通信ラッシュ
世界は、ロイド達のおかげで本来あるべき姿へと戻され平和となった。古き時代より生きてきた自分達の役目は終わった。これからは今を生きるもの皆が力を合わせ、未来を築いていってくれる事だろう。その為にも自分はこの世界を去るべきなのだ。
そう考えたクラトスは、愛する息子に別れを告げてデリス・カーラーンと共に旅立って行ったのだった。
ロイドとはもう再び会う事はないだろう。だが、すでに死んだと思っていた息子と再会でき、短い期間ではあったが親子としての時間を過ごす事もできた。これ以上の幸せが他にあろうか。この思い出さえあれば、これからいかなる困難が立ちはだかろうとも乗り越えていける。
「さらばだ。愛する息子よ。そして我が故郷、母なる星よ…」
だんだんと遠ざかっていく星を眺めながら、クラトスは一人感慨に浸っていた。すると…
ポッポッポッ 鳩ポッポ〜
金が欲しいか? やらないよ〜!
私が欲しいくらいなの〜
(原曲:鳩)
「??????」
いきなり聞こえてきた奇妙な音楽に、クラトスは首を傾げた。よく聞くと、それは通信機の方から聞こえてくるようだ。
クラトスは通信機のボタンを押した。
「私だ…」
『私じゃわからん。お前は誰だ?』
クラトスは溜息をついた。
「……クラトスだ。お前はユアンか?」
『おお、そうともよ。さすがクラトス。よく分かったな!』
「いや、普通分かるだろう?通信機はお前しか持っていないわけだし…」
『そっちはどうだ?こっちはまあなんとかやっているぞ。相変わらずハーフエルフに対する差別はあるが、それも日夜戦い続けている為かだんだんと良い方向に向かいつつある。それと……』
「待て!ユアン。」
何事もなかったかのように近況報告を続けるユアンを、クラトスは慌てて遮った。
「今の音楽は一体なんなのだ。」
『ん?童謡“鳩”のユアンバージョンだが気に食わなかったか?』
「そうではなくて、どうして通信機の着信音がいつの間にか変わっているのかを聞いているのだ!」
『その方がお洒落だろう?あの味も素っ気もない機械音じゃつまらなかろうと思ってこっそり変えておいてやった。』
「いつそんな余計な事を…」
『お前がロイドと決闘しているときだ。出番がくるまで暇だったので置いてあったお前の荷物から取り出してチョコッとな。』
人が命をかけて戦っている時に貴様という奴は〜〜〜!!
『一人一人曲を変えておいたから、これからはすぐに誰からの通信か分かるぞ。その方が便利だろう?』
「一人一人って…通信機は、私とお前が持っている二台だけだろう?」
『量産して配っておいた。今では昔の仲間は皆持っている。』
「な、な、な、なんでそんな…」
『だって一人じゃ寂しいだろう?いい気晴らしになるかと思ってな。うむ…ちょっと長くなってしまったな。また連絡するよ。ではな。』
一方的に通信を切ってしまうユアン。クラトスは呆然と立ち尽くしていた。
「皆に配った?曲を変えておいた?…なんだ?一体どうなっているのだ?」
すると再び目の前の通信機が鳴り出した。
私バカよね おバカさんよね〜
あきらめが あきらめが 悪いのね〜
(曲:心のこり 細川たかし)
「もしかして…ロイドか?…」
『ピンポ〜ン。すげえや!一発で分かるなんてやっぱ俺達親子なんだな〜。それともユアンの選曲がよかったのかな?こっちではどんな曲が鳴っているのか分からないんだ。なんて曲が俺の着信音になってる?』
「ある意味、お前にピッタリの曲だ。曲名は聞かない方がいいだろう…」
『ふ〜ん。なんか気になるけど、きっとカッコいい曲なんだろうな!』
「……」
『でも父さんも元気そうで安心したよ。俺の方も元気でなんとかやってるよ。でも、エクスフィア集めも大変でさあ〜。何しろ全国展開だろう?この間もレアバードがエンストしちゃってさ。大変だったんだ。』
「…エンスト?レアバードが?」
『うん。でも心配しないでな。ちゃんとやってるからさ。』
