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《ゼロス君のクラトスひき止め作戦 その3》 ケガをさせて動けなくさせよう!
今日はクラトスは、仕事で街に出かけていた。
ゼロスはクラトスの姿を探して街を歩き回る。
「しっかし、ここは何時来てもあっついね〜。砂漠の真ん中に街があるのってどうよ?」
汗を拭き拭き、辺りを見回していると、宿屋の前にノイシュを見つけた。
クラトスはこの街に来る時はいつもノイシュを利用すると、ロイド君から聞いていた。
「ここにいるってことだよね〜!!」
ちょうどその時、ノイシュがこちらに振り向きゼロスと目が合ってしまった。
ノイシュは嬉しそうに尻尾を振りながら「わぉ〜ん!!」と嘶く。
ゼロスは慌てて物陰に身を潜めた。
ノイシュは激しく尻尾を振りながら、大声で鳴き続けている。
「うお〜ん!うわぁ〜ん、きゃいん、きゃいん!!!」
「シッシッ!静かにしなさいったら!!!天使様にばれちゃうでしょーがよ!」
ゼロスは静かにするように必死に物陰から合図を送るが、ノイシュの目にはそれが遊んでもらっているように映るらしくますます鳴き声が大きくなっていく。
「チッ!あんの馬鹿犬、いつもは俺様の事毛嫌いしてるくせにこんな時だけ変に懐きやがる…」
いい加減、蹴飛ばしてやろうかと思い始めたその時、
「ノイシュ、うるさいぞ。他の者の迷惑になる。静かにしなさい。」
と、宿屋からクラトスがでてきた。
「一体どうしたのだ?誰かいるのか?」
クラトスはノイシュに声を掛けながら、油断なく辺りを見渡し始めた。
ゼロスは身を強張らせ、必死に気配をころす。
クラトスは気付かなかったのか、ノイシュの首を軽くぽんぽんと叩くと、
「もう直ぐ終わるから、静かに待っていなさい。」
と言って再び宿屋へ入っていった。
「ふぃ〜、危ない、危ない。」
ゼロスは大きく息をつき、汗を拭った。
すると、そんなゼロスの肩をたたく者がいる。振り返って見ると、そこには、みるからにオツム空っぽそうなスキンヘッドの男が、後にやはりアホズラをさらしている四人の男を従え立っていた。五人とも筋骨隆々、まあ、一見強そうではある。
「そんな所にボサーと突っ立ってんじゃねえ!」
スキンヘッドがだみ声で言えば、
「邪魔なんだよ〜兄ちゃん!」
と、後の四人がハモる。
「迷惑料よこしな!それで今回は見逃してやらあ。」
と、再びスキンヘッド。
「有り金全部おいてきな〜」
ハモる四人。
ゼロスは目を輝かせ、ニヤリと笑う。
「こりゃまた、手頃な小悪党が現れてくれちゃって。」
「んだとぉー、なめた口聞いてんじゃねえよ!」
「痛い目に遭いたいのか〜」
「まあまあ、あんたたち、ちょいとバイトしてみない?」
「ノイシュ、待たせたな。」
クラトスは宿屋から出てきてノイシュに微笑んだ。
「わぉ〜ん!」
「少々依頼人と料金の事でもめてな。だが話はついたから大丈夫だ。」
「わん!」
「では、帰るとしようか。」
クラトスはノイシュにまたがると街を出た。
だが、砂漠を渡り終えたあたりで前に立ちふさがる者たちがあった。
「兄貴〜犬に乗った男ってえのは、こいつじゃねえっすかね。」
「うむ。鳶色の髪に紫紺の服。間違いないようだ。」
「何の用事か知らんが、ノイシュは犬ではないぞ。」
クラトスはノイシュから降りながら言った。
「うるせー。んなこたあ、どうでもいいんだよ!ちょっくらおめえには痛い目にあってもらうぜ。」
「悪い事は言わぬ。おとなしく立ち去った方が身のためだと思うがな。」
クラトスはノイシュを下がらすと、鋭い目で男達を睨む。その眼光にチンピラたちは怯んだ。
「あ、あ、兄貴〜。こいつ強そうでっせ〜。」
「ば、馬鹿野郎!こ、こっちにはこれがあるじゃねえか。」
スキンヘッドは懐からなにやらカプセルのようなものを取り出した。
