天国と地獄
「私がクラトス殿と組むことになったのか!」
「うむ。色々考えた結果、それが一番いいだろうという事になってな。」
クラトスの言葉に嬉しそうに微笑みを浮かべるリーガル。
実は先日、最終決戦を前に、パーティーを二人一組に分けてそれぞれで一週間程修行をしようという事になったのだった。
だがそうは決めたものの実際に組み分けするとなるとこれが色々と難しい。術者同士が一緒になるのはまずいし、前衛向きの者と後衛向きの者とをバランス良く組ませる必要がある。ああでもない、こうでもないと議論は長引いてしまい……そんな時、折悪しくリーガルの会社で問題が勃発。そこで決まった事には黙って従うのを条件に、一時会社へ戻らせてもらったのだった。
そして本日、その話し合いの結果を知らせにクラトスがやって来たというわけである。
しかし正直、クラトスと組めるとは意外だった。
もちろんクラトスに片想いをしているリーガルであるから、できればそうしたいとは思っていたのだが、なにしろパーティー内でも一二を争う強者と言われている二人(←誰が言ったの?)である。それが組んでしまったら、残った者の組み合わせに支障をきたしてしまうだろう。だから望み薄なものと殆ど諦めていたのだった。
だが考えてみれば、ロイドだっているし、プレセアやしいなもいる。コレットも前衛で戦える力を持っているし、(なぜか当然のように)ゼロスもいるから前衛役には事欠かない。二人が組んだとて別段問題はないわけで…。
「もしかして貴公が自分から私と組みたいと申し出てくれたとか?」
「ん?…ああ…いや、ええと…厳密に言えばちょっと違うのだが…まあ、結局はそういう事になるのかな?」
言葉を濁すクラトスに、リーガルは首を傾げた。
「?……なんだか奥歯に物が挟まったような言い方だな。貴公らしくもない。何か子細があるのなら、隠さずに教えてもらいたいな。」
とは言ったものの、クラトスの表情からなんとなく嫌な予感がしてきたリーガル。
やはりここは聞かずにおいた方がいいかと思い直したのだが、その時にはもうクラトスは話し始めてしまっていた。
「うむ、言われてみれば確かにそうだ。リーガル殿とはこれから一週間、共に修行するのだから、やはり隠し事は良くないのかもしれん。それにこのままでは貴公としても喉に小骨が刺さったようで気持ちが悪いだろうからな。」
「え?…いや…別にそんな事は…」
「では遠慮なく言わせてもらおう。実は、貴公とは組みたくないという意見が続出したのだ。」
「!?」
リーガルの顔色が変わる。
嫌な予感的中と言ったところか。
「やる気のやの字もないかと思ったら、突然狂ったように技を連発し始める…そんなわけの分からない、やけくそコンポ野郎とは組みたくないだとか…」
「…」
「強い敵は人に押し付け、自分は弱い敵ばかり…そんな人とは組みたくありません、とか…」
「……」
「詠唱中の術士を平気で盾にするようなおじさんとなんて僕はご免だね、とか…」
「………」
「『頭の中まで筋肉なの〜?』って感じのアホで、その上性格はナルちゃんなんて最悪〜、とか。」
ここまでくるとリーガルはもう涙目になっていた。
それに気付いたクラトスはハッとして、慌ててフォローを始める。
「いや、私もさすがにそこまで言う事はないだろうと思った。欠席裁判のようで嫌な気分になったしな。だから貴公の代わりに言ってやったのだ。」
「もしかして弁護してくれたのか!」
「うむ。」
「有難う、クラトス殿…。」
感涙にむせぶリーガル。
ところがクラトスのそれは全くフォローになっていなかった。
「そこまで役立たずなら最初からいないものとし、運悪く組んでしまった場合には一人で修行するのだと割り切ればいいだろうとな。」
「…………」
たちまち感涙が悲涙へと変わる。
「しかしそうしたら再び逆襲されてしまってな。『だったら父さんが組めばいいだろう!』と。それで私が引き受ける事になったというわけだ。」
(引き受けるって…)
まるでお荷物のように扱われショックを受けるリーガル。
しかし物は考えようだ。確かに仲間からそんな風に見られていたのかと思うと悲しい。しかしそのお陰でクラトスと組め、これから一週間、二人だけの修行の時間が持てるようになったのである。
そう…これはチャンスなのだ。クラトスの心を我が物にする最大のチャンス。これを逃す手はない。今はマイナスに近いクラトスからの評価も、一週間も時間があればいくらでもプラスに転じる事ができるだろう。
そう切り替えて考えてみるとなんだか心が軽くなってきたようだった。
なんとも立ち直りの早い男である。
(よし、こうなったら善は急げだ!)