「私の方も約束通り、こっちに残っているエクスフィアを集めているところだ。近く宇宙に流す事ができるだろう。これはユアンを通してお前に伝えてもらおうと思っていたのだが、直接伝える事ができてよかった。もう、お前とは会えないだろうからな。」
『そうそう、その事なんだけどさ〜。俺、天使化して父さんの帰りを待つ事にしたから。』
「天使化!!ちょっと待てロイド!それは…」
『今回の旅で俺、“全国味めぐり日記”っていうの付け始めたからさ。父さん帰ってきたら一緒に食べ歩きしような〜!今日は父さんの声が聞けて元気が出て来たよ。それじゃあ、また連絡するよ。』
あまりの事に口をパクパクとしていたクラトスは、再び一方的に通信を切られてしまう。途端にまた鳴り始める通信機。
げんこつやまの たぬきさん
おっぱいもんで ねんねして
だっこしてチュ〜して またあした
(原曲:げんこつやまのたぬきさん)
なんだ、この青少年の教育に悪そうな曲は!?(くれぐれもよい子の皆さんは真似して歌わないようにして下さい)
「……ゼロスか?」
『うわ〜い。分かってくれたんだ〜。俺様ちょ〜嬉しい!』
「この曲から想像できるのはお前しかいないだろう。」
『え?そうなの?俺様は“乾杯”にしてくれって言ったんだけど、ユアンの奴、その通りにしてくれたのかな。』
「いや…違う曲だ…ユアンバージョンのげんこつやまのたぬきさんが鳴り出した。」
『なによそれ。なんでタヌキの歌で俺様を想像出来ちゃうわけ?』
「ユアンバージョンだと言っただろう。詳しくはとてもじゃないが私の口からは言えぬ。ユアンに聞いてくれ。」
『ふ〜ん。何か気になるけどまあいいか。天使様とお話できたもんね〜。最近の俺様はナンパも控えてひたすら天使様の帰りを待つ日々よ〜。』
「帰りをって…私が戻るのは…」
『分かってるって。大丈夫。俺様、天使になったからたっぷりと時間はあるってわけ。天使様と再び会える日を楽しみにしているよ〜。それじゃあ、また連絡するからね。(プチッ)』
「天使化!?待て、お前まで何を…」
だが、すでに切られた通信機からは応答もなく…
ある日 森のなか クマさんに 出会った
花咲く 森の道 クマさんに 出会った
(曲:森のくまさん)
「……プレセアか…」
『はい、そうです。よく分かりましたね。』
「なんとなくな…」
『そうですか。嬉しいです。実は、今日はご相談があって通信させて頂きました。』
「相談?」
『はい。ノイシュがにくきうをフニフニさせてくれないんです。』
「………」
『どうしたらいいのでしょう?』
「リンゴでもやったらどうだ?もしかしたら触らせてもらえるかもしれん。」
『餌で釣る訳ですね。有難うございます。それではやってみます。(プチッ)』
「………」
チイチイパッパ チイパッパ
雀の学校の 先生は
むちを振り振り チイパッパ〜
(曲:すずめの学校)
「…リフィルか。」
『おお、そうだ。よく分かったな!』
「…ユアンの選曲のお陰でな。今…遺跡の中にいるのか?」
『今出てきたところだ。そんな事も分かってしまうとはさすが天使だけあるな。』
「いや、それはあまり関係ないと思うが…」
『実は遺跡の中で珍しい石碑を見付けてな。引っこ抜いてきたのだが、見た事もない文字で解読できんのだ。』
引っこ抜いてきた!?盗掘か!!
「できんのだと言われても私はそれを見る事ができぬのだが。」
『そう言われてみればまさしくその通りだな。四千年の生き字引のお前なら分かると思ったのだが…そうだ、ユアンに映像も送れるように通信機を改造してもらえばいいのか!』
「…いや、それよりユアンに見てもらった方が早いのではないか?あいつも四千年生きているわけだし。」
『おお、そう言われればそうだったな。すっかり忘れていた。では早速見てもらう事にしよう。邪魔をして悪かったな。失礼する!(プチッ)』
「……………」
一体これはなんだ!?
これではあっちに残ったのとなんら変わらんではないか!
