2
《ゼロス君のクラトスひき止め作戦 その2》 風邪をひかせて高熱で動けなくさせよう!
「くっそー、ダイクの親父め!俺様がせっかく天使様のために作った料理を、全部食っちまって。」
翌日、ゼロスは庭のベンチに腰掛け、一人愚痴っていた。
「作戦を練り直さなきゃなんね〜な。」
う〜んと、ベンチに寝転ぶとゼロスは空に浮かぶ雲を眺めた。
程なくして、ゼロスの顔に怪しげな微笑が浮かぶ。
「フッフッフッ……俺様って天才かも。」
しばらくして、クラトスが家の中から出てきた。
「あれ〜天使様、お出かけ?」
「うむ。ちょっとユアンに用事があってな。おそらく今日も大樹の様子を見に行っていると思うから、会いに行ってくる。すぐに戻る。」
「そっか〜。いってらっしゃ〜い!」
ゼロスは、山道をおりていくクラトスを笑顔で見送ると、家の中へ駆け込んだ。
「ロイド君!!俺様出かけてくるから!」
流しで洗い物をしていたロイドは振り返り、ゼロスを見る。
「お前、まだ諦めないの?」
「当たり前でしょ〜よ。俺様こう見えてしつこいのよ〜」
ゼロスはロイドにウインクをすると、家を飛び出して行った。
ロイドはため息をつくと、呟いた。
「せいぜい父さんにばれない様に祈っててやるよ…」
ゼロスの乗ったレアバードが大樹のある所に到着すると、クラトスとユアンが何やら話しているのが目に入った。
ゼロスは少し離れた所に着陸し、耳を澄ませる。
「……で、ロイドに力を貸してやって欲しいのだ。旧レネゲードの情報網を使えば、エクスフィアのある場所も簡単に割り出せるだろう?」
「うむ。それはそうだが…お前、本当にデリスカーランと共に行くつもりなのか?あそこにいるのは意思を持たない天使だけではない。ちゃんと自分の考えで行動できるハーフエルフもいるのだ。わざわざお前が行かずとも、彼らだけで十分やっていけると思うがな。」
「……私自身がけじめをつけるためだ。私にはこの様な方法でしか償う術が浮かばぬのだ。」
「まったく、不器用な奴だな。……まあ、お前がよく考えて決めた事だ。もう何も言うまい。だが、もうすぐ旅立つのだろう。そうなれば、百年先まで会えなくなるな。どうだ?今日はとことん飲み明かさぬか?」
「そうしたいが、すぐに戻ると言って出てきたのでな。それに天気が崩れそうだ。」
「大丈夫だ。今日は雨は降らん。お天気お姉さんがそう言っていた。」
「お天気お姉さん?」
「貴様、知らんのか!? 我がレネゲード放送局が誇る、気象予報士だ!!!」
「レネゲード放送局?気象予報士?…そんな物あるのか?」
「貴様!最高視聴率を誇る我がレネゲード放送局と、その中でもトップの人気者、気象予報士よし子ちゃんを知らぬとは!」
最高視聴率って、一つしか放送局ないっしょ。
ゼロスが密かにつっこみを入れる。
「…そ、そうなのか?……なんだか分からぬがすまなかった…」
「その、よし子ちゃんが言っていたのだ。今日は雨の心配はない!!」
「…わ、分かった。ならば食事だけなら付き合おう。」
「うむ。素直なお前が私は好きだ。近くの町にうまい料理を食わす店がある。そこへ行こうではないか。」
ユアンは逃げ出さないようにクラトスの腕をガッシリと掴むと、ほとんど引き摺るようにして連行していった。
ゼロスは再び怪しげな微笑を浮かべると、先回りするためにその場を飛び去ったのだった。
クラトスとユアンの二人は小川の所まで戻ってきていた。
「この小川は微妙な幅でな。いつも濡れぬよう渡るのに苦労するから、板を渡しておいたのだ。板が少々薄くて、渡る時にビョンビョン跳ねるが、そこがまたスリリングでよい。」
「羽を出して飛べばよかろう。」
「私は高所恐怖症なのだ。あまり飛びたくはない。」
「天使のくせにか?」
「天使のくせにだ!!もういいだろう?その話題には触れてくれるな。」
ユアンは強引に話を打ち切ると板を渡りはじめる…が、
バキッ!!バシャーンッ!!!
