エピローグ


 ク〜はサンタさんから届いたクリスマスプレゼントを持って、おじいさんの本屋さんへ向かっていた。

 あの絵本のお礼をするんだ。
 きっとおじいさんは喜んでくれるに違いない。

 ところがいざ本屋に着いてみると、シャッターが下りたままで店がやっていなかったのである。
「お休みなのかな?」
 首を傾げるク〜。
 しかし、おじいさんの店はいつも開いていた。雨の日も風の日も、いつだっておじいさんは笑顔でク〜を迎え入れてくれていたのである。それなのにどうして今日に限ってシャッターが下りているのか、ク〜には分からなかった。
 よく見ればシャッターに貼り紙がしてあるのだが、しかしそれも漢字が多くてク〜には何が書かれているのか理解できない。
「おじいさん!おじいさん!ク〜だよ。おじいさんに渡したいものがあるの。だからここを開けてよ。おじいさんったら!」
 大声でおじいさんを呼びながらシャッターを叩くク〜。
 しかしいくら呼んでも中から返事は返って来ない。
「おじいさん…どうしちゃったの?」
 するとそこを通りかかった人が困った様子のク〜に声をかけてきたのだった。
「どうしたんだい、坊や?そのお店ならもうやっていないよ。」
「え?…嘘。」
「嘘じゃないさ。それ、貼り紙がしてあるだろう。」
「…難しい字が多くて、ク〜、読めないの。」
「ああ、そうか。ごめんごめん。そこにはね、こう書いてあるんだ。『誠に勝手ながら、この度店を閉じる事と相成りました。今まで御愛顧下さり有難うございました。』ってね。なんでも、田舎に帰るとか言っていたよ。だからもう爺さんはいないんだ。本が欲しいなら向こうに大きな本屋があるから、そっちに行ったらいいんじゃないかな。」
 愕然とするク〜。
「そんな……折角プレゼント持ってきたのに…お礼を言おうと思ってたのに…」
 その目から涙が溢れてくる。
「それなのに、どうしてク〜に黙っていなくなっちゃうの?酷いや、おじいさん。ウワアアア〜ン!!」
 ついに大音響で泣き出すク〜。
「お、お、おい、坊や?」
 声をかけてきてくれたその人は、わけが分からずオロオロとしてしまう。周りの人達には子供を泣かせた極悪人のような目で見られるし、散々である。
 恩を仇で返すとはこういう事を言うのだろうか…。

 と、その時だった。

「馬鹿。何をギャーギャー泣いているんだ。そんな暇があったら行くぞ!」

 人ごみを掻き分けやって来たゼロスが、そう言ってク〜の手を掴むと走り出したのだった。
「ゼロ?行くってどこへ?」
「決まってるだろ。おじいさんの所だよ。」
「え?だっておじいさんはもう…」
「俺が聞いた話では、おじいさんがここを発ったのは今朝の事だそうだ。長い船旅になると言っていたそうだから、行き先は港だろう。向こうは徒歩。こっちはレアバード。今から行けば追いつけるかもしれない。」
「ホントに!?おじいさんに会えるの?」
「ほら、分かったらとっとと行くぞ。」
「うん!」
 ゼロスはク〜を抱き上げるとレアバードに乗り込み、急ぎ飛び立ったのであった。




 港は出航間近の為か、乗客や見送りの人が入り乱れ多くの人でごった返していた。その中をゼロスとク〜はおじいさんの姿を求めて進んでいく。
「こんなにいっぱい人がいたんじゃ分からないよ。それにもしかしたらおじいさんを追い抜いて来ちゃったかもしれないよ。」
「いや。注意して飛んでいたから、それはない。」
 おじいさんは確かにこの港に着いている筈であった。しかしク〜が言うように、この人ごみの中探し出すのは難しいかもしれない。