「そ、そうでしたね〜」
子分達もそれぞれ同じものを懐から取り出す。
「聞いて驚け!!こん中にはなー、強いモンスターが入ってるんだ。俺たち5人に、モンスター5匹。いくらおめえが強かろうが、この数相手に勝つ事が出来るかな?」
男達がカプセルをあけると、白い煙と共にモンスターが現れた。
「!!」
それはクラトスが見た事もないモンスターたちだった。僅かに驚きの表情を見せたクラトスを見て男達はにんまりと笑う。
そして、咆哮をあげるモンスターと共にじわりじわりとクラトスに詰め寄っていった。
数分後……
「とんだ見掛け倒しだったな。」
ぱたぱたと服についた埃をはたく、無傷のクラトスがいた。
カプセルから現れたモンスターはやられると同時に再び煙となって消えていった為、現在彼の足元にはうめき声を上げている5人の男どもが転がっているだけだった。
クラトスは下がらせていたノイシュを呼び寄せると男達を一瞥し、
「一応、事前に忠告はしたぞ。これからは相手を見きわめてから事を起こすのだな。」
と、言い残し去っていった。
クラトスが去って少ししてゼロスがやってきた。転がっている男達を見て肩をすくめる。
「…こうなるだろうとは思ったけど、これ程とはね。カプセルモンスターも役に立たなかったってか?やっぱ、戦神相手にこいつらじゃあ役不足だったか…」
そのまま立ち去ろうとするゼロスの足をスキンヘッドが掴んだ。
「お…おい…約束の金は?」
「仕事に失敗しといて金もらうつもり?それって図々しいんじゃないの?」
「て、てめえ!騙しやがったのか!!!」
「出来高払いだって言ってんの。あんたら天使様に傷一つ付けられなかったっしょ。」
「て、天使って、まさかクラトス・アウリオンじゃねえだろうな!?」
「ありゃ〜、天使様って有名?」
「てめえ、知ってて俺たちにあの伝説の剣士を襲わせたのか!」
「今の言葉、天使様聞いたら怒っちゃうよ。まだ生きてんのに勝手に伝説に祭り上げちゃってさ〜」
「うるせー!!こうなりゃ、てめえから金を奪うまでだ!!」
「親分、こいつならさっきの奴と違って優男だから、簡単でっせ。」
5人のチンピラはよろよろと立ち上がるとゼロスを取り囲んだ。
「俺様をやるってか?」
「へん、今更後悔してもおせえぜ。有り金全部置いてきな!」
ニヤニヤ笑いながら5人はゼロスに詰め寄っていく。
「お前ら、いい加減ウザイんだよっ!!」
突然豹変したゼロスにチンピラどもは一瞬立ち止まる。
だが、所詮は優男一人と、5人一斉に飛び掛った。……そして、玉砕したのであった。
「て…てめえ……なにもんだ?」
「俺様?ゼロス・ワイルダーって知ってるよね。それ、俺様の事よ。」
「ゼ、ゼロス・ワイルダー?あの英雄の仲間でテセアラの神子の?」
「あ、その言い方、気にくわな〜い。それじゃあ俺様、ロイド君の付属品みたいじゃん。お仕置きだね」
それからゼロスは5人を更にぼこぼこに痛めつけ、すっきりとした顔で満足げに去っていったのだった。
あとには白目を剥いた男達が泡を吹き横たわっていた。
その後、暴漢、盗賊達の間で『鳶色の髪の剣士と赤い髪のバンダナをした優男には絶対に手を出すな!』という新たなお触れがわたったという。
それからもゼロスは、果敢に挑戦し続けた。
二階からクラトスが下りてくるのを見計らって、階段にロウをぬって滑りやすくした。だが、何事もなくクラトスは一階に下りてくる。不思議に思ったゼロスが確認しに階段を上り、自分が滑り、転げ落ちた。
棚をクラトスの上に落とそうと細工をするが、落ちたのはダイクの頭の上であった。
床に釘をしかけて踏まそうとするも、踏んで悲鳴をあげたのはロイドだった。
何度も試みるが、包帯や絆創膏の数が増えていくのはロイド、ダイク、そして自分自身で、当のターゲットであるクラトスはピンピンしていた。
