ミトスを倒し、世界はあるべき姿に戻った。
 ロイド達は取り戻した平和を確かなものとすべく、それぞれが動き始めており、ゼロスも日常の神子としての雑務に追われながら、一方でハーフエルフへの差別制度の廃止や、シルヴァラントとの友好を結ぶ事を王へと進言し、その確立へと奔走していた。


 そんな日々がようやく落ち着き始めた頃、ゼロスの元をロイドが訪ねてきた。
「ロイド君、しばらく会わないうちに男っぽくなったじゃない。もう、少年って感じじゃないね。」
「そ、そうかな?」
 ロイドは照れたように頭を掻いた。
「ゼロスも色々と活躍してるみたいじゃん。忙しそうだよな。」
「ま、これでも一応まだ神子なんでね。その立場を大いに利用してるってわけ。でも色々と軌道にのり始めたから、最近少し落ち着いてきたかな。……で?ロイド君、今日はどうしたのよ、突然に訪ねてきたりして。まあ、ロイド君なら俺様何時でも大歓迎だけどね。」
 ゼロスは、うひゃひゃと笑い声をあげ、だが直ぐに真顔にもどると尋ねた。
「エクスフィア集めがうまくいっていないとか?」
「いや、そっちの方は大丈夫。大変は大変だけど、コレットも手伝ってくれているし、リーガルやしいなも情報集めに協力してくれているから、何とかなりそうなんだ。」
「そっか。」
「今日来たのはさ、近くに来たついでに顔見せに来たんだけど……あと、お前に伝えておといた方がいいかと思って。」
「伝える?何を?」
「………クラトスの事なんだ。誰にも言わなくていいって言われたんだけど、お前にはさ、やっぱ連絡した方がいいと思ってさ。」
「!!…天使様がどうしたんだよ。」
 ゼロスは思わず口調がきつくなる。

 やっぱりな…
 こいつ父さんの事、本気で…

 ロイドはわきあがる複雑な感情を抑えつつ、静かに言葉をつないだ。
「…父さん、デリス・カーラーンと共にこの地を去るつもりらしいんだ…」
「!!!」
 ゼロスは目を見開いた。

 天使様がいなくなる?
 俺様の気持ちを伝えたのは、ついこの間のことだ。
 なのに、いなくなるなんてどういうことだ?
 俺様振られたってこと?

 ゼロスは爪が食い込むほどきつく、こぶしを握った。

 だめだ!行かせない!!!
 絶対に行かせるものか!!

「ゼロス?」
 ロイドは怖い表情のまま黙っているゼロスを見て不安になる。
「ロイド君、俺様行くから!」
「へ?何処に?」
「天使様がいるロイド君の家に決まってるっしょ!!」
「……あ…ああ…俺もこれから一度帰るつもりだけど…でも、こっちでの仕事は大丈夫なのか?」
「仕事なんてやってる場合じゃない!俺様は世界のことなんかどうでもいいの。」
「ど…どうでもいいって……」
「俺様にとって大事なのは、天使様だけだからね。ロイド君ちょっと待っててな。すぐに支度してくんからよ。」
 二階へと駆け上がっていくゼロスを見てロイドは、益々不安になるのだった。



 さて、場所は移って、ここはダイクの家。
 物凄いスピードでレアバードを飛ばすゼロスについて行くのに必死だったロイドは、かなり疲れていた。その場にへたりこむロイドを放っておいて、ゼロスは蹴破るようにドアを開け、「天使様―!!」と叫びながら家中を探し回る。再び外へ出てきて庭も探したが、
「いないじゃんよ、天使様。」
 ゼロスは息を切らせながら、ロイドを睨みつけた。
「出かけているんだろ!ここにいる間の生活費は稼ぐって、時々傭兵の仕事をしてたから。……それより…」
 ロイドは外れかかったドアを指差した。
「これ、ちゃんと直しておけよな。怒られんのは俺なんだから。」
「そういうの、ロイド君の方が得意でしょ。俺様カナヅチなんて持った事ないからさ。」
「お前な〜」
「それより、どうしたら天使様引き止められるか考えようぜ。勉強が全くダメなロイド君でもこういう事なら少しはいい知恵でるっしょ。」
 ロイドはムッとした表情をつくったが、腕を掴まれそのまま家の中へと引き摺られていった。

「で?」
「『で?』って何がだよ。」
「だぁ〜か〜ら〜、どうしたら天使様が行くのをやめるかって、は・な・し!」
「無理だと思うぜ。父さん頑固だから余程の事がないと一度決めた事は覆さないと思うぜ。」
「ふ〜ん……なら、余程の事を作ればいいって事か…」
「…おい、何考えてるんだよ。」
「うひゃひゃ!まあ見てなさいって。俺様の本気、見せてやるぜ〜!!!」
「こんな事で本気になるなよ…っていうか、今のお前怖いぜ…マジで…」

 こうしてそれからというもの、ゼロス君によって様々な引き止め作戦が展開されて行くのであった。



《ゼロス君のクラトスひき止め作戦 その1》 トマトを食べさせて体調を悪くさせよう!