 もう船に乗り込んでしまったのだろうか…。

 ゼロスが焦り始めたその時だった。
「あ!おじいさんだ!!おじいさんがいたよ!!」
 ク〜の視線を追って見ると、おじいさんはちょうど待合室から出てくるところだった。どうやらおじいさんは人ごみを避け、ギリギリの時間まで待合室のベンチで休んでいたようだ。
 早速おじいさんへと駆け寄っていくク〜。その姿を見て、おじいさんは驚きで目を見開いた。
「坊やじゃないか!どうしたんだい?何故ここに?」
「ク〜、今日お店に行ったんだよ。そうしたら閉まっていて…。酷いよおじいさん。どうしてク〜に黙って行っちゃおうとしたの?」
「そうか。それは悪かったなあ。だがわしはもう一度戻ってくるつもりだったんじゃよ。店に残してきた本達をどうにかせにゃならんかったからな。坊やにはその時に話そうと思っていたんじゃ。」
「そうなの?」
「ああ。だがその所為で心配かけてしまったようで、本当にごめんよ。」
「ううん。おじいさんはク〜に黙って行こうと思ってたんじゃないって分かったからもういい。」
 するとそこへゼロスが口を挟んできた。
「店の本の事なら心配はいらないよ。いい本が揃っているようだし、教会の方で全部買い取らせてもらい図書館に置きたいと考えているんだ。もちろんあなたが同意してくれればの話だけど。」
「それは有難い!そうしていただければ本達も喜ぶでしょうし、私に文句などあろう筈がありませんよ。」
「よかった。それじゃあ、詳しい話は戻られた時にでも。」
「はい。よろしくお願い致します。」
 おじいさんは深々と頭を下げると、ク〜の方へ向き直った。
「ところで坊やはどうしてこんな所までわしを追って来たんだい?わざわざ見送りに来てくれたのか?」
「うん。あとね、渡したいものがあったの。」
「渡したいもの?」
 不思議そうな顔のおじいさんに、ク〜は例のプレゼントを差し出した。
「これは?」
「ク〜からのクリスマスプレゼントだよ。サンタさんにお願いして持って来てもらったの。」
「!!」
「開けて見てくれる?」
 震える手で包みを解くおじいさんを、ク〜は期待と不安が入り交じった表情で見守っていた。

 (どうかおじいさんが喜んでくれますように…)

「こ、これは…」
「おじいさんの眼鏡、壊れちゃってたでしょう?それに足腰が痛むって言っていたから、この杖があればきっと楽になると思って。」
 ク〜はそう説明したが、黙ったままで眼鏡と杖を見比べているおじいさんを見て急に不安になってしまった。
「…もしかして気に入らなかった?」
 その不安そうな声に、おじいさんはハッとしたようにク〜を見るとすぐに笑顔を浮かべ、
「とんでもない!…嬉しいよ。とても嬉しい。まさか坊やにプレゼントをもらえるだなんて思っていなかったから、びっくりしてしまったんだ。」
「ク〜ね、あの絵本のお礼をしたかったの。」
「そうか。そんな必要はなかったのに。わしの方こそ坊やにあの本を受け取ってもらって感謝していたのだから…。だが嬉しいよ。こんなに素敵なプレゼントをもらったのは生まれて初めてじゃ。有難う、坊や。大切にするからな。」
 ク〜はおじいさんの言葉に笑顔を浮かべると、嬉しそうに頷いたのだった。

 それから少しして、船はおじいさんを乗せ出航して行った。

 帰りは急ぐ必要もなかったので、二人は手をつないでのんびりと歩いて帰る事にした。
 その道すがらク〜がゼロスを見上げニッコリと話しかけてきた。
「ゼロ、おじいさんに会わせてくれて有難う。」
「俺は何にもしてないよ。ただレアバードを運転して来ただけさ。あの人ごみの中、おじいさんを見付けたのはお前なんだから。」
「ううん。ゼロがいなかったらきっと会えなかったよ。それにゼロはおじいさんの本の行き先を見付けてくれた。あの本達はね、おじいさんの子供なんだって。」
「そっか。それじゃあ大切にしなくちゃな。」
「うん!ク〜、今度は図書館に通うよ。おじいさんの本に会いにね!」
 元気よくそう答えたク〜を見て、ゼロスは笑みを浮かべたのだった。


 そうやってお前は本を通じてたくさんの夢に出会って行くのだろうな。
 キラキラと瞳を輝かせながら、色々な世界へ旅立って行く。
 そこでお前は、ある時は冒険をし、ある時は恋をし、泣いたり笑ったりしながら少しずつ成長して行くんだ。

 人はたくさんの夢を見ながら大人になって行く。

 そうだったよな?クラトス!


−ゼロス君の子守唄4 終−