そして今、ゼロスは穴を掘っている。
場所はアンナの墓の手前。クラトスが毎日欠かさずに墓参りをしている事を知っていたからだ。
「ロイド君にはダイクのおやっさんをこっちに近づけないように言ってあるし。今度こそ確実に天使様を…」
ゼロスはシャベルを地面に突き立て汗を拭った。
「本当ならこんな力仕事はロイド君向きなんだけどね〜」
ぼやきながら再び掘り始める。
「でも、天使様の幸せの為だ。俺様がんばっちゃうもんね。」
幸せを願いながら、その相手に怪我をさせようとしているという矛盾した行為も、本人は全く気にする様子もなく作業を続ける。
「あとは、穴底に竹やりを刺してっと……」
すると、そんなゼロスに背後から声を掛けて来た者がいる。
「大変そうだな。手伝ってやろうか?」
「ありがと〜。でも大丈夫もうすぐで完成だから。」
ゼロスは竹やりを突き刺しながら陽気に答えたが、
「!!?」
ピクリと体をふるわせてゆっくりと見上げた。
「て、天使様!?」
クラトスが穴の上で腕を組んで見下ろしていた。
ゼロスはあわてて穴から這い上がる。
「あ、あの、こ、これは……そ、そう!生ごみを埋めようと…」
「それにしては、随分と大きな穴だな。」
「こ、この間、料理をしていたら大量に出ちゃって…」
「そうか、分かったぞ。」
「へ?」
「生ごみとはお前の事か!!」
「なっ!ち、違うから。ちょ、ちょっと天使様?」
不気味な笑みを浮かべ、クラトスが一歩一歩近づいてくる。
ゼロスは後ずさろうとするが、これ以上下がれば穴へと落ちてしまう。
「て、天使様。危ないからね。向こうに行きましょう…」
「せっかく掘ったのだ。入り心地をためしたらどうだ?」
「いや、ホント危ないって…こっち来ないで!嫌、天使様来ないでって…や、やめ…ぐぎゃあああああああああああああ!!」
「なあ、もうやめた方がいいんじゃねえ?」
ここは家の中。あの後、ゼロスはロイドに救助され、今、包帯だらけの姿でテーブルに突っ伏している。
「やっぱさ、父さんの決心を変えるなんて無理だったんだよ。もう、ばれちまったし…」
「天使様はだいぶ前から気が付いてたよ。あれだけ勘の鋭い人なんだ、気付かない方がおかしい。」
「…あのさ、ゼロス。実はお前を助けに行く前、父さんが来て、明日旅立つ事にしたから頼むって言われたんだ。」
「!!!」
「だからさ、ゼロス……もう…」
「フフ…ハハハ……アーハッハッハッハッハ!!」
「ゼ、ゼロス?」
突然笑い出したゼロスに、ロイドは目を丸くした。
「俺様馬鹿みてえだな…前に、好きだって告白したのに行っちまうなんて言うからさ、意地になって止めさせようとして。何度も失敗してうまくいかなくて、周りに迷惑かけるだけで……最後には嫌われちまった。」
「ゼロス……」
「怒っただろうな…。いや、呆れたかな。どうしようもない馬鹿な奴だって…。嫌われて当然だよな。」
「…で、諦めちまうのかい?」
突然背後から声が聞こえて、二人は驚いて振り返った。
「親父!?」
「ゼロスさんよ。あんた、間違ってるぜ。」
「……」
「脇からこちょこちょと色々やってたようだがよ、そんな事したってうまくいくはずがねえ。人の気持ちを変えるってぇのはそう簡単に出来ることじゃねえんだぜ。仮にうまく足止めさせたにしてもだ、根本から気持ちを変えさせない限りあんたの方へ向いちゃくれねえよ。あんた、正面からぶつかってみたことあんのかい?」
「ちゃんと告白したよ。それでもあの人は…」
「本気でやったのかい?命かけて死ぬ気になってやったのかい?」
「……」
「いいかい?あの人はな、自分の事なんてこれっぽっちも考えちゃいねえ。いつだって自分の事より周りの幸せが第一なんだ。自分自身はいつ、どこでくたばろうがかまわねえって目をしてる。まあ、これはこれで問題だがよ。だからこそ、そんな人間の気持ちを変えるにはこっちも命がけで臨まにゃあだめなんだよ。中途半端な覚悟で落とせる訳がねえ。」