派手な音をたて、ユアンは尻から小川へと墜落した。
「ユアン!!!大丈夫か!?」
クラトスは慌ててユアンを引き上げる。
「板が腐っていたのか?」
ユアンはびしょびしょの服を絞りながら言った。
「廃材を拾ってきて再利用したからな。」
「ちゃんとした板を買ってきたほうがよかったのではないか?」
「まだ使えるものがあるのだ。もったいないだろう?今、はやりのエコってやつだ。」
「……」
「しかし服が濡れてしまったな。だが、いい天気だしすぐに乾くだろう。」
「…曇っているのだが…」
「細かい事は気にするな。さ、行くぞ!」
水をポタポタと垂らしながら颯爽と前を歩いていくユアンの背中を見ながら、クラトスは今更ながら彼の人格に疑問を抱いたのだった。
それからしばらくは、二人は何事もなく町へ向かっていたが、ここを抜ければ町が見えるという所まで来て、災難に見舞われる事となる。
それは、小さな崖に挟まれた細い道での事だった。道を行く二人の頭上に大量の水が降ってきたのだ。
クラトスは直前に察知し素早く避けたが、ユアンは直撃を受けてしまった。
何が起きたのか分からぬまま固まっているユアンに崖の上から声を掛けてきた者がいた。
「あんら〜、そんな所に人がいるとは思わなかっただに〜。すまん事したね〜」
上を見ると、えらく恰幅のよい女が顔を出しこちらを覗きこんでいる。
やっと我に返ったユアンは、女を睨むと怒鳴りつけた。
「この、ばばあ!!何しやがる!」
もっと酷い言葉で罵ろうとしたユアンを、クラトスが必死に止める。
「ユアン、気持ちは分かるが、あんなゴーレムのような体つきをしていても一応女性だ。『ばばあ』とは、いくらなんでも失礼だろう。」
「……クラトス。お前の方が酷い物言いではないのか?それにお前、さっき私を見捨てて自分だけ避けただろう。」
「すまぬ。当然、お前も気が付いていると思ったものでな。」
ユアンはクラトスを無視して、再び上に向かって怒鳴りつけた。
「やい、ばばあ、顔を出せ!せっかく乾いた所だったのにお前の所為でまた、びしょ濡れになったではないか!」
「…いや、ユアン。乾いてはいなかったぞ。」
クラトスのつっこみを再度無視して、ユアンは怒鳴り続ける。
「おい!聞いているのか!!」
しかし『ばばあ』からの返事はなく…
「もう、行ってしまったのではないか?」
するとクラトスがそう言葉を発したのと同時に、上から何か雑巾のような小汚い布がひらひらと舞い降りてきたのだった。それは、ちょうどユアンの頭上に落ちてきて、彼は頭からそれを被ってしまう。
「ぶはーっ!何だこれは!!」
「すまないね〜。大きい布はそれしかなくってね〜。それで、拭いておくれでないかい。」
ユアンは手に握った、その赤い布キレを胡散臭そうに眺めた。
「…なんか…臭うのだが…」
「亭主のフンドシさ〜。でも、洗ってあるからきれいだよ〜。」
「!!」
ユアンはそれを地面に叩き付けた。
「き、貴様っ。私を馬鹿にしているのか!!!」
ダブルセイバーを抜こうとするユアンを再びクラトスが必死にとめる。
「ユアン!落ち着け。今度こそ本当に行ってしまったようだぞ。」
「くっそ〜!今日は厄日か。私の自慢の青髪にフンドシが被さるとは!!」
「腰巻ならよかったのか?」
ユアンはジロリとクラトスを睨みつけた。
「どちらも嫌に決まってるだろう!下着だぞ、し・た・ぎ!!しかも下の部分を覆っているものだぞ。……まあ、腰巻ならあの『岩石ばばあ』の物でなければ考えてみん事もないがな。」
「考えるなよ……」
クラトスは小さな声で呟いた。
「さっさといくぞ、クラトス。美味い料理でも食わんとやってられんわ。まったく、気分が悪い!!」
ユアンは怒りで顔を真っ赤にして、のっしのっしとその場を立ち去って行った。
その後を、ため息をついたクラトスが付いていった事は言うまでもない。
そんな立ち去っていく二人の姿を、目で追っている者が崖の上に一人。
先程の女。ユアンいわく『岩石ばばあ』であった。
女は、ぼさぼさの髪の毛をつかむとそれを地面に投げ捨てた。続いて、顔からバリバリとシリコン製の仮面を剥ぎ取る。
