恨みの1ガルド
草木も眠る丑三つ時…。
レネゲード基地内に不気味な声が響き渡る。
『いちま〜い、にま〜い、さんま〜い…』
その声に寝入り端を起こされたボータは不機嫌そうにベッドから抜け出した。
「まだやっているのか…」
軽く舌打ちをしてユアンの部屋へ向かう。
「ユアン様、いい加減にしてください!!」
「だって…どうしても一枚足りないのだ。」
振り返ったユアンは目に涙を溜めている。
テーブルの上には小銭の山。それは古くなったレネゲードの武器を新しく買い換える為、必死になって貯めた金であった。
「昨日銀行を出た時には確かに20万ガルドあったのだ。それなのに今はいくら数えても19万9,999ガルドしかない。1ガルド足りないのだ。これは一体どうした事だ!?」
「どうせ帰ってくる途中にどこかに落としたのでしょう。落し物はユアン様の得意技ですからね。」
「そんな筈はないのだが…。どこで落としたのだろう?」
「さあね。それが分かれば苦労はしませんな。大体、昼間から50回以上は数え直しているじゃありませんか。何度数えてもないものはないんです。もう諦めたらどうです。いいでしょう?1ガルドくらい。」
「競りが行われるのは今日なのだぞ。折角この日の為に隊員達から寄付を募ったと言うのに…。」
(寄付?…いや、勝手に給料から天引きしただけだろう?)
「1ガルドを粗末にする者は1ガルドに泣く事になるぞ。」
そう言って尚も数えようとするユアン。
「兎に角、安眠妨害ですから、もう諦めて頂きます!」
ボータは溜め息をつくと、そんなユアンを小銭から引き離し、無理矢理ベッドの中へ押し込んだのだった。
そして…。
ボータが物凄い形相で基地内を駆け抜けていった。もうすぐ競りの始まる時間だと言うのにユアンがまだ起きて来ないのだ。
「ユアン様、起きて下さい!!」
蹴破るようにドアを開け声をかけるも反応はなく、ユアンは幸せ一杯の夢の中。
そこで今度は布団を引っ剥がす。
ようやく目を覚ますユアン。
「もう12時を回ってますよ!」
「なんだと〜〜!?」
ユアンは飛び起きると慌てて着替えを始めた。
「何故もっと早くに起こしてくれなかったのだ!」
「何度も起こしに来たのにユアン様が起きなかったのでしょう。無意味な金勘定なんかで夜更かしするからこう言う事になるのです。」
「え ―― い、これでは競りに間に合わん!タクシーを呼ぼう!」
こうしてタクシーをすっ飛ばしなんとか競りに間に合ったユアン達。汗を拭き拭き席に着いた。
すると近くの席に覆面をした見るからに怪しい男が座っている。
「おいボータ、あいつを見ろ。手枷をしているぞ。もしかして脱獄囚か?さすが闇のオークションだけあるな。」
「ああ、あれはシーガル・ブランディー卿ですね。闇の帝王と呼ばれている男ですよ。その正体はどこかの企業のトップと言う噂ですが、本当のところは分かりません。」
「成る程、筋骨隆々のいかにもふてぶてしい男だな。しかしシーガル・ブランディー?…はて?どこかで聞いたような名前だな?」
「そうですか?気のせいでしょう。ほら、競りが始まりますよ。」
ボータに促され、壇上へ目を移すユアン。
闇のオークションだけあって、出てくる物は皆物騒な武器ばかりだ。その内、ユアンが目を付けていた『スーパー・ベリー・グレイト・バズーカ砲・ドッカ〜ン』(←何それ?)が出て来た。
「え〜、本日の目玉商品の登場です。3万ガルドから始めたいと思います。では、どうぞ!」
「4万ガルド!」
「5万ガルド!」
「6万5千!」
「7万!!」
次々と声が掛かる中、ユアンはビッと手を挙げると言った。
「15万ガルド!!」
人々からざわめきが起きる。
(よし、この品、私がもらったな。)
ほくそ笑むユアン。
しかしそうは問屋が卸さなかった。再び声が上がる。
「16万5千ガルド!」
声の主を見ると、それはあのシーガル・ブランディーであった。
(ついに闇の帝王登場か。だがこれぐらいはまだ想定内だ。)
「18万ガルド!!」
ユアンは提示金額を上げると、どうだとばかりにシーガルを見る。
ところが…
「18万5千ガルド。」
「!!…フン、まだまだ。18万6千ガルド!」
「18万7千。」
「18万8千!」
「18万9千。」
「むむむむむ…。」
ユアンの顔から笑顔が消えてゆく。
「よ、よ〜し、19万ガルド!!」
「19万5千ガルド。」
「…19万6千ガルド!」
「19万9千ガルド。」
「!!!」
今度は血の気が引いてゆくユアン。
「くっ…じゅ、19万9千500ガルド!」
「19万9千700ガルド。」
(こ、この野郎…完全に遊んでやがるな!)