俄然張り切りだすリーガル。
「では早速これから修行に入ろうか。」
「これから?随分と熱心だな。しかし会社の方は?」
「ああ、それならばもう大丈夫だ。迷惑をかけてすまなかった。」
「そうか、それはよかった。……とは言えお互い色々準備もあるだろうし、今すぐにというわけにもいくまい。今日のところは準備日ということにして明日からではどうだ?」
「うむ、確かにそうだな。」
「それでは明日。また私が迎えに来るから。」
「承知した。」
思ったより傷付いた様子でないリーガルにホッとして帰って行くクラトス。
それを見送ると、リーガルはいそいそと出掛ける支度を始めた。
修行の準備と言っても旅慣れた彼にとってそれ程時間がかかるものではない。それよりも今はもっと重要な用事があったのである。
一時間後、トリエットの占いの館にリーガルの姿があった。
そう。彼の重要な用事とは、占いのおばさん…もとい、お姉さんに現在のクラトスとの相性を占ってもらう事だったのだ。
「はいはい、クラトスさんとの相性ね?……うん、いい線いっているんじゃない?あとひと押しってところね。」
「……ひと押しか。」
「彼の方でもあなたの事は気になっているようだし、とにかく押して押して押しまくる事よ。がんばって〜〜!」
「有難う。」
笑顔でお姉さんに礼をし、館から出るリーガル。
なんだか以前にも同じ事を言われた記憶があるが気のせいか?(「クラトスの星」参照)
もしかして体良くあしらわれたとか?
いや、そうではない!
同じ占いが出る……これはすなわち宿命!つまり私とクラトス殿は結ばれる運命にあるという事なのだ。(なんでも都合よく解釈する男)
そうとも。あの天使を初めて見た時から私は宿命を感じていた。チョコチョコとロイドの前に現れるあの男を見る度に、私は彼の持つ独特の雰囲気に自分と同じ何かを感じ取っていた。
― 中略 ― (どうしても全文を知りたい方は、「クラトスの星」を参照して下さい。同じ妄想をしています。)
やはり彼が欲しい!あの体を強く抱きしめ、悲しみに凍えきってしまった心ごと温めてやりたい!
同じ傷を持つ者同士がこうして巡り合った事を宿命と言わずしてなんとする!
安心しろ、クラトス殿。これからはこの私がずっと一緒に…
リーガルがそんな妄想に走りながらニヤけていると、その肩を叩いてきた者がいる。
「うるさいぞ!折角、人がパラダイス気分に浸っているというのに邪魔するものではない!!」
怒鳴りながら振り返ったリーガルは、その人物を見て目を丸くする。
立っていたのはユアンだった。
「ム!?出たな!青毛魔人!!」
「失礼な。人を妖怪のように言うな!大体、青毛はお前も同じだろう。」
「フン!一体何の用なのだ。いつもいつもいきなり現れおって…。」
「うむ。実はお前がクラトスと二人きりで修行をするとの情報を得てな。」
「だから何だと言うのだ。私が誰と修行しようがお前には関係ないだろう!!」
「そんな事言っていいのか?折角、元師匠(やはり「クラトスの星」参照)として忠告に来てやったというのに。どうなっても知らんぞ。」
「?…どういう意味だ?」
眉をひそめるリーガル。
クラトスにしてもこいつにしても、どうも四大天使という輩は話をもったいぶるのが好きらしい。どうせ大した話ではないだろうし、このまま無視してもいいのだろうが、先程から無遠慮な『言わせてオーラ』を放っているこの男の事、きっとその望みを叶えるまではとことん付き纏ってくるだろう。
ここは大人しく耳を傾けておいた方が賢明かもしれない。
「…いいだろう。その忠告とやらを聞いてやろうではないか。」
案の定、ユアンは待っていましたとばかりに得意気な笑みを浮かべると話し始めた。
「フ、やはり知りたいか?では教えてやろう。恐らく今貴様はこんな風に考えているのだろう。クラトスはボケ属性だから御しやすい。一週間もあればムフフもウフ〜ンも思いのままだと。」
「えっ?…ムム…」
図星をつかれ口籠るリーガル。
「フッ、やはりな。だがそれは大きな間違いだ。何故ならボケはボケでもあいつのボケは、時にツッコミ役を瞬殺する程の破壊力を持っているからだ!!」
(はい?破壊力を持ったボケ?……何、それ?)