現れたのは、ゼロス・ワイルダーその人であった。
「昔、しいなから教わった変装術が役に立ったね〜。」
ゼロスは濡れタオルできれいに顔を拭くとニヤリと笑った。
「天使様を濡らそうとしたんだけど、2回ともユアンが濡れちまうとはね。でも、それはそれで面白かったからいいか。しっかし、ユアンってからかい甲斐があるよねー。面白い反応してくれるし。貴重な人材だね。」
ゼロスはカラカラと笑い、空を見上げた。
「なんか、雨降ってきそうだね。天使様、傘持っていかなかったから濡れるな……」
雨が降る→天使様が濡れながら家に帰ってくる→風呂で温まる
ゼロスの頭の中で、クラトスが、これからやるであろう行動が図式化される。
ゼロスの顔に再び怪しげな笑みが浮かんだ。
「さぁて、それじゃ俺様は一足先に帰って、次の準備でもしますかね。」
ゼロスは、レアバードにまたがり、ダイクの家へと帰って行ったのだった。
その頃、ユアンとクラトスは無事に町に着き食事をしていた。
「どうだ、クラトス。美味いだろう。」
「うむ。このような小さな町に、これ程の腕を持った料理人がいたとは驚きだな。店の雰囲気も良い。」
「小さな町ほど、料理の美味い店が隠れているものだ。しかしお前、デリスに行ったら、こんな料理食えなくなるぞ。」
「食事に行くわけではない。それに、我々は食べずとも生きていける体だろう。」
「お前が指導者になると、デリス・カーラーンも、ますますつまらん世界になりそうだな。」
「文化というものは、民衆の中で自然に育っていくものだ。上に立つ者が押し付けるものではないだろう。」
「そうかもしれんがな。だがな、クラトス…」
「デリスへ渡る件については、お前も納得してくれたのではなかったのか?もう、蒸し返すな。」
「私が言いたいのは、ここでやり残した事はないのか、という事だ。」
「どういう意味だ。」
「テセアラの神子とは、よく話したのか?」
「…なぜ、そこにゼロスがでてくる……」
「あの時…お前が封印を解く前に、ゼロスが私の元を訪ねてきたのだ。」
「…それは、ゼロスから聞いている。」
「真剣だったぞ。あの、プライドの高い男が、私に土下座せんばかりだった。お前を助けてくれと必死に頼んできたのだ。それで私も決心がついたのだ。ある意味、あの命がけの術を施す覚悟を決めることが出来たのも、最悪お前と共倒れになってもかまわぬと思えたのも、全てあの男のおかげなのだぞ。」
「……」
「勘違いするなよ。私は別にお前に恩を売るつもりはない。ただ、お前があまりにも奴の気持ちを無視しているようだから…」
「分かっている。お前の言いたい事も、ゼロスの思いも。だが、駄目なのだ。」
「何が駄目だというのだ?男同士という事か?」
「そういう事ではない。私は未だ自分を許す事が出来ぬのだ。…狂気へと向かうミトスを止めることが出来ずに、ただ長い時を無意味に過ごしてきた。
ミトスは本当は止めて欲しかったのだ。師である私に救って欲しかった。だが、私はそんなミトスの気持ちを受け止めようともせず、あれを壊れ物のように扱うだけだった。そのくせ、自分だけアンナとの幸せな生活に身をおき、ミトスの事も、世界の事も、見て見ない振りをし続けたのだ。」
「それは、私とて同じだ。それに、お前はもう、全てを失うことでその罪を…それを罪と言うとすればの話だが…清算したのではないのか?」
「清算など出来てはいない。少なくとも私の中では…。この先も出来ようはずがない。罪を償うためにまた新たな罪を犯す、その繰り返しだ。ロイドを傷つけ、今また、ゼロスも傷つけている。」
「だから逃げ出すのか。」
「何とでも言え。……そうだ、私は逃げる。もう、私を誰も愛してくれずともいい。私から愛する事もないだろう。そうでもしなければ、私はこれからも他人を傷つけ、自分自身をも傷つけ続けるだろう。」
クラトスは目を伏せ、拳を握った。微かな震えを隠すため、手をテーブルから下ろし膝の上に置く。
「もう、いいだろう?頼むから、私の事は放っておいてくれないか。……ゼロスにとってもこの方がいいのだ。あれはまだ若い。これからいくらでも幸せを掴むことが出来る。私などに関わらぬ方がいい。」
