ゼロス君の子守唄5
ク〜とゼロス、フールの三人は草原に遊びに来ていた。
「うわ〜、きれいだね〜!お花がいっぱいだよ♪」
「たまにはこう言う所に来るのもいいな。」
と、ク〜やゼロスは美しい景観を楽しんでいるようであったが、何故かフールは一人キョロキョロと何かを探しているようである。
実はこの草原には世にも珍しい虹色の蝶が生息しているという噂があり、フールはユグドラシルよりその蝶を捕まえて来るよう密命を受けていたのである。
もちろんフールとて、そんな珍しいものが簡単に捕まえられるとは思っていない。第一本当にいるかどうかも怪しいものだ。しかし手ぶらで帰ろうものなら一ヶ月間おやつ抜きのキツ〜イお仕置きがまっているのは必定で、それだけは絶対に避けたかった。それで必死になって探していたのであった。
「私のおやつはどこにいる?私のおやつ・・・」
と呪文のように唱えながら探しまくるフール。
なにしろ子供の姿の今、フールにとっておやつの時間は数少ない至福の時なのである。それを取り上げられては堪らない。
するとそんなフールの耳にク〜の声が聞こえてきたのだった。
「あ、ゼロ見て!ちょうちょさんだよ。虹みたいにきれいなちょうちょさん!!」
ハッとして振り返るフール。
そこにはク〜の言うように七色の光を放つ蝶の姿が・・・。
気が付くとフールはク〜に向かって叫んでいた。
「捕まえろ!!そいつを捕まえろ〜〜!!」
「え?・・・うん、分かった。任せて!」
ク〜は一瞬驚いた表情を浮かべたが、自分自身捕まえたいと思ったのだろう、すぐに蝶を追いかけ始めた。そしてしばらく後、ようやく捕獲に成功したのであった。
「フールちゃん捕まえたよ〜!」
「よおし、でかした!!絶対に逃がすなよ。今虫籠を持って来るからな。」
そう叫ぶと走り去って行くフール。
それを見送ると、ク〜は誇らしげにゼロスに言った。
「ねえゼロ、見てた?これク〜が捕まえたんだよ。フールちゃんが虫籠持って来てくれるから、そうしたらこれからはきれいなちょうちょさんとずっと一緒にいられるね。ゼロもたまに見においでよ。」
ク〜はゼロスも喜んでくれると思っていた。しかしゼロスは浮かぬ顔である。
「どうしたの、ゼロ?」
「・・・それ、逃がしてやらないか?」
「え?」
ク〜は信じられないと言った様子でゼロスを見た。
「どうして?どうしてそんな事言うの?」
「虫籠なんて狭い所に押し込んじゃ可哀想だろう。」
「いや〜!!絶対に嫌!!・・・だってこれ、ク〜が捕まえたんだもん。このちょうちょさんはク〜のものだもん!!」
取られてなるものかと、蝶を覆っている両手をしっかりと胸に押し抱き、涙ぐむク〜。
ゼロスは膝を折り目線をク〜に合わせると、優しい声で話しかけた。
「この蝶が綺麗に見えるのはどうしてだと思う?」
「え・・・?」
「この青い空の下、羽を思い切り広げ、自由に花々の間を飛び回っているからなんじゃないかな?狭い所に閉じ込めたりしたら蝶だってつまらないだろう?」
「・・・大丈夫だもん。だってク〜がいるもん。いつも一緒にいてお話するからつまらなくないよ。だから・・・」
「でも同じ蝶の友達はいない。違うか?」
「・・・・・・」
「これがもしお前だったらどう思う?突然俺やフールと引き離され、狭い檻の中に閉じ込められたら?見えるものと言ったら檻の中から見られる範囲の限られた景色だけ。今までみたいに自由に出かける事も出来なくなってしまうんだ。それでもク〜は平気なのか?」
ぷるぷると頭を振るク〜。
「だろう?蝶だって同じなんだよ。蝶にとってはこの草原が家なんだ。ここには友達もいるだろう。大好きな木や花だってある。何より自由がある。それを奪ってしまうのはどうだろうな?」
「・・・・・・」
ク〜は押し黙った。
そしてそのまましばらくの間、手の中の蝶と周りの自然を見比べていたが、やがて手を掲げると意を決したように閉じていた手をパッと開いたのだった。
蝶は再びひらひらと自由な空へと舞い上がって行く。
「あ〜〜っ!」
悲鳴を上げたのはちょうどそこへ戻ってきたフールであった。