「ならばこれならどうだ!19万9千800ガルド!!(残り199ガルド…今日の夕飯は抜きだ)」
「フ…。では、20万ガルドと行かせてもらおうか。」
「!!」
目を見開くユアン。
「ボータ、財布を出せ。1000ガルドぐらい持っているだろう!」
「ありませんよ。さっきタクシー代を払ってスッカラカンです。」
「なに〜〜い!?何故少し多めに持っていないのだ!!」
「ちゃんと多めに入れておきましたよ。でもユアン様が、いかにもぼったくりますって感じの怪しげなタクシーを呼ぶからいかんのでしょう。」
「フ…貧乏人が。勝負にならんな。」
足を高々と上げ、勝利のガッツポーズをとるシーガル卿。
「くっそ〜〜!あの1ガルドさえあれば〜〜!!」
(いや、例えあったとしても結果は変わらなかったと思いますけどね。)
こうして『スーパー・ベリー・グレイト・バズーカ砲・ドッカ〜ン』は闇の帝王シーガル・ブランディーの手に落ち、ユアンは失意の内に帰宅したのだった。
それから数日たったある日の事、ユアンがデリス・カーラーン内を歩いていると、とある部屋の中から話し声が聞こえてきた。
「へえ〜、1ガルド足りなかったんだ。」
「うむ、そうなのだ。」
(え?…1ガルド足りない?)
その内容に思わず足を止めるユアン。
声から察するにそれはミトスとクラトスのようである。外にユアンがいるとは気付かず話を続ける二人。
「それでよく買う事が出来たね。」
「それがな、もう駄目かと思ったその時、ふと足元を見たらなんとそこに丁度良く1ガルドが落ちているではないか!」
「へ〜、それは凄い。で、それを使ったってわけか。きっと日頃の行いがいいからだね。」
「うむ。そうかもしれんな。」
「それにしてもこの大福美味しいね!」
「うむ。何しろミズホの有名な菓子職人が作ったものだそうで、毎日行列が出来る程の品だからな。朝早く起きてメルトキオまで行った甲斐があったというものだ。金額が足りず9個にせねばならんと思っていたら、あの1ガルドのお陰でちゃんと10個買う事が出来たしな。」
「これで仲良く5個ずつ食べられるね♪」
「違いない。」
「「ハハハハハ…」」
目を見開き後退るユアン。その唇から呟きが漏れる。
「クラトス…犯人は貴様だったのか!」(←何の犯人?)
メルトキオと言えば取引をしている銀行がある所だ。恐らくクラトスが拾ったと言う1ガルドは自分が落としたものに相違ない。
「……」
ユアンは目の前の扉を憎々しげに睨み付けると、物凄い勢いで駆け去って行ったのだった。
そして場所は移ってレネゲード基地。
怒り狂ったユアンの姿があった。
「くっそ〜、クラトスめ!貴様はいつも私の邪魔をする。」
「ユアン様、まだそのクラトス様が拾ったと言う1ガルドがユアン様のものだと決まったわけではないでしょう?他の人が落としたのかもしれないじゃないですか。」
「いいや、あれは間違いなく私の1ガルドだ!!」
(何故に断定的?)
「くっそ〜、私の血と汗の結晶である20万ガルド…」
「いや、あれは隊員達の血と汗であってユアン様は何も流していないでしょう?」
「その一部である1ガルドをよりによって大福などに使うとは!」
「はい?…大福?」
「許さんぞ〜、クラトス!今度と言う今度は絶対に許さん!!」
どうやって復讐してやろうかと、舌舐めずりしながら考え込むユアン。やがて良い考えが浮かんだのか、はたと手を打つと言った。
「そう言えば今度の再生の旅には、あいつが護衛に付くのだったな。何と言うグッドタイミング!」
フフフフフと含み笑いをするユアン。
ボータは背筋が寒くなるのを感じていた。
「よ〜し、失敗させてやる!必ずやお前の旅、阻止してみせようぞ!!」
「ユアン様…そう言うのを逆恨みと言うんですよ。」
遠慮がちにボータが忠告するものの、もはやその声は怒りに燃えるユアンには届かず…。
「フッフッフ…待っていろよ、クラトス。1ガルドの恨み、思い知るがいい!!」
ユアンは窓の外に輝く星々を指差しながら、復讐を固く心に誓ったのだった。
−恨みの1ガルド 終−