「…クラトス…友人として一つ忠告させてくれ。これ以上、自分を追い込むのは止める事だ。自分の周りに壁を作り他人を拒絶してどうなる?そこから何も生まれはせんぞ。己が奈落へと落ちていくだけだ。そうなったらお前…」
不意に言葉を切り、ユアンはクラトスを見た。クラトスは静かにユアンを見つめている。
「まさかクラトスお前…」
「そろそろ出ないか?混んできたようだ。」
クラトスはユアンから目をそらし、席を立った。
支払いを済ませ、店を出る。
町の出口へと向かう道、二人は無言だった。そして出口に着くと、クラトスは振り返りユアンを見た。
「…ユアン、有難う。お前の気持ちはとても嬉しかった。だが、もういいのだ。これで、私という人間に縛られていた全ての者が解放される。ロイドやゼロスもそれぞれの道を気兼ねなく進んでいく事ができるだろう。アンナの魂も安らかに眠りに付く事が出来る。お前も、マーテルとの思い出を胸に大樹を守っていく事のみに専念できる。そして私自身も…。我が儘だと思われてもかまわん。考えた末に出した結論だ。皆が幸せになる方法はこれしかないと思っている。」
「……」
「ユアン、お前は私にとってかけがえのない友だ。お前のような友に出会えて私は幸せ者だ。本当に感謝している。」
クラトスは今までにない清々しい笑顔を浮かべ握手を求め手を差し出した。
だが、ユアンはクラトスを見たまま手を出そうとはしなかった。
そんな二人の頭上にポツリポツリと雨が降り出す。
「降ってきたようだな。お前の『よし子ちゃん』は予報をはずしたようだ。」
クラトスは笑いながら、差し出した手を引っ込めた。
「ユアン、ロイドやゼロス達の事、頼んだぞ。……私の最後の願いだ。今まで有難うユアン。達者でな。」
クラトスは黙ったままのユアンに一礼すると、羽を広げ飛び立っていった。
ユアンは、だんだんと小さくなっていくクラトスの後姿を見つめながら呟くように言った。
「本気でそう思っているのか、クラトス。そんな事をして皆が幸せになどなれるわけがないだろう。お前は私を友と言ってくれたな。ならば、私は友としてお前の間違いを正そう。ミトスには出来なかったが、お前の事は必ず止めてみせる。たとえ、それでお前に恨まれる事になろうともな。…ミトスもきっとそう望んでいるに違いない。ああ見えてあいつはクラトスの幸せを一番望んでいたのだから。」
小雨だった雨はだんだんと激しくなり、今では叩きつけるような雨に変わっていた。
クラトスはびしょ濡れになり、家の玄関へとたどり着いた。
家の前で滴る水滴を軽くはたき中へと入る。
「あ、父さんお帰り。びしょ濡れじゃん。これで拭けよ風邪ひくぜ。」
中にいたロイドがクラトスが戻ってきたのに気付き、テーブルに用意してあった二つのタオルの内の一つをクラトスに放ってよこした。
「すげえ降りになったよな。洗濯干してたの忘れててさ、慌てて取り込んだけど洗濯物も俺もビショビショになっちまった。」
そういえばと、家の中に濡れた洗濯物が干されているのに気付く。
「風呂沸かして入ったんだ。父さんも入っちまえよ。そのままじゃ本当に風邪ひくぜ。」
「…そうだな。だが、ダイク殿は?居候の身で家主より先に入るというのもな…」
「まだ、帰ってきてねえよ。それに居候だなんて言うなよな。俺の父さんなんだから。親父だって、そんなの聞いたら怒り出すぜ。『細かい事気にしてんじゃねえ!』ってな。」
「フッ…そうだな。では、入らせてもらおう。」
その二人の会話を盗み聞きしていたゼロスは急いで風呂場へ向かった。
浴槽の栓を抜き、ちょうど良く沸いていたお湯を全て抜いてしまう。かわりに外で汲んできた冷たい水をいれると、更にその中に冷蔵庫で作っておいた氷をぶち込む。
クラトスがいつも湯船につかる前に軽くシャワーで体を洗い流す事を、ゼロスは幼い頃何年か共に暮らした事がある為、よく知っていた。
シャワーで温まった体でこの氷風呂に入ったらどうなるか?
「まさか死なねえよな…」
ちょっぴり不安になったゼロスだが、結局、天使様なら大丈夫だろうと結論付け、窓から外へ抜け出した。(良い子は絶対にまねしないでくださいね!)