「だから本当なら二人きりで修行などと命にかかわる事はやめておいた方がいいのだが、こんなところで一人よこしまな妄想している貴様では、いくら言ったところでどうせ聞きゃあしないだろう。」
「……」
「それならそれで仕方がない。しかし一つだけ忠告させてもらうなら、修行時、クローナシンボルの装備だけは忘れん事だ。もしそれがなければせめてストーンチェックだけは用意しておけ。石になってしまっては回復アイテムも使えんからな。」
「?…しかし、たとえそうなったとしてもクラトス殿が助けてくれるのでは?」
「だから甘いと言うのだ。一度ボケモードに入ってしまったが最後、奴の行動は予測不能。まあそれでも相手がロイドなら助けるだろうが、貴様の場合は果たしてどうかな?まだ好感度が一位ってわけじゃないんだろう?ウン千年後に化石として発掘…なんて事になりかねんぞ。」
「!!」
「とにかく、死にたくなかったら万全の準備をして臨む事だ。…と、以上が私からの忠告。あとは貴様の運次第。奴がボケモードに入る前に戦闘を終わらせるか、入ってしまった時には私に鍛えられたその肉体でうまく切り抜ける…それしかない。では私はこれで失礼するが、くれぐれも用心を怠らぬように。健闘を祈っているぞ。さらばだ!」
最後に呆然と立ち尽くしているリーガルの肩を再びポンと叩くと、鼻歌を歌いながら去っていくユアン。
「何をしに来たのだ、あの男は…」
なんだか掻き回して喜んでいるような?
しかし何と言っても、4000年もの間クラトスを見てきた男の言葉である。未だ信じられない思いはあるが、ここは素直に忠告に従っておいた方が得策かもしれない。
リーガルは、慌ててパナシーアボトルを買いに走ったのだった。
翌日、リーガルは、約束通り迎えに来たクラトスと共に修行場所へと向かった。
クラトスの選んだその場所は森の中だった。
ここなら獣系モンスターのパワー攻撃や鳥・虫系モンスターの上空からの攻撃、植物系の触手攻撃など多様な攻撃パターンを相手に戦えるので、修行には絶好の場所というのがクラトスの弁である。いかにも常に合理性を求めるクラトスらしい選択と言えよう。
それから二人は森の入口付近にテントを張るとさっそく修行に入ったのだが、事前に振りかけたダークボトルの影響だろうか(この時リーガルはそんな余計な事をしなくてもと思ったものである)、森に足を踏み入れるとすぐにモンスターの群れに遭遇した。
「む?早速現れたな。よし、いくぞ!数に惑わされるな!」
「蜂の群は熊をも倒すと言うが、果たして……と言うか、本当に蜂がいるし!!」
「私は向こうの獣系を相手にする。リーガル殿はそっちの虫を頼む。」
「えっ!?虫?」
ブーンという不気味な羽音をたてている蜂の群れを凝視するリーガル。
「い、いや、私は空を飛んでいるのはどうも…」
「何を言っている。苦手な敵を相手にしてこその修行だろう。」
「しかし……いや、やはり代わってくれんか。」
「い ・ や ・ だ!!私は虫は嫌いなのだ!」
「はい?」
「ほら、つべこべ言っている内に来るぞ!!」
さっさと熊の方へ走って行ってしまうクラトス。
(さっきの言葉、貴公にそのまま返したい…)
どうやらクラトスはすでにボケモードに入りつつあるようだ。
リーガルは仕方なく、半べそをかきながら蜂へ向かって行った。
だがなにしろ相手は蜂である。的が小さい上にちょこまかと動き回り、元々対空戦は不得手だったリーガルの攻撃はことごとくかわされてしまう。
それでもなんとか半分までは倒す事ができたのだが、気が付けば彼の体は緑色に染まってしまっており…。
「ポイズンチェックも装備しておくべきだったか…。」
とにかくこの毒状態をなんとかしなくてはならない。
リーガルは蜂を追い払いながらアイテム袋に飛び付いたのだが…。
「あれ?パナシーアボトルがない…」
そんなはずはない。確かに15瓶買いだめした筈なのだ。
「ク、ク、クラトス殿〜〜!!」
「なんだ、どうした?」
華麗な太刀捌きにて巨大熊を相手にしながらこちらを見てくるクラトス。
「パナシーアボトルがないのだ。」
「ああ、それならダークボトルと入れ替えておいた。」
(ぬあんだとおおおお〜!?)
