 必死に弁解するクラトス。
 するとその時であった。

 ギュルルルル〜〜〜!!

「?…なんだ、このけったいな音は。」
 首を傾げるクラトスに、リーガルが少々顔を赤らめながら言った。
「……い、今のは私の腹の虫だ…」
 思わずリーガルを仰ぎ見るクラトス。だがすぐに笑顔を浮かべると、
「やはり腹が減っていたのではないか。ほら、それなら遠慮なんかせずに食べるがいい。」
「でもクラトスさん、うちにはお皿が三人分しかないよ〜。」
「自分の分の食器ならちゃんと持っている。長旅には必需品だからな。」
 困った様子のコレットにそう言ってお皿を取り出して見せるリーガル。この男もなかなかどうしてちゃっかり者である。
「おお、さすがさすらいの料理人だけはあるな。では遠慮なく食べるがいい。そら、その肉は焼けているようだぞ。」
「そうか?すまぬな。それでは…」
 リーガルはほくほくとその焼けたばかりの肉を取ろうとしたのだが、それは彼の小さな皿でははみ出して垂れ下がってしまう程に大きく、これでは皿に肉が載っているのか肉に皿が載っているのか分からず、どうにも食べづらい。
「む、これ程とは!」

 そんな困っているリーガルを前に面白そうに笑う三人組。
「わ〜、その皿、ちっちゃ!」
「フ…器が知れたな。」
「お、父さん、それってまさにぴったりの台詞だな!」

 ぷつっ…(リーガルの堪忍袋の緒が切れる音)

「…貴様ら…よくも、よくも、こうまで扱き下ろしてくれたな!…もう許さん!絶対に許さんからなあああ〜〜〜!!

 リーガルは三人を懲らしめるべく飛びかかっていったのだった。




 その数分後、リーガルは一人荒野を彷徨っていた。
 あの三人は強かった…。
 リーガルが繰り出した渾身の蹴りを難なくかわし、逆に次々に必殺技を叩きこんで来たのである。そして最後にはユニゾンアタックなるものを食らってしまい、気が付いたらここまで飛ばされて来てしまっていたのであった。
「人は見掛けに依らないと言う事か…。私もまだまだ修行が足りぬな。全く、人助けとは難しいものだ。」

 だがこれで諦めてしまうわけにはいかぬ。
 私はさすらいのリーガル。
 贖罪が終わるその日まで、この過酷な旅は続くのだ。


−その2 終−