「俺様だって真剣だったさ!!本気で天使様を幸せにしたいって思ってた。でも、もう遅いんだ。明日だ!明日にはもうあの人は遠くへいっちまう。もう、何をしたって無駄なんだよ!!!」
ゼロスは立ち上がるとそのまま家を飛び出していってしまった。
「…親父…」
「俺だってな、全く望みのねえ奴にはあんなおせっかいしねえよ。だが、クラトスさんはあいつに好意をもっている。だからこそ自分から去ろうと考えてんだ。俺にはそう思えてならねえ。だったら、まだチャンスはあるだろう?クラトスさんはまだここにいるんだ。もう行っちまったわけじゃねえんだぜ?」
ダイクはニヤリと笑うと悪戯っぽく付け加えた。
「それによ、早く二人にくっついてもらわにゃあ、こっちの身体がもたねえよ。」
ロイドは笑い出した。
「本当だよな。このままじゃいつか殺されちまう。」
しかし、その日ゼロスは家には戻ってこなかったのである。
「夜が明けちまった……今日行っちまうんだよな〜天使様…」
ゼロスは草むらに寝転び空を見ていた。
家に戻ろうかとも考えたが、家に戻れば嫌でもクラトスと顔を会わす事になる。
それが嫌で、一晩中ここでぼんやりと時を過ごしていたのだが、どうにも落ち着かない。
『命かけて死ぬ気になってやったのかい?』
ダイクのあの言葉が頭から消えない。
それ程の覚悟で告白しただろうか?
あの時の自分は、心の中のもやもやをすっきりしたかった。抑えきれなくなった気持ちを相手にぶつける事で楽になりたかった。ただそれだけだ。クラトスの気持ちなんて全然考えていなかった。
「俺様って、ホントに嫌な奴だよね〜。あ〜あ、自己嫌悪…」
頭を抱えゴロゴロと草の上を転がっていたゼロスは、ふと、近づいてくる足音に気付き顔をそちらへと向ける。
「ユアン!?」
不機嫌極まりない顔つきでユアンが自分を見下ろしていた。
「神子。お前に話しておきたいことがある。クラトスの事だ。悔しいが、もうお前に頼るしかなさそうだ…」
「?」
「じゃあ親父、父さんを送りに行ってくるよ。」
ロイドは剣を腰にさしながらダイクに言った。
「とうとうゼロスの奴、帰ってこなかったな…。見送りにぐらい来ればいいのにな」
「案外根性のねえ奴だったな…。」
「親父!!ゼロスはそんな…」
「分かってるよ。そう、ムキになるな。しっかし、クラトスさんも頑固なお人だな。昨夜もお前らの事あげて散々説得したのによ。ゼロスさんが言っていたように、もうどうしようもないのかもしれねえな…。」
「ごめんよ、親父。色々気をつかわせて。」
「おめえが謝るこたぁねえよ。だがなロイド。クラトスさんの前で泣くんじゃねえぞ。門出に涙は禁物だからな。」
「わかってるよ。それじゃ行ってくる。」
ロイドがドアに手をかけようとした時、外から勢い良くドアが開けられ誰かが飛び込んできた。
「ゼロス!?」
「ロイド君、天使様は?」
「先に救いの塔にいってる。見送りにきたのか?」
「ゴメン、ロイド君。もうちょっとだけ待ってくれない?俺様に最後のチャンスをくれよ。」
「ゼロス?」
「これが最後だ。ダメなら諦める。……いや、絶対に連れて帰ってくるから。」
「ゼロス…分かった。頑張れよ。」
「有難う、ロイド君!」
ゼロスは出て行きかけた足を止め、ダイクを見た。
「有難うな、親父さん。俺様、死ぬ気で説得してみるよ。絶対に諦めない!!」
親指をたて笑顔を浮かべると今度こそゼロスは外に飛び出していった。
「しっかし忙しい奴だよな、ゼロスって…」
「フッ、ふっきれたような笑顔浮かべていやがった。期待できるかもしんねえぞ、ロイド。」
ゼロスは走る。赤い髪をなびかせて。
もう、諦めない。諦めてたまるか!!!
天使様を幸せにできるのは俺様しかいないんだからな。
−つづく−