「修行において魔物を引きつけるダークボトルは必需品だが、パナシーアボトルはクローナシンボルがあるからいらないと思ったのでな。いくつも瓶を持ち歩くのは重たくて仕方がないし。まずかったか?」
「貴公…クローナシンボルを持っていたのか。」
「ん?リーガル殿は持っていなかったのか?」
「残念ながら闘技場の上級で優勝できなかったもので……と言うか、今はそんな事はどうでもいいのだ!!実は毒状態になってしまって困っていてな。申し訳ないがひとまず退却し、態勢を立て直して…」
「いいや、耐えろ!!」
「はい?……いや、そう言われても現在進行形でHPが減り続けているのだが…」
「敵に後ろを見せるつもりか!一度対峙したからには最後まで遣り遂げる…それが男の道ってものだ!」
「!?」
(なんか言っている事がユアンと酷似している感じがするのだが、気の所為か?※「クラトスの星」を参照)
「大丈夫だ。この熊野郎を退治したらすぐにヒールストリームをかけてやるから。」
「いや、そんな事をしても焼け石に水だろう。そ、それよりも、は、は、早く町に戻ってパナシーアボトルを…」
涙を流しながら訴えるもののクラトスの意識はもうすでに『熊野郎』の方へと向いてしまっており、こちらの声など全く耳に入らない様子。
結局リーガルは毒状態に耐えながら『男の道』を実践するしかなかったのである。
それでもなんとか辛い戦闘に終止符をうつ事ができたリーガル。これでやっと町へ戻れるとホッと息をついた。
ところが…。
「リーガル殿、やればできるではないか。とんかつを作ったから食すといい。これでHPが大幅に回復するぞ。」
何事もなかったかのように、にこやかに近付いてきたクラトスへ虚ろな目を向けるリーガル。
「できれば解毒作用のあるオムライスがよかったのだが…」
「おお、そうか。そういえば毒を受けていたのだったな。それはすまぬ事をした。しかし困ったな。生憎と卵を切らしていて……。」
「だったら早く町に戻ってパナシー…」
「おっ?リーガル殿、見ろ!あそこに鳥系モンスターがいるぞ!!」
「それが何か?」
「何を言っているのだ。あれを倒せば卵が手に入るではないか!!そうすれば念願のオムライスを食す事ができる。いくぞ、リーガル殿!!」
「へ?行くって?……いや、だからそうではなくて……」
それよりも町に戻ってパナシーアボトルを買ってほしいのだと、必死にクラトスに向かって伸ばした手は虚しく空を切り…。
じっと手を見るリーガル。その脳裏にユアンの言葉が浮かんでくる。
“ボケはボケでもあいつのボケは、時にツッコミ役を瞬殺する程の破壊力を持っている”
“一度ボケモードに入ってしまったが最後、奴の行動は予測不能。”
ユアン…貴公の言った通りだった。
ならばあとはもう、この窮地、己の力で切り抜けるしかない。
「く〜〜〜っ!こうなったらやけだ!!」
リーガルは『やけくそコンポ野郎』と化して、今度は鳥撲滅運動に励んだのだった。
この修行が終わるまで生きていられるだろうかと悲嘆にくれながら…。
そして一週間後。
集合場所に現れたリーガルにコレットが首を傾げながら言った。
「あれ〜?リーガルさん、もしかして痩せた?」
するとリフィルやロイドも近付いてきて、
「痩せたと言うより、やつれたと言った方がいいみたいね。」
「大丈夫か、リーガル?なにしろ父さんの修行はきついので有名だかんな。」
このロイドの言葉に、ピクリと反応するリーガル。
(きついので有名?)
よく見れば皆心配そうにしながらもどこか笑っているようにも思え、ここにきてようやく真相に気付いたのだった。
皆、知っていたのだ。クラトス殿のボケの威力を。
つまり厄介者は私だけではなく、クラトス殿も同じだったという事。
その問題児である二人を全員で共謀して組ませ、うまく厄介払いしたのだ。
くっそ〜、悔しい……涙が出る程に悔しい。
その企みの所為で私は天国から地獄へと突き落とされ、死にそうな目に遭ったのだから。
いくらなんでも酷過ぎる。なんて冷たい連中なのだ。
いや待てよ……しかしこれは裏を返せばチャンスとも言えるのではないか?
何故なら、皆に煙たがられているクラトス殿を慰める事ができるのは、同じ立場にある私だけ。(傷をなめ合うとも言う)
ならばこれを利用しない手はない。
リーガルは、傍で何も知らずににこやかに立っているクラトスの手を握った。
「クラトス殿!貴公は一人ではない。この私がいるからな!」
「え?…あ、ああ…?」
恐らく次の修行時も私達は組まされる事だろう。
その時こそ必ずやクラトス殿の心を鷲掴みにしてみせる!
リーガルは空を見上げ…いや、ここは屋内だったので正確には天井を見上げ、改めて固く心に誓うのであった。
しかしそれにはまずクローナシンボルを手に入れなければならない。
状態異常にさえならなければ、あんな蜂どもに後れを取る事などなかったのだから…。
こうして、とことんポジティブなリーガルは、翌日からせっせと闘技場へ通い始めたのだった。
目標、上級での優勝。
待っていろよ、クラトス殿。
次こそは貴公を我が物に!!
−天国と地獄 終−