さて、一方クラトスは、風呂の支度を済ませ、階下に下りてきたところだった。
すると、ちょうどその時、ドアが乱暴に開けられ、ダイクが駆け込んできた。
「ヒャー、参った、参った。すげえ降ってきやがった。」
「大丈夫ですか?ダイク殿。」
クラトスはテーブルに残っていたもう1枚のタオルをダイクに渡した。
「すまねえなクラトスさん。」
ダイクはタオルを受け取ると、ワシャワシャと頭を乱暴に拭き始める。
「ロイドが風呂を沸かしたそうなのです。ダイク殿すぐに入って温まったらいかがですか?」
「けど、あんたが入ろうとしてたんじゃないのかい?」
「私が戻ってきたときは、今ほど降ってはいませんでした。貴方の方が濡れがひどいようだ。それでは風邪を引いてしまう。先に入られたほうがいいでしょう。その間、私は火にあたっているから大丈夫です。」
「そうかい……すまねえな。じゃ、先に入らせてもらうわ。」
ダイクは軽く手をあげ感謝の意を示すと、風呂場へと向かった。
そんなやり取りがあったとも知らず、ゼロスは、風呂場の外でクラトスが入ってくるのを今か今かと待っていた。
「おっそいな〜天使様。早く来ないと俺様の方が風邪ひいちゃうよ。」
ゼロスは軒下に身を寄せていたが、何しろ雨の降りが強いために結構濡れてしまっていた。
いい加減様子を見に行こうかと思った矢先、ガラガラっと戸が開けられ、誰かが風呂場に入ってきた。
「来た!!!」
ゼロスはにんまりとして、中の様子を窺う。
「まったく!パンツまでグシャグシャに濡れちまったぜ。参った、参った。」
「!!?…この声…まさか!!!!」
ゼロスは慌てて窓に駆け寄り、入るのを止めようとしたが、時すでに遅く、彼が窓から顔を出した時には、すでにダイクは湯船にダイビングしていたのであった。
「ぎゃあああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
そのダイクの悲鳴は、イセリアの村まで響き渡ったという。
ゼロスは早々にその場を逃げ出したのであった。
どうもうまくいかない。する事する事が全て裏目に出て、ゼロスは少々参っていた。
幸い、ダイクはあの氷風呂に入ったのにもかかわらず、それほどの大事に至らずに鼻風邪を引く程度で済んでいた。それには正直、ほっとしている。あれから当然犯人探しが行われるものと思っていたのだが、不思議な事にそれも行われる事はなかった。
「もう、俺様がやったってばれちまってるってことか?そうだよな。ロイド君をのぞけば俺様しかいないわけだし。」
だったら、なんで、叱るなり、追い出すなりしないんだ?
俺様から出ていくのを待っているのか?
「いいや、違うな…。」
ゼロスは考えをすぐに否定する。そんなに陰険な連中じゃないって事くらい分かっているからだ。
「だとすると……謝ってくるのを、待ってるってか?」
でも…今は、まだダメなんだ。俺様はどうしても天使様を止めたい。だから…
と、その時、二階から怒鳴り声が聞こえてきた。
「やっぱり、おめえだったのか!!!!」
「いって〜!ボカボカ殴るなよ、悪かったって謝ってるだろう!俺がいつも風呂に入るの一番最後だから、癖で栓を抜いちまったんだよ。それで、今日直ぐに沸かせるようにって水を張っておいたのをつい忘れちまったんだ。」
ロイド君!?
ゼロスは急いで2階へ駆け上がった。
「俺が入らなかったら、クラトスさんが入っていた所だったんだぞ!つい、うっかりで済むと思ってんのけぇ!!」
ダイクが再びこぶしを振り上げたところに、ゼロスが駆け込んでくる。
「親父さん!!!」
何か言おうとしたゼロスの口をロイドがふさぎ、そのまま引き摺るように部屋の外へと連れ出していく。
「本当に悪かったよ、親父。クラトスにもちゃんと謝っておくから!」
「あったりめーだ、バカヤローが!!!」
階段へと消えていくロイドに向かって怒鳴りつけたダイクだったが、二人の姿が見えなくなると、何やら考え込んでいた。
「ロイド君、ごめんよ。本当は俺様が…」
「シーッ!いいか?お前は黙ってろよ。お・れ・が、うっかりしたんだ。いいな?」
「……」
「大丈夫だって。殴られるのなんてガキの頃からだから、もう慣れちまってる。」
「ロイド君…」
「クラトス止めるんだろう?こんな事したってばれちまうだろうけどさ、時間稼ぎにはなるだろう。もう、俺が何を言ってもクラトスの決心をひるがえせないけど、お前なら、って思うんだ。だから…」
「……有難う、ロイド君。全てが済んだら、必ず謝りにいくから。」
「貸しってことにしとくよ。」
ロイドはにやりと笑ってウインクした。
ゼロスはそのまま家を飛び出した。
クラトスのいる所へ向かって走り出したのだった。
次の作戦を実行する為に。
−つづく−