とにかくもう少しの辛抱だ…もう少しデリス・カーラーンが遠のけば通信もできなくなる。
そうすれば静かに暮らす事が出来るだろう…
クラトスはそう考えたのだが、いつまでたっても通信が途絶える事はなかった。思惑とは逆にもっと頻繁にかかってくる始末。
『あ、父さん?俺さあ、このあいだ大福食って腹こわしちゃってさ〜。便所との往復で疲れちゃったよ。』
「…そうかそれは大変だったな。」
『天使様〜、俺様、この前の通信の時の天使様の声を録音したんだ。今は毎晩聞きながら眠る事にしてる。だから早く帰ってきてよ〜』
「早くといってもそんな訳にはいかん。」
『クラトスさん、りんごをあげても駄目でした。今度はどうしましょう?』
「だったらバナナでもやればいい。」
『クラトス。ユアンは分からないそうだ。全く、あいつは役に立たない天使だな。やはりここは映像も送れるようにしてもらうしかないようだ。』
「……そうか。」
くっそおおお!これではこっちでの仕事が全く進まんではないか!
大体、何故こんなに離れたというのに未だ通信ができるのだ!?
クラトスはユアンに連絡をとった。
「クラトスだ。」
『それだけでは、本当にクラトスなのか分からんな。合言葉を言え。』
「……貴様、死にたいのか?」
『冗談だ。そう怒るな。全く短気な所は変わってないな。』
「お前に聞きたい事がある。デリス・カーラーンはもうとっくの昔に通信圏外に出た筈なのに何故かロイド達からの通信が未だ続いているのだ。」
『それはそうだろう。新しくアンテナをたてたからな。』
「アンテナ?」
『壊れた救いの塔を立て直しそれを通信機用のアンテナとして生まれ変わらせたのだ。そしてデリス・カーラーンにも巨大なアンテナを立てた。』
慌てて外に出るクラトス。見るとそこには巨大なアンテナが立っている。
「いつの間にこんなものを……だがそれにしたって限度があるだろう。」
『こっちとデリスの間に通信衛星を配置してある。それで五十年は通信可能となるはずだ。』
「まさか、そんな事が…」
『ワッハッハッ!このユアン様に不可能という文字はない!知っての通り、五十年たったらデリスは再びこちらへと戻ってくる。つまり永遠に通信できるという事だ。よかったな、クラトス。これで寂しくないだろう?』
「………」
それからも毎日ロイド達からの通信は続き、酷い時は一日に何十本もかかってくる日もあった。
『父さん元気か?俺、九九が三の段まで言えるようになったんだぜ!』
「そうか、よかったな。」
『天使様〜。俺様、この間海に遊びにいったんだけどさあ、女の子達に囲まれて断るのが大変だったよ。早く帰ってこないと俺様貞操の危機よ。』
「大変だったな…(貞操とは女性のそれを指して言うものだろが!)」
『クラトスさん…バナナでも駄目でした。今度はトマトで挑戦してみます。』
「…頑張ってくれ…」
『クラトス!先日興味深い文献を見付けてな。これによると三千年前にはプッシュベイビーの肉を食していたそうだな。本当か?』
「さあな…私は食べた事はない…」
『クラトス。この間、台風があってな。マーテルが危ない所だった。もちろん命がけで守ったがな。』
「そうか、それはご苦労だったな…」
おかげで全く仕事が手につかなかった。クラトスの中でどんどんとイライラが募ってくる。
『父さん!……』
『天使様〜……』
『クラトスさん…』
『クラトス!……』
『クラトス……』
クラトスの怒りが最高潮に達したその時、再び通信機が鳴り出した。
ずいずい ずっころばし ごまみそ ずい
蹴り入りそこねて スッテンコ
あらあ〜ら みっともない
(原曲:ずいずいずっころばし)
「うるさ〜い!!私はこれでも、物凄く忙しいのだ!下らん用事でかけてくるな!!!(ガチャンッ)」
「……いきなり怒鳴られた上に切られてしまった。私は何か悪い事をしたのだろうか?」
それは、リーガルだった。
リーガルは、クラトスの冷たい仕打ちにさめざめと涙を流したと言う。
それ以来、クラトスの通信機からは、「ただいま電波が届かない所にいるか電源が切られております。」とのアナウンスが流れるようになった。それが延々と続く為、ロイド達は仕方なく留守電にメッセージを入れる事にしたのだった。
それら四十件以上にわたる不毛なメッセージは、クラトスによって直ちに消された事は言うまでもない。
−通信ラッシュ 終−