「どうよ、これ、トマトが入ってるって分からないでしょ!」
 ゼロスは作った料理をテーブルいっぱいに並べ、ロイドに見せる。
「…いや、分かるって…。赤みがかった、ほんのりオレンジ色のクリームシチューとか、妙に赤い味噌汁とか、このタラの煮付けも色が変だぜ。トンカツからは何かトマトの皮みたいな物体がはみでてるし。それに、メニューの内容がばらばらじゃねえか。和洋折衷かよ。」
「そんな言葉、ロイド君が知っていたとは思わなかったね。いいの、いいの。細かい事は気にしな〜い。」
「気にすると思うぜ、普通…。特にクラトスなんかは…。」
 ロイドは見ているだけで気分が悪くなり、その場を離れる。
「言っておくけど、俺、それ、絶対に食わねえから。」
「誰もロイド君に食べてくれなんて言ってないっしょ。天使様が食べてくれればいいの!」

 父さんだって食わないよ…

 ロイドはつぶやきながら窓の外を見て、ハッとした。
「おい!父さんが帰ってきたぜ。」

「何だ、ロイド、帰って来ていたのか。神子もいっしょに?」
 クラトスは家に入ってくると、まず二人がいることに驚いたようだった。
「う、うん。とりあえず一度戻ってきた。少し休んだら、今度はフラノールの方に行こうと思ってる。ゼロスはファイドラばあちゃんに用事があったみたいでさ。一緒に来たんだ。」
「そうか。ただでさえ時間のかかる作業だ。今は疲れた体を休めて、少しずつ進めていくのがよかろう。」
 それからクラトスは今度は視線をゼロスへと移すと、
「久しいな、神子。壮健そうでなによりだ。」
「あんたも、だいぶ調子が戻ってきたみたいじゃん。仕事やってんだって?お疲れ様。」
 ジャ〜ン、とゼロスは脇によけ、料理を並べたテーブルをクラトスに披露した。
「俺様、疲れて帰ってくる天使様の為に愛情一杯の料理作ったのよ。たくさん食べて疲れを癒してね!」
 クラトスは料理を一目見て、一瞬固まった。
「…せっかくだが、食事は済ませてきてしまった。依頼人の家に招かれ馳走になったのだ。」
「え〜、せっかく作ったのにぃ〜!」
「すまぬ。ダイク殿には、仕事が入った日は食事はいらぬ旨、伝えてあったのだが、ロイドは留守にしている時が多いものだから、伝えていなかった……本当にすまない。」
 クラトスは申し訳なさそうに二人に頭を下げた。
「い、いいって。天使様の都合も考えず勝手に作った俺様も悪いんだから。気にすんなよ。」
 ゼロスは慌てて手を振ってクラトスを慰める。

 どうも俺様って、クラトス前にすると弱腰になっちまう…

 クラトスは、ぼんやりと考えているゼロスに、もう一度謝ると、
「重ねて申し訳ないが、今日は疲れたから、明日ゆっくりと話そう。」
と言って早々に二階へ上がって行ってしまった。


「どうすんだよ、これ!」
 ロイドは、ほんのりトマト色に染まった料理たちを指差し、ゼロスに詰め寄った。
「さっきも言ったように、俺は絶対に食わねえからな!!!」
「こんなに作ったのに勿体無いじゃんよ。『総料理長』の俺様の料理が食えないって言うのか?」
「絶対に、い・や・だ!」
 二人は睨み合い、それぞれ剣に手をかけた。
 辺りが戦闘モードに切り替わりかけたその時、妙に陽気な声と共にドアがバタンと開けられ、ダイクが帰ってきた。
「いよう、ロイド!けえってきてたのか。ゼロスさんも来てたんかい。なんか知らんが、ドアが外れかけてんな。あとでなおしとけよ。」
 ダイクはドタドタと、突っ立っている二人の間を通り抜けると奥へと入ってきた。
「うまそうな料理が並んでんな。今日は、ぱーてぇーかなんかかい?」
「親父?……ゼ、ゼロスが作ったんだ。食っちまってもいいぜ。俺、腹いっぱいだから。」
「そうかい?そんじゃ、いただくかな。」
 ダイクは揉み手をしながら、テーブルにつくと料理を食べ始めた。
「!旨いじゃねえかよ。この強烈な隠し味のトマトがたまんないねぇ!!ゼロスさんよ、あんた料理の天才じゃねえのかい?」

 きょ、強烈な隠し味って何よ……。
 ていうか、親父さんに喜ばれても仕方がないっつーの!

 ゼロスは、泣き笑いの表情で、旨そうに料理を平らげていくダイクを眺めていたのだった。


−つづく−