時計
コチコチコチ…
静まり返った部屋の中、時計の音だけが響いている。
だが私の中の時計は止まったまま…。
何故私はここにいるのだろう。
“姉様 ―― !!”
ミトスの悲痛な叫び声が聞こえてくる。
同時に剣に胸を貫かれ崩れ落ちるマーテル。
4000年前のあの日、止まりかけた私の時計。
だがアンナと出会いそれはまた動き始めた。
それなのに…
“アンナ―― !!”
再び聞こえてくる悲痛な叫び。
今度は私自身の声。
そしてその瞬間、私の中の時計は完全に止まった。
コチコチコチ…
静まり返った部屋の中、時計の音だけが響いている。
だが私の中の時計は止まったまま…。
私は本当に生きているのだろうか。
コン、コン。
ノックの音に私の意識は現実へと引き戻された。
返事を返すと、顔を覗かせたのはユアンだった。
「クラトス、ユグドラシルが呼んでいる。」
「分かった。」
私は気怠い体を起こすと、ユグドラシルの部屋へ向かった。
何の話かは分かっていた。
もうすぐ再生の旅が始まる。恐らくその件に関してだろう。
案の定、部屋に入ってきた私に、ユグドラシルは晴れやかな笑みを浮かべこう言ったのだった。
「時が来た。三日後に神託を出す。そこでクラトス、お前に護衛に付いてもらいたいのだ。」
再生の旅に四大天使自らが護衛に付くなど過去にも例がない事であった。
しかし私は何も言わなかった。
言う必要などない。私はただユグドラシルの命に従っていればそれでいい…。
そんな私にユグドラシルは言葉を継いだ。
「知っての通り、今回の神子は特別なのだ。失敗は許されない。またレネゲードの邪魔が入るかもしれんが、その点お前がいれば安心だろう?元人間のお前なら怪しまれる事もないだろうしな。お前が神子を連れ戻ったその時こそ、我々の長年にわたる悲願がようやく達成される。姉様が復活するのだ!期待しているぞ、クラトス。」
私は黙って頭を下げると、退出した。
我々の悲願…。
その為に流されてきた多くの血。
そして今回もまた…。
だがもうどうでもいい。
時の流れの中、自らの歩みを止めたあの日から、私は考える事を捨てたのだ。
今の私は、激流に揉みくちゃにされながら流され続けている、一枚の木の葉にすぎない。
虚しかった…。
ただ虚しかった。
マーテル教会聖堂。
やはりレネゲードは姿を現していた。
私は神子を殺そうとしていた男を排除し、退ける。
そこで出会った一人の少年…。
「…お前は、ロイドと言うのか?」
もう動く事はないと思っていた時計…。
しかしそれは、確かな音をたてながら再び時を刻み始めていた。
−時計 終−