ク〜は振り返ると言った。
「フールちゃん、ごめんね。逃げちゃった。」
「な、な、何をやっているんだ!あれ程逃がすなと言ったろう!?」
「本当にごめんね。でも、ちょうちょさん、嬉しそうだよ。有難うってお礼を言っているみたい。」
ニッコリと笑うク〜を見て、絶句するフール。その手に持っていた虫籠がポトリと地面に落ちる。
「逃げちまったもんは仕方がない。潔く諦めな。」
フールは涙目でゼロスを睨み付けた。
「お前だろう?お前がク〜に何か言ったのだろう!?」
ゼロスは肩を竦めると、
「俺はただ、あの蝶から自由を奪いたくなかっただけだよ。俺達のように。」
「え?」
「俺もあんたもクラトスも、皆、ユグドラシルと言う鎖で縛り付けられ、自由なんてものがない。いや、もしかしたら自由と言うものを一番忘れちまっているのは斯く言うユグドラシル自身なのかもしれないけどな。でもそんな俺達と違ってまだク〜には自由がある。」
「・・・・・・」
「だから俺はあいつに、せめてク〜である間は自由の大切さを忘れて欲しくなかった。あいつの手で他のものの自由を奪い取るような真似をさせたくなかったんだよ。籠の中の鳥は俺達だけでたくさんだ。だろ?」
「籠の鳥か・・・」
空を舞っている蝶を見上げながらフールが呟いた。
「確かにそうかもしれんな。」
「だからさ、もういいじゃん?あんな蝶は最初からここにはいなかった。それでいいっしょ。」
「まあな。しかしそうなると私のおやつがな・・・」
「はい?おやつ?」
目を丸くするゼロス。だがすぐに意味が理解できたようで、今度は笑い出した。
「・・・はは〜ん。もしかしてユグドラシルにあの蝶を捕まえて来ないとおやつは抜きだって言われたとか?」
「わ、笑うな!子供にとっては重大な問題なんだぞ。」
「だったら大人に戻ればいいじゃんよ。もういつでも戻れるようになったんでしょ?」
「言っただろう。ク〜の前ではこの姿でいると。最近、ク〜のお守ばかりさせられているものでな・・・。第一大人に戻ったらおやつの楽しみが半減してしまうだろう。」
(結局あんたはおやつが食べたいだけなのね・・・)
ゼロスは溜め息を突いた。
「それなら、うちに食べに来ればいい。」
「本当か!?」
「ああ。おやつぐらいク〜も一緒ならいつだってご馳走してやるよ。」
「・・・・・・私はおまけか?」
不貞腐れるフール。
しかし結局おやつの誘惑には勝てなかったようで、渋々頷くと言った。
「・・・分かったよ。それで手を打とう。」
「よし、決まった!」
ゼロスはニヤリと笑うとク〜の方へ視線を移した。
ク〜は相変わらずピョンピョンと跳ねながら例の蝶と戯れている。
「ク〜、そろそろ帰るぞ。」
「は〜い!」
その呼びかけに、ク〜は元気良く返事をして戻って来たのだが、その顔は少々不満そうであった。
「もう帰っちゃうの?ク〜、もっと遊びたいな。」
「また来ればいいさ。」
「ホント?それじゃぁ、約束!」
ゼロスはくすっと笑うと、ク〜が差し出してきた小指に自分の指を絡ませる。
『指きりげんまん、嘘ついたら針千本の〜ます!』
この純粋さには敵わない。
その綺麗な心に、今の内に・・・何物にも束縛される事のない身である今の内に、目にして来た色々な事をしっかりと焼き付けておけ。
もちろんクラトスに戻れば、ク〜として過ごしたこの時間はすっかり忘れてしまうだろう。でもその心の底には何かが残る筈。あんたが忘れかけていた大切な何かが・・・。
俺はそう信じている。
「約束だからね。絶対、絶対、だよ。」
「分かってるよ。針千本も飲まされちゃ堪らないからな。」
それから三人は手をつないで草原を後にした。
最後に振り返り、蝶に向かって手を振りながら別れを告げるク〜。
「バイバ〜イ、ちょうちょさん。また来るからね。それまで元気でね〜!」
そんなク〜達の姿を、蝶は七色の光を放ちながら、まるで別れを惜しむかのように見送っていたのだった。
自由と言う名の空の上から、いつまでも、いつまでも・・・。
−ゼロス君の子守唄5 終−